エコシステム・ディスラプションによって、アマゾンがアレクサで勝者になれた理由。

Amazon Echo dot

エコシステム・ディスラプション―業界なき時代の競争戦略
ロン・アドナー
東洋経済新報社

本書の要約

エコシステム・ディスラプションの本質は、新たな価値構築を展開することにあります。そして新たな価値構築は、パートナーや活動が新たに連携することに依存するのです。アマゾンはこのエコシステム・ディスラプションを活用し、パートナーを集結させることで、スマートスピーカーにおいて成功を手に入れました。

エコシステム構築の主要プロセス3つの原則

エコシステムのディスラプターは、産業セクターの価値構造を変化させ、そうすることで隣に新しいものを作り出す。ディスラプターの参入後は、それまで別々だった業界が統合され、業界の枠が変化する(たとえばアップルはスマートフォンのイノベーションで、MP3プレイヤーと電話を統合させた。(ロン・アドナー)

ダートマス大学タックビジネススクール教授のロン・アドナーエコシステム・ディスラプション―業界なき時代の競争戦略書評を続けます。今日はアマゾンのアレクサのエコシステムを紹介しながら、どうすればエコシステムを構築できるかを考えてみます。

従来の破壊とエコシステム・ディスラプションには、競合を増やすか、競合を定義し直すかの違いがあります。エコシステム・ディスラプションの本質は、新たな価値構築を展開することにあります。そして新たな価値構築は、パートナーや活動が新たに連携することに依存するのです。

ディスラプターの参入で、やがては競合も反応することになるが、模倣しようとしてもうまくいかないことが多いと著者は指摘します。競合は価値構築が作り出されて重要なパートナーが連携するプロセスではなく、提案の形に注目してしまいます。

本を配送するEコマースだったアマゾンは、アップルやグーグル、マイクロソフトといった競合に打ち勝ち、スマートホームというマーケットでリーダーになることに成功します。

そのために、彼らは新たな価値構築を用いました、彼らは以下の2つのルールを採用しました。
①単独で行わないこと
②一度に行わないこと

企業が単独で、新しく刺激的な価値提案の基盤となる価値要素をサポートするのは難しい。パートナーをひきつけて連携できるかどうかに成功はかかっている。エコシステム・ディスラプションを起こすうえで重要なのは、これから戦う新たなゲームに他のプレイヤーを引き込み、しかもかかわりたいと思わせること、つまりエコシステムを思い描くのではなく、実際に構築する方法を見つけることである。

エコシステムの構築こそが、エコシステム・ディスラプションの核心となります。

エコシステム構築の主要プロセス3つの原則
原則①最小限の要素で構築する  
最小限の要素によるエコシステム(MVE・Minimum Viable Ecosystem)は、新たなパートナーを迎えるのに必要十分な裏づけを示すことのできる、最小限の要素を持つエコシステムになります。

MVEの目的はパートナーを引き込むことであり、MVEの段階における顧客の重要な貢献は、利益に寄与することではなく、パートナーのコミットメントを強化するための裏づけを用意することにある。 MVEを特定することは、つまり、価値創造の大きな理想と、パートナー参加の現実との間にある緊張関係に向き合うことを意味する。行き先をよく考えて出発し、次にそこに至る道筋を特定する作業となる。

パートナーを増やすことは、価値構造を作り、価値提案の約束を果たすための鍵となります。

原則② 段階的に拡張する
MVEが構築されると、何を最初に行うかから、次に何をするかに課題が変化します。「段階的拡張」の原則は、MVEの次の段階で、どのパートナーあるいは活動を、どの順番で導入するかを明確にする必要性を示します。

パートナーを迎えるのには、2つの明確な目的があります。
①パートナーは価値構造を作る
②パートナーを迎える下地を作る。

黎明期のパートナーの役割は、利益をあげることではなく、後続のパートナーを引き込み、彼らが確信を持って参加できる裏づけを作ることにあります。パートナーが増えれば価値構造は強化され、ひいては価値提案も強化されるのです。

原則③ エコシステムを継承する  
「エコシステム継承」の原則は、あるエコシステムで構築された要素を活用して2つ目のエコシステムを構築する可能性に焦点を当てたものになります。エコシステム1に参加したパートナーがとどまり、エコシステム2のMVEのきっかけとなってくれます。エコシステムの継承は、成長と拡大のための強力な推進力となります。

エコシステム構築の3原則は、価値構築の創出と、それによる価値提案の創出を解明するものになります。エコシステム戦略で最も重要なのは、パートナーとの連携を遂げることにあります。連携がなくては、ディスラプションは夢物語に終わってしまうのです。連携が実現されれば、ディスラプションは驚異的なものになる可能性があることをアマゾンが証明したのです。

アマゾンのエコシステムとは?

