僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない――デフレしか経験していない人のための物価上昇2000年史(スティーヴン・D・キング)の書評

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僕たちはまだ、インフレのことを何も知らない――デフレしか経験していない人のための物価上昇2000年史
スティーヴン・D・キング
ダイヤモンド社

僕たちはまだ、インフレのことを何も知らないの要約

現代は長らく続いたデフレの時代が幕を閉じ、インフレの兆しが見え始めています。インフレの時代を生き抜くためには、市場の動向を敏感に察知し、必要に応じて迅速に行動を変更できる柔軟性が不可欠です。また、賢明な資産運用を心がけ、物価上昇の影響を最小限に留める戦略を立てることが重要になります。

インフレ時代の変化に備えたほうがよい理由

インフレは、ときどき冬眠することはあっても死ぬことはない。(スティーヴン・D・キング)

欧州最大の銀行であるHSBCの上級経済顧問・経済学者のスティーヴン・D・キングの見解によれば、インフレーションは一時的に収束することはあっても、完全に消滅することはないと言います。私が子供の頃は、物価が上がるのが当たり前でしたが、この40〜50年デフレの時代が続いています。

近年、世界中でインフレに対する意識が低下しているとの声が多く聞かれます。これまで物価の安定に慣れ親しんできた人々にとって、インフレという経済変動への対応準備や心構えが不足しがちです。多くの専門家もインフレを体験していないため、政策が後手後手になる可能性があります。

数十年にわたるデフレの時代が終わりを迎え、お金の価値が次第に減少していくインフレーションの時代が到来していると、著者は警鐘を鳴らし、インフレに備えるべきだと言います。

インフレは物価の上昇と通貨価値の低下を引き起こす経済現象であり、この状態が続けば、消費者は同じ商品やサービスの購入に対し、以前より多くの費用を支払う必要が生じます。これは経済活動にマイナスの影響を与え、生活費の増加や資産価値の低下といった問題を生じさせることがあります。

インフレの時代に適応し、生き抜くためには、従来の考え方を見直し、経済環境の変動に柔軟に対応することが求められます。 政府や中央銀行はインフレ抑制を目指して様々な政策を実行していますが、インフレのリスクは日々大きくなっています。

インフレが進むと、資産を持つ人々は資産価値の上昇により影響を受けにくくなる一方で、資産を持たない人々は生活費の増加に直面しやすくなります。このようにして「勝者」と「敗者」が生まれる可能性があります。 インフレの影響を最小限に抑えるためには、賢い投資や資産形成が重要です。

インフレの時代の1970年代における最も効果的な戦略の一つは、大きな借金をして、その資金を株式や不動産、そして可能ならば物的資産に投資することでした。これは、1920年代初頭のヴァイマル共和国でフーゴー・ディーター・シュティンネスが取り入れた戦略と同様です。

このような方法は、特に新しい住宅を購入する人々にとって有利でした。なぜなら、彼らは実質金利がマイナスで、名目所得が急激に増加する状況のもと、住宅ローンの負担が相対的に減少していく恩恵を受けることができたからです。ただし、これは失業に陥らないという前提がある場合の話です。

一方で、最も不利な立場にあったのは、貯蓄が少なく賃貸住宅に住む人々や、職場での交渉力が乏しい人々でした。例えば、経済的に困窮している年金受給者、労働組合に加入していない労働者、あるいは何らかの給付に依存して生活している人々など、社会的に弱い立場にある人たちは、このような経済状況下で特に厳しい影響を受けやすいです

また、インフレ率の変動を正確に把握し、適切な策を講じることが、経済的な安定を守るために不可欠です。インフレという脅威を見過ごすことなく、経済的なリスクへの備えを常に心がけることが大切です。

通貨の価値の下落は、経済において重大な影響を及ぼす可能性があります。このような状況が放置されると、やがてハイパーインフレーションが発生し、国民の生活に深刻な影響を及ぼすことになります。著者は、通貨価値の急激な下落が国民の政府への信頼を低下させる可能性があることを指摘しています。

