「あたりまえ」のつくり方 ——ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書(嶋浩一郎)の書評

a sign that reads the public on it

「あたりまえ」のつくり方 ——ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書
嶋浩一郎
NewsPicksパブリッシング

ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書の(嶋浩一郎)要約

PRの真髄は社会との深い対話にあります。新しい「あたりまえ」を提案し、多様なステークホルダーとの合意を形成し、そしてそれを社会に定着させていく。この一連のプロセスこそが、PRの本質的な仕事なのです。それは単なるビジネス戦略を超えた、社会全体のコミュニケーションデザインと言えるでしょう。

新しい「あたりまえ」が新たなビジネスを生み出す!

今私たちは新しい「あたりまえ」をどの時代よりも必要としているのです。(嶋浩一郎)

博報堂ケトルファウンダーの嶋浩一郎氏は、PRの仕事は、新しい「あたりまえ」を作り出すことだと定義します。この新しい「あたりまえ」は、ビジネスにとって大きな機会をもたらします。新しい「あたりまえ」が新しい「ライフスタイル」を生み出し、そのライフスタイルに応じた新しいサービスやプロダクトへのニーズが生まれるためです。

このプロセスにおいて、メディアは新しい「あたりまえ」を普及させるエンジンとしての役割を果たします。 例えば、「朝活」という概念は、新しい「あたりまえ」の好例です。従来の「朝はいそがしい出勤前の時間」という認識から、「朝は余裕をもった学びの時間」という新しい価値観への移行を示しています。

実際、朝活という概念の普及により、様々なビジネスチャンスが生まれました。朝の英語塾や勉強会、外食での朝食需要が創造ざれました。さらに、スーパーなどの商業施設では、これまで未活用だった朝の時間帯を利用した新たなマネタイズの機会が創出されます。また、朝活に適した朝食向け健康食品や飲料の開発、機能性ウェアや小物の需要増加なども期待できます。

同様に、「ノンアル」(ノンアルコール飲料)や「ソバーキュリアス」(お酒に興味はあるが飲まない人々)という概念も、新しい「あたりまえ」を形成しつつあります。これらの概念は、従来の「社交の場では酒を飲むのが当然」という考え方から、「アルコールを飲まなくても楽しめる社交」という新しい価値観への移行を示しています。

この変化に伴い、高品質なノンアルコール飲料の開発と市場拡大が進んでいます。また、ソバーバーやノンアルコールパブの出現と普及、アルコールフリーのイベントやパーティーの企画サービスなど、新たなビジネス形態が生まれています。さらに、ノンアル向けのカクテルキットや専用グラスの販売、健康志向の飲食店やカフェの増加なども予想されます。

新しい「あたりまえ」は社会の変化であり、その社会を構成する市場の変化でもあり、マーケティングの新たなチャンスを生み出すのです。 新規市場を生み出すスタートアップの経営者や事業責任者は、自分たちが売りたい商品やサービスがもたらすビジョン、新しいライフスタイルを定着させるために、PRの技術を十分に使いこなしていくべきなのです。

新しい「あたりまえ」の創出は、社会の価値観やライフスタイルの変革をもたらし、それに伴って新たなビジネスチャンスを生み出します。企業は、これらの変化を敏感に察知し、新しいニーズに応える製品やサービスを開発することで、市場での競争優位性を獲得できます。同時に、新しい「あたりまえ」の普及を促進することで、自社のビジネスにとって有利な環境を作り出すことも可能です。その際、PRの技術が役に立つのです。

この動きは、単なるトレンドの変化ではなく、社会全体の価値観の進化を反映しています。したがって、企業はこれらの変化に対応するだけでなく、積極的に新しい「あたりまえ」の創造に関与することで、持続可能な成長と社会貢献の両立を図ることができるでしょう。新しい「あたりまえ」の創造は、ビジネスの発展と社会の進歩を同時に実現する可能性を秘めているのです。

PRの5つの原則と7つの補助線

ダイバーシティが進む世界の中で、ビジネスを進めるために、そして新しい「あたりまえ」をつくっていくためには、主義主張が異なる価値観を持つ人たちが、合意できるビジョンを提示しなくてはならないのです。

