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NINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘
著者:マーカス・バッキンガム&アシュリー・グッドール
出版社:サンマーク出版
本書の要約
組織には行動の連携が不足しているから、目標が必要だと考えられていますが、それはまちがいだと著者は指摘します。会社に足りないのはむしろ「意味」であり、仕事の目的に関する明確で詳細な「理解」であり、事を行う方法を決めるうえで尊重すべき「価値観」なのです。
最高の企業は「目標」を連鎖させるという嘘
計画システムは情報を隔離し、目標設定システムはやるべきことを個々のチームやチームメンバーにまで落とし込む。代わりに必要なのは、情報システムによって情報を解き放ち、意味の表明と儀式、物語を通じて、意味を組織の隅々にまで落とし込むことなのだ。世界で何が起こっているのか、どの山を目指しているのかを部下に伝え、貢献するための具体的な方法を考え出すのは、彼らに任せよう。目標を連鎖させるどんな計画システムが生み出すよりも優れた、より信頼できる決定を下してくれるはずだ。(マーカス・バッキンガム&アシュリー・グッドール)
マーカス・バッキンガム&アシュリー・グッドールのNINE LIES ABOUT WORK 仕事に関する9つの嘘の書評を続けます。「最も影響力のある経営思想家」に選出された世界的研究者であるマーカス・バッキンガムとシスコのリーダーシップ・アンド・チームインテリジェンス部門担当シニア・バイスプレジデントのアシュリー・グッドールの2人がデータ分析と聞き取り調査を徹底的に行い、仕事に関する「9つの嘘」を明らかにしました。
■仕事に関する9つの嘘
1.「どの会社」で働くかが大事
2.「最高の計画」があれば勝てる
3.最高の企業は「目標」を連鎖させる
4.最高の人材は「オールラウンダー」である
5.人は「フィードバック」を求めている
6.人は「他人」を正しく評価できる
7.人にはポテンシャルがある
8.ワークライフバランスが何よりも大事だ
9.「リーダーシップ」というものがある
今日はこの中から、最高の企業は「目標」を連鎖させるという嘘について考えてみたいと思います。企業は毎年膨大な時間をかけ、目標を設定し、結果を残そうとします。多くの企業は以下の3つの理由から目標を設定していますが、それは、予実管理と社員の評価に役立つからです。
1、目標を通して全員の仕事を連携させることによって、業績を促進し、調整できるから。
2、目標の「達成率」を追跡することで、年間を通じてチームや会社の業績の進捗状況に関する貴重なデータが得られるから。
3、目標達成度をもとに、年度末に従業員の業績を評価できるから
しかし、実は多くの場合、「目標が生産性を上げた」エビデンスはないと著者は指摘します。 それどころか正反対の影響をおよぼし、業績がかえって下がってしまうことが多々あるのです。目標が「天井」となり、社員が力を抜いてしまうのがその理由です。
リーダーがノルマを設定するのは、営業担当者の業績を促進するためですが、最高の営業担当者は、年度が終わる何か月も前にノルマを達成し、その時点から翌年への売り上げのための活動にシフトします。一方、業績不振の担当者者にとっては、ノルマがプレッシャーになり、恐怖を感じます。最悪の場合、恐怖に駆られた社員は、どう頑張っても目標を達成できないと考え、不適切または違法な方法を取る可能性もあります。
多くの企業が従業員に年度目標を書かせてソフトウェアで進捗を追跡しています。テレサ・アマビールとスティーブン・クレイマーよれば、人間は進捗を測るのが大好きで、1つ目標を達成するたびに喜びを感じます。また過去数年間で業績の追跡管理はますます盛んに行われるようになっていますが、業績の追跡は本来の目的を果たすことができずにいます。
その理由は単純で、目標へと至る道が直線的ではなく、いくつものハードルがあるからです。大きな目標の下には、小さなタスクがいくつも存在しています。この中から重要でない下位目標をいくら達成しても、重要なタスクを達成しなければ、ゴールには到達できません。目標設定に過ちがあったり、重要なタスクを避けていれば、進捗管理を行っても、意味はないのです。
従業員の評価という面でも、問題が残ります。評価を正確にしようとすれば、各従業員の目標の難易度を平準化し、客観的に判断しなければなりません。たとえば、2人の従業員、ビクトリアとアルバートを評価を行います。2人は5つの目標の達成を目指し、年度末時点でビクトリアが3つ、アルバートが5つの目標を達成しています。しかし、ビクトリアの方が遥かに難易度が高い業務をしている場合、メンバーを満足させ、客観的に評価を下すことがリーダーの新たな悩みになります。メンバーが多ければ、その分、リーダーの仕事が増え、生産性を下げてしまいます。
重要な仕事の意味と目的、使命と貢献、手法を伝えよう!