このような状況下では、経済の安定性が損なわれ、社会全体に混乱が生じる可能性が高まります。 一方で、現在の世界はインフレのリスクを忘れてしまっているという指摘もあります。

通貨の価値の安定を維持することは、健全な経済の基盤を築く上で非常に重要です。インフレやデフレといった通貨価値の変動は、経済全体に大きな影響を与えるため、政府や中央銀行は適切な政策を実施し、通貨の安定性を確保する努力を続ける必要があります。

国民も、通貨価値の変動が生活に与える影響を理解し、適切な対策を講じることが重要です。経済の持続可能な発展を目指すためには、通貨の価値を守り、インフレやデフレのリスクに対処することが欠かせません。

インフレ時代の資産防衛のための6つの格言

通貨に対する人々の信頼は、驚くほど目まぐるしく変化する。

インフレの再来と、それにともなう金融の不安定化のリスクが、高まっています。人々は徐々にインフレが進行し始めていることを実感しています。今後インフレが進む中で、次の資産防衛における6つの格言を覚えておくとよいと著者は指摘します。

格言1 1つの国または通貨圏に投資しないこと。
インフレ抑制能力に乏しい国や通貨をうっかり選び、通貨変動リスクを高めてしまう恐れがある。

格言2 多くの投資家のように、株式はインフレに強いと思い込まないこと。
1970年にはインフレ率は5.6%でしたが、その年に株式投資を行なっていたら、その後の8年間の利回りはマイナスだったと言います。

インフレに対する不信が芽生えると貴金属の需要が大幅に高まり、信用がが戻ると同じくらい大幅な需要の低下が起こりうる、ということ。

格言3 今後インフレが無期限に続くという歴史の転換点に直面している可能性に備え、一定量の金を保有しておくこと。
金価格は1970年から78年にかけて5倍以上になっています。一方1979年から87年までには30%しか上昇していなかったのです。

格言4 現金や預金の利率はマイナスなので、過度の警戒はジリ貧になるだけと、肝に銘じること。

格言5 実質利回りがマイナスの場合、資金を借り入れて不動産を購入し、次なるフーゴー・ディーター・シュティンネスになるチャンスがないか、じっくりと考えること。

格信6 番外編 アメリカ南北戦争後の証拠を逆用し、ユーロの未来に対して長期的な賭けをしてみるのもいいだろう。
ユーロ圏におけるインフレや政治的混乱が北ヨーロッパの債券市場に与える影響は大きいと言えます。特に、ユーロ圏内での不安定な状況が続く場合、投資家は安定性を求めて資金を移動させる傾向があります。その結果、北ヨーロッパの債券市場が「準通貨」としての地位を確立し、大化けする可能性があります。

著者が指摘するように、インフレ時代にはデフレ時代の投資スタイルを変える必要があります。本書には過去のインフレ時代の成功事例や失敗事例が紹介されています。

不動産や株式などへの投資は、インフレに対して強い耐性を持つと一般に考えられており、これらに積極的に投資することで、資産の価値を保護する手段となり得ます。

資産を分散投資する戦略は、リスクの分散化を促進し、インフレの影響を受けにくくする効果があります。しかし、投資のタイミングによっては、株式や金に対する投資が必ずしも期待通りの成果をもたらすとは限らないことに注意を払うべきです。

インフレ率の上昇に伴って収入を増加させるためには、投資戦略を見直し、収入源を多様化することが求められます。インフレの時代には経済環境が大きく変動しやすいため、市場の動向や経済情勢に常に注意を払い、柔軟に対応策を講じる必要があります。

インフレに適切に対応し、賢い資産管理を行うことで、インフレがもたらす変化に効果的に備えることができます。このようにして、インフレの時代においても、自身の資産を守り、可能な限りその価値を増加させることが目指せます。インフレへの適切な対応と資産運用の知恵を身につけることが、経済的な安定と成長への鍵となるでしょう。


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