アマゾンのリテール4.0戦略


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コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則
著者:フィリップ・コトラー、ジュゼッペ・スティリアーノ
出版社:朝日新聞出版

本書の要約

テクノロジーの進化によってオンラインでできることが、リアル店舗でも可能になることで消費者にとって、リアルとデジタルの世界の差がなくなってきています。アマゾンはリテール4.0というパラダイムシフトの中で、顧客経験を高めるために、変化を続け、小売業の勝ち組を目指しています。

リテール4.0時代のアマゾンの取り組み

イノベーションが業界の論理を変え、また消費者の要求からイノベーションが生まれた。変化の根底には、より消費者を中心に据えようとする狙いがある。(アリアンジェラ・マルセリア)

フィリップ・コトラーは、消費者とリテールの接点が変化し、大きなパラダイムシフト(リテール4.0)が起きていると指摘します。オンラインとリアル店舗の垣根がなくなる中で、消費者のカスタマー・ジャーニーは変化しています。企業は消費者の欲求や行動にフィットした、新たなリテール戦略を生み出す必要があります。

消費者は買い物の際のペインを減らしたいという要求をし、そこからイノベーションが生まれています。リテールの変化の根底には、より消費者を中心に据えようとする狙いがあります。消費者の買ったものを一刻でも早く自宅で受け取りたいというニーズから、アマゾン・プライムナウが生まれました。買い物時間を減らしたい、決済のストレスから解放されたいという要望から、アマゾン・ゴーが生まれたのです。

テクノロジーの進化によってオンラインでできることが、リアル店舗でも可能になることで消費者にとって、リアルとデジタルの世界の差がなくなってきています。リアル店舗の小売業は、今後も基本的な役割を担い続けますが、その役割はデジタル・チャネルと相互補完的・相乗作用的になっていきます。

アマゾンのイタリア・スペインのカントリーマネージャーのアリアンジェラ・マルセリアは、消費者がその時々に自由にチャネルを選択するようになると述べています。

人々は今後、一層頻繁に、使えるチャネルはすべて使うだろうし、一瞬の必要性、つまりいつ、どこで、どのように必要としているのか、その時々の瞬間的な必要性に、最適な購買方法を完全に自由に選べることを望むだろう。

顧客に対して、アマゾン・イタリアでは、コトラーのリテール4.0における10の原則を意識しています。
1. 不可視であれ
2. シームレスであれ
3. 目的地であれ
4. 誠実であれ
5. パーソナルであれ
6. キュレーターであれ
7. 人間的であれ
8. バウンドレスであれ
9. エクスポネンシャルであれ
10. 勇敢であれ

アマゾンは顧客との誠実な関係を作るために、より人間的なリレーションシップを築こうとしています。他社のメンバーズカードの値引きやプレゼントなどの提供だけでなく、新たな価値を生み出すことで、顧客を「ファン」にしています。アマゾンプライムでは、付帯サービスのミックスによって顧客経験の水準を継続的に高めています。最短時間での配送や通常配送の無料化などの買い物体験だけでなく、音声・映像コンテンツのストリーミングからクラウド・ストレージまで様々なサービスを組み合わせることで、顧客経験を日々高めているのです。

アマゾンはなぜエクスポネンシャルを押し進めるのか?

有益だと思われるもう一つの考察は「キュレーターであれ」の法則だ。当社の場合は、世界最大級のeコマースなので、上層部でのキュレーションは行っていない。むしろ、可能な限り幅広い製品ラインナップの提供を目指している。とはいえ、類似した製品が大量にあると人々が圧倒かたされてしまうことがある。そこで、選択肢過多のパラドックスを回避するため、有効なアドバイスの提供とカスタマー・ジャーニーの簡素化を目的に、できる限り効果的なデータ活用に努めている。

小売業者はキュレーターとして、消費者と真に心情的なつながりを創り出せるよう、一貫性があり、消費者が関与しやすく、しかも視覚的に好まれる環境に、製品が提示されるよう配慮する必要があります。アマゾンでは、商品数の多さに消費者が圧倒されないように、カスタマー・ジャーニーの簡素化を行っています。膨大なデータを活用したAIが、消費者に対して、最適なキュレーションを行っているのです。

ジェフ・ベゾスは、消費者の一番いいところは、永久に満足しないという事実にあると考えています。今日は”ワオ!”だった最高な経験も、1年後には当たり前になります。変化しなければ生き残れないと考えるアマゾンにとって、「勇敢であれ」は大事なルールになっているとアリアンジェラ・マルセリアは述べています。

すべて順調で、多くの人があなたのブランドについて好意的に話しているときも、そしてあなたが最高のイノベーターであると認識されているときも、立ち止まらず、明日のソリューションの企画に努めなくてはならない。

アマゾンのエコシステムに目を向けると、多様なサービスと製品があり、互いにかけ離れているように見えるものもありますが、実際には、それぞれが戦略的なパズルのピースになっています。消費者に支持される企業になるためには、失敗を恐れず、質の高い提案をし続けなければなりません。

今後は、あらゆる点で消費者を中心とし、継続的に自らを変えていけるブランドだけが、市場におけるポジションを維持できます。リアルとデジタルが融合する中で、アマゾンがデジタル・ネイティブだからといって、必ずしも高収益でいられるとアマゾンの経営陣は考えてはいないのです。

アマゾンはデジタルでの変革が強みだと思われていますが、同社の真の資産と競争上の強みは、変化への取り組み方なのです。技術的能力はあっと言う問に旧弊化してしまいます。変化しなければ、アマゾンですら数年後には負け組になっているのです。企業にとっての本当の課題はメンタリティで、変化を続ける覚悟のあるなしが、勝者を決めてしまいます。

アマゾンが成長しているのは、消費者ニーズの把握に基礎を置く企業哲学があるからです。アマゾンは変化のために、外部との協力も惜しみません。イノベーターや インベンターと協力を続けていくことで、「エクスポネンシャルであれ」の法則を実践していきます。サードパーティー(第三者機関)と協力することで、自社のオファリングの限界を超えるという考え方に、全ての小売業者が従うべきだとアリアンジェラ・マルセリアは言います。エクスポネンシャルでなければ、大きなチャンスを逃し、敗者になる可能性があるのです。アマゾンといえども、外部との連携がなければ、生き残れないと考えているのです。

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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