<令和版>プライマリー・バランス亡国論 PB規律「凍結」で、日本復活!
藤井聡
扶桑社
本書の要約
PB(プライマリーバランス)規律が日本人を貧しくしています。政府の「PBの改善」は「国民の貧困」を導き、政府の「PBの悪化」は「国民の裕福さ」を導きます。PB改善を推進することが「国民の貧困化」をもたらします。この状況を打破するためには、金融政策だけでなく、積極財政を採用すべきです。
「PB(プライマリーバランス)規律が日本をダメにする?
全世界を巻き込んだコロナ・ショックから各国が「脱却」し、デフレに陥ることなく成長軌道に各国経済をもっていくことに成功している中、わが国日本一国だけが取り残され、世界で唯一のデフレ国家となってしまった。(藤井聡)
世界各国がコロナを過去のものとし、日常を取り戻す中、日本経済のみが蚊帳の外になっています。欧米はインフレが起こる中、日本は相変わらずデフレに苦しんでいます。その理由を著者は日本の厳しすぎる財政規律にあると指摘します。このコロナ禍の中で日本を「世界一」衰退させてしまった張本人は、現政府の財政規律一辺倒の政策なのです。
この状況に危機感を持っている一部の政治家は「財政規律」維持しようとする財務官僚と戦っています。再び日本経済が成長できるようなものに「改善」するためには、極端な財政規律を見直すべきです。財政規律を守り続けたために、この数年で日本人の貧困化は止まらず、最近の円安がその貧しさを加速しています。
2019年、消費税10%の引き上げが実施されて以降、日本経済は大きなダメージを受けていましたが、その直後には新型コロナウイルスパンデミックが日本を襲ったのです。
世界各国は「政府支出」を最大の武器として戦い、一定の成果をあげ、コロナ禍から立ち直りましたが、日本だけが、過剰な財政規律であるPB(プライマリーバランス)規律に固執し、取り残されてしまったのです。コロナ禍から抜け出せず、消費税増税前の水準に経済を戻せていない日本の状況は、PB規律に理由があるというのが著者の主張になります。
他国に見劣りはしましたが、日本政府もコロナ対策を行いました。2020年は税収で賄った政府支出は全体の3分の1に過ぎず、残りの3分の2は国債(借金)で賄いました。
こうした「借金」が増え続けると日本が「破綻」すると財務官僚は喧伝し、毎年毎年の借金に「歯止め」をかける仕組み=プライマリー・バランス黒字化目標をつくりました。PB規律を厳しくすることで、日本は成長しない国家に落ちぶれてしまったのです。2010年以降支出が大幅に絞られるようになり、経済は低迷します。PBを改善するために財務官僚は増税と歳出拡大の抑制を行い、日本国民の暮らしを貧しくしたというのがこの10年の流れになります。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。政府がPBを改善しようとして無理矢理に支出を縮小すれば、経済は悪化し、税収が縮小してしまうのです。
支出を無理矢理削れば収入が減るのだから、PB改善のために支出を無理矢理削らず、成長させ、税収を増やしていくことが大切だ。そうすれば、財政も健全化していく。
実はプライマリーバランスによって破綻した国が2つあります。一つがアルゼンチンでもう一つがギリシャになります。両国はPB目標のための「緊縮」財政(増税と歳出カット)に真面目に取り組み、その目標を達成した途端、景気が悪化し、税収が減り、挙げ句に政府が「破綻」(デフォルト)状態に陥ってしまったのです。
緊縮財政をやめ、積極財政に転換すべき理由
プライマリー・バランス目標を掲げた政府は、「増税」と「歳出カット」という「緊縮」財政を通して、その赤字を縮小させようとする───これが、実際にアルゼンチンやギリシャで起こったことだが、これと同様のことが、わが国日本でも行われている。
