ハワード・ユーのLEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則の書評 


People photo created by bedneyimages – www.freepik.com

LEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則  
著者: ハワード・ユー
出版社:プレジデント社

本書の要約

どんなテクノロジーもイノベーションも、すぐに真似をされ、コモディティ化してしまいます。 偉大なる企業になるためには、過去の成功体験をゼロリセットし、追い上げてくる競合と戦うために、異次元のレベルにLEAP〈跳躍〉する必要があります。著者は躍進する企業には、共通する5つの基本原則があると言います。

成功する企業になるためのLEAPの5原則

長期にわたって成功するための唯一の方法は「リープ(跳躍)」することだ。先行企業はそれまでとは異なる知識分野に跳躍して、製品の製造やサービスの提供に関して、新たな知識を活用するか、創造しなければならない。そうした努力が行われなければ、後発企業が必ず追い付いてくる。(ハワード・ユー)

長期にわたって成長するためには、先行企業はLEAP(リープ)する必要があります。しかし、多くの企業は後発企業の実力を甘く見たり、投資判断を間違えることで、失敗を犯します。

長期に渡って成功したければ、著者が見つけた「LEAPの5原則」を取り入れ、新しいマネジメントを実践すべきです。
原則1 自社の基盤となっている知識とその賞味期限
原則2 新たな知識分野を見つけ、開拓する
原則3 地殻変動レベルの変化を味方につける
原則4 実験、実験、実験
原則5 実行への「ディープダイブ」

ハワード・ユーはIMDの教授で、あのイノベーション理論の大家のクレイトン・クリステンセンの愛弟子としても有名です。そんな彼が見つけた5つの原則を一つ一つ見ていきましょう。
原則1 自社の基盤となっている知識とその賞味期限
破壊的なイノベーションや消費者の嗜好の変化がないときでも、後発企業は先行企業に対して恐るべき攻撃を行います。老舗のピアノメーカーのスタインウエイ&サンズは、ヤマハの攻撃を受け始めた時に何もできずにシェアを落としていきます。

コダックやポラロイドがデジタル写真に滅ぼされたのとは異なり、スタインウェイは変化のない世界に安住していました。しかし、業界の知識が初期の職人技の段階からオートメーションの段階へと成熟していくと、運命は先行企業よりも後発企業に味方するようになるのです。

オートメーション時代には、遅れて進出するのはよいことです。 「どんな競争優位性も一時的なものだ」と理解し、自社のポジションを確認すべきです。

しかし、そこにはわたしたち全員が学べる教訓がある。それは、企業は、自社にとってどんな知識分野が最も重要で基盤となるものかを、自問する必要があるということだ。自社の事業にとって、核となる知識は何だろうか。その知識はどのくらい広く世間に普及しているだろうか。

後発企業に追い抜かれないためには、企業幹部はまず何よりも、いま自社の基盤となっている知識、核となる知識を再評価し、その成熟度合を評価し直す必要があります。危険を避けるには、まず自分たちの位置を知ることから始めなければなりません。

インターネットやSNSの発展により、世界はどんどんつながり、競争優位性を維持できる期間は短くなっています。文書やデジタルの記録、人材、資本など、あらゆるものが国境を越えて移動します。知的財産や企業秘密、そして個人が持つ専門性でさえも、後発企業の襲来をわずかに遅らせるだけの力しか持てません。後発企業はすぐに、先行企業と同様の知識を備えるようになり、さらには、先行企業を倒せるだけのより新しく、より強力なアプローチを手に入れると考え、現状に安住するのをやめるべきです。

原則2 新たな知識分野を見つけ、開拓する
ノバルティスなどの製薬業界から学べることは、ある分野での知識の発見が別の分野での発見につながるということです。究極的には、この継続的な発見のプロセスが、成長のための新たな道を切り開いていきます。

医薬品産業は、有機化学からまったく新しい分野の微生物学やバイオテクノロジーの領域にジャンプします。微生物学の数々の新たな発見が、その後数十年間の成長の伸びしろをつくり出したのです。新しい知識分野を取り入れることで、彼らはイノベーションを起こせたのです。スイスの製薬会社が後発企業を寄せ付けなかったのも、先手を次々と打ってきたからなのです。先行企業は過去の技術をマスターしただけでなく、新たな分野でも進歩を遂げることに成功しました。一つの得意分野から別の分野へとリープすることで、後発企業の猛追を避けることができるのです。

