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いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学
センディル ムッライナタン, エルダー シャフィール
早川書房
本書の要約
トンネルの内側は鮮明に見えますが、周辺は見えなくなります。これがトンネリング状態で、マイナスの影響を人に与え、時間やお金を奪っていきます。誰しも欠乏を感じる状況におかれるとトンネリング税を支払うことで、ますます余裕がなくなり、借金地獄から抜け出せなくなったり、時間貧乏に陥ってしまうのです。
緊急ではない重要なタスクを先延ばししてはいけない理由
第3の習慣「最優先事項を優先する」(スティーヴン・コヴィー)
行動経済学者のセンディル ムッライナタン, エルダー シャフィールは、スティーヴン・コヴィーの名言から、私たちのできない理由を明らかにしています。多忙な人は緊急で重要な課題に時間を使いますが、この行動には落とし穴があります。
コーヴィー博士は、『緊急度』と『重要度』で切り分け、四つの領域に切り分け、マトリックスを示しました。多くの人は、この『時間管理のマトリックス』の中の第 I 領域と第 III 領域にばかりフォーカスし、失敗を犯してしまうのです。
確かに、私たちは重要でしかも期限がすぐ来る課題に取り組む時に生産性を高めます。
しかし、その一方で多忙な人は、重要であるにも関わらず緊急でない課題をほったらかしてしまいます。重要ですが、後回しにできる課題を人はついつい先送りしてしまうのです。
私たちは、目が回るくらい忙しいと、自宅やオフィスの片付けを先延ばしします。片づけより差し迫ったこと、緊急で重要なことがつねにあるため、散らかった環境が発生してしまうのです。散らかった自宅やオフィスは、日々優先すべきタスクに時間を使った結果なのです。たくさんの小さなことが積み重なって、最終的に部屋は散らかった状態になります。
片付けは、緊急ではありませんが重要なタスクです。散らかった空間で仕事をしたり生活することで、私たちの生産性は下がります。部屋が汚いために、快適な時間が過ごせなくなり、イライラした気持ちになります。オフィスが散らかっていると、仕事の生産性がはるかに落ちます。大切な書類を見つけるのに、貴重な時間を無駄にし、大きな利息を払うことになります。
重要ですが緊急でない活動を後回しにするのは、借金に似ていると著者たちは指摘します。片付けをしないことで、今日の時間は浮きますが、やがてそれが将来のつけになります。片付けや今日の支払いを先延ばしすることで、大きな代償を払うか、それをやれば得られたはずの利益を失うかもしれません。
欠乏によるトンネリング税を支払わないために。
人は欠乏し、とりわけトンネリングを起こすと、放置しても平気な重要だが緊急でないことオフィスの掃除、大腸内視鏡検査、遺書の作成を先延ばしにする。それをやることで受ける損失は目の前に大きく迫ってくるし、先送りにするのは簡単だ。それをやることで得られる効果は、トンネルの外にあって見えない。だから緊急のことがすべて終わるのを待つ。将来得られる利益がかなり大きくなる可能性があっても、人はそういう小さい投資をしない。
金銭や時間などの「欠乏」が、人間の判断力や処理能力に悪影響を及ぼします。重要だが緊急でない選択を先延ばしにする傾向は、時間だけでなくお金にも現われ、これが人を不幸にします。
インドのくず屋は、捨てられた古着や布きれを探して、町中を移動します。1日1$稼ぐために必要な備品は、約30$の手押し車だけです。あとは自分の時間を切りうるするだけですが、重要な手押し車には投資をせず、他のものに支払いを当て、困窮から抜け出せずにいます。
重要なことを犠牲にして緊急のことに集中する状況は、昔から政府の仕事に見られます。何十年にわたる財政難のなか、政府はインフラへの投資を削減してきました。橋の維持費はきわめて重要な投資ですが、後回しにされやすい投資に分類されます。老朽化した橋は重要ですが緊急ではないために、後回しにされます。米国土木学会が発行した2009年の報告書によると、アメリカ合衆国の地方にかかっている橋の4本に1本、都市にかかっている橋の3本に1本に欠陥があることがわかっています。
