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経営戦略4.0図鑑
著者・田中道昭
出版社:SB Creative
本書の要約
アリババはミッション経営を実現し、短期間で中国最大のEコマース企業に成長しました。同社のミッションは社会的問題をインフラで解決する、中小企業や消費者を支援するですが、手数料を無料にすることで、多くの顧客と企業を引き寄せました。その後、決済のアリペイを立ち上げることで、成功を加速させたのです。
アリババの本当の強みは何か?
田中道昭氏の経営戦略4.0図鑑の書評を続けます。今日は中国のアリババの歴史を振り返りながら、同社の強みを明らかにしたいと思います。アリババの2019年3月期の売り上げは、538億ドル(5兆9180億円)でした。Eコマースでの売り上げは462億ドルで、全体に占めるEコマースの売り上げは85.9%に達しています。
アマゾンの2019年12月期の売上高は2,805億ドルなのでアリババの約5倍です。そのうち、アマゾン直販のオンラインストアと、第三者が販売する「マーケットプレイス」を足した売上高は1,950億ドルで、やはりEコマースでもアリババより5倍近い売上であることがわかります。 この数字だけをみるとアマゾンの圧勝のようですが、「流通取引総額」でみるとアリババが巨大であることがわかります。
流通取引総額とは、ユーザーに購入される商品やサービスの販売総額を示す数字で、Eコマースというプラットフォーム上で発生しているエコシステムの規模を表しています。
アリババの中国国内でのこの流通取引総額は8530億ドルで、数字を発表していないアマゾンの流通取引総額は6792億ドルと推測されていますから、この分野では完全にアリババが上回っています。
アリババは当社アリババ・ドットコムの手数料を無料にすることで、登録企業を増やします。無料で企業と会員を集めたジャック・マーは赤字を垂れ流しますが、Eコマースでの支援を受けられる有料会員制度を導入します。2003年にはCtoCのタオバオをスタートしますが、これも無料にし、eBayを駆逐し、シェアを一気に拡大します。
アリペイがアリババを勝ち組に変えた!
アリババは銀行と協力して開発したオンライン上の決済サービス「アリペイ」を導入します。これは、タオバオで取引が行われる際、購入側の資金をいったんアリペイが預かり、取引が成立すれば、出品側にアリペイから代金が支払われるという仕組みです。このアリペイの導入によって、アリババは成長を加速します。
もし、購入した商品にトラブルがあった場合は、アリペイから購入側に商品代金が返金されます。偽物が多い中国ではこの仕組みが信頼性を担保しました。また、銀行に口座を持っている人の数は中国ではそれほど多くなく、クレジットカードを 持っている人も限られていたため、ネットショッピングの際に、簡単かつ安全に利用できるアリペイは爆発的に広がりました。
マー氏は、このアリペイの利用料も無料にしてしまいます。その結果、CtoCのEコマースでトップシェアを握っていたイーベイは、ユーザー数をどんどん減らしていき、2006年12月、ついにサイトの閉鎖に追い込まれます。一方、タオバオは順調に拡大し、2010年7月末には登録ユーザー数が2億人を超え、Eコマースとしては世界でもっともユーザー数の多いサービスとなりました。
タオバオの収益モデルは、アリババ・ドットコムと似ています。ユーザーの取引手数料や登録料は無料ですが、アクセス解析ソフトや受注管理ソフトといったマーケティング支援ツールを有料にしました。また、広告の掲載についても有料としました。そして、この広告費が収益の柱となったのです。つまり、タオバオは通常の収益源である取引手数料や出品者こ登録料などを無料にし、代わりにユーザーからの広告費によって収益化すると言う独自のモデルを構築したのです。
そして、2008年には、初のBtoCのEコマースとなる「Tモール」をスタートさせます。すでに、アリババは、タオバオの成功で中国最大のEコマース企業に成長していました。その段階でBtoCのEコマースを設立した背景には、中国国内の非正規品(ニセモノ)の流通という問題がありました。
タオバオは、出品者にとっては無料で利用できるため、非正規品が横行しました。そのため信頼度の高い出品者のみが出店できる「Tモール」が必要だったのです。 その後、この「Tモール」がアリババの救世主となり、本物を安心して購入できる「Tモール」は出品者と購入者の両方から支持されました。手数料も有料になり、アリババの収益力は一気に改善しました。
アリババのミッションは「社会的問題をインフラで解決する」、「中小企業や消費者を支援する」ですが、そのためアリババのサービスは直販型ではく、マーケットプレイス型になっています。そして、 2017年からは零細小売店のデジタル化という壮大な取り組みを行なっています。 具体的には、零細小売店に対して、Eコマースを中心としたネットトインフラや物流システム、店舗が存在している地域の消費者動向データなどを提供します。
零細小売店はどんどん淘汰されていく中で、ジャック・マークはここを救うために動きました。「天猫小店」というサービスをスタートし、家族経営のような零細小売店をデジタル化したのです。中国には600万を超える零細小売店があり、そうした店舗の店主の80%は、45歳以上といわれています。アリババは、中国で廃業する店舗が続出する前に零細小売店をデジタル化し、実質的にフランチャイズチエーン化することで存続させようとしています。
同時に、天猫小店の拡大は、アリババがこれまで手薄だった地方の小都市の消費データの入手にもつながります。これまで、他の企業もなかなか手が届かなかったデータが蓄積されることで、中国全土を経済圏にすることが可能になります。タオバオやTモールといったプラットフォームは、いずれも参加企業や小売店を成長させるエコシステムを形成しているのです。
アリババのNEXT!次の一手は?
