コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則の書評

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コトラーのリテール4.0 デジタルトランスフォーメーション時代の10の法則
著者:フィリップ・コトラー、ジュゼッペ・スティリアーノ
出版社:朝日新聞出版

本書の要約

「デジタルトランスフォーメーションがリテールのルールを激変させる」とフィリップ・コトラーは言います。小売業はオンラインと店舗をシームレスに融合させ、顧客体験を高めなければなりません。小売業はコトラーが提唱するリテール4.0の10の法則を採用し、顧客との関係を今こそ強化すべきです。

リテールに影響を与えるパラダイムシフト「リテール4.0」とは何か?

デジタルの”タッチポイント”(ブランドと顧客との接点)の増殖に伴い、カスタマー・ジャーニーは決定的にその形を変えた。連続する段階ではなく、多くの瞬間が点在する網目のようになってきている。消費者のプロフィールはもちろん、財またはサービスの種類ごとに異なるが、さまざまな瞬間が概ね決定的に重要なものとなっている。リテール機能のモデルを改めて読み解くには、デジタル革命によって生じた変化を考慮しなくてはならない。(フィリップ・コトラー)

テクノロジーが進化する中で、マーケティングも劇的に変化しています。アマゾンやアリババのオンラインショップが巨大になっていますが、それでもリアル店舗のシェアの方が今なお高く、大きな役割を担っています。著者のフィリップ・コトラーは、より細分化した購買プロセスのなかでリアル店舗が果たす役割を根本的に再定義し、必要ならば店舗の存在意義に関しても再検討すべきであると述べています。

スマートフォンの普及で、世界人口のほぼ半数がオンラインで、誰もがいつでもコンタクトできる状態にあります。そして、人々は他人とも企業ともリアルタイムで交流できます。コンタクト性とリアルタイム性という2つの要素を活用するだけで、リテールのゲームはまだまだ書き換え可能です。小売業界では日々、デジタルトランスフォーメーションが進行していますから、この流れに乗り遅れないようにしましょう。

現在は顧客との対話がリアルタイムかつ多面的に起こります。他のユーザー、競合、メディア、各種公的機関が、事実上、発言権をもつオーディエンスになり、マーケットは広がり、ソーシャルになっています。情報は驚異的なスピードで駆け巡り、少し前まではマーケティング・キャンペーンの”受け手”と定義されていた人々が、現在はキャンペーンの共同企画者になっています。

SNSの普及で、購入者が簡単に自分の意見を表明できるようになり、製品・サービス自体が共同でつくられ、共同で具現化され、共同でデザインされているケースが増えています。このため、ブランドや製品についてコメントを書き推奨してくれる人の行為、すなわちアドボカシーを促進しアドボカシーに報いる、といったことが不可欠になったのです。

マーケターは、デジタルトランスフォーメーションの影響を十分に理解し、それを基に自社にとっての影響と機会を特定して、デジタルトランスフォーメーションの力学を掌握しなければなりません。企業は組織面と事業面の両方でパフォーマンスを向上させることを目的に、事業プロセス、ツール、ビジネスモデル、デジタルとアナログを融合する革新的な製品・サービスを作り上げ、需要と市場の変化に適応することになるのです。これからは人間対人間(H2H)  という広い概念の元、マーケティングをおこなっていくべきです。

企業はカスタマー・ジャーニーにおける各タッチポイントの機能を見直さざるを得なくなっている。この力学のなかで、リテールには本質的な重要性がある。リテールは、あらゆる企業努力が具現化する段階であり、おそらくは顧客/消費者のニーズとウォンツが満たされる段階である。重要なのは、売買の発生を確認できるのが、もはやリアル店舗内だけではないということだ。それどころか、とくにいくつかの製品・サービスのカテゴリーでは、デジタル・プラットフォームでの売買の発生頻度が高まり、リアル店舗は別の機能を負うようになっている。場合によってはショールームのように、経験を提供したり、製品を展示・プロモーションしたり、ショーのように見せたりする場所となっている。

著者はリテールに影響を与えるパラダイムシフトを「リテール4.0」と呼び、以下の10の法則を導き出しました。

リテール4.0における10の法則
1. 不可視であれ
2. シームレスであれ
3. 目的地であれ
4. 誠実であれ
5. パーソナルであれ
6. キュレーターであれ
7. 人間的であれ
8. バウンドレスであれ
9. エクスポネンシャルであれ
10. 勇敢であれ

リテール4.0における10の法則(1から5)

