インフレ課税に対抗する3つの方法とは?インフレ課税と闘う! (熊野英生)の書評

a person holding a bunch of coins in their hands

インフレ課税と闘う!
熊野英生
集英社

本書の要約

年金が当てにできなくなる中、個人の自己責任と自助努力がより重要となってきています。老後を迎える前に、今から準備を始めることが重要です。将来の不確実性に備え、自身の経済的安定と生活の充実を追求することが必要です。インフレ課税時代には節約、資産運用、副業などによる収入のアップが欠かせなくなっています。

インフレ課税に対抗する3つの方法

インフレの時代は、生活コストが上昇して、もう一方では十分に給与が上がらない。私たちは、当面、貯蓄を減らしていかざるを得ない。もしも、給料が上がらないのならば、自分で別に稼ぐしかない。(熊野英生)

コロナ禍やウクライナ戦争の影響により、世界経済は停滞し、エネルギー価格などの物価が急上昇しています。この結果、インフレが世界中で日常化しています。

アメリカでは、2022年からのインフレ率は8%を超え、日本でも2023年3月時点で2.5%と、2008年以来の高水準となっています。 長年にわたり日本ではデフレが続いてきましたが、近年は不動産価格やエネルギー価格の上昇により、その傾向が変わってきました。

土地やマンションなどの不動産価格が上昇し、ウクライナ危機後は石油や天然ガスなどのエネルギー価格も高騰しています。これにより、電気料金や食料品などの物価も上昇しています。将来的にも物価の上昇が続くと予想されています。

このような状況下では、家計をやりくりし、財産を守るためには、インフレを前提とした生活を送る必要があります。しかし、給与所得は物価の上昇に追いつかないため、インフレの恩恵を享受することはできません。結果として、実質的な所得の減少が生じることになります。

インフレは私たちの生活に大きな影響を与える問題です。著者は今回のインフレを「インフレ課税」とネーミングしました。インフレ課税とは、物価が上がることで、実質的な所得が減少し、政府への税金の負担が増えることを指します。インフレが進むと、給与は上がらないのに、物価は上がるため、実質的な所得は減少します。これが徴税と同じペインを国民にもたらします。

熊野氏は、私たちはインフレの動向を注視し、適切な対策を講じていくことが重要だと指摘しています。インフレが進むと、家計に大きな負担がかかります。

著者は、その上でインフレ課税に対抗する3つの方法を紹介しています。
①節約: 支出内容を見直し、やりくりをすることで余裕を作ります。日常の出費や生活費を見直し、節約の余地がある項目を見つけましょう。例えば、食材の無駄を減らしたり、無駄遣いを控えたりすることが考えられます。さらに、定期的な支出や会員費なども見直し、必要のないものを削減することも重要です。

②資産運用: 外貨などの資産を中心に運用することで、インカムゲインを増やすことができます。インフレ時には通貨価値が低下するため、外貨や商品に投資することでリスクを分散させることができます。ただし、資産運用はリスクを伴うため、専門家のアドバイスや情報収集を行い、慎重に判断しましょう。

③副業: 副業を始めることで「稼ぐ力」を高め、自分のスキルをアップデートします。追加の収入源を確保することで、インフレによる実質的な所得減少をカバーすることができます。自分の得意なスキルや趣味を生かして副業を選ぶと、仕事との両立もしやすくなるでしょう。

これらの方法を組み合わせて、インフレに対抗することが求められます。ただし、個々の状況やリスクに応じて適切な対策を取ることが重要です。金融や経済の専門家の助言や情報収集を行いながら、自身の家計を守るための戦略を検討しましょう。

インフレ課税に対抗するための資産運用

インフレ課税は、秘かに円資産の価値を減価することができる。政府債務残高も、気づかれないうちに重さが軽くなっていく。国民は、自分たちの円資産の購買力が徐々に消えてしまつことに意識を向けにくい。しかも、円資産を持っている限りは、国民が逃れることが最も難しいかたちの課税方式である。

インフレ課税が続くと、政府などの債務者は秘密裏に利益を得る一方で、債権者は何もできずに損失を被ることになります。財布の現金や預金通帳の数字には変化が見られませんが、こっそりと購買力が徐々に低下していくというのがインフレ課税の恐ろしさです。

