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モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか
田中道昭
集英社インターナショナル
本書の要約
AIとDXがヘルスケア業界にイノベーションを起こしています。ヘルスケア産業のプレイヤーも様変わりし、モデルナなどのベンチャー企業やアップル、アマゾン、アリババが業界のルールを大きく変えています。生活サービス全般からヘルスケア産業を捉え、顧客体験を高めた企業が業界の覇者になりそうです。
モデルナが新型コロナワクチンをスピーディに開発できた理由
やがて訪れるのは、ありとあらゆるヘルスケアサービスが、一つのプラットフォーム&エコシステムのなかに統合されていく未来。そこではもう「ヘルスケア」という括りすら薄れている可能性もあります。そこにはただ巨大な「生活サービス全般」のプラットフォーム&エコシムがあるのみかもしれません。(田中道昭)
モデルナというベンチャーが存在しなければ、新型コロナウイルスとの戦いはもっと悲惨なものになっていたかもしれません。立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏はなぜ、モデルナがこれほどの短期間でmRNAワクチンを開発できたのかを明らかにしながら、アップル、アマゾン、アリババなどの巨大テック企業がヘルスケア産業のプラットフォームで覇権を握るための動きを本書で解説しています。
モデルナは徹底したDXによって、今までは年単位だったワクチンの開発のスピードを飛躍的に高めています。 バイオテクノロジー業界のテスラと言われるモデルナは、既存のビジネスを破壊・刷新するデジタル製薬企業で、既存の製薬会社とは全く異なるアプローチで、ワクチンを開発しています。
同社のCEOのステファン・バンセルは、デジタルネイティブカンパニーをビジョンに掲げ、mRNAプラットフォーム戦略を推し進めていきます。彼は10年先を予測しながら「10倍思考」を実践することで、mRNAワクチンを開発することに成功します。
私は当社が、今後10年間で10倍の規模になると予想しています。この『10倍思考』は、私が経営してきた中でも最も重要な考え方です。私は毎朝オフィスに来るたびに、この事を意識します。人の心の不思議なところは、時間的な制約が厳し過ぎると創造性が失われてしまうことです。10年という時間枠があれば、大きな事を考える余裕が生まれます。私たちがよく使うもうひとつの考え方は、『もしも魔法の杖を持っていたら』というものです。このようにしてビジョンが合意されると、私たちはこのビジョンとそれを達成するために必要な段階的なステップに向かって、ペダルを逆に踏みます。私たちはこの10年間、毎日この作業を行ってきました。私たちの最大の課題は、文化の希薄化にあります。私たちは素晴らしい技術を持っており、技術力が劣後するリスクはもはや過去のものとなりました。財務的なリスクも今では緩和されています。計算されたリスクを取り、迅速に行動し、データに適応するという、当社をここまで成長させた文化を維持するように努力しなければなりません。私たちの判断は全てデータに基づいて行われるのです。(ステファン・バンセル)
同社は「デジタル・ビルディング・ブロック」を元に業務サイクルを自動化・AI化することで、スピーディな開発を行っています。
■クラウド
■ビジネスプロセスとデータの統合
■IoT
■自動化とロボティクス
■アナリティクス
■AI
同社は「生命のソフトウェア」であるmRNAのテクノロジーをベースに、既存モダリティをアップデートして有用性・応用性を拡大していくこと、そして新しいモダリティを特定すること。そうした作業を、DX化によって構築した好循環の自動化サイクルにできるだけ乗せていくことで、今後も驚異的な成長を実現していくはずです。
10年思考とDXを掛け合わせることでモデルナをイノベーティブな企業に変身させたステファン・バンセル。今後も彼の動きを注視して行きたいと思います。
やがてアマゾン病院が誕生する?
「アマゾン・ヘルスレイク」「アマゾン・ケア」「アマゾン・ファーマシー」「アマゾン・アレクサ」「アマゾン・ヘイロー」の5つが柱であり、それらがおりなすヘルスケアのエコシステムを、クラウドコンピューティングのAWSが下支えする構造となっています。
あらゆる産業を飲み込む「エブリシング・カンパニー」であるアマゾンは、AWSを基軸にヘルスケア事業領域にも本格参入しています。田中氏はアマゾンヘルスケア戦略は5つの柱から進められると指摘します。
■Amazon HealthLake(アマゾン・ヘルスレイク)
病院・薬局などから集められた医療データ、ヘルスケアデータの蓄積、加工、分析をAWS上で行います。そのデータをAIによって整理・インデックス化し、医療関係者向けに使えるデータとして提供します。
■Amazon Care(アマゾン・ケア)
アマゾンの従業員とその家族向けの医療サービスでしたが、今年の夏から全米企業に対象が拡大しています。専用アプリを通じて、ビデオ通話とテキストチャットによるオンライン診療が可能なほか、必要に応じて訪問診療や看護も受けられます。エリア限定で処方薬のデリバリーサービスも含まれます。
■Amazon Pharmacy(アマゾン・ファーマシー)
アマゾン・ファーマシーは、処方箋のオンライン薬局サービスです。オンラインでの処方薬、医薬品の注文、購入、処方箋の管理、各種保険の登録などが可能です。18歳以上のアマゾン会員が対象で、プライム会員なら、無料配送や提携薬局での処方薬購入に際しての割引などの特典があります。
2018年に買収した医薬品ネット通販・処方箋デリバリーサービスのピルバックの配送サービスを利用することで、顧客のペインを取り除くことに成功しています。
■Amazon Alexa(アマゾン アレクサ)
音声認識AI「アレクサ」を通じて、薬の管理を支援するスキルを薬局チェーンGiant Eagle Pharmacyと共同開発しました。「アレクサ」のスキルを通じて、患者の処方箋に基づいて服薬のリマインダーを設定し、必要に応じて補充用の医薬品の注文も可能になります。
薬局向けに投薬及び供給管理サービスを提供するOmnicellと提携し、音声による補充リクエストツールを共同開発しています。
■Amazon Halo(アマゾン・ヘイロー)
アマゾンはフィットネス用ウエアラブルデバイス「アマゾン・ヘイロー」によって、アマゾンは顧客の健康データを集められるようになりました。このデータを解析し、デバイスと連携するアプリにユーザーの健康状態を表示します。計測されたユーザーの個人情報は暗号化され、AWSに転送、保存・管理されます。
運動の強度や時間をモニタリングすることでポイントを付与する「Activity」、心拍数や体温から睡眠を分析する「Sleep」、体脂肪率を測定する「Body」、声の状態を計測する「Tone」、最適なワークアウトを利用できる「Labs」を使うことで、顧客は自らの健康を維持、改善できるようになります。
以上5つのヘルスケア事業によりアマゾンは、クラウドや「ビッグデータ×AI」を基盤にヘルスケア&ウェルネスのエコシステムを構築、それを通してユーザーのヘルスケアデータを収集することで、エコシステムを強化する仕組みを構築しています。
ここ数年のM&Aがアマゾンのヘルスケア事業を一気に拡大させる武器になっていることがアマゾンの凄みです。多くの日本企業がM&Aで成果を出せない中、アマゾンは確実に自社のビジネス領域を拡大しています。今後、ECサイトとしてのアマゾンも、ヘルスケア関連の商品・サービスのマーケットプレイスとして成長してくはずです。自社の成長を加速させるためのM&Aという視点でもアマゾンの動きから目が離せなくなっています。
アマゾンが今後医療ビジネスに進出することで、顧客体験は大きく改善すると田中氏は予測します。ジェフ・ベゾスのパーパスから、顧客を中心におく医療システムをDXで実現するというのが田中氏の見立てです。医療事故や医療ミスもアマゾンのAIやDXが防止してくれまし、病院のUI/UXも劇的に改善されるはずです。
本書のあとがきに日本企業への著者の思いが綴られてますが、日本企業が競争優位性を発揮するためのヒントをここから見つけられます。日本企業が生まれ変わるためのヒント満載の一冊になっています。
ブロガー・ビジネスプロデューサーの徳本昌大の5冊目のiPhoneアプリ習慣術がKindle Unlimitedで読み放題です!ぜひ、ご一読ください。
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