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小さく賭けろ!
ピーター・シムズ
日経BP
本書の要約
「成功している人と組織は、アイデアをすぐに小さい段階で実践している」とピーター・シムズは指摘します。彼らは小さなことからスタートし、失敗を恐れずにいます。強い組織では、メンバーが成長志向のマインドセットを身につけているため、失敗をチャンスと見なし、その解決のための行動を厭わないのです。
起業家は成長志向のマインドセットを身につけよう!
固定的なマインドセットを持った人々は、肩書きや社会的評価などで自分の価値を確認しようとする傾向が強すぎることがある。逆に、成長志向のマインドセットの人々は、知性や能力は努力によって伸びると信じ、失敗や挫折を成長のための機会と考える。彼らは常に新たな挑戦によって自らの限界を広げていこうとする。(ピーター・シムズ)
「成功している人と組織は、アイデアをすぐに小さい段階で実践している」とピーター・シムズは指摘します。彼らは小さなことからスタートし、失敗を恐れずにいます。
スタンフォード大学の社会心理学の教授のキャロル・ドゥエック博士が発見した「成長志向のマインドセット」によって、起業家のチャレンジを後押ししています。
ドゥエックの研究によれば、学習と失敗についての人々の態度は基本的に2つ分けられます。
■固定的なマインドセット→知能や才能は生まれながら決まっていると考え、失敗は、自らの重要性、アイデンティティーを脅かすものに映ります。
■成長志向のマインドセット→困難な課題は自らの成長の機会と映るため、進んでリスクを取って挑戦する傾向があります。
固定的マインドセットにとって、課題、努力、自分より能力がありそうに見える他人などは すべて脅威と感じられるため、こうした人々が自信を持ち続けることは困難なのだ。しかし成長志向のマインドセットにとっては、同じことが脅威ではなく機会と感じられる。(キャロル・ドゥエック)
映画会社のピクサーは、この成長志向のマインドセットを取り入れることで、成功を手にしました。ピクサーの経営トップは困難に挑戦し、そこから学ぶことで作品のクオリティを高めてきました。
「うちの社員が私に反対することは珍しくない。私が間違っていることも珍しくない。もし誰かが私やジョン・ラセターや上司の誰かに反対しても、われわれはそれを個人的な侮辱とは取らない」とピクサーの共同創業者のエド・キャットムルは述べています。
ブラッド・バードは『ミスター・インクレディブル』を監督しましたが、その直前にワーナー・ブラザーズで『アイアン・ジャイアント』で大失敗を犯していました。この映画の興行成績が悪かったにも関わらず、キャットムル、スティーブ・ジョブズ、ジョン・ラセター(クリエイティブ責任者)の3人は彼を迎え入れたのです。バードの失敗体験が、ヒット作を連発していたピクサーの自惚れを壊してくれると考えたのです。
バードの構想には、おそろしくたくさんのキャラクターと複雑な背景が登場したため、ピクサーの技術陣は製作費の高騰を理由に猛反対します。バードはピクサーのアニメ製作過程に数多くの変更を加えることで、反対派を黙らせます。物事を刷新するためにバードは型破りな考え方ができる人物をピクサー社内で探し出し、「黒い羊」と呼んで困難な問題の解決に当たらせたのです。
『黒い羊』たちに、今までピクサーで否定されていた手法を導入することで、制作過程を改良することに成功します。大ヒットした『ミスター・インクレディブル』は、ピクサーの前作『ファインディング・ニモ』よりもはるかに複雑でセットの数が3倍あったにもかかわらず、時間当たりの製作費をはるかに安くできたのです。
成長志向のマインドセットが組織を強くする!
トップから一般社員まで全員に成長志向のマインドセットを養う態度は、同時にピクサーの失敗に対する態度にも当てはまる。ピクサーの経営陣は数多くの失敗、袋小路、難問への挑戦こそ、ピクサー特有の映画製作方法だと考えている。
ピクサー映画のアイデアは、ラフ絵コンテから始まります。この絵コンテは当初、「つまらない」ものですが、それが何千という難問を苦労して解決していくうちに、しだいに磨き上げられ、「つまらなくない」ものに変化していきます。
ピクサーでは、失敗から系統的、組織的に学んでいく態度を重視します。何がうまく行き、何がうまく行かなかったかを詳しく観察し、その情報から教訓をくみ取ります。
ピクサーの社風の大きな特徴は、「凡庸さ」を恐れることです。問題の発見、対応策の議論、対策の実行は常にオープンにされています。1980年代は、ピクサーにとって苦難の時代でした。その頃、キャットムルがもっとも興味を持って学んだのは、トヨタ自動車のやり方でした。
今日、キャットムルが創り上げたピクサーの社風は、異例なほどオープンさと誠実さを重視します。また、トヨタ自動車を特徴づける絶えざる改善への情熱にも似ています。トヨタ自動車のアプローチでキャットムルをもっとも惹きつけたのは、常に新しい問題を発見し、解決していこうとする姿勢でした。
ピクサーにとって最大の挑戦となった映画は、『トイ・ストーリー2』でした。公開まで1年を切った時点で、ジョン・ラセターたちは「素材があと12分必要だ」と考えたのです。公開予定日は絶対に動かせなかったため、脚本の相当部分をたった2日で修正しなければならないことになりました。奇跡的に作品は予定日に公開され、大ヒットしましたが、これが社員に相当量の負荷を与えたことを経営陣は反省します。
そんな事態を避けるためには危機が起きたときの対処が大切だ。われわれは不快な状況でもリラックスしていられなければならない。(エド・キャットムル)
ピクサーは成功した会社であるのに、おごることなく徹底して自己改革を続け、ヒット作品を世の中に出し続けています。彼らは成長思考のマインドセットで会社を強くしていきました。
キャロル・ドゥエックの研究が明らかに示しているように、経験と努力を重ねることでマインドセットの傾向を変えることも可能です。難問や失敗を前にした場合、出だしでのつまずきや将来のリスクといったネガティブな要素に心を悩ませるのではなく、ものの見方の枠組みをすっかり変えて、失敗から何が学べるかという点に精神を集中することで、良い結果を得られるようになります。小さなことから始める実験的精神によるアブローチは、成長志向のマインドセットの筋肉を鍛えることにもつながるのです。
『ファインディング・ニモ』や『ウォーリー』で監督を務めたアンドルー・スタントンは、「私の戦略は昔から決まっている。間違うならできるだけ素早く間違えろ。言い換えれば、『われわれは誰でも間違える。さっさとそれを認めればよい』と述べています。
成功した起業家は自分のアイデアをできるだけ素早く、現実の市場で実験しようとします。小さく賭けてうまくいかなくても問題はないことを彼らは知っています。「小さな賭け」では、アイデアから実践までが短期間で済むので、やり直しがききます。「素早く失敗」して、ユーザーのニーズを「素早く学習」することで、プロダクトやサービスをより良くできるのです。
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