アリババのOMOを2016年にスタートします。第1号店が上海市にオープンした「フーマー・フレッシュ(盒馬鮮生)」です。現在では、北京市や深セン市ほか中国各地に150店舗を展開しています。フーマー・フレッシュは、生鮮食品を主体としたリアル店舗のスーパーで、店頭で実際に商品を購入できます。
加えて、スマートフォンから商品を注文して宅配をしてもらうことも可能です。店舗から3km圏内であれば、30分以内に無料で届けてもらえます。店頭で実際に食品をみて(あるいは触って)確かめたものを宅配してもらってもよいですし、店舗に出向かなくても自宅から注文もできます。
フーマー・フレッシュはネット上のオンラインとリアルのオフラインを融合させたいわゆるOMOの店舗となっています。フーマー・フレッシュの店内では、あらゆる商品にQRコードが貼られています。水槽の中を泳いでいる生きた魚にまで付いているほどです。スマートフォンでQRコードを読み取ると、値段だけでなく、産地や流通経路などもわかります。アリペイで購入すると、スマートフォンのアプリを通じて来店履歴や購入履歴が、アリババに蓄積されていくという仕組みができあがっているのです。
OMOにおける”融合度”という点では、アリババの方が先をいっています。2019年11月には、アリババはさらなる新しい実験として、「フーマーリー(盒馬里)」という総合ショッピングモールを深セン市にオープンしました。ユーザーは、ショッピングモール内に入店する約60店舗の商品を、フーマーリーのアプリで注文することが可能です。
マー氏は、オンラインとオフラインが融合したOMOについて、「ニューリテール」と表現しています。今後10年殻20年程度でオンラインのビジネスは消え、その代わりに台頭するのがニューリテールであるとマー氏は述べています。”アリババ経済圏”においては、あらゆる商品やサービスでニューリテールが実現することになるのは間違いないと著者の田中氏は指摘します。
マー氏は製造に関しても「ニューマニュファクチャリング」という新たな構想を打ち出しています。この構想について、マー氏は、「たとえば5分間で同じ種類の2,000着の衣類を製造するよりも、5分間で2,000種類の衣類を製造することがより重要視される時代がやってくる」と説明しています。そして、大量生産によるスケールメリットを活かしてコストを削減してきた伝統的な製造業は、今後15~20年で苦境に立たされ、消費者の個性に対応した新しい製造業として「ニューマニュファクチャリング」が誕生するという見通しを述べています。
1人ひとりのユーザーのニーズに応じて、1つからでも製品をつくるということは、あらゆる既製品がオーダーメイドの製品になるわけで、ニューマニュファクチャリングとは、もはや製造業というよりサービス業に近いといえます。アリババが持つ膨大な消費者のビッグデータと、そのデータを解析するAl技術をもってすれば、個別のニーズを高い精度で把握し、”1点モノ”を製造して提供することは夢ではないでしょう。顧客が欲しいものを1点からでも提供することができれば、買い物体験が代わり、多くの顧客から支持されるはずです。
このようにアリババの成長には、顧客を喜ばす視点があるのです。ミッションを実現するために、最新のテクノロジーを駆使しながら、顧客と中小企業の両方を大切にするアリババの経営者に敬意を評したいと思います。
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