地域の課題を解決するクリエイティブディレクション術
田中淳一
宣伝会議
本書の要約
地方の企業や自治体に足りていないのは伝えることです。彼らが適切な情報発信を行えば、日本の様々な地域の可能性が広がります。地域産品を売ること、観光、移住定住など含め、これからの地域経済を動かすためには、情報発信とクリエイティブの力を高めることが欠かせません。
地方にクリエイティブ力が必要な理由
食べてみなければわからない、使わなければわからない、来てもらえなければ好きになれない、では届かない人が多数いるということ。闘わずして可能性を自ら放棄している状態。 結果的にものすごく損をしていることを、もっと敏感に意識してほしいのです。 食べる前に、使う前に、来てもらう前に、とっくに勝負は始まっているのだと……。(田中淳一)
広告会社の時も、独立してコンサルタントになってからも、私は著者と同じような体験を何度もしてきました。「食べてみればわかる」「使ってみればわかる」という姿勢の経営者が多く、世の中に自社の製品を届けることをあきらめているのです。これはとてももったいないことで、チャンスロスが多くの企業で起こっています。
世の中の情報のインフラはSNSがメインになった今こそ、地方の中小企業にはチャンスがあります。YouTubeやInstagramで話題になることで。マーケットを日本全国、世界に広げることが可能になります。
情報発信のやり方に工夫を重ね、SNSだけでなく、メディア連鎖の法則を活用することで、認知が高まります。そのための第一歩がSNSの効果的活用とクリエイティブの力を鍛えることなのです。
いいものをつくりさえすれば売れる時代はとっくに終わっているということ。そして、いい伝え方をしないと生活者には届かない時代がとっくに始まっているということ。日本を代表する企業も地域のものづくりの現場も、この状況は同じです。
地方の企業はものづくりで完結するのではなく、マーケティングの力を活用して、顧客に情報を届けるべきです。その際、クリエイティブ・ディレクターのノウハウを使うと適切なコンセプトやメッセージ開発ができるようになります。
クリエイティブ・ディレクターの3つのスキル
クリエイティブ・ディレクターとして活躍する著者は、ものがたりをつくるときに3つのリサーチを実践していると言います。
①商品のリサーチ
②想いのリサーチ
③生活者のリサーチ
リサーチと共に大事なのがコンセプト開発です。 コンセプト開発はものがたりをつくるために最重要作業と言っても過言ではありません。コンセプトさえしっかりと設定できれば、クリエイティブワークはおおかた完了したも同然です。
コンセプトができても、ワクワクなストーリーを作り、アウトプットができなければ、顧客は地方の魅力に気づけません。その際、クリエイティブ・ディレクターのスキルが役立ちます。
①依頼された事案における課題の発見
②課題を解決するためのアイデアの開発
③アイデアのアウトプットのクオリティ管理
この3つを遂行するスキルを駆使すれば、情報が生活者に届くようになります。
クリエイティブディレクターとは、時にはものづくりの初期の段階から関わり、時代が求めるものや流行りなどへの感度も磨きながら、コンセプトやアイデアを生み出し、アウトプットの質もコントロールするという、幅広い範囲にわたって、長い期間ディレクションをしていくことが求められる職能です。
私は顧問先であるクライアントと仕事をする際に、経営者や担当者のヒアリングを徹底的に行い、パーパス・ビジョン、ミッションを明確にし、クライアントならではのストーリーをつくります。地域企業の場合、ものづくりをする意義や想いは地域と密接に関わっていることがほとんどで、このパーパスブランディングの手法を使えます。
クライアントのものづくりを続けてきた想いにフォーカスしていくことで、生活者との接点が見つかるようになり、適切なコンセプトやメッセージが開発できるようになります。
地方には、自然、伝統、歴史、文化、ものづくり、人の営みなどの資産があり、そのどれもが大きな可能性を秘めています。足りないのは伝え方で、適切な情報発信が加えられれば、日本の様々な地域の可能性が広がります。地域産品を売ること、観光、移住定住など含め、これからの地域経済を動かすためには、情報発信とクリエイティブの力を高めることが欠かせません。
本書には田中淳一氏のコンセプトワークやメッセージ開発の手法やケーススタディが満載です。地域のブランディングに関わる人にはぜひ、読んでもらいたい一冊です。
コメント