イノベーション創造戦略――組織の未来を創り出す「三つの箱の解決法」(ビジャイ・ゴビンダラジャン)の書評

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イノベーション創造戦略――組織の未来を創り出す「三つの箱の解決法」
ビジャイ・ゴビンダラジャン
ダイヤモンド社

本書の要約

BOX1(現在)・BOX2(過去)・BOX3(未来)の「3つの箱」それぞれに必要な関心を常に払いつつ、3つを一緒に運用していけば、バランスのとれた状態となります。経営者が毎日「3つの箱」に注意を向け、良い状態を保つことで、企業は長期的に成長できるようになります。

成長を持続させる3つの箱とは?

現在を表すBOX1は極めて重要なパフォーマンス・エンジンだ。これが日々の業務の運営資金も、将来の利益も生み出してくれるからだ。だが、現在の事業がそれ以外の戦略的優先事項を締め出して、唯一のスキルを現在のコアビジネスにのみ適応すると問題が発生する。 これは、あらゆる意味で近視眼的としか言いようがない対応だ。BOX1が優勢になると、BOX3は弱体化し、BOX2は存在感が消えてしまう。これは非常にもったいないことだ。(ビジャイ・ゴビンダラジャン)

イノベーションの第一人者ビジャイ・ゴビンダラジャンは、「3つの箱の解決法」で、イノベーションの創出が容易になると述べています。以下の「3つの箱」に、組織のエネルギー、時間、資産のバランスの取ることで成長を持続できます。

●BOX1:現在――中核事業を最大利益率で運営する
●BOX2:過去――イノベーションを妨げるアイデア、実務、姿勢を手放す  
●BOX3:未来――ブレイクスルーとなるアイデアを新たな製品や事業に変換する

「3つの箱」のそれぞれの利点とリスクを十分に理解して、慎重に運営していくことで、初めてビジネスの健全な戦略が実現します。「3つの箱」の考え方を使えば、組織全体の力を高め、革新的な未来をもたらすことができるようになります。また、4半期ごとの短期的なスパンではなく、何世代にもわたって生き残る組織を構築できます。

多くの組織は現状維持を選択し、BOX1に集中しがちです。このコンフォートゾーンから抜け出せないと新たなチャレンジができなくなります。

一方、BOX2の「過去の罠に陥らない」という作業は、困難と苦痛を伴います。過去に成功した支配的なビジネスモデルを整理したり、売却することは、経営者に厳しい判断を求めます。

さらにBOX3の未来を創出するには、不確実性とリスクをはらんだ信念や実験の積み重ねが必要になります。イノベーションを起こすためには、新たな経営戦略や評価基準が必要になります。

BOX1に注力しすぎると組織の体幹を支える筋肉が弱くなります。私たちが健康のためにするように、組織も全分野の筋肉を定期的に鍛えることが大切になります。

「3つの箱」それぞれに必要な関心を常に払いつつ、3つを一緒に運用していけば、バランスのとれた状態となり、長期的に組織自らが危険を招いたり、危機が訪れたときに自分に都合のいいように対処することはないだろう。毎日「3つの箱」に注意を向けるようになると、「3つの箱」が相互に関連し、互いを必要としていることに気づくはずだ。

・BOX1のスキルや経験を用いて、コアビジネスを最大効率で運営し、線形イノベーションを実行します。
・BOX2のスキルを用いて、環境変化の中で妥当性を失った事業をあぶり出し、それを除外します。また、そのような習慣、アイデア、姿勢を放棄することで、過去を選択的に忘れます。未来の創出に専念するために過去を整理しましょう。
・BOX3のスキルを用いて、非線形アイデアを創出し、実験を重ねることで、そのアイデアを新たな製品やビジネスモデルとしてリリースできます。

維持、破壊、創造という3つの価値観の間で自然発生する緊張状態に上手に対処することで、企業は持続的に成長できるようになります。

イノベーションに計画的日和見主義が重要な理由

BOX1とBOX3は、それぞれ独特のイノベーションの形を必要とする。これが、「3つの箱」のバランスをとるのに非常に苦労する点である。優れたイノベーションの実現のためには、この2つの箱それぞれに根本的に違う運営が求められる。

著書はすべてのイノベーションを次の2つのタイプに分類します
①線形イノベーション
現在のビジネスモデルの業績を改善します。

②非線形イノベーションは、BOX3の領域になります。
(1)現在の顧客一式を見直し、(2)顧客に提供できる価値を改善し、さらに/あるいは(3)顧客に届ける価値連鎖の構造を全面的に再設計することで、新たなビジネスモデルを創出できます。

