マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」の書評

マルクス・ガブリエル 新時代に生きる「道徳哲学」
マルクス・ガブリエル 丸山 俊一
NHK出版

本書の要約

他人との関係において適切なバランスを取ることが「道徳哲学」ですが、今こそ、私たちは人と人との良いバランス関係について探究する必要があります。他者の視点を取り入れることで、私たちは自分の視野を広げることができるのです。

危機の時代にこそ哲学が必要な理由

ウイルスだけではなく、環境や経済の危機も差し迫っていますし、一つの問題だけを解決することはできないのです。ですから一つのことだけに焦点を当てるのではなく、多角的に物事を見て、合理的な方法で複雑な状況に対応するように、心がけています。現在、さまざまな危機が相互作用を起こしていると、私は考えています。(マルクス・ガブリエル)

コロナウイルス、ウクライナ危機、生態系の破壊など、この数年で人類は多くの問題に直面しています。不確実性の時代は、予測不能な状況が次々訪れ、人類に危機をもたらしています。

今、起こっている多くの危機はさまざまな要素が相互作用しているため、それを解決するためには普遍的な思考が必要になります。

著者のマルクス・ガブリエルは2年前に以下の予測を行なっていますが、ウクライナ危機が起こり、それが現実になりました。

悲惨な形での人びとの移動、難民化、経済の崩壊などの事態を招き、それは、受け入れがたいほどの苦しみを人類にもたらすことでしょう。私も環境への意識が大いに高まりました。

ウクライナ危機で、ウクライナの多くの人々は国境を越え、東欧への移動を余儀なくされました。突然、プーチンによって始められた戦争によって、幸せだったウクライナ人の日常がなくなってしまったのです。インターネットで戦争のリアルが可視化されることで、世界中の人々が不安な気持ちになっています。ロシア軍の非道に怒りを感じているにも関わらず、なすべきことが見つかりません。

本来であれば、ロシアとウクライナで正しい対話が行われるべきですが、プーチンという独裁者はほとんど人前に出ることはなく、一方的にウクライナへの侵略を続けています。

ウクライナ危機に注目が集まっていますが、コロナウイルスや環境問題も解決されていません。こんな危機の時代にこそ、哲学が必要だとマルクス・ガブリエルは述べています。

道徳哲学とは何か?

とくに今の状況において哲学、道徳哲学は特別な役割を果たせるからです。道徳哲学あるいは倫理学は、単純に人間である限り私たちが何をすべきかを考える学問です。ですから、哲学は私たちに合理的に自分を理解して、合理的に危機を乗り越えるためのツールを与えてくれるのです。私たちの反応は、当然ながら感情的だからです。恐怖、希望、欲望、あらゆる感情が存在します。精神は簡単なことでグチャグチャになります。さまざまな形で私たちはみな、おかしくなっています。哲学はいわば精神療法にも似た合理的な方法なのです。

哲学的観点で今起きていることを本当に理解できれば、より合理的に目の前のことを受け止められるようになると著者は指摘します。

現実を最も高いレベルで観察することが哲学で、普遍的な視点で物事を考えられるようになります。何をすべきかを考える専門家チームに哲学者がいなければ、専門家は間違いを起こします。

医学や自然科学だけでは新型コロナウイルスの問題を解決することはできません。自然科学でワクチンは作れます医者や科学者には、ワクチンの分配や接種法を決めることはできません。ワクチンの正義は倫理的な問題で、哲学者を含めて議論すべきだったのです。

再び、ウクライナ危機に話を戻します。他者への暴力的な思考が世界を不幸にすることを今回のプーチンが明らかにしました。

日常生活で実践できることの一つは、暴力的な思考を持たないように心がけることです。暴力的な思考を持っていると、遅かれ早かれ表現してしまうでしょう。暴力的な思考を認識できるようになり、暴力を避けることが、道徳的に進歩する一つの方法ですね。これなら日常生活の中でできます。思いやりを持つよう心がけるのもそうです。ポジティブなエネルギーを追求し、中立的な観察者のように自分の頭より一つ高いところから物事を見るのです。このような行動様式を取っていれば、幸福感が得られます。

他人との関係において適切なバランスを取ることが「道徳哲学」ですが、今こそ、私たちは人と人との良いバランス関係について探究する必要があります。

他者の視点を取り入れることで、私たちは自分の視野を広げることができますが、プーチンという独裁者はソ連の復活を目指すばかりで、ウクライナの歴史的背景を無視しています。道徳的進歩(moral progress)が求められている時代に、プーチンは逆行し、人々を不幸にしています。

アイデンティティが衝突したときには、話を聞くことが重要になってきますが、対話が行われない現実の前で、哲学は無力かもしれません。しかし、お互いの違いをフォーカスするのをやめ、相手との共通点を探すことで、より良い世界を実現できます。そのためにも、対話を重ねることを忘れてはなりません。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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