増税を行い、歳出を制限すると国民の所得が減ってしまいます。2013年から2015年にPB赤字は10兆円縮小しました。政府が10兆円の経済活動を縮小させるということは、「政府が国民から買う財やサービスの量が10兆円減った」ことになります。政府が国民に支払うカネを10兆円減らした結果、国民は10兆円分貧しくなってしまったのです。国民一人当たりに直すと、約10万円の消費が消失し、国民は以前より貧しくなっています。
政府の「PBの改善」は「国民の貧困」を導き、政府の「PBの悪化」は「国民の裕福さ」を導きます。PB改善は、「国民の貧困化」をもたらします。「政府の黒字」は「国民の赤字」であるという事実を国民はもっと理解すべきです。
日本企業の最大の顧客である日本人の「消費」が10兆円規模で縮小してしまったために、企業も投資を控えます。「投資」を行うにしても、その投資行為に対して消費税がかかってくるため、増税後には民間投資にブレーキがかかり、消費と設備投資の両方が落ち込んでいったのです。
日本も少なくとも欧米並みの成長率を確保できていたとすれば、当たり前だが、未だに日本は世界の経済大国として君臨し続けていたわけだ。つまり、成長率の鈍化は、10年、20年という時間をかけて、一つの国を、トップの大 国から「中進国」「後進国」へと凋落させる恐ろしい力を持っているのである。
消費増税は、短期的に需要を棄損し、景気後退、経済規模縮退を導くのみならず、それを通して、日本の成長の源泉たる「供給力」や「生産性」、つまり「経済競争力」を抜本的に毀損します。
8%に消費税が増税された時点(2014年4月)から、コロナ禍が本格化していく時点(2020年3月)までの6年間で、2度にわたる増税が行われた現状と、それらが行われなかった場合を想定した推計値とを比較したところ、消費増税によって累計で約40兆円もの民間投資が失われてしまったことが明らかになっています。
「消費増税によるPB改善」は、庶民の暮らしを貧困化させただけでなく、日本経済の供給力、生産力、そして国際競争力を、わずか7年の間に40兆円という巨大な水準で破壊してしまったのです。
デフレから脱却するためには、①PBを改善する、②成長率を確保する、③金利を引き下げる、という3つの政策が必要になります。中途半端な政策はやめ、デフレ脱却まで金融緩和を継続し、積極財政を同時に展開することが欠かせません。結果、税収が増え、中長期的に自ずとPBが改善すると同時に、GDPが拡大し、債務対GDP比は安定化・縮小していきます。
他国からは、PB改善のために緊縮、増税に走った日本は、低成長に苦しむ最悪な国の典型例として扱われています。 海外では短期集中的な「赤字の拡大」で不況を乗り切っているのに対し、日本は緊縮財政で経済をダメにし、国民を不幸にしているのです。日本がアルゼンチンやギリシャにならないようにするために、今こそ大胆な政策転換を行うべきです。
政府関係者は「行政においても民間を見習うべし」と声高に叫ぶが、そうであるなら自らの理不尽極まりない臆病さを猛省し、民間経営者の「アニマル・スピリット」の片鱗だけでも学んではどうだろうか。わが国政府が、デフレを終わらせる「積極財政=PB赤字拡大」が、「財政再建」をもたらす、というこの実証的にも理論的にも明晰に明らかにされている真実に基づいた、冷静かつ理性的、そして幾ばくかの「勇気」のある経済財政運営をなされんことを、心から祈念したい。
この状況を打破するためには、勇気を持った政治家が増えること一番です。今の政策を見直し、不況時の借金をよしとし、消費や投資を拡大すべきです。政府が借金を行い、それを民間へと波及させ、経済成長を目指し、税収を増加させることを目標にすべきです。
日本人が貧しくなったのはPB目標とそれに伴うデフレであるという事実を日本人は理解し、選挙で自分の意見を伝え、変革を起こさない限り、日本はこの泥沼から脱出できず、未来の日本人を不幸にしてしまいます。
コメント