ユーザーファーストの新規事業 (中村愼一)の書評

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ユーザーファーストの新規事業
中村愼一
宣伝会議

本書の要約

大企業だから新規事業は難しいと考えるのではなく、まずは自社の強みと社会的課題という視点から、ビジネスの立ち上げを考えてみましょう。自社ならではの強みを見出し、資源を活用し、足りないリソースを調達し、関係部署と調整しながら、顧客のペインを取り除くことで、新規事業は大きく育っていきます。

新規事業の立ち上げ方

新規事業は常に考える必要があるのです。企業にも、働く個人にも同様です。新事業への挑戦は携わる人にとってさまざまな経験やスキルをもたらし企業にとっても知見につながります。(中村愼一)

企業や事業には寿命がありますが、多くのビジネスパーソンは現状維持を選びがちで、なかなか新しいことにチャレンジできずにいます。世の中が大きく変化する中で、何も行動を起こさなければ、既存のビジネスはなくなる可能性があります。実は現状維持を選択し、何もしないことが、最もリスクが高い場合もあるのです。

VUCAのような変化の激しい時代には、未来のあるべき姿をイメージし、そこからバックキャスティングして、新規事業を考えるとよいでしょう。新規事業を考える際には、既存事業の「強み」を突き止めとらえ直すことが重要になります。既存事業の「強み」に目を向け、次に、現代社会が広く抱える課題に目を向け、そこから解決すべき問題点を明らかにしていきます。

富士フイルムはカメラ用フィルム開発で鍛え上げられた化学の技術を転用し、化粧品市場に参入しました。消費者のカメラ需要が、いわゆるフィルムカメラからデジタルカメラへ移行し、さらに携帯電話やスマートフォンにその主軸が変わったことで、強みであるフィルム技術を転用し、化粧品市場で成功したのです。

いままでの事業でつちかってきた資産を、市場を乗り越えて、新たな事業に活かしているのです。 社会課題の解決=新規に立ち上げる事業の利用者のメリットであると私は考えています。新規事業として軌道に乗せるには何よりも利用者の需要の向かう先とならなければならないのは言うに及びません。  

自社が持つ資産を生かし、新たな社会課題の解決に貢献することが新規事業を立ち上げる際に重要なことなのです。著者はパナソニックと損保ジャパンという大企業で新規事業の立ち上げで、何度も成功していますが、自社の強みから発想しています。未来のあるべき姿を描き、その際生まれる顧客のペインを取り除くことから、新規事業をスタートします。

課題解決のために足りないリソースを調達し、関係部署と調整しながら顧客の要望を満たしていきます。顧客の気持ちに寄り添い、不安な点を見つけ、それを取り除くことを新規事業開発のメンバー全員で考え、PDCAを回します。

ユーザーを友だちと考え、喜ばすことをルールにする!

ユーザーを友だち、身近な存在、身内だと考え、徹底すること。

著者は「お客さま」と友だちになるという姿勢で、ビジネスを立ち上げてきました。友だちに寄り添い、ペインを明らかにすることを重視し、顧客視点でビジネスを考えたのです。パナソニックのメディア事業で、データを売って欲しいというクライアントのオファーもあえて断り、友だちを大事にすることを優先します。

友人のためにならないことはやらずに、友人を喜ばすことだけを考え、それを徹底することで、顧客との関係をよりよくできます。目先の利益ではなく、顧客との関係を重視することで、クラブパナソニックは成長します。

また、大企業が新規事業をスピーディーに立ち上げるためには、ベンチャ・スタートアップの業務提携や資本提携も考慮する必要があります。 どのような他社の資産とかけ合わせれば、すばやく事業を立ち上げられかを考え、他社とのアライアンスを検討しましょう。

その際、カギのひとつとなるのが、事業のビジョン(=達成したい未来像)のすり合わせになります。ベンチャー企業を飲み込むのではなく、同じビジョンを描くことで、チームが一丸となります。両者の強みが活かしながら、ゴールを目指すことで、スピーディに事業を展開できるようになります。

著者の中村氏は転職した損保ジャパンにおいても新規事業を次々に成功させています。彼は大企業の中で、新規事業を成功させる秘訣を次のように語ります。

拡大のためには、立ち上げた事業は任せて次を立ち上げるのです。そして自分と同じく事業を立ち上げられる後継者を育てつつ、複数同時に事業開発できれば、拡大スピードは倍になります。もっと言うなら、後継者を育てられる人を育てられれば、そのスピードはかけ算ではなく、指数関数的に増すのです。

新規事業をまずは自分で立ち上げつつ、それを同じチームのメンバーに見せていくことが重要だと言います。自分で風穴を開け、その穴を部下とともに広げることで、新規開発に近い経験値を積むことで、大企業の人たちにも新規事業の立ち上げができるようになるのです。一人で事業を行うのではなく、随時メンバーに権限以上することが、社員教育につながり、組織を強くできるのです。

大企業だから新規事業は難しいと考えるのではなく、まずは自社の強みと社会的課題という視点から、ビジネスの立ち上げを考えてみましょう。自社ならではの強みを見出し、資源を活用し、足りないリソースを調達し、関係部署と調整しながら、顧客のペインを取り除くことで、新規事業は大きく育っていきます。著者の思考過程や体験から、多くのことを学べる良書です。



この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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