市場における競争は山登りと似ている。企業はそれぞれに頂上を目指す。知識基盤にまったく変化がないか、ゆっくりとしか変わらない業界では、新規参入企業もやがては既存企業と同じ高さまで到達する。これに対して、知識基盤が進化する業界では、新たな発見は時折起こる地滑りのようなものだ。誰も頂上には到達できず、誰もが下に落とされる。そのような競争環境では、経験と以前から持っていた知識が重要になる。野心は重要だが、準備ができている企業に運命の女神は微笑むのである。

先行企業は一つの知識分野からもう一つの分野へとシフトし、その新たな知識基盤の発展についていけるときだけ、先行者利益を実現できるのです。

石鹸メーカであったP&Gは一般的な家庭用品をつくる会社でしたが、こちらもリープすることで、競合との競争に打ち勝ちました。P&Gも何度も、自らを変革すること、さまざまな環境から表れてきたものを活用して、真面目にその知識を吸収していったのです。

P&Gの創業者が手作業で釜のなかをかき回していたファミリー企業が、いまや機械工学、消費者心理学、有機化学の3つの知識分野に立脚する大企業となったのです。 彼らはこの3つの知識基盤の組み合わせにより、世界的なブランドとして君臨できたのです。

P&Gやノバルティスの歴史は、セルフ・カニバリゼーションを受け入れることの重要性を教えてくれる。セルフ・カニバリゼーションは企業が自ら進んで、より価値が低いと思われる自社製品やプロセスを、別の製品やプロセスに置き換えることだ。こうすることが重要なのは、先進企業の構造的な優位性、たとえば生産能力やブランド認知、企業秘密などが、よくても一時的なものであるからだ。 新たな知識分野にリープすることとは、古いものに重点を置かなくなることであり、また、新たに立ち上がった製品やサービスが古い製品やサービスに非常に大きなプレッシャーをかけることである。だからこそ、既存の大企業が前に向かってリープすることは難しい。

ウィリアム・プロクターの「この商品(合成洗剤)が石けん事業を滅ぼすかもしれない。しかし、どうせ滅ぼされるのなら、プロクター・アンド・ギャンブルに滅ぼされるほうがいい」という言葉を読めば、企業が変化を恐れてはいけないことがわかります。

原則3 地殻変動レベルの変化を味方につける

テクノロジーの開発者であれ、従来型の製造業者であれ、起業家であれ、非営利組織であれ、わたしたちは今後数十年で重要になってくる力を認識し、他社よりも先に自社のコンピタンスを再構成しなければならない。

業界ごとに重要な変数は存在するものの、業界や地域にかかわらず、誰もが感じる地殻変動のような劇的な変化が必ず起こります。18世紀には蒸気機関の発明が、19世紀には電力の活用が世の中を激変させたことは歴史を見れば、明らかです。それと同様に、21世紀の後半に向けて、2つの絡まり合う力がすべての企業に影響を及ぼします。人工知能の台頭と、ユビキタスな環境が変える世の中で、勝利するためには、自らの周囲の地殻変動を活用し、それに従ってリープしなければなりません。

原則4 実験、実験、実験

大規模で複雑な企業の生存を脅かす最大のリスクは、政治的な内紛と、誰も何もしないことである。取締役会で展開される議論は、美しいが無意味な言葉が並べられるだけだったり、個人の信念に過ぎなかったりする。実験こそが真実への扉であり、そこから外の光を取り入れることができる。

経営者が証拠に基づいた意思決定を行うには、頻繁に実験を行う必要があります。実験によって、わからない部分を減らし、必要なレベルの情報をもって結論を下せるようになります。何もしないことを続けていれば、当たり前ですが、競合にシェアを取られてしまうのです。

 原則5 実行への「ディープダイブ」

経験豊かな先行企業の優位性は、それまでに得た知識である。それが新たな知識分野と組み合わさると、従来の製品開発の軌道が変わる可能性がある。しかし、先行企業のリープを難しくするのは、変革的な事業提案も、上の階層に上げられるなかで却下されてしまうということだ。だからこそ、頂点に立つ人物が、必要なときには介入して新たな方向性を実現しなければならない。このように、経営トップ個人が重要な分岐点で介入し、その力を活かして障壁を乗り越えることを、わたしはCEOの「ディープダイブ」と呼んでいる。

