田中道昭氏の世界最先端8社の大戦略 「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代の書評


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世界最先端8社の大戦略 「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代
著者:田中道昭
出版社:日経BP

本書の要約

今後は「人×地球環境」中心主義が経営者の常識になっていきます。顧客中心主義にこだわり、顧客のペインをなくすことばかり考えた結果、グリーンとエクイティに悪影響を及ぼしました。デジタルシフトにばかりが注目が集まりますが、リーダーはデジタル×グリーン×エクイティを三位一体で捉え、戦略に取り入れる必要があります。

DXの勝ち組から学べること

CES2021において打ち出された価値観を3つのキーワードに落とし込むならば、それはデジタル、グリーン、エクイティであったといえるでしょう。(田中道昭)

DXの勝ち組たちは、デジタルというキーワードにグリーンとエクイティを新たに加え、イノベーションを起こそうとしています。最近では、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)から経営を行うことの重要性が語られていますが、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏はそれを一歩進めて、リーダーはデジタル×グリーン×エクイティの三位一体で経営を捉えるべきだと述べています。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I:多様性と包摂性)が推進されている昨今ですが、近年はそこにエクイティを加えた「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DEI)」を掲げる企業が増えてきています。リーダーは、多様な価値観や個性を包摂的に受け入れ、なおかつエクイティの視点を持ち、公平・公正に扱うようにすべきです。

田中氏はウォルマート、テスラ、アップル、セールスフォース、マイクロソフト、ペロトン、DBS銀行、アマゾンの8社を深掘りし、日本企業が何をすべきかを教えてくれました。

①ウォルマート
ウォルマートは、非デジタルネイティブ企業でありながらDXに成功しました。非デジタルネイティブが多い日本企業は、このウォルマートをベンチマークにすべきです。ウォルマートは顧客のショッピング体験を簡単でシームレスなものに変え、テクノロジー企業に生まれ変わりました。

ウォルマートは企業文化を刷新し、テクノロジー企業へと変革を遂げる中で、ミッションの再定義を行い、「販売」ではなくCXを高めることにフォーカスを合わせ、本気で取り組んでいます。

②テスラ
テスラはクリーンエネルギーのエコシステムを構築しようとしています。創業者イーロン・マスクの「このままでは人類が滅びる」「人類を救済する」という強烈な使命感によって、 EVだけでなく、太陽光発電を行う屋根「ソーラールーフ」や、急速充電器「スーパーチャージャー」、家庭用蓄電池「パワーウォール」などのエネルギー事業を着々と拡大させています。

テスラは、太陽光発電でエネルギーを創り、蓄電池でエネルギーを蓄え、EVでクリーンエネルギーを使う企業であることが、明確になります。いわばクリーンエネルギーを「創る、蓄える、使う」の三位一体事業こそが、テスラの実態なのです。

持続可能なエネルギー社会を築くために、クリーンエネルギーによるエアコンを開発したり、渋滞問題を解決する「テスラ・トンネル」を進行しています。テスラの壮大なパーパスが多くの人を引き寄せ、コミュニティを形成しています。

③アップル
アップルは、「デジタル×グリーン×エクイティ」の掛け算において最も先鋭的な取り組みをしている企業のーつで、「2030年までにカーボンニュートラル達成」とコミットしています。

最近では、アップルカーが話題になっていますが、アップルカーは単なるEV、単なる自動運転車ではなく、実際には次世代自動車の4つの潮流である「CASE」全体を推進してくはずです。iPhoneでOS、アプリ、サービスといったエコシステム全体の覇権を握った同じことを、同社はアップルカーで仕掛けてくるはずです。

アップルは次世代自動車産業におけるプラットフォームであり、エコシステム全体の覇権を奪うエコシステムを構築しています。アップルは自動車業界をデジタル化し、既存の自動車メーカーを次々に破壊していきます。 

今後、同社のサプライチェーン全体がカーボンニュートラルにシフトしていきます。その際、EVであるアップルカーが、SXを象徴するプロダクトになっていくはずです。

 既存の自動車産業がディーラーを介した販売を行うのに対し、アップルは直接、顧客とつながろうとする。またアップストアと同様、アップルカー用のリアル店舗を展開してくると予想します。ただし、その店舗はセールスのための拠点ではなく、顧客に対してカスタマーエクスペリエンスを提供する場であり、コミュニティを育む場です。 的に顧客に寄り添い、関係を深めていくことです。

NPSの高いアップルは、自動車販売でも顧客体験を高めてくるはずです。店舗は顧客体験を高めるために存在し、顧客の声を徹底的に広い、それが開発に活かされることで、アップルは自動車の世界を変えていくはずです。長期的・継続的な関係性を顧客との間に築くためにサブスクが採用され、売ったあとも顧客に伴走し、関係を構築していきます。

アップルは「低炭素の製品デザイン」「エネルギー効率の拡大」「再生可能エネルギー」「工程と材料のイノベーション」「CO2の除去」の5つを掲げ、「デジタル×グリーン×エクイティ」のかけ算に猛烈に取り組み、この点からも消費者の支持を受け、今後も圧倒的な優位性を発揮しそうです。

④セールスフォース
セールスフォースの最大の特徴は、カスタマーサクセスをミッション・事業構造・収益構造のすべてに織り込んでいることです。「イノベーションを起こすのは、いつもトレイルブレイザー(開拓者)である」と言う創業者のマーク・べニオフのもと、カスタマーサクセスが組織全体で推進されています。

「トレイルブレイザーという価値観を共有する人々」によるエコシステムを生み出し、「顧客中心主義」を徹底することで、いつの間にか自社製品のユーザーを増やしているのです。

⑤マイクロソフト
「クラウドファースト」で復活したマイクロソフトは、MR(Mixed Reality・複合現実)のプラットフォームを推進します。MRによって、リアルの世界にいる多地点の複数の人が、バーチャルの世界を同時に「体験する」「触る」「加工する」こと可能となり、コミュニケーションの形を変えようとしています。

リアルとバーチャルの融合によって、離れた場所の人々がストレスなしに、コミュニケーションできるようになるのです。MRはゲームやエンターテインメント、ビジネスはもちろん、医療・介護や学術研究、日常生活に至るまで様々な分野での活用が期待されていますが、マイクロソフトがこの分野の覇権を握っていることは間違いありません。

⑥ペロトン

ビジネスモデルのイノベーションによって成功している企業は数あれど、自動車やスマホなどソフトとハードにおける優れたUX企業と、ECなどで消費者に直接モノを販売するD2Cのイノベーター企業、そのどちらの領域にも属する企業は、アップルとテスラ、そしてペロトンしかいない、というのです。

ペロトンはフィットネスバイクのDXによってフィットネス業界にイノベーションをもたらしています。ペロトンはSaaS企業で、自社のスタジオからエクササイズ番組を24時間ストリーミング配信し、7000以上のクラスをオンデマンド配信しています。これによりユーザーは、ジムのようなフィトネス体験を自宅で得られるようになったのです。

「フィットネス業界のネットフリックス」と呼ばれるペロトンは、フィットネスバイクやスポーツウエアの製造・販売、番組のストリーミング配信、音楽配信、ロジスティクスなどを一気通貫で提供しています。

⑦シンガポール・DBS銀行

DBS銀行は「もし、ジェフ・ベゾスが銀行をやるなら、何をする?」という大胆な問いのもとに自らを破壊し、デジタルバンクへと生まれ変わりました。彼らがベンチマークしたのは競合する金融機関ではなく、アマゾンをはじめとする数々のテクノロジー企業だったのです。

シンガポールのDBS銀行は、「会社の芯までデジタルに」という目標を掲げて、旧態依然とした金融業からテクノロジー企業へと生まれ変わりました。今では「世界一のデジタルバンク」と称賛されるようになっています。

DBS銀行では、「徹底した顧客中心主義」「データ・ドリブン」「リスクを取って実験に挑む」「アジャイル型」「学ぶ組織になる」と言う目標を掲げ、 ガンダルフ(GANDALF)になることを目指したのです。
G:グーグルのオープンソースソフトウェア志向
A:アマゾンのAWS上でのクラウド運用 
N:ネットフリックスのデータを利用したパーソナル・レコメンデーション
D:DBSがガンダルフのDになる!
A:アップルのデザイン思考
L:リンクトインの学ぶコミュニティーであり続ける
F:フェイスブックの「世界中の人々への広がりを持つ」

彼らは「顧客との継続的で良好な関係性」を構築し、さらなるカスタマーエクスペリエンスの向上を実現しようとしています。

⑧アマゾン
アマゾンはあらゆる産業を飲み込む「エブリシング・カンパニー」を目指しています。「アマゾン・モニトロン」により、製造業のDXを先取りし、製造業のエコシステムをプラットフォーマーとして支配し、産業の覇権を握ろうとしています。その影響力は小売やITだけでなく、今や製造業の現場やヘルスケア、金融にまで及んでいます。

ベゾスはカスタマーセントリックを「聞く(Listen)」「発明する(Invent)」「パーソナライズ(Personalize)」という3つの動詞で定義しています。すなわち、顧客の声に耳を傾け、それを実現するサービスを生み出すこと。また、画一的なサービスをよしとせず、顧客1人ひとりを誰よりも尊重して徹底的にパーソナライズされたサービスを提供すること。それがアマゾンにとっての顧客中心主義です。

ベゾスといえば、これまで「カスタマーセントリック(顧客中心主義)」を掲げ、ひたすらビジネスでの成功にこだわってきました。そのためブラックな会社であると言う評価を長年受け続けてきました。アマゾンはマーケティングでは高いに評価を受けているにも関わらず、CSR、ESG、SDGsでは低い評価に甘んじていました。

人間の欲望には際限がないため、顧客中心主義を追求することで、気候変動問題や格差拡大といった社会問題を引き起こしてきました。顧客中心主義によって、ベゾスは顧客をはじめ、従業員、地域社会など、ステイクホルダーすべての利益を損ねていることに気づきます。会長職に退いたベゾスは今後、人間中心主義にシフトし、従業員やパートナーとの関係を見直していくことでしょう。イーロン・マスクのように地球環境に優しい企業を目指していくことも考えられます。

デジタシフト戦略策定「12のポイント」

社会において企業はどのような存在意義を持つのか。それがパーパスです。このパーパスを実現するには、デジタル、グリーン、エクイティを単独で追求するだけでは事足りず、デジタル×グリーン×エクイティの三位一体で推進していく必要があります。

今後は「人×地球環境」中心主義が、経営者の常識になっていきます。顧客中心主義にこだわり、顧客のペインをなくすことばかり考えた結果、グリーンとエクイティに悪影響を及ぼしました。今後、リーダーは、グリーンとエクイティとの掛け算でデジタル化を推進しなければなりません。

このブログでも再三、MTPMassive Transformative Purposeの重要性を指摘していますが、企業は今こそパーパス(存在意義)を再確認し、そこから戦略や組織を考えるべきです。その際、デジタル×グリーン×エクイティを三位一体で捉え、戦略に取り入れることが、リーダーには求められています。

田中氏は、デジタルシフトに求められる「5つのシンカ」 を本書で紹介しています。
(1)「本質」のシンカ
デジタルシフトとは「本質」の進化で、小手先のデジタル化を推進しても意味がありません。事業そのもの、企業そのものの本質を進化させるものがデジタルシフトです。

(2)「CX」のシンカ
デジタルシフトとは、カスタマーエクスペリエンスの進化です。アマゾン・ゴーではもはや「買い物していると感じさせない」「支払いをしていると感じさせない」ほど、スピーディで快適な買い物が実現されています。カスタマーエクスペリエンスの進化は、「より自然に」がキーワドになっています。

(3)「データ分析」のシンカ
蓄積されたデータをAIによる分析にかければ、以前よりもはるかに高い精度で「ユーザー1人ひとり」の行動パターンや心理パターンを把握し、サービスを最適化できます。ユーザー1人ひとりの、刻一刻とリアルタイムで変化するニーズまでを把握するセグメンテーションを意味しています。「○年○月○時○分のあなた」というところまで細分化したマーケティングが、ビッグデータ×AIにより可能となっています。最新のテクノロジーを活用し、データ分析からデジタルシフトを実践すべきです。

(4)「つなげる」のシンカ
デジタルシフトは、ありとあらゆるものを 「つなげる」ことを可能とします。 各企業がデジタルシフト戦略を立案する際は、「どうすれば顧客とつながることができるのか」、あるいは「つなげた先にどのようなサービスを展開できるのか」を設計していく必要があります。

(5)「経営スピード」のシンカ
企業の競争力は、まず経営スピードに表れます。デジタルシフトもまた、経営スピードの進化に活用されるべきです。企業の各部門が同時にスピードアップを図るために、そのためのデジタルシフトを模索し、実践しましょう。

田中氏は、デジタルシフトの戦略策定のやり方も教えてくれます。以下の戦略策定「12のポイント」を取り入れれば、企業を強くできます。

(1)より優れた商品サービス提供に至るまで、すべての階層において優れた戦略になること
 「より優れた商品・サービスを提供する」「業務上のニーズに貢献すること」「事業上のニーズに貢献すること」「戦略上のニーズに貢献すること」「存在意義や使命上のニーズに貢献すること」 デジタルシフト戦略は、これらすべての階層において優れた戦略になることを目指します。

(2)本質的で、 インパクトがあり、強く・好ましく・ユニークなものであることを生命線とすること。
デジタルシフト戦略とは、会社が掲げるビジョンの実現に向けて、戦略的に立案されるべきです。「強く・好ましく・ユニーク」なもの(ブランディングの三拍子)とがデジタルシフトにおいても重要です。強く・好ましく・ユニークの3つが揃うからこそ、ブランド価値、顧客価値、社員価値の向上に寄与する戦略となるのです。

(3)自社の事業に対する哲学・想い・こだわり、ミッション・ビジョン・バリューに精通すること。
経営者が持つ哲学・想い・こだわり、ミッション・ビジョン・バリューはまさに企業の根幹にあるものです。それを踏まえた戦略でなければ、事業の本質を進化させるデジタルシフトにはなり得ません。

(4)自社の事業の本質から入ること
デジタルシフトとは事業の本質をアップデートするものです。まずは自社の事業の本質を見極めなければなりません。

(5)自社、自社の競合、自社の顧客やマーケットを徹底的に知る努力をすること 
Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3C分析を重視し、その結果として、自社の強みを明らかにすることで、競合に打ち勝ち、顧客からも評価されるデジタルシフト戦略が明らかになります。

(6)経営者の発言などを徹底的にリサーチ、分析すること
デジタルシフト戦略立案の当事者は、経営者が何を考え、どのように発言しているのかを徹底的にリサーチし、その経営者の哲学、こだわり、想いを明らかにする必要があります。

(7) アマゾンのみならず米中メガテック8社をすべて本質的にベンチマークし、それを本当に活かした大胆な戦略となっているかを明記すること

(8) リサーチ・調査を踏まえた分析・評価、 それらを踏まえた戦略となっていることに留意すること

(9) 「先に打ち手ありき」の戦略となっていないか、「実施した分析から本当にそのまま導き出された戦略であるか」に徹底的にこだわること

(10)競合他社にもそのまま使えるような戦略にならないよう十分に注意すること
ユニークで独自性のある、自社にふさわしいデジタルシフト戦略をつくる。

(11) 自分自身が大胆なビジョンを持つことが不可欠であることを再認識し、それを自分たちの方法で投影したものにすること

(12) 「求められていることは何か?」 「何のためにやっているのか?」と問い続け、目的や使命を常に意識すること

本書には経営改革のための様々なヒントが書かれています。本書が取り上げた8社は顧客中心主義を経営に取り入れ、デジタルシフトを行っていますが、この数年でデジタルにグリーン×エクイティを掛け合わせるようになっています。

グリーン×エクイティは、Z世代が強い関心を寄せています。Z世代が消費の中心になった以上、グリーン×エクイティを日本企業も無視できなくなっています。デジタル×グリーン×エクイティが勝ち組企業の常識になる中で、デジタル×グリーン×エクイティを軽視する企業は、早晩淘汰される運命にあるのです。

私は田中氏の書籍から毎回、多くの学びを得ていますが、今回のテーマである「人×地球環境」中心主義に心を打たれました。私が取締役やアドバイザリーをしている企業には、SXから戦略や組織を考えるべきだと伝えていますが、本書のエッセンスを仲間の経営者に伝えていきたいと思います。

私にとっては今年のベストともいえる一冊で、時間をかけて、このブログを書かせていただきました。田中氏の主張は多岐にわたり、伝え切れていない部分も多々ありますが、それはご容赦ください。DXやSXを経営に取り入れたい方は、ぜひ、本書をご一読いただき、デジタル×グリーン×エクイティの重要性をご確認ください。

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