変革は企業文化に従う(ボリス・グロイスバーグ)の書評

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変革は企業文化に従う
ボリス・グロイスバーグ, ジェレミア・リー, ジェシー・プライス, J. ヨー=ジュド・チェン
ダイヤモンド社

本書の要約

優れたリーダーは、戦略と文化の力を最大限に活用することで、大胆な変革を成功に導いています。企業文化は目標を理念や信条に反映させ、共通の前提や集団の規範を通して行動を促します。組織の文化特性に関して、従業員間で見解が一致する度合いが大きいと、その組織は熱意と顧客志向が強くなります。

企業文化が組織に変革をもたらす!

組織の存続可能性と業績を保つための果てしない努力に際して、企業のトップリーダーの主な手段になるのは戦略と文化である。戦略は企業目標に論理的な裏付けを与え、達成への意欲を従業員から引き出す。企業文化は目標を理念や信条に反映させ、共通の前提や集団の規範を通して行動を促す。

戦略は、集団による行動や意思決定を、焦点がはっきりしたわかりやすいものにします。リーダーシップは戦略立案と密接な関係にあり、リーダーの大半はその基本を理解しています。ところが、文化は戦略と比べてとらえ所がなく、その活用が遅れています。文化のかなりの部分は暗黙の行動、考え方、社会構造に根差しているからです。

文化とリーダーシップは表裏一体の関係にあります。創業者や大きな影響力を持つリーダーは多くの場合、新しい文化を築き、何十年も存続するような理念や前提を根付かせています。優れたリーダーたちは、身の回りのいくつもの文化を十分に認識し、変革が必要な時はそれに気づき、変革プロセスに巧みに影響を及ぼしてきました。

変革を実現する組織文化を構築するにはまず、自社の社風に対する理解を深めることが不可欠です。著者たちの調査により、文化は実際にはマネジメントできることがわかっています。文化の価値を最大限に引き出してリスクを最小限に抑えるには、リーダーはまず、文化の働きを十分に認識すべきであり、これが何より重要なステップになります。

著者たちは文化の4つの属性を明らかにしています。
1、共有される
文化は集団にしか存在しません。文化とは、人々が共有する行動、価値観、前提であり、一般には、集団の規範や期待のような暗黙のルールを通して肌で知るものです。

2、広がりがある
文化はいくつもの階層に浸透し、組織の至る所に根を下ろします。組織そのものと分かちがたく結び付いている場合さえあり、集団行動、物理的環境、集団の儀式、有形の象徴、物語、言い伝えなどに反映されます。考え方、モチベーション、暗黙の前提、行動論理」(周囲の世界を解釈して、それに対応する際の考え方)のように、目に見えない文化もあります。

3、永続性がある
文化は長期にわたり、集団の構成者の考えや行動の指針としての役割を果たします。集団生活における重要な出来事や学習を通して培われ、永続性があることがわかっています。人々は自分と似た性質の組織に惹き付けられ、組織の側も適合性の高そうな個人を選抜する傾向があるうえ、適合しない人物はやがて組織を去っていきます。このため、文化はおのずと強く根付いていき、次第に変化や外部からの影響に抵抗するようになります。

4、黙示的である
人間は、意識下の文化を本能的に認識してそれに反応するよう、うまくできているため、文化は言わば音のない言葉のような働きをします。

著者たちは、文化の共通性や主要概念に関する文献を精査した結果、組織の種類、規模、業界、地理的位置にかかわらず当てはまる基本軸が、人間関係と、変化への対応の2つであることを明らかにしました。企業文化を理解するには、この2つの軸との関係で自社がどこに位置するかを把握する必要があります。

①人間関係
人間同士の関係や協調をめぐる組織の志向性は、「独立性が非常に強い」から「相互依存性が非常に強い」までの各段階に分かれます。独立性が強い文化では自律性、単独行動、競争が、相互依存性が強い文化では統合、人間関係のマネジメント、集団による取り組みの調整が、それぞれ重んじられます。後者の文化に属する人々は協働に馴染み、成功を集団の観点からとらえる傾向があります

②変化への対応
安定性を重視して、一貫性、予測可能性、現状維持を優先する文化がある一方、柔軟性、適応力、変化の受容に力点を置く文化もあります。安定性を好む文化は、ルールを守り、年功序列のような管理制度を取り入れ、階層制を強化し、効率向上に努める傾向があります。柔軟性を好む文化は、イノベーション、風通しのよさ、多様性、長期志向を優先します。

組織文化と個々のリーダー、両方に当てはまる8つの特性

著者たちは、人間関係と変化への対応という二分野の基本的な知見をもとに、組織文化と個々のリーダー、両方に当てはまる8つの特性を明らかにしました。
①思いやり
人間関係と相互信頼を重視します。

