パーパスとともに会社を成長させるために必要なこと。THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップの書評

three women sitting on sofa with MacBook

THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ
ユベール・ジョリー,キャロライン・ランバート,ビル・ジョージ
英治出版

本書の要約

企業文化を変え、メンバーが互いにリスペクトし、つながることで、ダイバーシティ&インクルージョンが生まれます。個人のパーパスと会社のパーパスをつなげ、人と人との真のつながりを育み、自律性を後押しし、マスタリーを促すことで、人の働き方が変わり、組織のパフォーマンスが高まります。

パーパスと多様性がチームに成長をもたらす!

ダイバーシティを持とうと尽力する企業は多いものの、変化のスピードはあまりに緩やかだ。人間は自分に似た見た目や考え方の相手を好むようにできているため、特にジェンダーや人種に関して根強い排除が続いている。(ユベール・ジョリー)

THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ書評を続けます。

元ベスト・バイのCEOのユベール・ジョリーは、経営におけるパーパスの重要性を指摘します。また、パーパスに加え、組織を成長させるためにはいくつかの重要な要素があります。

その一つが多様性になります。マネジャーや取締役のなかに自分と属性が似た人物がいなければ、従業員たちは自分にもチャンスがあると感じられないとジョリーは指摘します。メンバーがチャンスが少ないと感じたら心から熱意を持って仕事に全力を尽くすことはできません。

多くの研究で、トップの経営層に女性が多い企業のほうが業績がいいことが裏付けられています。著者は経験や研究から、女性たちの力が見いだされ、それにふさわしい昇進ができるよう支援するべきだと言います。

たとえば女性は男性に比べ、すべての条件を満たすかそれ以上の力を備えている場合でないと、自分の実績を主張したり何かの仕事に進み出たりするのが難しいと感じることが多いそうです。

大きな再建とその後の成長戦略を支えていくには、当時の取締役会が持つ以上に多様なスキル、ものの見方、経験が必要で、そのためにジョリーは取締役会に多様な人材を取り入れました。

ベスト・バイのダイバーシティ&インクルージョン向上への取り組みは、従業員、職場、取引先、地域コミュニティにも焦点を当てました。黒人大学と提携した採用および奨学金プログラムの設立などもスタートしました。結果、2019年度の上半期、コーポレート部門における外部からの採用の20パーセントは有色人種となり、店舗レベルでは50パーセントになったと言います。

ダイバーシティの推進を行うと少数派だったグループの勢力が大きくなると、既存のメンバーから反感を買いやすくなります。「白人で、男性で、高齢」という特権的な地位にあった人は、差別されてきた他者の気持ちに寄り添えるようになります。

リーマン・ブラザーズが、もしリーマン・ブラザーズ&シスターズという社名で多様性を大事にしていたら、物語はずいぶん違うものになっていたはずです。

職場の雰囲気を変えることでメンバーが互いにリスペクトし、つながることで、ダイバーシティ&インクルージョンが生まれます。パーパスに加えて会社内で人と人との強いつながりを持つことは、信じられないようなパフォーマンスをもたらします。

社員の自律性を後押しし、マスタリーを促す!

実際問題として、ベスト・バイは死の間際にいた。危機的な状況であったため、全員で力を合わせ、迅速に行動し、足並みを揃え、情報を流し続けねばならなかった。それらを実行するには従業員たちが同じときに同じ場所にいる必要があった。

最近では、テレワークが当たり前になっていますが、会社が危機に瀕していた際に、ベスト・バイはあえてリモートワークを廃止する荒治療を行いました。会社に全員が揃い力を合わせる必要がある場合には、リモートワークが逆効果になるのです。

リモートワークは全員に適用できるものでもなく、社内でそれぞれの場所に異なるルールを適用すると反発や怒りを生みます。店頭で働く従業員たちは家で仕事をするという選択肢を持てず、時間通りに店へ行かなければならないため不公平感が蔓延しました。

このプログラムは、権限委譲は常に正しいアプローチだという思想に基づいて作られたものでしたが、この思想には根本的な欠陥があると著者は考えたのです。権限委譲は、従業員が十分な能力とモチベーションを持ち合わせているときにのみ機能するのです。

権限委譲と自律性がヒューマン・マジックを引き出すのは、従業員たちが十分なスキルとモチベーションの両方を持ち合わせているときだけだ。 個人の動機と一致する会社のパーパス、人と人との真のつながり、そして自律性これらはどれも人が仕事に全力を注ぐ下地となるものだ。

モチベーションやスキルの低い従業員にいきなり自由を渡しても結果を出せないと言います。メンバーに自律性を持ってもらうことで、人の成長スピードが加速します。

ヒューマン・マジックを解き放つには、自分が一番得意な分野で最高の力を発揮する機会を得る必要もあります。そこで重要なのが、次に語る「マスタリー(熟達)」になります。

マスタリー→自分が喜びを感じる物事に関する高いスキルを、指導や練習を通して身につけていくこと。

会社を変革したければ、ビジネスにおける「人→ビジネス→財務」のアプローチが重要になります。会社の究極的な目標をそこで働く者たち全員の成長と充実におくことで、組織は強くなります。

その際の、リーダーの役割はマスタリーを追求できる環境を作り上げることです。結果そのものにこだわるよりも、マスタリーやプロセスに集中し続けたほうがパフォーマンスが高まるのです。

マスタリーがパフォーマンスにとって欠かせない理由は、自分が一番得意な物事に習熟していくことが人間として根本的な満足ややる気をもたらしてくれるからだ。

スキルのある人は当然周りより優れたパフォーマンスを発揮します。意欲が高ければ、より多くの裁量を得られ、自律的に働ける可能性も高まります。パフォーマンスの足りない部分に目を向けて、ただ「もっと成果を出せ」と部下を激励することよりも、マスタリーを育む環境を作るべきです。

成果への執着を手放すのは簡単ではありませんが、実現しうる最高の環境を作ることこそが、最高の成果をもたらすと著者はベスト・バイの経営で気づきます。

結果を評価するのではなく、プロセスを重視し、最高の自分を追い求めていくことで、長期にわたってモチベー ションが継続し、さらなるスキル向上につながります。その結果、メンバーのパフォーマンスが高まります。最高のパフォーマンスが生まれるのは、多様な才能とさまざまな種類の大きな喜びの源泉が集まったときなのです。

マスタリーに至るには自分の「弱点」に取り組むのではなく、徹底的に自分なりの強みを磨き、高めることです。強みを築くことに焦点を当てたほうがより強力な成果につながります。

ベスト・バイでは失敗が奨励されています。アマゾンのジェフ・ベゾスは失敗を以下の2種類に分けています。
①勝手を知っている専門分野で実行に失敗すること→コアビジネスに関連する失敗はほとんど許容できません。
②新しいアイデアや新しいやり方を探求しているときに起きるもの→イノベーションに欠かせないもので、そこでの失敗は想定内のものとして受け入れられます。

リーダーが失敗を問題視せず、安全だと明確に示せば、社員の行動が変わります。メンバーの失敗を許容し、人を守り、成功のために意識的にチャレンジしてもらうことで、メンバーのチャレンジに対する恐れがなくなり、結果を出せるようになります。

個人のパーパスと会社のパーパスをつなげ、人と人との真のつながりを育み、自律性を後押しし、マスタリーを促すことで、人の働き方が変わり、組織のパフォーマンスが高まります。



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