戦略とその実行とは切っても切れない関係にあります。アイデアが日々の行動とオペレーションに変換されない限り、先行企業は依然として後発企業に排除されるリスクにさらされています。ディープダイブは地位の力よりも知識の力によって可能になるもので、それはマイクロマネジメントとは根本的に異なります。この最後の原則によって、先行企業が自社を再構成し、自社の仕組みを変えるための最後のハードルが取り除かれる。

企業が未来を志向するのであれば、継続的に新たな分野に手を伸ばす必要があることを認識し、新しい事業に既存の事業を追い越させる心構えを持たなければなりません。チャンスを後発企業のために残しておけば、やがて彼らによるディスラプションにやられてしまいます。 この流れを回避するためには、幹部が自社の基盤となる知識、核となっている知識を再評価する必要があります。マネージャークラスでは判断できない新規プロジェクトを果敢に推し進めることが、成功する経営者が求められる資質です。ディープダイブできない経営者は、やがて後発企業にシェアを奪われてしまいます。

広い範囲におよぶ突然の変更はリスクを伴います。失敗した場合の挽回の余地が残されておらず、競合の影に怯えることになります。まだ時間に余裕があるうちに、小さな賭けを少しずつ試してみるようにしましょう。

実際、天才的予言者でなくてもどこにリープすべきかはわかる。将来的に必ずやって来る状況は、はっきり見えている場合が多い。だから、企業はまだ時間があるうちにリープすればよいのである。

AIやロボティクスなどのテクノロジーの進化は避けて通れない現実です。これらの普及によって人の働きかたが変わります。 新たな技術が導入されると社会は変化し、それに伴って未来の働き方も変わります。ユビキタスな環境によってイノベーションの分散が進み、知的なマシンによって専門的な知識がオートメーション化されることは間違いありません。その結果、この先も人間の領域であるマネジメントの仕事には、高いレベルのクリエイティビティと、社会への理解、共感が求められます。本書のニューヨークでのホームレス対策やGEの子供向けの医療機器のデザイン変更から、クリエィティブなリープについて学べます。

また、物事にはタイミングがあります。適切な場所で適切なタイミングで行動を起こすことが重要です。

ものごとは非常にゆっく りと起こる。技術の波も、それが生じるずっと前から見ることができる。だから、どの波に乗るのかをよく考えて選ぶことだ。選択を間違ったら、多くのエネルギーをムダにすることになる。賢明な選択をしたら、その波は、かなりゆっくりと生じる。実際、何年もかかる。(スティーブ・ジョブズ)

実際、ジョブズはブロードバンドの到来を2年間待ちました。ブロードバンドがついに実現したときには、ジョブズはiPodを投入してそのチャンスに飛び付いたのです。一方で、数えきれないほどの競合企業がMP3プレーヤーを開発してアップルよりも早く飛び出し、無惨に敗退していったことを忘れないようにしましょう。ジョブズはブロードバンドの実現という必ずやって来る改革を辛抱強く待っていました。

ここには重要な教訓が含まれています。成功してきた企業幹部は行動を好みますが、重要なことは、ゆっくりとした動きを知らせるシグナルを、騒音と区別することです。正しいシグナルに耳を傾けるためには、忍耐力と規律が必要です。

チャンスをつかむためには、必ずしも最初に動くのではなく、最初に正しく理解することが求められます。そのためには勇気と決断力が必要です。リープを成功させるためには、待つための鍛錬と、飛び込むための決断力をバランスよく組み合わせなければなりません。大きな見返りを得るためには、忍耐力と決断する勇気の両方が必要なのです。的確なタイミングを見計らい、一気に行動することで、リープは成功するのです。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
徳本昌大 Amazonページ >
 

徳本昌大をフォローする
Apple習慣化書評生産性向上IT活用ブログアイデアクリエイティビティマーケティングライフハック
スポンサーリンク
徳本昌大をフォローする
起業家・経営者のためのビジネス書評ブログ!
Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました