THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ(ユベール・ジョリー)の書評

fuel your passion textTHE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ
ユベール・ジョリー,キャロライン・ランバート,ビル・ジョージ

本書の要約

従業員たちを「人材」ではなく、共通のパーパスを追って協働する個人として捉えることで、組織のモチベーションが高まります。経営者はパーパスと人のつながりこそが、ビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)だと考え、経営を人間中心主義で行うべきです。パーパス経営が組織を強くしてくれるのです。

パーパスと人のつながりこそが、ハート・オブ・ビジネス

ベスト・バイでの信じられないような数年間をはじめとしたあらゆる経験から、私が信じ、実感するに至ったことがある。それは、「パーパス」と「人との深いつながり」こそがビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)だということだ。そしてこれらは、今まさに進行している不可欠かつ急を要するビジネスのあり方の再構築においても核心に置かれるべきだと信じている。(ユベール・ジョリー)

マッキンゼーのコンサルタント出身で数々の企業の再生を行なってきた元ベスト・バイのCEOのユベール・ジョリーは、本書でこれからの時代の資本主義にとって鍵となるリーダーシップの原則と、それらを最良の時も最悪の時も実践する方法を明らかにしました。

ジョリーはパーパスを明らかにし、人々の深いつながりとパーパスを基軸に経営することが、ビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)だと述べています。仕事とは「人間らしく生きるのに欠かせないもの」「自分の生きる意味を探すための鍵」「人生に充実感を見うたいだす手段」だと捉えることで、経営者と従業員の関係がよくなり、ビジョンを達成できるようになります。

しかし、多くの経営者は以前からの指標である利益をパーパスより重視します。
・利益は業績を測る良い指標ではない。
・利益ばかりに注目することは危険である。
・利益だけに目を向けていると、顧客や従業員を敵に回す。
・利益だけを追うことは精神に良くない。

このような利益優先の組織は疲弊し、顧客や従業員を敵に回し、ビジョンを達成できなくなります。著者が経営に参加した頃の2012年当時のベスト・バイはまさに瀕死の状況でしたが、ジョリーは従業員との対話を通じて、信頼を取り戻します。そこからパーパス経営にシフトし、同社の再生に成功します。

著者は従業員こそハート・オブ・ビジネスと見なし、中心に据えるべきだとの述べています。従業員は社内の仲間のみならず会社のすべてのステークホルダー顧客、取引先、地域のコミュニティ、株主と思いやりに満ちた本物の関係を築き育んでいくことで、会社のパーパスに貢献するだけでなく、各ステークホルダーに最高の結果を届ける存在になります。

「顧客にとって最高の仕事」は、こうした従業員が顧客を歩く財布と見るのではなく、人間として心を通わせるときに生まれる。また、CEOから現場のスタッフまで、従業員たちが顧客のニーズやそれを満たすための最適なサポートを心から理解し、配慮することで生じる。このような形で顧客に喜んでもらうことで、顧客と強い心のつながりを築いた愛されるブランドが作られ、愛着や信頼を呼ぶ。顧客にとって最高の仕事をし、最高の結果を生むために、従業員は「パートナーとしての取引先」とつながり、協力関係を築いていく必要もある。利益率を上げるために取引先を圧迫するのではなく、双方に利益がある形でつながって協力関係を築き、そのうえで顧客に奉仕するのだ。

従業員だけでなく、地域コミュニティ、株主、パートなどの各ステークホルダーとの関係性は、システム全体を流れて生き生きと動かす血液になります。人間関係の質を変えることで、組織は力を取り戻せます。

利益は効果的な戦略と、その戦略の原動力となる人間関係の質の高さから生まれます。利益はミッションの達成に欠かせないもので、利益があるからこそ、従業員やイノベーションへの投資、成長の創出、地域コミュニティへのサポート、そしてもちろん、投資家たちに報いることが可能になると経営陣は考えを改めるべきです。

調査によると 仕事に積極的に関与していると答えた人は、周りより生産性が高く、顧客や同僚や取引業者に親切に接しているだけでなく、離職の可能性が12分の1まで低くなることがわかっています。この傾向は、業界や職種にかかわらず当てはまります。仕事に情熱を注ぐ従業員は怪我をする確率も25~50パーセント低くなると言います。 仕事へのマインドセットを変えることで、結果を出せるだけでなく、事故などのトラブルも減らせるのです。

