苦手な運動を6週間で好きになる方法 ケリー・マクゴニガルのスタンフォード式人生を変える運動の科学の書評


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スタンフォード式人生を変える運動の科学
著者:ケリー・マクゴニガル
出版社:大和書房

本書の要約

運動を自分の生活に取り入れることで、幸福感がアップすることがわかっています。運動習慣が身につくことで、脳の報酬系が活性化し、私たちは幸福になれるのです。私たちの人生は薬物やアルコールに頼らずとも、6週間運動を続ければ、人生をより豊かにできます。

運動には人を夢中にさせる力がある?

運動にはもっとも強力な習慣性薬物に匹敵するほど、人を夢中にさせる効果があるのだ。運動と依存症の類似点について考えることは、運動によって脳がどのように変化するかを理解するのに役立つ。また、運動量が増えるほど快感が大きくなることも説明がつくだろう。(ケリー・マクゴニガル)

ケリー・マクゴニガルスタンフォード式人生を変える運動の科学書評を続けます。運動はコカインやアルコールのように人を魅了します。しかし、運動と薬物を結びつけるのは限界があると著者は言います。運動愛好者の多くは、健康や生活に支障をきたすほどの運動依存にはなっておらず、意欲や必要性を感じて熱心に取り組みながら、運動とうまく付き合っているのです。

まず、薬物が脳に与える影響を見てみましょう。あらゆる中毒は脳の報酬系で始まり、アルコール、コカイン、へロイン、ニコチンなどの乱用薬物は、報酬系に同様の作用をおよぼします。薬物を最初に使用したとき、その人の脳内では、報酬の存在を知らせる神経伝達物質のドーパミンが大量に分泌されます。薬物のほとんどは、エンドルフィン、セロトニン、ノルアドレナリンなど、高揚感をもたらす脳内化学物質を増加させることがわかっています。薬物によって、脳内化学物質の強力な相乗効果が生じるため、人は薬物に依存するようになります。

薬物の慢性使用は、いわゆる中毒の分子スイッチをオンにする。常習性の高い薬物に反復暴露すると、脳が経験から学習するのに役立つタンパク質が、報酬系の神経細胞に蓄積する。このタンパク質が、ドーパミンに反応する脳の神経細胞に長期的な変化を引き起こし、そもそもの発端である物質に対する反応性を高める。たとえばコカイン常習者の場合は、コカインを使用できるチャンスが訪れたとたん、脳内でドーパミンが大量に分泌される。

このように分子スイッチがオンになると、あらゆる中毒症状が表れます。自分が 中毒になった物質をほかのなによりも欲しがり、なにを犠牲にしてもそれを手に入れようとし、手に入らない場合は、離脱症状に苦しむのです。神経学的な変化としては、一瞬の快感(気持ちがいい!)が恒常的な欲求(欲しい!)となり、ついに依存症(必要だ!)に至ってしまいます。

10年以上前、私はアルコール依存症に苦しんでましたが、その当時、まさにこのスパイラルに陥っていました。快楽➡️欲求➡️依存という流れにならないように、脳の仕組みを覚えておきましょう。

「6週間」あれば、運動嫌いでも、運動に夢中になれる?

運動は常習性の高い薬物によく似ていると著者は言います。常習性薬物と同様に、運動はドーパミン、ノルアドレナリン、内因性力ンナビノイド、エンドルフィンなどの脳内化学物質の分泌を引き起こすからです。ランニングの場合も、何度も繰り返すことによって、中毒の分子スイッチがオンになります。

ラットを用いた研究では、ランニングホイールで1日10キロ、1か月間走らせたところ、ラットのドーパミン作用性の神経細胞には、コカインやモルヒネを毎日投与した場合と同様の効果が確認されました。さらにラットは、依存症の人間と同じような行動を見せたのです。ラットたちをランニングホイールから24時間引き離したあと、また接近できるようにしたところ、夢中になって走り続けたのです。

運動とコカインなどの薬物には重要なちがいがある。そのひとつは夕 イミングの問題だ。運動したあとも、薬物を使用したあとも、脳の報酬系には同じような変化が起こるが、運動に夢中になるまでには多くの時間がかかる。ラットの実験の場合、ランニングホイールで2週間走らせただけでは分子スイッチはオンにならないが、6週間を過ぎると走る距離が日ごとに増え、脳の神経信号もラットが夢中になっていることを示すようになる。それと同様に、運動不足の成人が高強度のトレーニングを始めた場合も、だんだん楽しめるようになっていき、6週間後にもっとも楽しくなる。

ジムの新規会員らを対象とした実験では、新しい運動習慣を定着させるには、週4回のトレーニングを6週間は継続する必要があることがわかりました。このように習慣形成に時間がかかるのは、薬物乱用によって依存症になる場合 とは異なる現象が、分子レベルで起きていることを示しています。いっぽう、薬物は脳の報酬系をあっというまに乗っ取ってしまうのです。

運動の場合、脳の報酬系が経験から学習する力は、もっと時間をかけて引き出されます。ある女性はずっと運動嫌いでしたが、本人も驚いたことに、40代でランニングとサイクリングが大好きになったのです。

「変化はゆっくり起こるんです。自分のなかで変化が起きていることに気づかない場合もあります。いまはスニーカーを履いているときが、いちばんハッピーな気分です」とその女性は言います。運動は続けていくうちに楽しくなるものだと考え、そのプロセスを楽しみましょう。 

運動の最初の一歩を踏み出そう!

とにかく運動は苦手だ、と思い込んでいる人は多いが、運動の楽しさや喜びを感じないわけではないだろう。たんに運動量が足りないか、自分に合った運動が見つかっていないか、運動が楽しくなるような仲間に出会っていないだけかもしれない。タイミングよく、自分に合った運動や場所を見つけて、ある程度の運動量をこなせば、ずっと運動が苦手だった人でも、運動好きになることもある。

運動が嫌いでも、続けるうちに脳に変化が起こるというルールを忘れないようにすべきです。『ゴールしたことは奇跡ではない。スタートラインに立つ勇気をもてたことが奇跡なのだ』と言う作家のジョン・ビンガムを信じて、まずは、最初の一歩を踏み出しましょう。最初の一歩を踏み出すために、ほんの少しの勇気を出せたら、その後の人生が変わるのです。

人は運動によって、科学者たちが「プレジャー・グロス」と呼ぶ、条件刺激による快楽を得られるようになります。きわめて楽しい状況で、同じ匂いや音、味、光景、感触などを何度も繰り返し経験すると、それらが心地よい経験として記憶にエンコードされます。最初は何も感じませんが、やがてその感覚が不快だったとしても非常に心地よいものとして、自動的に脳で認識されるようになるのです。いったんこのような関連性が形成されると、ごくふつうの感覚刺激が最高の快楽となって、エンドルフィンとドーパミンの大量分泌を引き起こします。

たとえば、全米自動車競争協会(NASCAR)のファンたちは、焼けたゴムの強烈な臭いが、平気になるどころか好きになってしまうと言います。あるいは、親の手作りのお菓子を食べて育った子どもは、ミキサーの回転する音を聞くだけで、大切に守られ、愛されている感覚がよみがえってくるのです。

依存症の場合は、感覚刺激が強烈な欲求や離脱症状を引き起こす場合があります。麻薬の道具を見ただけで、あるいは何度もハイになった場所と同じ匂いをかいだだけで、ドラッグを使用したい衝動に駆られてしまうそうです。精神科医のベンジャミン・キーシンの報告によれば、元へロイン常用者たちがニューヨーク州のシンシン刑務所で5年の刑期を終えて、ニューヨーク市内ヘ一戻る途中、電車が地元の界隈を通過したとたんに、離脱の自発症状が起こりました。街の景色によって、人は一気に依存症に逆戻りします。

運動愛好者たちも、プレジャー・グロスや条件刺激による欲求を感じると言います。運動を連想させる五感の刺激に強い快感を覚えるため、自分の好きなスポーツの道具や場所といった刺激にふれたとたん、体を動かしたい衝動に駆られます。 音に快楽を覚える人たちもいます。たとえば、リフティングの重いバーベルが落ちるときのガチャンという音や、テニスボールの缶を開けたときのポンー!という音を聞くだけで、幸せになれるのです。

特定の物に快楽を覚える人たちもいます。たとえば、お気に入りのランニングシャツや、ヨガのラグ、心拍数モニターなどがきっかけで、私たちは快楽を得られます。これらの例から、運動に対する報酬がきわめて純粋であることがわかります。

脳がこのような突飛な関連性を形成するのは、強烈な喜びを感じたときだけだからだ。 それどころか運動好きの人たちは、ありふれた音や、匂いや、ものを特別なものに感じさせるプレジャー・グロスの効果によって、その運動を始めて以来、自分の生活にどれだけよい影響が表れているかをあらためて実感する。

運動と関連するもの、音やウェアなどが脳にプレジャー・グロスを与え、人に幸福感を与えるのです。運動を習慣化することで、生活の中の関連するものから、人は幸福感を得られるようになるのです。まずは、最初の一歩を踏み出し、6週間運動を続けてみましょう。

運動は脳の構造を変化させる!

運動は脳の構造を変化させるのだから、副次効果として勇気が湧いてくるのも不思議ではない。新しい運動習慣によって脳の報酬系が活性化すると同時に、不安を制御する脳の領域も活性化するからだ。

ラットを使った研究では、ラットたちを21日間走らせたところ、恐怖反応やストレス反応をつかさどる脳幹と前頭前皮質に変化が表れ、ラットたちはより勇敢になり、ストレスの多い状況にもうまく対応できるようになりました。

人間の場合は、週3回の運動を6週間続けると、不安を軽減する脳の領域の神経結合が増えます。また、定期的な運動によって神経系のデフォルト状態が調整されると、バランスがよくなり、闘争・逃走反応や恐怖反応が起こりにくくなるこ とがわかっています。

さらに、運動の代謝副産物である乳酸は、一般的に、筋肉痛を引き起こすと誤解されていますが、最新の研究は乳酸のメンタルヘルスに対する効果を示唆しています。筋肉から分泌された乳酸は、体内の血管をめぐって脳にたどり着き、神経系統に作用して不安を緩和したり、うつ病を予防したりする効果があることが明らかになってきました。

ウィスコンシン大学マディソン校による実験では、ランニングホイールで走るのが好きなマウスたちが走る機会を奪われたとき、脳内でどのような変化が起きるかを調べました。マウスたちは毎晩走っていましたが、ある日、いつもの時間になる直前に、研究者たちは各マウスがランニングホイールに近づけないよう、通路を遮断されたのです。走る気満々のマウスたちは、突然走れなくなってしまったのです。

私たちがトレーニングをしたくてうずうずしながらジムに行ったら、ドアは施錠され、電気も消えているのと同じ状況が作られたのです。そんな欲求不満を感じた瞬間、マウスたちは命を奪われました。研究者たちはマウスたちの脳をかき出し、灰白質をスライスし、染色して顕微鏡で調べたところ、マウスが死んだ瞬間、マウスの脳では欲求が最高潮に達していたことが明らかになりました。

欲求、やる気、欲求不満に関連する脳の領域と同時に、走る動作をつかさどる領域がともに活性化していました。これはタバコを吸いたくてたまらない喫煙者が、タバコを吸えないときの状態と似ています。ホームシックでお母さんが恋しい子どもや、夫の亡きあと、ベッドの空っぽの片側を見つめている女性も同じです。

好きなことに夢中になれる能力は、愛着を感じる傾向を反映しています。運動は薬物のように習慣性があるだけでなく、自分にとってもっとも大切な人間関係を維持するために、絆を結ぶ能力を発揮するのに役立ちます。運動は破壊的な薬物とはちがって、報酬系の働きを損なうものではありません。

運動によって生じる脳の構造変化は、親になったときや恋をしたときと似ていることが、研究によって明らかになってきている。たとえば、新生児の誕生から数か月間、親たちの脳では報酬系の灰白質が大きくなることがわかっている。増大の程度が大きいほど、親たちは子どものことを「かわいい」「非の打ちどころがない」と言い、自分たちのことを「恵まれている」と思うことがわかった。このように神経学的変化によって報酬系が活性化するのは、運動習慣が身に付いたときに起こることとよく似ている。究極的には、誰かに親密な愛情を抱いたときに経験することと大差はないのだ。

定期的に運動をしていると、脳の作用で夢中になる能力が発揮されるおかげで、私たちは好きな運動に愛着を感じるようになります。運動を自分の生活に取り入れることで、幸福感がアップするのです。運動習慣が身につくことで、脳の報酬系が活性化し、私たちは幸福になれるのです。私たちの人生は薬物やアルコールに頼らずとも、6週間運動を続ければ良いのです。私も断酒する際に、毎日、相当な距離を歩いていたことを思い出しました。早足で歩くことで、私の脳の報酬系を活性化させていたのです。

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