EXTRA LIFE なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか
スティーブン・ジョンソン
朝日新聞出版
本書の要約
人類はこの1世紀で平均寿命を2倍に延ばし、子どもの死亡の確率を10分の1未満に減らしました。健康寿命を伸ばす数々のイノベーションが起こりましたが、その裏には無名の人々のネットワークの力があったのです。アイデアがクチコミで広がり、つながることでイノベーションが起こるのです。
健康寿命が伸びた理由
人間は目に見えない盾によってますます守られるようになってきている。その盾はこの数世紀のあいだに少しずつ構築されてきて、人びとを無事に死から遠ざけているのだ。(スティーブン・ジョンソン)
人類はこの1世紀で平均寿命を2倍に延ばし、人間が経験する最も悲惨な出来事、つまり子どもの死亡の確率を10分の1未満に減らしました。私たち人類は命を守ためのいくつもの介入を行ってきたのです。特に子供の寿命を伸ばすことで、平均寿命を劇的に伸ばすことに成功します。
たった2、3世紀で、私たちは人生を2万日(54年)も増やすことができました。生まれて2、3年後に命を落としていたであろう子どもが、さまざまなイノベーションのおかげで、何十億人も大人になるまで成長し、自分の子どもを持つことができるようになったのです。
著者は飢饉の抑制を実現した化学肥料、公衆衛生の要ともいうべきトイレと上下水道システム、そしてワクチンの3つが、健康寿命を伸ばすことに貢献したと述べています。
今回のコロナ禍は私たちの盾の穴を明らかにしました。今回のコロナパンデミックによって、システムの脆弱性に気づけ、ここからイノベーションが起こったのです。
人間の健康の歴史に関する避けられない事実は、進歩を促したイノベーションそのものが、ほとんどつねにほかのイノベーションとの共生関係に巻き込まれている、ということだ。
ホモサピエンスの寿命を延ばすことにこの70年間で最も効果があったのは、世界保健機関(WHO)だと著者は指摘します。この組織が天然痘の根絶に貢献したことが、人類の平均寿命に良い影響を及ぼしたのです。
イノベーションを広める2つの力
天才の物語は歴史の教科書の要約に必ず出てくるが、その要約は、ほんとうはネットワークの物語だったものを天才の話に縮めてしまう。
エドワード・ジェンナーがワクチン接種を発明したという有名な物語に著者は疑問符を投げ掛けます。天然痘のワクチンのアイデアの一部は地球の反対側で生まれ、文化から文化へと口コミで広がり、イギリスのメアリー・モンタギューがその価値に気づいたのです。ジェンナーという天才の物語に注目が集まりますが、実はその裏にはネットワークの力があったのです。
トーマス・エジソンが電球を発明したという天才の物語は有名ですが、問題解決のためのアイデアやテクノロジーは、同時にあちこちで生まれています。実際、白熱電球はさまざまな種類が1870年代に10回以上発明されています。
ジェンナーのワクチンでさえ、1774年に別のイギリスの田舎医者ベンジャミン・ジェスティーが、同じような牛痘ベースの接種をすでに行っていたと言います。
メアリー・モンタギューは、最終的にワクチン接種を誕生させた協力ネットワークで、2つの役割を果たしました。
①情報のつなぎ役
彼女がトルコという異国からのアイデアを取り入れたおかげで、そのアイデアは知識と地理どちらの境界も越えることができました。
②情報の広め役
手紙と、イギリス貴族や王室に対する影響力を用いて、その処置についてのうわさを広めました
健康における重要なブレイクスルーは、発見されるだけではだめなのだ。賛成を得て、支持され、擁護される必要もある。
ジェンナーの最初の実験から2世紀で、ワクチン接種とその集団導入のおかげで約10億の命が救われています。その異例の成功は医科学の成果であることは間違いありませんが、その裏には、活動家や有名な知識人や法律改革派の活躍があったのです。
健康における数々のイノベーションが、私たちの“当たり前”になるまでの物語の中に、人類の未来を築くための重大なヒントが隠されています。本書で紹介されるイノベーションの歴史から、私たちは未来をよりよくするヒントを見つけられます。
一方、寿命が伸びたことにはリスクがあることを忘れてはなりません。急激に延びた寿命と人口増大が温暖化を引き起こし、気候危機をきっかけに急激に縮小する可能性があるのです。今こそ、私たちは人類の力を信じるべきです。本書の登場人物の努力や熱意を見習い、行動を続ければ、この問題も解決できるはずです。
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