現実世界での目標設定は、仕事を生み出すシステムというよりは、むしろすでに決まっている仕事を記録・管理するためのシステムに近い。それに、いったん仕事の目標を設定した人は、それを見返すことはまずない。もしも目標が仕事の指針になるのなら、見返したいと思うはずなのに。
年度末が近づくと、チームリーダーとメンバーは、目標記入用紙の前で、お互いを騙し合う作業に集中します。評価を高める宣伝文句を考え、リーダーは部下が納得する評価を考えるという作業に時間を費やします。しかし、この時間は、メンバー全員のパフォーマンスを下げています。
理論上の世界には目標があります。仕事は前途にあり、目標は背後にあるバックミラーのようなものだと著者は言います。経営者が正しい目標を作らないことで、メンバーの仕事をつまらなくしているのです。
■仕事は具体的で詳細で、目標は抽象的なことが多い。
■仕事は変わるのが早く、目標は変わるのが遅いか、まったく変わらない。
■仕事は自己効力感を与え、目標は機械の歯車になったように感じさせる。
■仕事は信頼されていると感じさせ、目標は信頼されていないと感じさせる。
■仕事は仕事であり、目標は仕事ではない。
しかし、経営者が正しい目標を作ることで、仕事を変えられます。目標は会社から一方的に与えられるものではなく、メンバーが自発的に設定するものなのです。
目標は自分の内にあるものを外に出し、自分や他人に可視化することによって、自分や他人、のために有益な何かを生み出せるようにするための、最高の仕組みである。あなたの目標とは、あなたが世界にどのような影響をおよぼそうとしているかを宣言するものだ。 となれば、よい目標を判断する唯一の基準は、その目標を目指す人が自発的に設定したものかどうかということだ。
全体目標から落とし込まれた目標は、どんなものであっても本当の目標ではありません。
会社にとって最も重要なことを社内の全員に理解させ、メンバーそれぞれに目標を見つけてもらう必要があります。最高の企業は目標を落とし込無ことはせずに、「意味」を落とし込んでいるのです。 最高のチームは、「エンゲージメント因子」が高く、メンバーは、「会社の使命」に貢献したいと心から思っています。また、彼らは、「会社の未来」に絶大な自信をもっています。
会社がメンバーに使命感や未来への自信を与えることで、自らの力を引き出すこと、メンバーの力が、チームの内部で増幅されることで、会社は成長していきます。経営陣は、チームとチームメンバーに、外の世界で起こっていることをリアルタイムで理解させるとともに、どの山を目指しているのかを伝える必要があるのです。優秀な経営者は、目標と行動の指示をチームやチームメンバーに落とし込む代わりに、「意味」と「目的」を落とし込んでいるのです。
最高のリーダーは、部下が賢明であることと、毎年の目標設定を通じて強制的に意思統一を図る必要はないことを知っている。最高のリーダーは、むしろ部下のために、本当に重要な仕事の意味と目的、使命と貢献、手法に息吹を吹き込むことに努める。 リーダーによって意味を吹き込まれたチームは、一人ひとりのメンバーが賢明でやる気に満ちあふれ、その意味を表明するような目標を自発的に立てることができる。意思統一は、意味を共有することから生まれるのだ。しかもこの意思統一は、強制されたものではなく、自然発生的なものである。
組織には行動の連携が不足しているから、目標が必要だと考えられていますが、それはまちがいだと著者は指摘します。会社に足りないのはむしろ「意味」であり、仕事の目的に関する明確で詳細な「理解」であり、事を行う方法を決めるうえで尊重すべき「価値観」なのです。部下は何をすべきか指示されたいのではなく、なぜそうするのかを聞きたがっていのです。
優秀な経営者が用いる3つの手段
チックフィレは世界で最も収益性が高く、最も成長著しいファストフード・チェーンです。同社はチキンサンドイッチにワッフルポテトフライ、シェイクを売っていますが、競合にくらべ、商品に特別な優位性があるわけではありません。チックフィレにあったのは、正確に、意図的に、自分にとっての意味に息吹を吹き込むことだったのです。創業者の故トゥルエット・キャシーは、毎週日曜を定休日にしました。もう1日店を開ければ、売上と利益がいっそう伸びることは間違いないにも関わらず、日曜を安息日として定める聖書の教えを忠実に守るために、日曜を休みのしたのです。