1.不可視であれ

とくに若い世代の消費者が習慣的に使用する技術を認識し、新しい社会的動向を分析することで、購買経験をより良いものにする新たなソリューションを創造できることを示している。これらのいずれの領域でも、技術はあたかも当然のことのように、つまり不可視に経験される。小売業者は、こうした技術によって、顧客との新しいタイプのインタラクションをつくり出し、店舗内における購買経験のフェーズを再定義できるのである。

決済やテクノロジーが進化し、スマホによるモバイルペイペントを採用することで、レジが占める物理的スペースを縮小できます、実際に、一世紀以上にわたって変わらなかった店舗モデルを見直すことも可能になりました。目には見えませんが、少し前まで「魔法」のように思われていたソリューションを作動させることで、新たな顧客体験を生み出せます。

不可視の技術の適用は、顧客の購買行為に良い影響を与えるだけでなく、店舗内で働く人にも恩恵をもたらします。とりわけ機械的な作業や反復的な作業などの販売プロセスをデジタル化すれば、販売員はそれに伴う業務から解放され、より付加価値の高い業務に取り組めます。実際、店舗ではスタッフが買い物客に説明をするなどの接客に従事し、心のこもったリレーションシップを創造できるようになります。

「不可視であれ」を実現した最高のケーススタディは、アマゾン・ゴーで、センサー、カメラ、スマホ技術を活用することで、消費者のレジ待ちや決済というペインを無くしてしまったのです。アマゾンは購買行為と購買経験の簡素化をアマゾン・ゴーによって行い、顧客満足度を高めることに成功したのです。

2.シームレスであれ

常に手にしているモバイル機器によって、デジタルとフィジカルが融合し、人々は2つの世界が補完し合うハイブリッドの現実を体験できる。

小売業者は自分が向き合う相手をショッパー・オブ・ワン、すなわち消費者・顧客・ユーザーの役割を1つにあわせもつ人とみなし、シームレスな(つまりフィジカルとデジタルのタッチポイントの間に断絶のない)経験を提供するよう努めなければなりません。

シームレス・コネクションの創造は、オンラインの世界とオフラインの世界の融合を最大限に利用し、顧客を満足させることにつながります。デジタルとフィジカルのすべてのチャネルは、1つのエコシステムに融合すべきです

あらゆるチャネル間でシームレスな経験を人々に提供するために、リテール戦略を見直すとともに、コンテンツと利用可能性の観点から各タッチポイントの特性を尊重しつつ、部分の単なる総和を上回る価値を生み出す必要があります。オンラインとオフラインのブランドをシームレスに融合するためには、顧客のタッチポイントを明らかにし、顧客経験を徹底的に高める施策を打ち続けましょう。

3.目的地であれ

購買選択が”製品の技術的優位”だけに基づいて行われていた時代は過ぎ去った。そのため、販売者には、オファリングと共に、販売者自身を表現し、人々の精神と心をつかむストーリーを語ることが要求されている。実際に、製品に結び付いた経験は、今日、製品そのものよりも重要になっている。オーダーメイドのブティックに入って体験する文脈を考えてみるといい。顧客にとって、生地の仕上がりや服の仕立ての巧みさなどは、当然触れることのできる価値である。だが、競合他社のオファリングとの差別化は十分ではないかもしれない。決め手となる行為は、顧客に対し特別な配慮を示し、価値を伝えられるような独自の環境のなかで、製品やサービスを提案することだ。要するに、今や、何を購入し、何を消費するかを人々に告げるのは経験なのである。

85パーセント以上の消費者が、思い出に残るような格別の経験に対し、製品のべース価格の4分の1まで多く支払ってもいいと答えています。このように販売拠点は”経験拠点”となり、消費者の認識は単に買い物をする場所から、目的地に変化しているのです。

店舗は、買い物客にとって、行くことが負担にならず、喜んでそこに滞在したいと思えるような場所、期待に応える経験ができる入れ物でなくてはなりません。企業は自社の店舗を消費者の「目的地」にすることを徹底的に考えるべきです。

「目的地であれ」とは、リアル店舗を消費者とブランドの創造的な出会いの空間とする新しい概念を採用することです。世界観に陶酔できるような魅力的な来店目的とブランドの価値を生み出すためには、単にブランドを提示・展示するだけではなく、顧客に主体的に体験させる必要があります。

成果は、販売量の増加としてではなく、顧客に語られるストーリーとして表れます。リアル店舗とは、知識を深め、魅惑と出会うスペースなのです。リテールテイメント=店舗での楽しい体験を顧客に与えることで、小売業者は、消費者の欲求と知性に刺激を与えることができるのです。

4.誠実であれ

小売業者が新たな競争領域として顧客経験に投資すればするほど、当該企業と肯定的なコンタクトをした人々は、同社とのリレーションシップの維持・強化を望むだろう。 ブランドに対する強い親近感を構築している小売業者は、ターゲットとなる人々の強いロイヤルティを期待できる。

小売業者は、すべてのステークホルダーに敬意をもって行動しなくてはなりません。顧客に敬意を払うことで、人々は、当該企業を自分自身の価値と必要性に合致していると判断し、応援してくれるようになります。「誠実であれ」とは、ビジネス上の接点をもつ人に対しては、それが顧客・協力者・納入業者であろうと、誰とでも相互の信頼関係を結び、育て、維持していくということなのです

 5.パーソナルであれ

ミレニアル世代に属する人々は、今日、自分がユニークだと感じさせてくれる製品やサービスを期待している。つまり、自分が個人として認識されること、自分の必要性や趣味に合つように設計されたオファーを求めているのである。これらが、人々と企業の問に長期的なリレーションシップを築くための基本的な前提条件となる。

商品やサービスの選択肢が無限に拡大する中で、人々はもはや、自分の期待にそぐわない、自分の購買・消費の習慣に合わないブランドは、考慮に入れようとさえしません。この視点に立てば、オファリングや品ぞろえの豊富さやスピードは、消費者の要求を満足させるのに十分ではないことがわかります。

小売業者は、One-to-Manyのマスマーケットのアプローチで、一定の規格化が特徴から、可能な限りパーソナライズされたソリューションの提案、つまりOne-to-Oneへと戦略の変更を強いられています。購買行動をパソナライズし、人間的な要因で購買経験を豊かにすることで、顧客との関係を強化できます。

リテール4.0における10の法則(6から10)

6.キュレーターであれ

キュレーターになることで、物理的スペースの縮小・効率の悪さ・競合との差別化に関わる問題を一掃し、自社の優位を実現できる可能性がある。現状の市場構造から課せられているリスク要因を、機会に変えられるのである。多くの都市部で、こうした現象が起きている。何かに特化したリアル店舗が輝くようになった。品ぞろえは相対的に少ないが、製品におけるパーソナライゼーションに応じたり、店舗に在庫していない製品を短時間で納品したりするなど、最先端のサービスと組み合わせている。「キュレーターであれ」の法則に則ったこのようなスタイルの店舗は、増え続けていくだろう。それに伴い、今後数年間に、世界中の大都市で多くの商業地域の様相が変わることも予想できる。

消費者は選択肢が多すぎると選べないジレンマに陥ります。人々は、過剰な代替案に混乱し、自分には賢明な選択ができないと感じます。彼らは最近では、分野限定のオファリングを有する小さな店舗、あるいは店主が1人1人の購買経験を手助けしてくれる店舗などに回帰しています。

小売業者はキュレーターとして、消費者と真に心情的なつながりを創り出せるよう、一貫性があり、消費者が関与しやすく、しかも視覚的に好まれる環境に、製品が提示されるよう配慮する必要があります。

「キュレーターであれ」の法則に則った店舗は、今後も増え続けていきます。ユニークなストーリーを語り、商品をキュレーションする人たちが、新たな価値を生み出します。明確な差別化のためのオファリングはフィジカルであれ、デジタルであれ、競合との競争圧力に対抗するための効果的な対応策となります。

差別化したオファリングのためには、WHO、WHAT、HOWというマーケティングの基本に立ち戻る必要があります。ニッチなオファリング・システムのキュレーターがいることが、デジタル時代の小売業には求められます。そのためには、顧客体験において質の高いスタンダードを設定し、特定の興味にあった有意義な消費体験を継続して提供する必要があります。自社の製品をストーリーにして、体験として提案することで、消費者との結びつきが強くなるのです。

7.人間的であれ

デジタル・プレーヤーは、自社が張り巡らせたタッチポイントにリアル店舗を加える傾向にある。当然のことながら、その理由の1つが、ブランドと人々とのリレーションシップを強化する、人間による交流の重要性の認識である。

小売業者はまずサービスに投資しなければなりませんが、このとき、店舗における経験の企画人間中心デザイン(HCD)の法則を反映させる必要があります。従業員はソフト・スキルを向上させ、顧客に感動を与えなければならないのです。

「人間的であれ」とは、あらゆるバリュー・チエーンにおいて、再び人間を中心にするようにという勧告なのです。デジタル化が進むにつれ、人間どうしのつながりに対する関心も増加します。当たり前ですが、人との接点が基本となる小売業において、人間力が試されているのです。

「人間的であれ」には、3つのSのアプローチが必要です。
■サービス(Service)
■社会性(Sociality)
■持続可能性(Sustainability)
テクノロジーとデジタルの進化は改革な強力なツールですが、その運用は人間が決定することを忘れてはなりません。消費者は「人」であり、3つのSの視点で企業を評価していることを忘れないようにしましょう。

8.バウンドレスであれ

「バウンドレスであれ」とは、リテーリングは壁で区切られ1カ所に収まっているリアル店舗であるという意識を決定的に超越せよ、という意味だ。

買い物にスマホなどのテクノロジーを活用することで、サブスクリプション・モデルや商品の受け取り方が変わっています。境界がなくなる中で、小売業は様々なモデルを導入し、リアルとデジタルの壁を超えるようにすべきです。
■クリック・アンド・サブスクライブ:定期購入またはオンデマンドの形式で、一定の財の定期的な自動調達を設定する。
■クリック・アンド・コレクト:オンライン購入し、製品は(当該企業または第三者の)リアル店舗で受領する。
■クリック・アンド・コミュート:オンライン購入し、製品は自分の生活の通り道にある販売店(たとえば地下鉄の駅や高速道路のサービスエリア)で受領する。  
■クリック・アンド・トライ:一連の製品をオンライン注文し、売買を完結させる前に、店舗または自宅で試用する。   
■クリック・アンド・リザーブ:特定の店舗内の在庫をリアルタイムで確認しながら、財とサービスをオンライン予約する。

9. エクスポネンシャルであれ

今日の消費者は、自分の興味・ライフスタイル・必要性を、テクノロジーとサービスと製品のミックスで満足させてくれるブランドや小売業者を評価する。こうした新しい期待に効果的に応えるべく、多くのプレーヤーが自社の価値と有用性を高める機会をとらえようとしており、より幅広く豊かなサービスを提供するため、他の企業と協力している。実際、戦略的パートナーシップによって、顧客経験の向上が可能になる。「エクスポネンシャルであれ」とは、まさに、サードパーティー(第三者機関)との協力によって、自社のオファリングの限界を超えよという意味である。

外部のパートナーと協力することで、小売業者は提案を充実できます。小売業者は、消費者の細かな要求の満足に貢献できる適切なパートナーを見つけなくてはなりません。サードパーティは商品ばかりでなく、デジタルトランスメーションを活用した宅配業なども考慮すべきです。小売業がコロナ禍を生き残るためには、宅配のパートナーシップ戦略も重要になります。

グーグルが企業に提供するグーグル・マイビジネスによって、中小店舗もプロフィールや地図を顧客に見せられるようになります。グーグルをサードパティーに加えることで、彼らの技術を自社に取り込め、貴重な顧客情報を収集できるようになります。また、大企業はスタートアップやベンチャーと組むことで、イノベーションを起こせるようになります。オープンイノベーションの採用も企業のエクスポネンシャルに必要なのです。

10. 勇敢であれ

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスによれば、オファリングを差別化してビジネスを拡大するには、主に2つの手法がある。1つは、企業ができる最善策のリストをつくり、それを確固たる改革の出発点として活用すること。もう1つは、逆から傭かん職することである。すなわち、二ーズにさかのぼって対応するため、カスタマー・ジャー二ーを分析し、満足させられていない、あるいは部分的にしか満足させられていない二ーズを見きわめることである。結果としてビジネスチャンスをつかむためには、ニーズを満たすのに必要な能力を伸長または獲得しなくてはならない。この2番目の道は、明らかに大きなリスクを伴う。だが、適正な発想に従えば、効果的に差別化を図り、抑制されたコストで異分野を探索することが可能になる。

スタートアップが採用するリーン・スタートアップ・プロセスを使い、実験を重視し、消費者のニーズとフィードバックをもらうことで、小売業は成長を目指すべきです。

「勇敢であれ」という法則は、伝統的な小売業者が今こそ採用すべき法則です。現在の競争環境において、大量生産やマスを使った大規模キャンペーンは、企業の反応を遅くする重石にさえなりかねなません。伝統的な小売業者にとって「勇敢であれ」とは、価値提案の根拠を改めて議題として取り上げ、現状に向き合えということです。その際、リーン・スタートアップ・プロセスすなわちオープン・イノベーションを活用することで、ディスラプター(破壊者)との戦いの準備が整います。

人と企業はリスクを敵視する傾向にありますが、何もしなければ、時代の大きな変化に飲み込まれるだけです。今こそか企画する勇気を経営者は持つべきです。

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