マッピング思考―人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」(ジュリア・ガレフ)の書評

child looking at map

マッピング思考―人には見えていないことが見えてくる「メタ論理トレーニング」
ジュリア・ガレフ
東洋経済新報社

本書の要約

マッピング思考を取り入れることで、思考のバイアスに陥らなくなります。地図を描くように物事を俯瞰的に捉えるようにすることで、結果を出せるようになります。個々の賭けの成功率はが低くても、賢い賭け方を長く続けていれば、トータルでの成功率は高められます。途中である程度の失敗は避けられませんが、長い目で見れば全体的にプラスにできます。

マッピング思考とは何か?

物事を多面的に見つめることで、恐怖や不安に対処する方法を見つけられるようになる。大胆にリスクを取り、逆境でも粘り強く努力を続けられるようになる。他人に影響を与えたり、説得したり、意欲を引き出したりすることがスムーズになる。(ジュリア・ガレフ)

作家でポッドキャスターのジュリア・ガレフは、マッピング思考を取り入れることで、思考のバイアスに陥らなくなると指摘します。私たちの判断力を妨げているものは「知識」ではなく「態度」で、マッピング思考で地図のように全体を俯瞰し考えることで、正しい答えを導けるようになります。

人間は自分の欠点やミスを認めるのがおそろしく下手だと著者は言いますが、実際、私も自分に都合のよい言葉ばかりを考え、失敗を繰り返しています。自分の希望的な観測にとらわれ、 その証拠になるような情報を探し、納得してしまうのです。

人は信じたいことをなんとしてでも信じたがる。人は信じたくないことに目をつぶる。自分だけは例外だと考えたがる。そして、それに気がつかない。

「動機のある推論」という言葉をご存知でしょうか?心理学者のトム・ギロビッチは「私たちは、何かが事実であってほしいと願うときは”なんとかしてこれを信じられないだろうか?”と考え、それを受け入れるロ実を探そうとする」と言います。逆に、何かが事実であってほしくないと願っているときは、それを拒絶する言い訳を探してしまうのです。

私たちは自分が客観的に思考をしていると考えがちですが、多くの場合は先入観にとらわれ、間違った選択をしてしまいます。正しい結果を得たければ、マッピング思考を取り入れるべきです。

マッピング思考の特長
●地図をつくるように思考する
●「これは本当か?」と自問して自分の考えを決める
●間違いを見つけたら、地図を修正する
●地図をさらに正確にするための証拠を探す

ジェフ・ベゾスはアマゾンを起業する際に、成功する確率を低めの約3割と見積もったと言います。このリスクをどう受け止めるべきか?失敗する可能性の大きさに耐えられるだろうか?80歳になった自分が、人生の決断をどう振り返るかを想像してみました。

ベゾスは、1994年にウォール街の投資銀行をやめてボーナスを逃すことは、数十年後に気にするような問題ではないと考えました。しかし、急成長するインターネットの波に乗るチャンスを逃せば、絶対に後悔すると考え、アマゾンを起業します。

失敗してもかまわない。80歳の自分は、挑戦したことを誇りに思うだろう。(ジェフ・ベゾス)

「自信があれば成功できる」という発想でモチベーションを高めようとする人たちは、失敗の可能性を認めれば、やる気が削がれ、リスクを取ろうとしなくなります。彼らは「絶対に失敗しない」と固く信じ、行動することが、成功を目指す秘訣だと考えます。

一方、ベゾスは事前に失敗の可能性を受け入れ、さまざまな選択肢のリスクを評価し、行動しかたらこそ成功できたのです。テスラのイーロン・マスクも事前の成功確率を低めに見積もり、未来からバックキャスティングします。失敗の確率が高くとも電気自動車に賭ける意味があると考えた上で、マスクはテスラを起業します。このように事前に失敗との確率に折り合いをつけることで、人は目標に邁進できるようになるのです。

個々の賭けの成功率はが低くても、賢い賭け方を長く続けていれば、トータルでの成功率は高められます。途中である程度の失敗は避けられませんが、長い目で見れば全体的にプラスにできます。失敗することはあっても、それは許容範囲内だと考えることで、チャレンジを続けるモチベーションが生まれます。

思考の罠に陥らない8つのステップと1つの習慣

思考の罠に陥らないためには、以下の8つのステップを確認しながら、思考しましょう。
①なにかを判断するときは、自分の判断に影響を与えているのはどんなバイアスなのかを自問自答し、関連する思考実験(部外者テスト、同調テスト、現状維持バイアステストなど)を行なってみる。

②なにかを断定的に主張している自分に気づいたら(例「絶対に○○だ」)、本当の確信度はどれくらいかを自問してみる。

③「そんなこと現実にはならない」といった合理化によって、不安をごまかしたくなったら、もしそれが現実になったらどう対処するか、具体的な計画を立ててみる。

④あるテーマについて意見が異なるが、発言が理にかなっていたり、共通の認識を持っていたりするために、自分の思考に影響をおよぼすような作家やメディア、情報源を見つけて、意識的に耳を傾けてみる。

⑤誰かが「非合理」「非常識」「無礼」な行動をしていると感じたら、相手がそれを意味のあるものだと見なしている可能性と、その理由について考えてみる。

⑥少しでもアップデートできる機会はないか探す。自分の考えに微妙にり当てはまらない例外的な出来事や、自分の意見への自信がわずかに薄れてしまうような事実がないか、日ごろから注意する。

⑦過去に誰かと意見が違ったが、その後に自分の考えが変わったことを思い出し、その相手に連絡して自分の考えがどうアップデートしたかを伝えてみる。

⑧自分が抱いている強い信念を挙げ、逆の立場になってイデオロギー・チューリングテストをしてみる(その内容を評価してくれる、反対意見を持つ人を見つけられればなお望ましい)。

この8つのステップに加えて、身につけておくべき習慣がもう1つあります。

それは「自分が『動機のある推論』をしていないか、常に注意すること」だ。そしてこの推論をしていることに気づけたら、それを堂々と受け入れること。くり返しになるが、人間は生まれつき「動機のある推論」をしてしまう生き物である。その点に無自覚だとしても、自分がこの推論をしていないことの証明にはならない。それを減らしていくためには、逆説的だが「自分だっていつもしてしまっているな」ということを「自覚する」のが欠かせないステップになる。

正しい選択をするためには、地図を描く場合のように、物事を俯瞰(ふかん)的に捉えるマッピング思考を取り入れるという著者の主張には共感を覚えました。

成功の確率を冷静に見極め、自分の力を過信しないようにしましょう。失敗することを想定し、リスクを明らかにすることで、人はいくつかの選択肢を用意し、そこから正しい判断ができるようになります。


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