依存症を防ぐ停止規則とは何か?

他人と身体がぶつかると、女性の場合は特に男性の場合も少なからず商品を眺めるのをやめてしまうことが多い。そしてたいてい何も買わずに店を出て行く。つまり、客の身体がぶつかることが、店に多額の損失をもたらしていたのである。(アダム・オルター)


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停止規則と依存症の関係

アダム・オルター僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた書評を続けます。今日は停止規則と依存について考えてみたいと思います。雑然とした店内で、陳列棚が狭い間隔で並んでいると、客はお互い身体をひねりながらすれ違わなければなりません。マーケターのパコ・アンダーヒルはこの現象を「尻ぶつかり効果(butt-brush effect)」と呼びました。アンダーヒルは調査チームを店舗に派遣して、その理由を探りました。

客たちはぶつかった結果として、買い物をやめていることをまったく意識していませんでした。彼らは店を出たことは認めていますが、ほぼ例外なく、他の客の存在とは関係ないと答えています。彼らは、待ち合わせに遅れそうだとか、子どもを学校に迎えに行かなきゃならないとか、店を出た妥当な理由を持ち出したのです。

アンダーヒルが見つけたのは「停止規則」で、尻が当たることが客に買い物をやめさせる合図になっていました。停止規則は軽視されやすいのですが、それは止める理由を解明するよりも、始める理由を追究するほう重要だと人が捉えるからです。客が買うのをやめて他の店に行ってしまう理由を探るよりも、今その商品を買わせる方法を知りたいと考えます。

医者が患者に運動をさせたいなら、運動を止めてしまう要因を解明するよりも、まずは始めさせる方法を特定しようとします。「なぜやめるのか」ではなく「どうすれば始めるか」に人はフォーカスしたいのです。

人間の依存症や強迫行動を考えるにあたっても、本当は停止規則「どうすれば止めるのか、なぜ止められないのか」が大きな意味をもっているのだが、そのことは往々にして見逃されている。

人生を容易にする新しいテクノロジーは、停止規則を反故にする力があります。アップルウォッチやフィットビットのようなウェラブル端末は運動の履歴をトレースしてくれますが、その一方で、身体が示す疲労のサイン(停止規則)に気づく力を阻害します。運動依存症の専門家、キャサリン・シュレイバーとレスリー・シムは、ウェラブル端末が依存症状を悪化させると考えています。

テクノロジーは、人にものごとを数字で考えさせます。何歩歩いたか、レム睡眠は何時間とったか。そうした数字に着目するよう促します。ウェラブル端末が依存行動の引き金になるのです。ウェラブル端末に依存すると身体活動に対する感覚が鈍くなり、疲れているにも関わらず、運動を続けてしまうのです。休息が必要だけれど、あと2000歩を歩かなければならないと考え、運動をやめられなくなります。このようにテクノロジーは停止規則を保護する力があるので、注意が必要です。

適度な運動と節度ある食事を守る一番健康的なアプローチは、それを楽しむことだと著者は指摘します。サラダを味わうとか、ハンバーガーを食べて自宅でごろごろするよりも30分の散歩をするとか、そうした行動を自主的に好む習慣を育てることが重要なのです。

 

報酬の過剰追求が人を不幸にする!

現在ではスマートフォン、タブレット、リモートログイン、メールといった技術が、どこにいようと働く者をつかまえるので、退社が停止規則の役割を果たさない。

自宅にパソコンを持ち帰ることが過労死を加速しています。日本だけでなく、過労死は現代人の共通の課題になっています。過労死事件の共通点は、犠牲者が過剰に長い時間を労働に捧げてしまいます。彼らは成功したキャリアを築いており、収入も多いという共通点があります。お金ではない、他の要因が過労死を引き起こしているのです。

2013年にシカゴ大学ビジネススクールの教授クリストファー・シーが、同僚3人との共著論文で、仕事となると人間の停止規則が弱くなる理由を考察しています。彼らはチョコレートを労働賃金に見立てた実験を行いました。被験者となった大学生には、心地よいおだやかな音楽を聞くか、それとも、耳障りでやかましい音を聞くかの選択肢を与えました。

仕事を想定させるために、騒音を聞く被験者には、20分で1個のチョコレートが与えられました。被験者が獲得したチョコレートの数は平均10個でしたが、実際に、被験者たちは最終的にチョコレートを平均4個しか食べませんでした。もう銀行口座にお金がいっぱいなのに(チョコレートを充分にもらっているのに)、賃金を稼ぐ線路に乗ってしまったからには、そこから降りることができなかったのです。「もう充分に稼いだ」という停止規則を無視して、労働に過剰な時間を注ぎ、余暇を犠牲にしているのです。

人間は行動に対して喜びを感じなくなっても、同じ行動を続ける場合があるのだ。チョコレート実験の被験者になった学生たちも、いったん「仕事」のモードになったからには、それをすることのメリットが減少しても、やめられなくなっていた。

報酬の過剰追求という問題は、深刻な広がりを見せています。報酬の過剰追求は、生産性向上がもたらす現代病なのです。

マーケティング学教授ドラーゼン・プレレックとダンカン・シメスターが発表した有名な論文は、現金ではなくクレジットカードを使うと人は同じ商品の値段が2倍高くても払ってしまうことを明らかにしています。クレジットカードは、出費によるフィードバック(もっている紙幣が減るという反応)を見えなくするので、かわりに自分で収支をコントロールしなければなりません。買い物依存になりたくなければ、クレジットカードを自宅に置いておくようにしましょう。「出かけるときは忘れずに」という有名なコピーはアメックスの罠でしかないのです。

人間は「簡単すぎる」と「難しすぎる」の中間にある「ちょうどよい」領域に対し、抗いようもなく魅力を感じてしまう。チャレンジしがいのあるコンピューターゲーム、資産目標、キャリアの夢、ソーシャルメディアでの数値目標、運動や体重管理のための努力などは、まさにその絶妙な領域に依存させることとなりやすい。強迫観念的な目標設定を前にすると、停止規則は反故にされる。

人の脳の仕組みを理解しているマーケターがあなたを依存症にしようとしています。さまざまなデバイス、サービス、ゲーム、商品は、ユーザーが知識と能力を高めるにつれ難易度がエスカレートするよう、最初からデザインされています。

依存症にならないためには、自分を取り戻すことです。何かに依存しそうになったら、それらに距離を起き、他の重要なことを思い出すようにするのです。自分の中に深呼吸などの停止規則を作り、依存症に陥らないようにしましょう!

まとめ

現代人はゲーム、ソーシャルメディア、クレジットカードなどの誘惑に囲まれています。いいねの数、ゲームの得点、歩数など強迫観念的な目標設定を前にすると、停止規則は反故にされ、依存症に陥りやすくなります。深呼吸をするなど自分の中に停止規則を作ることで、依存症にならずにすみます。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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