2014年11月にアレクサ(Alexa)を搭載したスマートスピーカーのエコー(Echo)を発表した当初、同社は音声アシスタントをめぐるレースで場違いな負け犬だった。

現在、スマートホームでアマゾンは支配的な立場にありますが、2014年当時はわずか4種類の電子機器製品ラインを発売していたにすぎませんでした。
・キンドル(Kindle)
・失敗に終わったファイアフォン(Fire Phone)
・ファイアタブレット
・ファイアTVスティック  

競合は
・アップルのシリ(Siri)
・グーグルのナウ(Now 後のグーグルアシスタント)
・マイクロソフトのコルタナ(Cortana)だった。

レースの序盤では、アマゾンの技術力は明らかに劣っていました。アマゾンが音声アシスタント「アレクサ」を、黒い円柱形の「エコー」スピーカーに入れたことで、競合はその倍以上になりました。

ボーズやJBL、ソノスなどの既存スピーカーメーカーの製品のほうが音質はずっと良く、周辺機器やネットワーク への接続性に優れ、すでにスマートフォンとの連携も行われていました。この不利な状況をアマゾンはエコシステム・ディスラプションによって打開していきます。

アマゾンは2021年までに、スピーカーと音声認識というそれまで別々だった業界を一つにし、その結果生まれたスマートスピーカー市場を支配し、その統合を利用して、来たる第3のレースでポールポジションについた。

アレクサは強敵が多数いるスマートホーム市場に参入した際、パートナーに焦点を当てたアプローチで市場を再定義しました。わずか4年間で、ハネウェル、GE、AT&T、アップルやグーグルなどの業界の巨人に勝利したのです。

世界のスマートホーム市場は、2017年から2022年の間に年率14.5%で上昇し、534億5000万ドル規模になると予想されていました。アマゾンは価値提案を支える適切なパートナーを集めて、消費者に相互運用性や利便性、機能性を提供するというビジョンを示し、それを実行に移すことで勝利を手に入れたのです。

■第1段階 MVEの構築
2014年11月に発売されたアマゾンのエコースピーカーは、プライム会員のみに販売されました。基本的な音声による指示で、プライムミュージックで楽曲を聴くことや、初歩的な音声認識アプリケーション(天気や時間など)を採用していましたが、特に目新しさはありませんでした。それどころか、アレクサ搭載のエコーの性能は発売当初、市場の先行者たちが設定した基準を大幅に下回るものでした。

しかし、音声コントロールができて、無料音楽ストリーミングを利用できる平凡なスピーカーが、アーリーユーザーを引き寄せます。彼らの第1段階の目標は、市場を圧倒することではなく、MVEを構築し、進化の準備を整えることだったのです。

プライム ミュージックがエコーより先に開始していたことで、重要なパートナーである音楽会社は、期せずしてアマゾンのスマートホームのMVEの一員になりました。エコー展開は当初、消費者市場での大きな成功を収めるというより、パートナーのためのごく小さな基盤を築く目的を持っていました。彼らは売上やマーケティングではなく、実際に利用してフィードバックをもらうことに焦点を当てていたのです。

ユーザーが使えば使うほどデータが増え、それがアルゴリズムを洗練させ、ひいてはパフォーマンス向上につながります。このプロセスを加速させるうえでユーザーの利用データほど有用なものはなく、これこそが、アレクサの第1段階の要だでした。

■第2段階 スキルの拡張
アマゾンは、アレクサ・プラットフォームで使える「スキル」(機能)の拡張に着手しました。スポティファイやiTunes、そしてパンドラで、音声アシスタントを提供しました。この第2段階では、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を通じて展開された機械学習アルゴリズムを活用しました。AWSが提供するクラウドベースの大規模ネットワークコンピューティング機能によって、アレクサのAIは進化し、より優秀になりました。