積極的に日々、未来に注意を向けていれば、未来を有利な形で引き寄せる機会を得るだろう。企業は、私が計画的な日和見主義と呼ぶものによって、積極的なイノベーション・カルチャーをつくるべきだ。

計画的な日和見主義とは、予測できない未来への備えとなるリーダーの態度や行動を指します。

■計画的な日和見主義
・前向きな能力を各種、取り揃えていくこと
・実験する訓練を取り入れること。
計画的な日和見主義によって、予期せぬ機会を追求し、具体化してくための柔軟性が生まれます。

計画的な日和見主義を行なった経営者は、恐怖やパニックに陥ることなく、戦略に自信を持って行動できます。BOX2では「計画的な日和見主義」がもっとも奏功しそうな状況をつくります。結果、将来、どんなことがあっても、弾力的に対応できるスキル、洞察力、構造、姿勢が身につきます。

ノベーションを妨げるアイデア、実務、姿勢を手放すというBOX2は、「3つの箱の解決法」の中で、もっとも不可欠で、もっとも能力を必要とします。BOX2の強力な能力がなければ、組織は過去の泥沼にはまり、経営者は新たな手を打てなくなります。

「弱いシグナル」とは、テクノロジー、文化、マーケット、経済、消費者の嗜好や行動、人口統計に起こりつつある変化のことだ。「弱いシグナル」は、その言葉が示すとおり、不完全で不安定で不明瞭なので評価が難しい。だがこれが、未来の非線形の変化に向けて仮説を立てるための材料となる。

「弱いシグナル」を迅速に察知できなければ、会社の未来につながる非線形のアイデアが枯渇することになります。「弱いシグナル」を明らかにするためには、次の3つの基本的な質問をしましょう。
・現在の成功を支えている特定の要素、状況は何だろうか?
・その要因の中で、時間の経過とともに、成功を脅かす形に変わる可能性があるもの、あるいはすでに変わりつつあるものはあるだろうか?
・その変化の影響を和らげる、あるいは逆に活用できるよう、先取りして準備をしておくにはどうしたらよいか?

この質問に答えを考えながら、予測不能な未来に向けて、賢明な非線形の行動をとることで、イノベーションが起こせるようになります。どんなビジネスであっても、時間と変化に対しては、受け身の姿勢ではなく、積極的に対処すべきです。

BOX3の「創造」を成し遂げるには、まずBOX2の「破壊」の作業で優れた結果を出さなくてはなりません。BOX2の作業は、(長期的に耐え得る)時代を超越した価値と、(時間の経過とともに腐敗しやすい)時宜を得た価値との相違点を見つけることにあります。

過去にタイムリーだったアイデアや行動が、いまでは役に立たない足かせ(=鎖)となっている可能性があります。この鎖を見つけ出して破壊しないと、組織は明るい未来を手に入れられません。

ほとんどの人は、問題を指摘するところで終わってしまいます。「弱いシグナル」を察知しやすい独創的な人は、その問題を考え続け、過去の慣例に従わない画期的な解決方法や、その解決方法を活用した市場機会を思い描きます。

BOX3の冒険的事業は不確定要素に満ちており、実験によって顧客との対話を重ねるしかありません。「リスク」は学習機会として受け止め、「変化」は新たな方向性や思いがけない利益の可能性を示してくれる機会と解釈するのです。

BOX1の事業は安定しており、よく理解している環境で、馴染んだ方法で運営され、その成果も正確に評価できます。BOX1においては「リスク」はコントロールすべきもの、「変化」はトラブルの予兆と見るべきです。

BOX3の進捗状況は、BOX1とは違う基準で判断しなくてはなりません。
・大きな賭けに出る前に、いくつか小さな賭けをしてみる。
・勇気と適応性のある指導力を見せる。
・BOX3に必要な新たな能力とプロセスをつくる。
・重要な仮説を検証する。
・BOX3のカルチャーを築く。

BOX1(現在)・BOX2(過去)・BOX3(未来)の「3つの箱」それぞれに必要な関心を常に払いつつ、3つを一緒に運用していけば、バランスのとれた状態となります。経営者が毎日「3つの箱」に注意を向け、良い状態を保つことで、企業は長期的に成長できるようになります。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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