同調しない組織文化のつくり方 (アダム・グラント)の書評

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同調しない組織文化のつくり方
アダム・グラント
ダイヤモンド社

本書の要約

組織が意見対立の尊重を重視することで、よいアイデアが生まれるようになり、イノベーティブな組織へと進化します。従業員が批判的な意見を率直に表明でき、そのことによって尊敬されるような環境をつくり出すことが、経営者やリーダーの重要な役割になっています。

イノベーションを起こせる組織とは?

みんなが同じような思考をしてしまう企業は、いずれ立ちゆかなくなるものだ。それを避け、イノベーションや変化を促進するためには、同調しない文化をリーダーが意識的に組織内に醸成しなければならない。これは筆者の10年近い研究の結果、さほど難しいことではないことがわかった。(アダム・グラント)

ペンシルベニア大学ウォートン校教授のアダム・グラントは、リーダーの重要な資質として、組織の団結とクリエイティブな意見対立とをうまく両立させていくことが必要だと述べています。同質な人が集まる組織からはイノベーションは生まれず、やがてその企業は衰退していく運命を辿ります。

イノベーションを起こしたければ、従業員にアイデアを出す機会とインセンティブを与え、そのアイデアを検証する適切な人材を、実力主義に基づいて、確保することから始めましょう。その際、リーダーは、組織の団結とクリエイティブな意見対立とをうまく両立させることが求められます。

海軍はイノベーションの大規模なタスクフォースを立ち上げましたが、それは20代、30代の下級将校のボトムアップから始まりました。ベン・コールマンという若いパイロットがイノベーションを率先しましたが、彼の評価はトラブルメーカー、破壊者、異端者というものでした。

コールマンは海軍に初めて、スピーディなイノベーションのための小集団「ラピッド・イノベーション・セル」をつくり、そこから変化を起こしました。独創的思考を持つメンバーのネットワークをつくり、協力して、海軍の固定観念に疑問を投げかけ、新しいアイデアを生み出していったのです。

この集団は海軍のエリートではなく、調和を乱す行動の前歴がある者で構成されました。海軍全体でイノベーションを活発化して維持するために彼は同調しない文化をつくる作業に取り組んみました。現状維持に異議を唱えることなど考えもしなかった水兵たちに声をかけ、新しい思考法に触れさせました。

メンバーはイノベーション能力を持つ外部の組織であるグーグル、ロッキーマウンテン研究所などを訪問したり、イノベーションの学びを得るためにシラバスを読んだり、自由時間やオンラインフォーラムでも定期的にアイデア を議論しました。

彼らはまもなく、船上での3Dプリンターの使用や、ステルス潜水任務でのロボットフィッシュの使用の先駆者となるなど海軍に新しい動きをもたらしました。コールマンは同調しない文化をつくり上げ、海軍をイノベーションを起こせる組織に変えたのです。

一般スタッフに対してイノベーションの機会や権限を、きちんと与えているリーダーはあまり多くありません。斬新なアイデアや組織への活力を得るためにリーダーが実施していることといえば、起業家精神も持った才能のある外部人材を採用することだけです。

こういった人材に多様る方法は間違っていると著者は指摘します。最も優秀なイノベーターは特別な才能を与えられた特殊な人間だという思い込みに基づいたものですが、各種研究によると、起業家の中でも長期にわたって成功しているのはリスク回避型の人々であることがわかっています。

異才の人々は短期的に華々しく活躍しても、いずれ消えてしまう傾向がある。したがって一部のずば抜けた人々夢のようなクリエイティブな経歴を持つ人材に頼るのは、近視眼的で、それ以外の人々の力を見くびった方法である。実際にほとんどの人が、斬新な思考や問題解決という点で相当優秀な力を持っている。ただしそれが発揮されるのは、組織が調和の押しつけをやめた時だけだ。

みんなが同じような思考をし、主流派の規範に固執しているような企業は、変化に適応できずに、いずれ立ちゆかなくなります。

イノベーションや変化を効果的に推進するためには、リーダーが組織内に独創的な思考を維持する必要があります。著者は10年に及ぶ研究から次の3つの事実を明らかにしました。
①第一歩として従業員にアイデアを生み出し続ける機会とインセンティブを与え、部門や職務にかかわらず、誰もが因習を打破できるようにすること
②それと同時にアイデアを厳しく検証する適切な人材を確保すること(実力主義を徹底する)
③洗練されたアイデアを長期的に創出・選択し続けるために、組織の団結とクリエイティブな意見対立とをうまく両立させること

社員の力を引き出し、アイデアの量を増やす方法

同調しない組織をつくるためには、リーダーは採用にも注意を払う必要があります。同じような人材ばかり募集し、採用し、維持し続けると、思考や価値観の多様性が犠牲になります。このような集団では、従業員は同調するか出ていくかの二者択一を強く迫られてしまいます。