②目的意識
職場は寛容で温情にあふれており、人々は遠い将来まで考えて世のために尽くそうとします。従業員は持続可能性と国際社会を重んじる姿勢を持ち、リーダーは理念の共有と大義への貢献を重視します。

③学習
進取の精神と独創性に富む環境において、人々は新鮮なアイデアをひらめき、さまざまな代替案を探ります。従業員は皆、好奇心が強く、リーダーはイノベーション、知識、冒険の重要性を説きます。

④楽しさ
職場は楽しい場所であり、各々が「これをやっていれば幸せだ」と感じることを仕事にする傾向があります。同僚同士は遊び心と刺激や興奮で結ばれ、リーダーは自発性とユーモアのセンスを重視します。

⑤結果志向
人々は、結果志向と成果主義が強い職場において最高の成果を目指します。従業員は皆、高い能力と成功を追い求め、リーダーは目標達成に向けて社員を鼓舞します。

⑥権力
職場には競争心がみなぎり、誰もが「優位に立ちたい」と努力します。従業員同士が結束するのは強い締め付けがあるからであり、リーダーは自信と優越性の大切さを説きます。

⑦安全性
プランニング、慎重さ、用意周到などが特徴の組織です。予測可能性の高い職場において、リスクに敏感な人々が周到に考え抜いたうえで仕事をします。リーダーは、現実的な発想と事前計画を重視する。

⑧秩序
尊敬、仕組み、共通の規範に重点が置かれます。秩序立った職場において、みんながルールを守って周囲に適合しようとする傾向があります。従業員は協力を通して一体感を育み、リーダーは手順の共有と古くからの習慣を大切にします。

8つの視点から主要企業の文化をマッピングすると、それぞれの企業の特徴が明らかになります。

企業文化を業績向上のてこにしたいなら、リーダーは、文化特性と組織や市場の主な状況を同時に考慮する必要があります。
■意識すべき外部要因→地域と業界
■重要な内部状況→戦略、リーダーシップ、組織設計との整合性

文化は、戦略的目標や事業プランを後押しするものでない限り、組織に十分な恩恵をもたらすことはできません。たとえば、差別化戦略を採用する企業とコストリーダーシップ戦略を追求する企業とでは、違いがあります。
●差別化戦略との親和性が高いもの→〈楽しさ〉〈学習〉〈目的意識〉
●コストリーダーシップ戦略によりよく適合→〈秩序〉〈権力〉

企業のライフサイクルに関わる戦略判断は、組織文化にも関係する。市場での地位の安定ないし維持を戦略的に目指す企業は、〈学習〉を優先するが、業績回復戦略を掲げる企業は、収益性の低い事業部の方針転換や組織再編に取り組む中で、〈秩序〉や〈安全性〉を優先する傾向がある。

文化とリーダーシップを整合させることは、とても重要です。CEO以下の経営陣の人柄と行動は、文化に深い影響を及ぼします。著者たちが経営幹部の採用活動を通して得たデータを調査したところ、組織文化との相性が悪いことが、上級リーダー層の新規採用が失敗する原因の実に68%を占めることがわかりました。 企業文化と個々の組織構造との間には、双方向の関係性があ理想です。

著者たちは、社風を進化させる4つの手法を明らかにしています。 
1、何を目指すかを明確に示す。
目指す方向を明らかにし、その方向に企業文化を変えていきます。たとえば、〈結果志向〉と〈権力〉を主な文化特性とする企業が、変化の速い業界で事業をしているなら、〈結果志向〉を維持しながら、〈学習〉あるいは〈楽しさ〉を柱とする社風へ移行すべきです。

2、目指す社風との親和性が高いリーダーを選び、育成する。

3、文化をめぐる話し合いを通して、変革の重要性を印象付ける。

4、組織設計を通して、望む変革を後押しする。
目指す文化や戦略と組織形態、体制、業務プロセスの整合性をとります。

今日の企業には、持続的な競争優位の源泉はわずかしか残されておらず、その一つが、社風を武器としたリーダーシップの発揮だと著者たちは指摘します。文化が最も直接的な影響を及ぼすのは、従業員の熱意とモチベーション、次いで顧客志向になります

従業員の熱意と最も相関関係が強いのは柔軟性の高さであり、これは具体的には〈楽しさ〉〈学習〉〈目的意識〉〈思いやり〉といった特性として表れます。組織の文化特性に関して、従業員間で見解が一致する度合いが大きいと、その組織は熱意と顧客志向が強いということもわかっています。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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