堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法の書評

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堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい放題から身を守る方法
堤未果
幻冬舎

本書の要約

ショック・ドクトリンは、国家と国民の資産を食い尽くす「コーポラティズム国家」を生み出すために用いた手法です。強欲なショック・ドクトリンに対抗するためには、個人の意識と行動の変革が重要です。自己の力を取り戻し、情報を吟味し、批判的思考を持ち、団結し、社会的な変革を求める努力を続けることで、より公正で持続可能な社会の実現に向けて歩みを進めることができるでしょう。

ショック・ドクトリンとはなにか?

 ①ショックを起こす②政府とマスコミが恐怖を煽る③国民がパニックで思考停止する④シカゴ学派の息のかかった政府が、 過激な新自由主義政策を導入する ⑤多国籍企業と外資の投資家たちが、国と国民の資産を略奪する 西側メディアはこれを「自由市場の奇跡」などと大いに絶賛しましたが、フタを開けてみるとそれは、アメリカとそのお友達(銀行家と多国籍企業と投資家)が国家と国民の資産を食い尽くした「コーポラティズム国家」に他なりませんでした。(堤未果)

「ショック・ドクトリン」とは、テロや大災害など、国民が恐怖に陥り思考停止している最中に、為政者や巨大資本が巧妙に利用し、過激な政策を推し進める悪質な手法です。

1970年代に起こったチリの軍事クーデターでは、深刻な社会的混乱が生じました。しかし、このような状況下で、ミルトン・フリードマン教授率いるシカゴ学派から影響を受けた政治家、金融家、多国籍企業、投資家たちは、ショック・ドクトリンという手法を使用し、チリの政治・経済を自己の掌握下におき、結果としてアメリカの大企業に利益をもたらしたのです。

彼らはチリでショック・ドクトリンの手法を確立しました。この手法は、国家や国民の資産を略奪し、新自由主義政策を導入することで利益を追求するものでした。そのプリセスは以下の5つのステップで構成されました。

①ショックを起こす: まず、経済的、政治的なショックを引き起こすことで、国民の不安とパニックを誘発します。このショックは、経済危機、政治的混乱、自然災害など、さまざまな形をとることがあります。

②政府とマスコミが恐怖を煽る: 政府とメディアは、ショックを利用して恐怖心を煽り立てます。国民に対して危機感を植え付け、思考停止状態に追い込みます。このような状況下では、人々は冷静な判断を下せず、政府の提案やメディアの情報に鵜呑みにしてしまう傾向があります。

③国民がパニックで思考停止する: 国民の混乱と恐怖心は、思考停止状態を引き起こします。人々は自身の利益や権利を守ることよりも、危機からの脱却を優先させる傾向があります。この状況を利用して、政府や関与する勢力は過激な政策を推進することができます。

④シカゴ学派の息のかかった政府が、過激な新自由主義政策を導入する: ショックによって国民が弱体化した状態で、新自由主義の政策が導入されます。これには、民営化、規制緩和、財政引き締め、市場の自由化などが含まれます。このような政策は、多国籍企業や外資の投資家にとって非常に有利であり、彼らの利益を増大させることができます。

⑤多国籍企業と外資の投資家たちが、国と国民の資産を略奪する: 新自由主義政策の導入により、多国籍企業や外資の投資家たちは国内市場への進出や資産の獲得を容易にします。彼らは低コストで国内資産を買収し、労働力を安く使い、市場を支配することで巨額の利益を得ることができます。国家や国民の資産が略奪され、富の偏在が進みます。

このショック・ドクトリンの手法は、西側メディアによって「自由市場の奇跡」として賞賛されましたが、実際にはアメリカとその関与する勢力が国家と国民の資産を食い尽くす「コーポラティズム国家」を生み出したものでした。メディアの恣意的な情報を鵜呑みにすると痛い目に会います。

日本においても、特に小泉純一郎政権以降、この手法が何度も使用されました。新自由主義の政策が推進され、医療、教育、労働者の福祉が切り捨てられる一方で、利権を持つ「有識者」と呼ばれる顧問たちは政府に利益誘導を行い、経済界はますます利益を蓄えていきました。

これにより、国民の生活は苦しくなり、経済界と政府との癒着が進んでいったのです。 ショック・ドクトリンの手法は、チリをはじめとする多くの国々で展開され、富の集中と資源の略奪が行われました。この手法は世界中に広がり、ブラジル、アルゼンチン、アフリカ、中東、イギリス、アメリカ、タイ、韓国、インドネシア、ロシア、中国など、大陸を超えて獲物を求める凶暴なバッタの群れのように富を食い尽くしていきました。

私たちは、この構造的な略奪と権力の動きについて警戒し、社会的正義と共同の福祉を重視する政策を追求する必要があります。経済の発展と利益追求だけでなく、持続可能な社会的な側面を重視することが重要です。

強欲集団に対抗する戦術とは?

机の向こうにいるのは、自分たちだけ印のついた力ードを持ってニヤニヤしている強欲軍団。このままでは彼らのやりたい放題にされ、自分だけでなく子どもや孫の代まで、大事なものが根こそぎ奪われてしまいかねません。

真実を見抜き、正しい判断を下すためには、現在何が起きているのかを正しく理解することが重要です。私たちは自身の身体の声に耳を傾け、情報とテクノロジーに囲まれた現代社会で鈍くなってしまった五感を再活性化させ、本来の力を取り戻す必要があります。そして、自らの頭で考え、判断することで、簡単に騙されることはありません。

実際に、強欲なショック・ドクトリンによって疲弊させられた人々が、彼らのずるい手口に気付き立ち上がり、団結し、抵抗して宝物を奪い返す成功例は世界中で増えています。このような成功例は、私たちが知識を深め、戦術を学ぶことで、仕掛けに対抗するための選択肢を増やすことができるという証拠でもあります。

以下に、強欲ショック・ドクトリンに抵抗するためのいくつかの戦術を紹介します。
①情報の選別と批判的思考: 情報は私たちの周りに溢れていますが、その中には偏りや操作された情報も存在します。批判的思考を持ち、情報のソースや背後にある意図を見極めることが重要です。自分で情報を確認し、複数の視点から情報を吟味することで、より客観的な判断を下すことができます。

②教育と情報の共有: 自己啓発をすることや教育を受けることは、自己の力を強化するための重要な手段です。情報を共有し、意見交換をすることで、より多くの視点や知識を得ることができます。社会的なつながりを持ち、情報を共有することは、強欲な勢力に対して結束し、抵抗するための力を養うことにつながります。

③政治への積極的な参加と声の発信: 政治や社会的な意思決定に参加することも重要です。選挙や市民運動への参加、意見を発信することによって、自らの声を主張し、社会的な変革を促すことができます。団結した行動によって、強欲な勢力に立ち向かう力を高めることができます。

④持続可能な経済と社会の推進: 強欲なショック・ドクトリンは、利益追求と資源略奪に焦点を当てる傾向があります。持続可能な経済と社会の構築を目指すことで、短期的な利益追求よりも長期的な共生や公平性を重視する社会を形成することができます。環境保護、社会的公正、労働者の権利などに関心を持ち、関与することが重要です。

⑤個人の自己防衛と経済的な選択: 個人としても、自己防衛の意識を持ち、経済的な選択をすることが求められます。自身の消費行動や投資において、社会的な影響や倫理的な観点を考慮しましょう。ローカルな経済や持続可能な産業を支援することで、強欲な勢力による支配を減らし、地域の発展を促進することができます。

マイナンバー制度の問題点とは?

本書では、日本や世界で起きている3つのショック・ドクトリンの現代版を紹介し、その裏側に隠された真実と対抗策について解説しています。具体的には、マイナンバー制度、新型コロナパンデミック、そして脱炭素政策に焦点を当てています。今日はマイナンバー制度の問題点を明らかにしたいと思います。

2020年4月7日、日本政府は新型コロナウイルス感染の拡大に伴い、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言を初めて発令しました。しかし、この日と同じく、新型コロナパンデミックを利用して日本のデジタル化を一気に加速させるショック・ドクトリンが熱心に話し合われていたことを知る必要があります。

政府は新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を推進し、その中でマイナンバーを基盤としたデジタル化の促進を図りました。これはショック・ドクトリンの一環であり、緊急事態下でのデジタル化を推進することで、国民の監視や情報収集を容易にし、個人のプライバシーと権利を侵害する懸念があります。

マイナンバーは、個人を一意に識別するための番号制度ですが、その導入には様々な問題が存在します。マイナポイント普及に使われた予算は莫大な規模(1兆8,000億円)で、日本の国公立大学の授業料を無償にできたのです。

本書では、マイナンバーが個人情報の集中管理を可能にし、プライバシーの侵害や権利の制約につながる恐れがあることを指摘しています。さらに、政府や大企業がこの個人情報を悪用し、市民の監視や経済的な操縦を行う可能性も指摘されています。マイナンバーを偽造し、なりすまし犯罪が多発する可能性も高まっています。

マイナンバーでは日立やNEC、NTTデータ、電通、パソナが巨大な利権を手に入れました。それだけにとどまらず、政府は巨大になった国の借金返済のために、国民の財産を狙っているのです。

身分証明書がマイナンバーカード1本になれば、銀行の口座開設だけでなく、不動産や株式を売り買いするときにもマイナンバーカードの提示が必要になります。こうして、国民の全金融資産を把握してしまえば、あとはいろいろなやり方で徴収できるでしょう。

エストニアは、電子政府の実現において成功を収めた国として注目されています。その成功の要因として、以下の3つのポイントが挙げられます。

・政府と国民の信頼関係: エストニアでは、政府と国民の間に信頼関係が築かれています。個人情報漏洩などの問題が頻繁に起きる中、政治家が責任を逃れるために「記憶にない」と発言することはなく、透明性と説明責任を重視しています。これによって、国民は政府に対して信頼を抱くことができます。

・情報の透明性と機密性の確保: エストニアでは、個人情報の扱いに関して透明性と機密性が両立しています。個人情報は一箇所に集中していますが、政府や企業は勝手に情報を使用することはできません。医師や警察など、特定の職務上必要な場合にのみ個人データにアクセスすることが許可されており、そのアクセス履歴もオンラインで確認できます。情報の扱いに関して透明性が高く、個人情報の不正な使用や悪用を防ぐための強力な規制が敷かれています。

・個人情報主権の保護: エストニアでは、個人情報主権が重視されています。国民は自分のデータを削除する権利を持っており、個人がネット上で登録した情報も自由に削除できます。一度ネットに入れた情報が永遠に残ることはありません。

個人情報の持ち主である個人が主権を持ち、自身のデータをコントロールできる仕組みが整備されています。 エストニアの成功例から学ぶと、個人情報の保護と透明性の確保が重要であることが分かります。信頼関係の構築、情報の透明性と機密性の両立、個人情報主権の尊重は、デジタル化が進む現代社会において不可欠な要素です。

マイナンバーシステムの不備が次々に見つかり、広く国民からの批判が寄せられている現実があります。特に個人情報の漏えいやセキュリティの脆弱性が懸念される中で、政府には適切な対策を講じる責任が求められています。日本政府に対する信頼が揺らいでいる中、個人情報に対する鈍感な政治家や官僚がこの問題に関与することが、私たち日本人にとっての悲劇になっています。

私たちがマイナンバーの利用に対して慎重な姿勢を示すことで、セキュリティ体制や個人情報保護の強化が求められるでしょう。政府や関与する機関に対して、透明性と説明責任を求め、個人情報の適切な取り扱いを求める声を上げることも重要です。

情報を吟味し、自分の頭で考えることが重要な理由

一番大事なことは、ショックが起こったとき、間をあけずに即導入できるよう、政策(ドクトリン)は前もって準備しておくことだ。この手法の成功のカギは、そこにかかっている。(ミルトン・フリードマン)

人間はショック状態に放り込まれても、必ずしもそのままでいるわけではありません。時間とともにパニックから覚め、再び正気を取り戻すのです。しかし、仕掛け側はスピード勝負を狙い、国民が恐怖に囚われて思考停止している間に、一秒たりとも無駄にしません。「考える時間を与えるな」という戦略が展開されます。

コロナパンデミックの際にもワクチンが一気に作られ、接種されましたが、このときにもショック・ドクトリンが実行されていました。日本の国民皆保険制度が世界の製薬メーカーの餌食になり、割高な薬やワクチンを買わされていたのです。

 ショック状態からの回復は時間がかかるものですが、仕掛ける側はこの回復のプロセスを待っているわけではありません。彼らはショック状態に陥った国民がまだパニック状態にあるうちに、自らの意図を達成しようとするのです。

このような戦略を実行するためには、事前の準備が欠かせません。仕掛ける側は、ショック状態を引き起こすトリガーやメカニズムを熟知し、その効果を最大限に引き出すための計画を立てています。彼らは事前に情報や資源を収集し、戦略的に行動することで、国民が正気を取り戻す前に目的を達成しようとするのです。

そのようなショック状態に陥った時こそ、冷静な判断と行動が求められるのです。過去の歴史を振り返り、歴史の中で共通する点と点をつなぐことで、目の前の問題点を明らかにできます。

私たちの意思表示は、個人情報保護や透明性の確保に向けた改善を促す重要な要素です。マイナンバーのセキュリティと個人情報保護がしっかりと確保されるまで、私たちは自らの意思を持ってマイナンバーの利用や提供に慎重な姿勢を示し、自身の個人情報を守る決意を示すことが求められています。

私たちは情報を吟味し、自己の意思決定を行い、政府や関与する勢力に対して監視と批判を行うことで、より公正で持続可能な社会の実現に向けた一翼を担うことができます。

強欲なショック・ドクトリンに対抗するためには、個人の意識と行動の変革が重要です。自己の力を取り戻し、情報を吟味し、批判的思考を持ち、団結し、社会的な変革を求める努力を続けることで、より公正で持続可能な社会の実現に向けて歩みを進めることができるでしょう。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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