同じようなメンバーが集まり、強力な文化を持つ集団は、視野の狭さが仇となって、状況変化に適切に対応できない場面に遭遇します。また、優秀なメンバーを集めても、彼らのアイデアを引き出せなければ、イノベーションは起こせません。

団結と対立は相容れないように感じられますが、この2つを上手に組み合わせることで、新鮮なアイデアがもたらされ、強力な文化に対する盲信を回避できるようになります。

多くのリーダーやマネジャーが最終的に調和を促進することに落ち着きますが、これは彼らが自尊心を重視するために起こる現象です。調査によるとマネジャーに不安感がある場合、アイデアを探求しなかったり、提案にネガティブな反応を示します。他のメンバーは敏感にこのことを察知して、自分のアイデアを引っ込めてしまうのです。

上司に公然と異議を唱えるように奨励することで、社員のよいアイデアを引き出せるようになるのです。独創性の文化を開花させるためには、従業員がそれぞれの最も大胆なアイデアを、自由に提案できる状態をつくる必要があります。 従業員は、声を上げることに恐怖を感じがちなので、実際に発言しても問題がないということを徹底すべきです。

アイデアを出したメンバーのアクションを称賛したり、リーダー自身が無謀なアイデアを共有することで、アイデアを提案しやすくなります。独創的で優れた思考を促進するためには、通常よりも範囲を広げて多くのメンバーの知見を求めることが重要だと著者は指摘します。

クオリティを最大限に高めるには、少なくとも200以上のアイデアを組上に載せる必要があることが実証されているのだ。

スタンフォード大学教授のロバート・サットンによれば、ピクサー・アニメーション・スタジオの映画『カーズ』は、約500の提案の中から選ばれたことがわかっています。また、玩具メーカーのフィッシャープライスやマテルのための玩具デザインを手がけるスカイラインでは、従業員が新たな玩具のコンセプトを1年に4000件も提出するそうです。ここからスケッチやプロトタイプの作成に進むのは230件、最終的に開発に至るのは、わずか12件だと言います。

日々の生産性を犠牲にしたり従業員を疲弊させたりすることなく、バラエティに富んだ大量のアイデアを生み出せるようにする方策があります。 調査によると、守勢に回って競争を回避しようとする企業は、マンネリに陥ります。従業員が視点を変えて多くのアイデアを生み出せるようにするには、攻めの姿勢を取らせるとよいのです。

カーネギーメロン大学教授のアニタ・ウーリーによると、攻めのマインドセットが「機会を追求すること」に意識を集中するのに対し、「守りに入った人は市場シェアの維持をより重視する」のです。

集団ではなく個人のアイデアを求める過去数十年間にわたる調査によれば、人は集団でブレインストーミングをした時よりも、別々の部屋に分かれて1人で作業した時のほうが、考えつくアイデアが質・量ともに向上したそうです。

みんなで集まってアイデアを出し合うと、一部の強い意見にアイデアが集約されてしまうという問題を抱えます。メンバー個々が考えた素晴らしいアイデアの多くが、グループに共有されずに終わってしまうのです。一部の参加者が議論を支配する一方で、それ以外の参加者は馬鹿にされないようにと発言を控え、全体として多数派の意見に落ち着いてしまい、結果、つまらないアイデアが採用されてしまいます。

この問題には「ブレーンライティング」で対処できることが実証されています。これを実践するには、すべての可能性が議論の対象になるように、各自が自分のアイデアを考えてからそれらを持ち寄って集団で検証するように指示すればよいのです。

メガネ小売りのワービーパーカーでは、従業員が週に数分を割いてイノベーションのアイデアを書き出し、同僚に見せてコメントをもらうことで、よいアイデアを量産しています。

集団で議論させると、従業員は奇抜な提案を控えることが多い。そのため、アイデア出しのための短時間の一対一のミーティングを計画することもアイデア収集の一つの戦略になる。

何を提案してもどうせ聞き届けられないという思いを従業員に抱かせないように、役に立つアイデアを選り分けるそして最高のアイデアに見返りを与え、その実現を目指すシステムが必要になります。

実は、このアイデアを出すためのメソッドがこの日本で開発されています。アドバイザーとしてお手伝いしているモウトレというプログラムを使うと、社員の独創的なアイデアを引き出しながら、他のメンバーとのアイデアも同時に掛け合わせることができるようになります。

私もこのモウトレを何度か経験し、このサービスの効果を実感しています。社員がアイデア出しに躊躇せずに、心理的安全性を確保できるサービスになっています。私が教えているiU大学の学生からも好評を得ています。サービスの詳細はこちらのページをご覧ください。

組織が意見対立の尊重を重視することで、よいアイデアが生まれるようになり、イノベーティブな組織へと進化します。従業員が批判的な意見を率直に表明でき、そのことによって尊敬されるような環境をつくり出すことが、経営者やリーダーの重要な役割になっています。



この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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