従業員のエンゲージメントを高める方法

リニュー・ブルーの再建時にベスト・バイで起きていたのは、私の言葉で言えば「ヒューマン・マジック」だ。それは、社内の一人ひとりに火がついて、全員が力を合わせて想像以上の成果を上げることを指す。ヒューマン・マジックは、信じられないようなつまり信じられないほど素晴らしいパフォーマンスを生む。景気がいいときであろうが、再建のときであろうが、パーパスフルな人間らしい組織を築くためには、人が持つエネルギーを解き放つ必要がある。ヒューマン・マジックは、一人ひとりが意欲を持って全力を捧げられるような日々 の仕事環境を作ることで引き出すことができる。

著者はベスト・バイを再生する際に、パーパスを活用し、従業員のモチベーションを高めることで、 ヒューマン・マジックを起こすことに成功します。

多くの経営者は従業員のモチベーションを高めるために、金銭的なインセンティブが有効だと考えていますが、それは大量生産時代の価値観でしかありません。旧来型の組織は、金銭的なインセンティブ、ボーナス、手当、その他の報酬を用いて従業員の意欲を高めるシステムを作り上げてきました。しかし、最近では仕事内容が変わってきたため、このシステムは機能しなくなっています。

この手のインセンティブは「外発的動機付け」でしかなく、そこに「内発的動機」がなければ、仕事への意欲やエンゲージメントは高まりません。また、業績給をぶら下げると、挑戦を学びと成長の機会だと捉えるのではなく、ミスや欠点を隠そうとする社員も現れます。

職場を変えるためには、従業員たちを「リソース」ではなく「ソース(力の源泉)」と捉えるべきです。

従業員たちは「人材」ではなく、共通のパーパスを追って協働する個人として扱われなければならない。従業員はそれぞれのモチベーションや目的意識を持った個人であり、お金だけに動かされる人的資本ではない。今こそ、集団的な労働力を動かす方法ではなく、一人ひとりが大切にしているものとの結びつきを生むことによって意欲を高める方法を追求するときだ。

経営者が以下の5つの要素を意識し従業員への接し方を変えることで、彼らの働き方が変わります。
・一人ひとりの生きる意味の探求と、人と人との本物のつながりを築く
・自主性を育む
・マスタリーを目指す
・成長できる環境を作る
・会社のノーブル・パーパスを結びつける

そのためには、会社のパーパスと個人のパーパスのベクトルを合わせる必要があります。
・人が第一という哲学を明確に伝える
・何が周りの人の原動力かを探る
・決定的な出来事を活かす
・物語を共有し、ロールモデルの提示を奨励する
・有意義で、人間的で、偽りのない形で会社のパーパスを表現する
・意義を浸透させる

本書で紹介されているプエルトリコのケースはとても感動的で、ベスト・バイのパーパスを誰もが理解できるものになっています。このようなストーリーを定期的に共有することで、パーパスへの理解が深まり、従業員の行動を変えられます。

理想のロールモデルを示すことも効果があります。意義深い仕事の経験をしっかりと伝え合い、会社のパーパスとの結びつきを明確にすると、組織内に仕事の意義が共有されていきます。ロールモデルを示すと、従業員が自分のパーパスを見つけられる豊かな育成環境が生まれるうえ、個人のパーパスが大切であるというメッセージを送ることにもつながります。

従業員がパーパスに基づいた顧客との成功体験を物語として語ることで、会社のパーパスが何であり、いかに全従業員がパーパスに貢献していて、それがいかに人々の暮らしを変えているかを理解できるようになります。メンバーの良質な体験を共有することで、個人と会社のパーパスを結びつけ続けることができるようになり、従業員たちのエンゲージメントを高めることができます。

パーパス経営を実践したい経営者にぜひ、読んでもらいたい一冊で、パーパス経営を導入する際のバイブルになります。組織と個人のパーパスを結びつけることで、組織の雰囲気が変わり、業績をアップできるようになります。


 

 

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