チックフィレのフランチャイズ契約を見ると同社の意味づけがわかります。事業者がブランドを提供し、加盟者が資本を提供し、両者で利益を追求するのが普通のFC契約です。事業者はできるだけ多くの資本を獲得しようとし、加盟者はできるだけ多くの店を獲得することを目指します。
マクドナルドの最大のフランチャイズ加盟企業、アルコス・ドラドス・ホールディングスは、2000店を超えるマクドナルドの店舗から年間45億ドルを超える売上を得てますが、チックフィレはこのやり方を採用していません。 チックフィレの加盟者は、どれだけ資本をもっていようと、所有できるのは1店だけなのです。
資本家はチックフィレにいくら投資したくとも、それより多くの店はもたせてもらえません。これは、キャシーが1950年代半ばに考案して以来変更されていません。 創業当時、キャシーはチキンの販売よりも、 地域社会のリーダーの育成を、会社の使命にしようと決め他のです。 キャシーはこれを忠実に守り続け、それに合わせてフランチャイズ契約を練り上げたのです。
地域リーダーを育成するには、加盟者として迎えた一人ひとりを、地域社会にとどめるための工夫が必要です。そのための最良の方法は、リーダーを店内にとどめることであり、加盟者にーつにするという決定がキャシーにとって、当然の選択だったのです。
1つしか店をもたなければ、リーダーはいつも店内にいて、客やチームメンバーに寄り添い、1人ひとりの関心事を地域社会が何に関心をもち、何を懸念しているかをじっくりと知ることができます。人々の求めに応え、行動を起こすうちに、やがて地域のリーダーに育っていくだろうと、 キャシーは考えたのです。 キャシーはこのビジョンから、フランチャイズ契約を考案し、それから資金量ではなく地域社会への貢献意欲をもとに加盟者を選びました。
同社の加盟者になるのに元手はいっさい不要ですが、彼らの加盟店になるのは、ハーバードに入るより難しいといわれています。チックフィレは現在でも、未来の地域社会のリーダーを厳選しているために、優秀なリーダーがここに集まってくるのです。
優秀な経営者は以下の3つの手段を用いています。
1、「価値観の表明」
自分の価値観を言葉で表すのではなく、見せるようにしましょう。フェイスブック社内に以前入居していたサン・マイクロシステムズのロゴがあるのは、変化をしなければ、会社がダメになることを社員に伝えるためです。
2、「儀式」
チックフィレには日曜に休業するという儀式があります。 ウォルマートとサムズクラブの創業者サム・ウォルトンには、体が動かなくなるまで毎週金曜に続けていた儀式がありました。彼らは店をーつ選び、そこへ行って特定の陳列棚のエンドキャップにいろいろな商品を置き、土曜に戻って何が売れたかを確認していました。「誰も、ボスでさえも、顧客の考えていることを顧客以上には理解できない」という深い信念をこの儀式によって、従業員に伝えていたのです。
3、「物語」
チックフィレのセミナーでの加盟者紹介は、ストーリーテリングを芸術の域にまで高めています。それぞれの加盟者の店に足を運び、写真を撮影し、家族や地域社会の声を丁寧に聞き取り、社内全体に共有するのです。
最高のリーダーには、優れたストーリーテラーが多い。小説や脚本の書き手という意味で なく、会議で語るエピソードや逸話、物語、メールのやりとりや電話を通して、意味を人々に落とし込んでいる。彼らがちょっとした物語をつねに語るのは、そうした物語が自分の大切にしていることを伝えるからだ。物語は世界に意味を与える。物語とは人間の姿を借りた意味なのだ。だから宗教は救世主や地球創造の物語を語り、大事なことを学ばせてくれる寓話をはさむ。
経営者は物語を語ることで、チームメンバー大事なことを伝えられます。会社の歴史、ビジョン、経営者の失敗談などをストーリーにして語ることで、メンバーのやる気を引き出せます。
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