平均思考は捨てなさい──出る杭を伸ばす個の科学
著者:トッド・ ローズ
出版社:早川書房
本書の要約
採用に困っていたゾーホーは、ほとんどのIT企業から採用されなかった社員ばかり集め、社内で好きなキャリアパスを歩む自由を与えました。経営者が才能を見つけ出して育て上げたのち、才能を開花させた人材が期待に応え、仕事に熱中して高い生産性を発揮したことが、ゾーホーに競争力をもたらしたのです。
ゾーホーの強みは何か?
ゾーホーは社員の給与をできるだけ低く抑えようとはしない。むしろ、目の付けどころさえ正しければ誰にでも才能は見いだせると信じて疑わない。(トッド・ ローズ)
アメリカのCRMやSFAの分野でセールスフォース・ドットコムを猛追しているのが、ゾーホー・コーポレーション(Zoho)です。日本でも最近は導入企業が増え、IT業界でも話題のソフトウェアです。私がアドバイザーをしているZooops Japanは、日本初のZoho Creator Certified Developerに認定されていますが、Zohoの強みを以下のように整理しています。
■低価格でもあるのに機能は最高水準
■必要な機能に特化した アプリケーションだけを購入可能
■カスタマイズの柔軟性
■スケーラビリティ
■UI/UX
■会計システムを含むその他DXツールとの繋ぎこみにより、経営変革のサイクルを回し続けることが可能
■カスタマイズにより社員が使いやすい環境を整備し、導入もスムーズ
そのゾーホー・コーポレーションが、平均思考は捨てなさい──出る杭を伸ばす個の科学(トッド・ ローズ著)に取り上げられていたので、以下紹介していきます。ゾーホーは社員に対するユニークな姿勢を貫くことで、社員の能力を引き出していたのです。
低価格なサービスを提供しているにも関わらず、ゾーホーの社員の給与は低くないと言います。プリンストン大学で電子工学の博士号を取得後、シュリダー・ヴェンブ(Sridhar Vembu)は、1996年に故郷のチェンナイで、ゾーホーの原型になるソフトウェア会社を起業します。
成長したゾーホーは現在、クラウドベースのビジネス、ネットワーク、ITインフラ管理ソフトウェアの分野で国際的なリーダーになっていますが、マイクロソフトOfficeやセールスフォース・ドットコムと激しい競争を行っています。
いまでこそ、ゾーホーは大企業として成功を収めていますが、ヴェンブが創業した頃には、「最高の才能」を獲得できずにいました。従来の一次元的な学力評価の基準で上位にランクされる候補者は、同社をスルーしていました。彼らが成功するためには、ほかの人たちが見落としている人材を発掘しなければならなかったのです。
ゾーホーの成長を加速させた社員教育とは?
インドのIT業界の大半は資格証明書を重視する。GPAの評価基準が高く、その条件をクリアしなければ候補者にさえ選ばれない、だから、かならずしもこうした基準を満たしていない人材に注目することにした。(シュリダー・ヴェンブ)
ヴェンブは自分のコンピューター科学を学んだ経験のない自分の弟を採用します。学校の成績も悪く、身内の評判も芳しくなった弟にチャンスを与えたのです。
しかし、ここで奇跡が起こります。彼にプログラムの方法を学ばせたら、すごいプログラマーになったのです。この採用が大きな転機になり、今までの人材獲得のルールを変え、見逃されている才能をたくさん見つけることにします。
ゾーホーは無名校出身者や学校教育をまったく受けていない人材の採用を増やしていきましたが、学校の成績とプログラミング現場での実績のあいだには、ほとんどまったく相関関係がなかったのです。
プログラミングのような分野で成功するためには、狭き門から大学に入る必要はないようだった。それなのになぜ、みんな学歴を採用の前提条件にするのだろう。不思議に思った。
ゾーホーは有名校以外から人材を雇い、実力を存分に発揮できるチャンスを与えています。
その後、ヴェンブは2005年にゾーホー大学(現在はZoho Schools)を創設します。ゾーホーの社員として成功する可能性のある学生を見つけて能力を開発するだけでなく、人間として成功できるスキルを身に着けることを目的とする大学をつくったのです。