多くの人々は目先のことしか見ずに行動することで、自分を不幸にしています。家計のやりくりをすることに集中すると、将来の計画がおろそかになります。また、計画できないことに「欠乏」が加わることで、問題を大幅に悪化させてしまいます。
時間に余裕がある日には、今日やるべきことがわかっており、その準備に時間を使えます。難しい会話を予想したり、細かいことを思い出したりすることができるので、ミスを起こさずにすみます。一方、忙しい日には、余裕がなくなり、準備を怠ってミーティングに参加しがちです。片づけなくてはならないタスクが頭がいっぱいなので、視界がぼやけてしまい、ミスを起こしてしまうのです。
いま現在から一歩退いて先を読むには、広い視野と認知能力が必要とされる。来月に支払期限が来る請求書や、期待できる別の収入源、生じるかもしれない新たな時間的拘束などについて考えるには、認知能力が残っていなくてはならない。現在の欠乏に心が集中していると、トンネリング税のせいで先のことを考えることもできなくなるおそれがある。
欠乏によって、人は目先のことしか見なくなり、正しい選択ができなくなります。人は忙しいとき、外食が(将来)健康にもたらす代償を無視します。お金に余裕がないときは、(将来)借金を返済することの意味について考えずにお金を借りてしまいます。締め切りに追われているとき、オフィスをきれいにしておくことの(将来の)メリットを考えません。
欠乏の問題は人を今日に縛りつけ、将来のことを考える力を奪います。明日も(時間またはお金が)乏しいかもしれませんが、それは別の問題であり、別の日まで放っておきます。人の心を占拠する欠乏はいまのことであり、それがトンネリング税を生み、人を近視眼的な行動に導きます。
トンネルの内側は鮮明に見えますが、周辺は見えなくなります。これがトンネリング状態で、マイナスの影響を人に与え、時間やお金を奪っていきます。誰しも欠乏を感じる状況におかれるとトンネリング税を支払うことで、ますます余裕がなくなり、借金地獄から抜け出せなくなったり、時間貧乏に陥ってしまうのです。
人はトンネリングを起こすと、問題をその場しのぎで「解決」しようとします。今日の請求書のために借金をすると、それが将来的に別の(少し高い)請求書になります。いちばん緊急の問題にいちばん手近な解決策を講じることを繰り返すうちに、その応急処置のせいで、問題が複雑にからまっていき、それを解決できなくなります。
欠乏の罠から脱け出すには、まず計画を練る必要があるが、これは欠乏マインドセットには難しいことだ。計画を立てることは重要だが緊急ではない。まさしくトンネリングで無視されるものである。計画するには一歩退く必要があるが、ジャグリングのせいで人は現状にはまり込んでいる。落ちようとしているボールに集中するせいで、どうしても全体像を見ることができない。遅れを取りもどそうと躍起になるのをやめたいのはやまやまだが、やるべきことがありすぎて、どうすればいいかわからない。
緊急ではない、重要なことをやり抜くためには、計画作りと処理能力と認知制御が必要になりますが、欠乏はその両方を低下させてしまいます。一度泥沼に陥るとそこから抜け出せなくなるのです。
この問題は、富裕者にも貧困者にも当てはまりますが、スラックがある富裕者は結果的に問題ないのに対して、貧しい人たちや多忙な人たちはスラックが少なすぎるまま進み続けて、ひとつショックを受けると欠乏の罠へと落ちてしまいます。
結局はお金や時間に余裕がある時にどう過ごすかがポイントになります。未来の欠乏を避けるためには、豊かな時に貯蓄をするべきですし、時間がある時にはダラダラせずに準備を怠らないことです。緊急ではない重要なことを意識し、欠乏状態にならないようにすべきです。欠乏によるトンネリング税を支払わないために、お金と時間のマインドセットを変えるようにしましょう。
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