ケインズの貨幣改革論では、インフレが富の分配に影響を及ぼすことを指摘しています。インフレの中で、新たな価値を生み出せる企業家や実業家は利益を得る機会を得ます。一方で、貯蓄者や投資家は過去に蓄積された富をインフレによって失う可能性があります。これは、債務者が利益を得ている一方で、債権者が損失を被るのです。

平均的な2%の消費者物価上昇により、10年後には円資産の価値は18.0%減少することになります。国際通貨基金(IMF)の経済予測によれば、2023年から2027年までの5年間、消費者物価の年平均上昇率は1.01%と予測されています。この場合、5年間で円資産の減価率はマイナス5.9%となります。低金利の預貯金だけで運用すると資産を減らすことにつながります。

資産運用においては欧米の株式型に対して、日本は預貯金型になっています。欧米の家計においては、株式などの有価証券の保有割合が比較的高くなっていますが、日本の家計では預貯金の割合が半数以上を占め、有価証券の割合は相対的に低くなっています。この違いが、欧米の家計のインフレに対する耐性を高め、逆に日本の家計のインフレへの抵抗力を弱める要因となっています。

日本では、資産運用においては自国通貨である円建てが安全と考えられてきました。外貨は円高になると資産が目減りするため、敬遠される傾向がありました。しかし、インフレのリスクが高まると事情は変わってきます。

インフレと円安は一緒にやってくるため、為替変動のリスクを回避するためには、ドルやユーロなど他の通貨もバランスよく保有することが重要です。ドル安の時には円高やユーロ高になり、為替変動の影響が全体的に均衡されることになります。逆にドル高の時には円安やユーロ安となり、メリットとデメリットが相殺しあいます。

資産運用の世界では、世界中の金融資産をバランスよく保有することで、リスクを相対的に低減させながら高いリターンを追求すると考えられています。そのため、自国通貨に偏った資産運用を「ホームバイアス」と呼んでいます。ホームバイアスはリスクを高める要因であり、できるだけ避けるべきです。

しかし、各国の家計はどうしてもこのバイアスに影響される傾向があります。特に日本の家計はこの傾向が強いです。 ホームバイアスが低い欧米の家計は為替変動に強く、インフレが起きた場合もその利上げをする国々の通貨が高くなるメリットを享受しやすくなります。また、自国の財政状況が悪化し金融抑制政策を取る可能性があっても、海外資産の分散化により相対的に自国通貨の減価リスクやインフレリスクに巻き込まれずに済むのです。

富のクリエーションという観点から見ると、欧米と日本には力量の差があります。経済学者ケインズは、新しい富を生み出す人にとってインフレは有利だと主張しています。しかし、インフレは新しい富を生み出す人にとって有利な経済状況でもあります。なぜなら、インフレになると、昔築いた富が減価するため、新しい富を生み出すことが生き残る秘訣だからです。

インフレ時代に家計が富を創造するには、自ら事業を行い、より積極的に事業利益を得る方法を見つける必要があります。副業として事業を手がけることはその一例です。また、起業して自ら経営者になる道もあります。一人で行う場合は、自営業を選ぶことができます。

インフレは家計にとって不利な経済状況ですが、新しい富を生み出す人にとっては有利な経済状況です。インフレ時代に家計が富を創造するには、自ら事業を行い、より積極的に事業利益を得る方法を見つける必要があります。

副業から起業、収入をアップするための5つのステップ

人生を一つのことに専念することの隠れたリスクとは、長期計画が狂うリスクだ。その計画が意図せざることが起こって潰れたときの身の振り方が難しくなることである。経営では「選択と集中」が叫ばれるが、選択の前提になるのは自分の活動を分散しておくことなのだ。活動を分散しておかないと、選択肢の数・範囲も狭く限られてしまう。  

副業は、ビジネスにおけるリスク分散の戦略の一つです。本業にのみ専念していると、本業が失敗した場合に、大きなリスクが存在し、途方に暮れる可能性もあります。しかし、副業を持つことで収入源を複数持つことができ、本業が失敗した場合でも収入を得ることができます。

