ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった(夫馬賢治)の書評

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ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった
夫馬賢治

講談社

本書の要約

ビジネス・ラウンドテーブルは「株主資本主義」を見直し、「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しました。企業は自社の利益の最大化だけでなく、パーパス(Purpose) の実現も目指すべきだと考える経営者が増えています。ESGを経営に取り入れることで、生活者から支持され、利益も上がるようになるのです。

株主資本主義からステークホルダー資本主義へ

主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは、「株主第一主義」を見直し、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むと宣言した。株価上昇や配当増加など投資家の利益を優先してきた米国型の資本主義にとって大きな転換点となる。米国では所得格差の拡大で、大企業にも批判の矛先が向かっており、行動原則の修正を迫られた形だ。(日本経済新聞)

この数年でESGという言葉が当たり前になりました。
E:環境(Environment)
S:社会(Social)
G:ガバナンス(Governance)

2019年8月に、アメリ力主要企業のCEO団体「ビジネス・ラウンドテーブル」がステークホルダー資本主義を宣言することによって、日本でもESGを経営に取り入れるべきだという空気が広がり始めました。

個々の企業は、自身の『コーポレート・パーパス(企業の目的)』を果たしつつ、個々のステークホルダーとの間で基礎的なコミットメントを共有しています。
・顧客に価値を届ける”顧客の期待を満たし、超えることをリードしてきたアメリ力企業の伝統をさらに進める。
・従業員に投資する”従業員に公平に給与を支払い、重要な福利厚生を提供し、急速に変化する世界で新たなスキルの開発を支援する教育研修を通してサポートする。ダイバーシティ、インクルージョン、尊厳、敬意を強化する。
・サプライヤーと公平で倫理的な取引をする”我々のミッションの実現をサポートしてくれる大小問わず他の企業と良いパートナーになる。
・事業所の地域社会の支援”地域社会の人々に敬意を払い、事業を通じて持続可能な慣行を実施することで環境を保護する。
・企業が投資し、成長し、イノベーションを起こすための資本を提供してくれる株主に長期的価値を創出する。株主との透明で有効なエンゲージメントにコミットする。

すべてが重要なステークホルダーだと捉えることで、企業の経営スタイルは変化します。この声明に署名したCEOは全部で180人を超えています。

■ビジネス・ラウンドテーブルの文書に署名したCEOの企業の一例
アフラック、アメリカン航空、アメリカン・エキスプレス、アマゾン、バンク・オブ・アメリカ、ボーイング、アップル、バイエル、BP、AT&T、ブラックロック、カーライル、シスコシステムズ、シティグループ、コカ・コーラ・カンパニー、エクソンモービル、ダウ、フォード、1BM、GM、ゴールドマン・サックス、 ジョンソン・エンド・ジョンソン、JPモルガン・チエース、マリオット・インターナショナル、ナスダック、マスターカード、ムーディーズ、マッキンゼー、モルガン・スタンレー、オラクル、P&G、ペプシコ、S&Pグローバル、SAP、シーメンスUSA、バンガード、ウォルマート、ウエルズ・ファーゴ、VlSA、ユナイテッド航空、UPS、3M、ゼロックスなど

ビジネス・ラウンドテーブルは「株主資本主義」を批判し、「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しました。企業は自社の利益の最大化だけでなく、パーパス(Purpose) の実現も目指すべきだと考える経営者が増えているのです。

コーポレート・パーパスが重要になっている理由

(企業の)パーパスは、利益の追求だけでなく、利益を達成するための活力になる。利益はけっしてパーパスと矛盾しない。むしろ利益とパーパスは、切っても切れないほど緊密に結びついている。(ラリー・フィンク)

ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、ステークホルダー資本主義(ニュー資本主義)が企業に利益をもたらすと述べています。

「コーポレート・パーパス」を作成することが、長期的な戦略や目標を描くためには不可欠になっています。なぜ、この事業を行なっているのかを明確にし、それを顧客や従業員だけでなく、ステークホルダーに示す必要があります。ステークホルダーを意識し、パーパスを設定しなければ、そのパーパスは意味のないものになっています。サプライチェーンも含め、そのパーパスを実現で来ていなければ、顧客や投資家からも評価されなくなっています。

株主資本主義から脱却し、株主以外のステークホルダーに対しても、相応に責任を果たすことが、ESG時代の経営者には求められているのです。

変化が激しい世の中で、我々にも変化が求められる中、我々が何者でいたいかが認識できなければ、一体どこに向かえばいいのか決められなくなってしまう。コーポレート・パーパスを抱き、長期的に成長していく準備と経営をすることは、従業員や地域社会だけでなく株主も望んでいる。いや、むしろ、50年先、100年先までその会社の株主であり続ける株主こそが望んでいるだろう。(夫馬賢治)

投資家は企業のパーパスをチェックし、ESGの観点で投資を決めるようになっています。ニュー資本主義の柱の一つであるESG投資は、すでに株式投資だけでなく、債券投資、不動産投資、インフラ投資、プライベートエクイティ投資、リアルアセット投資、コモディティ投資、証券貸借の領域にまで拡大していると言います。さらに投資だけでなく、融資でもESG融資が普及し始めています。

このESGの視点でファイナンスを行うことを「サステナブルファイナンス」と呼び、サステナブルファイナンスを通じて、いかに投融資のパフォーマンスを上げていくかを考える時代になっています。

顧客の総和である社会から逸脱した経営を行なっている企業はやがて淘汰されていきます。特に、Z世代はソーシャルバッドな企業に対して厳しい目を向けています。彼らがマーケットの中心になる数年後には、ステークホルダー資本主義(ニュー資本主義)が当たり前になっているはずです。今こそ、経営者は自社のパーパスを再定義し、社会への貢献と利益の両立を目指すべきです。

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