その後、ドミノ・ピザのオーダー、グーグルカレンダーとの同期などのスキルを進化させたのです。これ以降、アレクサが意義あるプラットフォームとなる可能性がある、ある いは、なるはずだと開発者たちが考えるようになったのです。

アレクサが開拓した音声認識インターフェースは、そのスキルの進化が決め手となり、信頼を得られるようになっりました。さらに、やり取りのたびにデータが追加され、それがアレクサのアルゴリズムをさらに的確で賢いものにしていったのです。

■第3段階 開発者向けのスキルキット
アマゾンは次にアレクサのインターフェースに変更を加えて、ライバルのプラットフォームと比べて新たなスキルを作り出しやすいものにしました。アレクサ・スキルキット(ASK)を発表し、外部の開発者がアレクサの新機能を作り出せるようにしました。

同社は開発者のコミュニティに対し、ASKを使って新たな音声スキルの開発を外注することにしたのです。2015年末には、音声技術にイノベーションを起こす開発者や企業を支援する目的で、1億ドルを投じてアレクサ基金を創設しました。

使われるたびにアマゾンはデータを蓄積してAIを強化し、それがアレクサの機能を向上させ、同時に新たなユーザーや開発者をひきつけ、プラットフォームを充実させていった。

アレクサのスピーカーを拡充することで、2017年の終わりまでには、アマゾンは従来のスピーカーメーカーやスマートスピーカーの競合を抑えて、世界最大のスピーカーブランドとなっていました。

エコーデバイスの種類は増えたものの、形は違ってもアレクサのプラットフォームという点ではまったく同じであり、使うたびにより優秀かつ的確になっていました。

第4段階 ワークス・ウィズ・アレクサ(他社製品の互換性認定)
ユーザーと開発者の両方で結果を出すために十分な数を得たアマゾンは、第4段階に入り、スマートホームのハードウェアメーカーを取り入れることにしました。

2016年には、他社製品との互換性を認定するワークス・ウィズ・アレクサ(WWA)を発表しました。これがさらなる転換点となりました。GEは、冷蔵庫や食洗機、オーブン、コンロ、洗濯機といった家電製品シリーズを、アレクサに対応させました。

コネクテッド家電(つながる家電)をアレクサと統合することで、ユーザーの生活がより便利で生産的なものになると考えた家電屋照明メーカーが続々とアレクサ対応の製品を発表しました。

■第5段階他社製品に搭載され、アレクサが頭脳になる
遂にはアレクサの音声機能が、他社製ハードウェアに対応するだけでなく、搭載されることになりました。アレクサ音声サービス(AVS)は当初、サードパーティーのハードウェアメーカーに無料で公開されました。各社はツールを用いて、アレクサを自社製の照明器具やテレビ、温度調節機などのハードウェアに簡単に搭載できるようになったのです。

ユーザーはエコーに向かって「明かりをつけて」と言う代わりに、スイッ チに直接話しかけるようになりました。これは互換性から統合への、そして、オプション機能としてのコネクションから、搭載された頭脳への大躍進だったのです。

2019年9月には、どんな装置も簡単に「スマートデバイスとする」アレクサ・コネクト・キット(ACK)モジュールが発表されました。これによって製品メーカーは、約7ドルの装置で、時間が経つほど賢くなるアレクサ搭載製品を製造することが可能となりました。

アマゾンはアレクサをプラットフォームとして巧みに定義し直しました。アレクサ搭載製品の数(パートナー)が増えることで、アマゾンは圧倒的な優位性を確保したのです。

私たちは、この快挙を意外だとは思わない。さらに発展すると期待してもらいたい。他社や開発者がアレクサの採用をさらに加速させる重要な地点に到達したのだ。(ジェフ・ベゾス)

アレクサ成功の決め手は、段階的なアプローチをとり、必要なパートナーを引き込むことでした。アマゾンがエコーの将来の姿について、明確なビジョンを持っており、各ステップでやるべきことを明確にし、パートナーを取り込むことに成功します。アマゾンは段階を踏んで、自らが設計、構築したエコシステムをリードしました。

エコシステムの成功を阻む最大の課題は、ほとんどの場合、ビジョンでもテクノロジーでもありません。エコシステムで最も難しいハードルは、信用できるパートナーを得て、協力してもらうことなのです。アマゾンがスマートホームのリーダーになれたのは、パートナーとのWin-Winの関係を作れたからなのです。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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