PRの専門家である嶋氏は、この定義こそがPRの本質的な存在意義だと主張しています。著者が提唱する5つの原則と7つの補助線は、多くのビジネスパーソンにとって有用なメソッドとなるでしょう。

PRの5つの原則
①自分でやらない
影響力のある第三者(メディアやインフルエンサー、学者など)の力を借りることが重要です。

②複数のステークホルダーを巻き込む
幅広い人々からの支持を得ることが成功の鍵です。

③対話を続ける
一方的な情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションが大切です。

④社会視点で考える
個人や企業の利益だけでなく、社会全体の利益を考慮します。

⑤ファクトベースで語る
感情や主観ではなく、事実に基づいた情報発信が信頼を生みます。

新しい「あたりまえ」を作る7つの方法(補助線)
①インサイト
多くの人たちは自らの欲望に気づいていないため、人々の隠れた欲望を見つけ出すことが求められます。PRパーソンは徹底的にインサイトに向き合うべきです。

②社会記号
草食男子、タイパなどその欲望に適切な名前をつけ、概念化します。社会記号は次の5つの効果をもたらします。
・実践者がスターになる
・フォロワーを産む
・社会がその行動を許容するようになる
・メディア報道量が増える
・市場が生まれる  

③市場視点ではなく、社会視点で語る
市場の外に出て、より広い社会の視点から物事を見ます。

④ナラティブを生む余白
受け手の創造性を刺激し、自らストーリーを紡ぎだせるようにします。

⑤ファクトの発見
あまり知られていない事実を共通言語として活用します。(名もなき家事、生涯52日間の経費精算)

⑥オーセンティシティ
適切な人物が適切な問いを投げかけることで信憑性を高めます。

⑦リスク予想
新しい概念は古い概念と摩擦を起こす

PRは世の中の第三者や環境を相手の意見を問わず「コントロール」するのではなく、新しい「あたりまえ」の普及のために対話を通じて第三者の力を引き出すように「マネージメント」する思考と技術です。

これらの原則と方法を適切に組み合わせることで、PRは社会に新しい価値観や行動様式を浸透させ、それを「あたりまえ」にしていく力を持ちます。PRは単なる宣伝や広報活動ではなく、社会変革のツールとしての可能性を秘めているのです。

ビジネスパーソンがこれらの原則と方法を理解し、実践することで、自社の製品やサービス、あるいは社会的な取り組みを効果的に推進できるようになります。PRの本質を理解し、戦略的に活用することで、企業活動と社会貢献の両立が可能になるのです。

PRの実践において極めて重要な概念として「エンパシー」が浮かび上がります。エンパシーとは、他者の置かれている状況や、そこから見えている世界、相手の価値観や文化を深く理解し、相手の立場になって考え、想像する能力です。これは感情的な共感とは異なり、冷静に相手のことを知り、ドライに自分とのギャップを理解することで磨かれていきます。

観察、傾聴、理解と確認のステップでエンパシーを発揮することで、PRに携わる人は、自分の中にある思いや考えと相手のそれとのギャップに直面することになります。これは時に痛みを伴う経験かもしれません。しかし、この観察眼と解釈によって、相手の置かれている立場やこれまでの言動から、何に困っていて、何がうれしいのか、どのようなことを目指しているのかを、より高い解像度で想像できるようになるのです。

このエンパシーの能力は、PRにおける合意形成と新しい「あたりまえ」の創造に不可欠です。なぜなら、多様なステークホルダーの真のニーズや価値観を理解し、それらを調和させていく上で、エンパシーは強力なツールとなるからです。

PRを実施する際には、社会との深い対話が欠かせません。新しい「あたりまえ」を提案し、多様なステークホルダーとの合意を形成し、そしてそれを社会に定着させていく。この一連のプロセスこそが、PRの本質的な仕事なのです。それは単なるビジネス戦略を超えた、社会全体のコミュニケーションデザインと言えます。

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