ゾーホー大学に入学する学生は、インドの最貧地区出身者が多いという特徴があります。 学歴がほとんどない恵まれない立場の若者の大学の学費は、ゾーホーが負担しています。学生はプログラミングのスキルだけでなく、数学、英語、時事などについて学びます。
ヴェンブにとって、これは危険な賭けでした。ゾーホーは急成長していましたが、まだ組織が盤石ではありませんでした。かりに大きな賭けが失敗しても、会社の生き残りが保証されるほどの財力はなかったのです。
ヴェンブは平均主義の価値に反対するあまり、標準化とランク付けという従来のやり方にこだわるほとんどの学校と一線を画した学校運営に取りみました。授業は学生のペースに合わせて進められ、課題解決型方式が採用されたのです。成績はつけられず、学生は各課題に関するフィードバックを受けられます。
これから10年間、会社で素晴らしい成果を挙げてもらうために教育しているわけだから、理解が速いか遅いかなんて関係ない。速ければ成功するわけじゃない。
2005年、ゾーホー大学は学生6人に教師がひとり、2014年には学生100人に教師が7人の規模になりました。卒業生は同社で活躍し、現在、ゾーホーに勤務する何百人ものエンジニアの15パーセント以上が、ゾーホー大学出身者であると言います。草創期の卒業生の一部は、上級管理職にまで昇進しています。
同社は今後、ゾーホー大学の出身者によって、会社を運営しようとしています。ヴェンブの個性へのこだわりは、ゾーホー大学で才能を見つける方法以外のところでも発揮されています。個々の社員は、会社内で自由に能力を開発しながら成長できるです。
ゾーホーは仕事を厳密に定義していません。個々の社員が会社で歩む最適なキャリアパスが存在するとも考えていないません。
採用した人材のおよそ半分は、何か新しいものを追求して育てていきたいと考えるし、われわれもそれを奨励している。厳密な職務記述書が存在しないのは、発想が硬直的になるからだ。いきなり、自分には決められた仕事があると決めつけるようになってしまう。でもいろいろなキャリアパスを柔軟に提供してやれば、自分にはこんなことが楽しんでできるのかと驚いて、たくさんの役割をこなせるように進化している。
ヴェンブは平均に基づいて社員を評価するやり方に賛同しないので、ゾーホーには勤務評価もスコアカードも社員のランク付けも存在しません。
会社を適切に運営するためには、さまざまなスキルや才能を準備しなければなりません。発想を画一的にしないことで、ゾーホーのプロダクトは顧客から評価されています。
セールスフォース・ドットコムは自社の市場で、影響力を拡大し続けるゾーホーの存在に不安を抱き、買収を試みましたが、ゾーホーはそれを拒絶します。
われわれが提供する品質や価格、そしてわれわれの急成長ぶりに脅威を感じたんだ。でも、会社は売らなかった。だって、この会社を作ったのは、金儲けだけが目的ではないからね。われわれの成果について考えてほしい。優れた製品を創造したことを評価されているし、 たしかにその通りだけれど、それは文字通り、ライバルがどこも採用しなかった人材による成果なんだ。
ゾーホーは社員に公平な賃金を支払い、福利厚生も充実しています。ヴェンブが才能を見つけ出して育て上げたのち、才能を開花させた人材が期待に応え、仕事に熱中して高い生産性を発揮したことが、ゾーホーに競争力をもたらしたのです。
ほとんどのIT企業から採用されなかった社員ばかり集め、しかも社内で好きなキャリアパスを歩む自由を与え、最も貢献できそうだと本人が判断した仕事を選ばせています。人間は数字と同じで、平均して最適化すればよいと思い始めたら、大きくつまずきます。
ヴェンブは「誰に対しても、ひとりの人間として敬意を払わなければいけない」と述べています。才能を見出し、その人に長期投資を行えば、それ以上の見返りが得られるのです。ゾーホーの新しい経営スタイルから、日本のIT起業の経営者は多くのことを学べます。
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