また、副業を通して、本業とは異なるスキルや経験を身につけることができ、将来のキャリアアップにも大いに貢献することができます。 

金融業界では、債務不履行を「デフォルト」と呼びます。この言葉は、卵を一つのかごに入れるような状況を表しており、一度デフォルトすると再起動が難しくなることを意味しています。 特に40歳代後半から50歳代になると、現在の仕事に対する先行投資が大きくなる傾向があります。

この時期に転職や仕事の再スタートを考えると、初期設定をやり直すことは困難です。長年にわたって築いてきたキャリアや専門知識に頼っているため、新たな分野や職種への転身はハードルが高くなります。 そこで、副業が重要なテーマとなってきます。副業を取り組むことで、新たな収入源やスキルを獲得することができます。これにより、卵を一つのかごに入れず、リスクを分散させることができます。

副業は将来の安定やキャリアの柔軟性を確保するために有効な手段となります。 転職を考えているビジネスパーソンにとっても、副業は重要な選択肢となります。副業を通じて新たな分野や業界に触れることで、自身のスキルや興味を広げることができます。

また、副業を通じて新たな人脈を築くこともできます。これらの経験や人脈は転職活動において有益な資産となるでしょう。 ただし、転職や副業を考える際には慎重な準備と計画が必要です。

40代後半で広告会社を退職することを決めた私も、最初は執筆や講演などの副業からスタートしました。本の出版や雑誌の連載、講演活動を通じて、異なる人脈を築くことができました。これらの知見や経験が、私のビジネスに良い影響をもたらし、結果的には社外役員やアドバイザーとして独立することができました。

スキル労働者が進化する経路は、①不特定多数→②指名対象者→③起業・独立→④ネットワーク強化→⑤会社組織化、という5段階である。

スキルを持つ労働者の進化は、以下の5つの段階を経ています。
①不特定多数: 最初は広範なクライアントや顧客の中で仕事を行います。経験を積み重ねながら、自身の実績を築いていきます。この段階では、顧客の中からリピーターを獲得することが重要です。

②指名対象者: 実績を積んで信頼を得ることで、特定のクライアントや顧客から指名を受ける機会が増えます。これにより、独自の営業基盤を構築することができます。

③起業・独立: 指名を受けることで独立の道が開けます。独立後は同業者と競争しながら、その中で自身の評価を高めることが求められます。この段階では、自身の評判を広め、他人が自身を売り込む役割が重要となります。

④ネットワーク強化: 高い評価を長期間維持することで、自身のブランド力を構築します。これにより、事業をスケールアップさせるチャンスが生まれます。自身のネットワークを拡大し、さらなる成長を目指すことが重要です。

⑤会社組織化: ブランド力を持ち、事業が成熟してくると、会社組織として経営を行うことが可能となります。この段階では、事業の飛躍や拡大が目標となります。 以上がスキル労働者の進化のステップとなります。最初は請負形式で仕事を始め、指名を受けることで独立し、自身のネットワークを拡大し、事業を成長させるという流れです。副業からの起業=自分の稼ぐ力を高めることで、インフレ課税や老後のお金の問題も解決できるようになります。

近年の政府の姿勢からは、老後の生活を「公的年金だけで十分に暮らせる」という保証をする考え方はなくなっています。年金制度に頼るだけでなく、自身の労働力を活かしてできるだけ働くことが求められているのです。健康寿命が延びる一方で、政府は国民の老後を完全に保障する責任を果たせなくなっているのです。

そのため、国民に対して「自助努力をしてください」というメッセージが発せられているのです。 かつて政府は、2004年の年金制度改革の導入時に年金カットが行われたことを、「制度を守るための措置」として説明し、「100年安心」と表現していました。しかし、今ではそれは詭弁だったことが明らかになっています。最近では、老後も労働を前提とした社会づくりへの移行が進んでいます。

この数年の政策の変更を見れば、年金を当てにすることはできなくなっています。個人としては、老後の生活に備えるためには、公的年金だけに頼らず、個人の貯蓄や投資、さらには副業や事業の展開など、自己の努力と資産形成に取り組む必要があるでしょう。

政府の役割は限定的であり、個人の自己責任と自助努力がより重要となってきています。老後を迎える前に、今から準備を始めることが重要です。将来の不確実性に備え、自身の経済的安定と生活の充実を追求することが必要です。インフレ課税時代には節約、資産運用、副業などによる収入のアップが欠かせなくなっています。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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