オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題(川島隆太)の書評

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オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題
川島隆太
アスコム

本書の要約

スマホ・タブレット・パソコンなどのデジタル機器を、オンラインで長時間使いすぎることによって、脳にダメージが蓄積され、脳本来のパフォーマンスを発揮できなくなっています。このオンライン脳に陥らないためには、できるだけデジタルでのコミュニケーションを避け、リアルでの面談を増やし、脳を使い倒すべきです。

オンラインコミュニケーションで共感は生まれるか?

オンラインコミュニケーションでは、「脳がほとんど使われない」「ボーッとしているのと同じ」「脳の活動を抑制する」「心と心がつながらない」「共感を生んで協調関係を築くことができない」「子供の成績が下がる」ーこんな研究結果が出ています。(川島隆太)

コロナ禍以降、私たちの働き方は変わり、オンライン会議が当たり前になりました。オンライン会議は肉体の移動がないため、とても楽にコミュニケーションを行えます。しかし、脳科学者で東北大学の教授の川島隆太氏は、ここに大きな問題があると指摘します。

対面コミュニケーションでは、実際に人と接することで、脳がさまざまな刺激を受け、活発に働きます。オンラインでは「楽」をした分だけ刺激が少なく、脳の一部しか働かないと言うのです。

川島教授の実験によると、対面会話では参加者それぞれの間で「共感」が生じたのに対し、オンラインのウェブ会話ではそれが生じませんでした。「相手の気持ちを思いやりながら行動する」側面に注目することで、コミュニケーションの質がオンラインとリアルのミーティングでは異なっていたのです。対面でお互い顔を見ながらよいコミュニケーションがとれた場合には、お互いの脳活動が「同期する」という現象が起こります。

一方、オンラインでは脳が「同期しない」という実験結果が出ました。脳活動が同期しないということは、オンラインでは、コミュニケーションが取れていないと言うことです。情報は伝達できたとしても、感情は「共感」していないと言う中途半端な結果がもたらされます。

この状態が続けば、「人と関わってはいるけれど、誰とも心がつながっていない孤独感」という矛盾をいつも抱えることになります。

コロナ禍に見舞われて急増し、人びとがさかんに利用しているオンラインコミュニケーションは、脳にとってはまともなコミュニケーションになっておらず、その脳の状態はとくに何もしていない場合と同じである、ということが実験から科学的に、はっきり確かめられたのです。

人と人のコミュニケーションでは、「脳の活動が同期する状態」と「共感が生まれて協調や協力ができている状態」は同じことを意味します。オンラインコミュニケーションでの会話では、お互いの共感が得られないことが明らかになりました。

オンライン脳から自分を守る方法

人は、対面で視線を合わせることで共感が得やすい、と心理学でもいわれています。動物と違って、視線を合わせることで心を通じ合わせてきた人類にとって、パソコンなどのカメラと画面で微妙にずれた視線では、心が動くコミュニケーションがとれないのです。

人同士のコミュニケーションでは、相手の視線が自分を向いていることが、相手が自分に興味や関心を持っていることを示す、きわめて重要なサインになりますが、オンラインではこの視線を合わせることが難しくなります。特に画面が小さいスマホでのオンライン会議では、そのハードルが高くなります。

著者はオンライン脳を以下のように定義します。
オンライン脳→スマホ・タブレット・パソコンなどのデジタル機器を、オンラインで長時間使いすぎることによって、脳にダメージが蓄積され、脳本来のパフォーマンスを発揮できなくなった状態。

このオンライン脳になった世代が社会の中心になったとき、ネガティブな現象がたくさん現れて、「ゆとり世代」のように「コロナ世代は」と否定的な文脈で呼ばれることを著者は危惧しています。

オンライン会議を多用すると、協調関係を築くことができない、子どもの成績が下がるなどの研究結果が次々と出ています。私たちはオンラインコミュニケーションのリスクを認識し、その対策をとるべきです。

オンラインコミュニケーションが、人々を孤独にすることもわかっています。便利なツールが普及すればするほど外出が減り、人々の孤立化が進んでしまうのです。

心理学やセラピーで使われている言葉でいえば、コミュニケーションの”ゴール”は「ラポール」の形成、言い換えれば「相互信頼関係」の形成にあるだろう、と私は考えています。そこまでいけば、コミュニケーションがうまく成立した、といえるでしょう。 オンラインコミュニケーションの氾濫によって、信頼関係が築きにくくなっています。これが私たちが直面している、きわめて深刻な問題なのです。

スマホの長時間使用など、双方向性でスクリーン・タイムが長くなると、「大脳灰白質」(大脳皮質も同じ。大脳半球の表面を占める薄い層で神経細胞が並ぶ)と「大脳白質」(皮質の内側に白く見える部分で神経線維の層)の両方が、かなり広範にわたって発達に遅れが生じます。

インターネット習慣がない、または少ない子どもたちは、3年間で大脳灰白質の体積が増加していました。ほぼ毎日インターネットを使う子どもたちは、増加の平均値がゼロに近く、ほとんど発達が止まっていました。スマホを多用すると脳の機能が低下してしまうのです。

東北大学の学生を対象にした調査によると、スマホを頻繁に使う人ほど、感情のコントロールが難しくなったり、うつ状態になりやすかったといいます。 コロナ禍による人と人の交わりの欠如、コミュニケーションの断絶は、デジタルデバイスやネットを使うオンラインコミュニケーションでは、充分に補うことができません。

オンライン脳の解決策はデジタルデトックスです。 子どもをスマホやテレビなどのデジタル機器に触らせず、強制的に引き離すための4週間プログラムが、すでにアメリカでおこなわれています。情報機器から距離を置くことが子供の脳を守るのです。

多くの人は、水が低きに流れるように、易きに流れてしまいます。誰もが面倒くさくないほうへ、やりやすいほうへ、楽なほうへと行きたがります。オンラインは楽です。楽だから、みんなやっているのです。 その結果、「オンライン脳」の状態が長引いてしまい、悪影響が生じています。

コミュニケーションがベースとなるような仕事は必ず対面でやることで、私たちは結果を出せるようになります。大事なミーティングはリアルで行い、定例のミーティングなどはオンラインでやるなど使い分けが肝心です。

楽な環境に身を置くことに慣れると、人の超えられるハードルはどんどん低くなっていきます。脳は、使わなければ使わないほど、その能力を急速に失っていきます。

オンラインに頼って使うべき脳を使わなければ、コミュニケーション力をはじめとした、人間に必要な能力はどんどん失われていきます。重要なことはオンラインではやらないと言うルールを決め、自分の脳を守りましょう。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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