正しいコマーシャルインサイトの作り方。隠れたキーマンを探せ!の書評

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隠れたキーマンを探せ!
マシュー・ディクソン,ブレント・アダムソン,ニック・トーマン
実業之日本社

本書の要約

マーケターが最初にやることは顧客の目標を明確にすることです。その目標に影響を与える主要 ドライバーや二次的なドライバーを特定し、それらの相互関係を図式化していけばよいのです。情報を収集し、結果を検証し、その影響度を話し合い、何度も思考を繰り返すというふうに、これは系統立った有機的なプロセスであることがわかるようになります。

コマーシャルインサイトの作り方

積極的に打って出てインサイトをつくり、検証し、修正し、また検証し、幅広く展開し、行く行くは組織全体の能力にまで高めればよい。その際に使うのは、たったひとつのシンプルだが重要な問いかけに答えるためのツール、戦術、フレームワークである。その問いかけとは、「顧客がみずからのビジネスについて(よくわかっているべきなのに)わかっていない点は何か?」コマーシャルインサイトが何よりも考えようとするのは、この問いである。

隠れたキーマンを探せ!書評を続けます。B2Bマーケティングの常識が変わってきています。プロダクトやサービスに関わるキーマンが増加し、導入のハードルが高くなっています。導入決定者であるモビライザーに的確にアプローチし、彼らをその気にさせるコンテンツ(コマーシャルインサイト)をマーケターは開発することで、値引きなしに相手に購入してもらえるようになります。

自社に対する考え方を変えてもらうためには、顧客が自分自身のマインドセットを変える必要があります。マーケターや営業パーソンはそのためのコンテンツや提案資料を用意すべきです。

今日はケーススタディを通じて、コマーシャルインサイトの開発を学んでいきます。デンツプライ・インターナショナルは、デンタルケアを中心とするヘルスケア製品の製造・販売大手。全世界で幅広い製品を取りそろえ、予防的処置から義歯治療まで、歯科専門家が患者のオーラルケアを生涯サポートできるようにしています。

同社の製品は、一般的な歯科用消耗品から研究用製品、さらには歯列矯正、歯内療法、インプラントといった専門市場向け製品まで多岐にわたります。販売員は歯科医を訪問し、最新のイノベーションを含む同社のさまざまな製品について情報を提供しています。

忙しい歯科医に対して新たな製品にアップグレードさせることはハードルが高い営業になります。同社の最大の課題は現状維持を選択することなのです。

デンツプライは、歯科医の自身のビジネスに対する考え方を変えることに成功します。彼らのアプローチはデンツプライとは関係がないものでしたし、最初は機器にさえ関係がありませんでした。彼らはコンテンツを積み上げながら、デンツプライ製品ならではのベネフィットを思い起こさせる方法を編み出したのです。

同社は画期的な新製品を開発しますが、歯科医は商品の価値を認めた上で現状維持を選択しました。当時のデンツプライは、まずこの買わないというハードルを乗り越える必要があったのです。

歯科医のペインを取り除くコードレスのメリットやそのベネフィットをもっとわかりやすく説明したところで、販売に効果をもたらしません。なぜなら、歯科医は新製品のベネフィットに同意しているからです。

デンツプライが少しずつ気づいたのは、製品販売の最大の障害は歯科医のデンツプライに対する(あるいはその製品に対する)考え方ではないということでした。問題は、歯科医が彼ら自身や歯科経営についてどう考えているかだったのです。

顧客の目標からマーケティングのフローを考え直そう!

デンツプライに対する歯科医の考え方を変えるには、まず歯科ビジネスの経済的側面に対する彼らの考え方を変えるしかない、とデンツプライのスタッフは気づいた。

歯科医たちはたしかに歯科事業で利益を出すことを重視していましたが、その目標と、人間工学を考慮した軽量なコードレス器具が持つ潜在的価値との関係については無知だったのです。デンツプライは両者のつながりを明確にすることに注力しました。

まず、歯科衛生士の欠勤や早期退職が多すぎるという問題から歯科医との議論を開始しました。歯科衛生士は、患者の歯のクリーニングなどの日常業務を任され、仕事中は手を不自然な角度に固定しながら毎日何時間も過ごしています。彼らは手首痛に悩まされることが多く、果ては慢性の手根管症候群になることで、生産性を下げていました。

歯科衛生士個人のQOL(生活の質)の低下にとどまらず、この問題は歯科医院の営業効率にも大きな影響を与えかねません。衛生士の健康障害は予測できないタイミングで突如発生することがあり、その際の欠勤期間も予測がつきません。歯科医は、この問題は歯科ビジネスにつきもののコストであると考え、特段の対策を講じてきませんでした。

デンツプライはこれが歯科医の課題と捉え、コードレスの新製品がこの問題に寄与できると考えたのです。歯科衛生士の健康問題が、歯科医の認識よりもはるかに深刻でコスト高になることを、まず歯科医に理解させます。

販売員は、歯科衛生士の欠勤がその歯科医院にもたらすコストの計算方法を順番に説明します。歯科医に訊いた実際の賃金、残業代、衛生士の数、欠勤率などを使って、この問題のトータルコストを瞬時に算出するのです。さらに販売員は、この問題とつながりがあるさまざまな要素を気づかせます。医療費、ビジネス機会の損失コスト、スタッフの意欲や積極性への影響、受付担当者が予約を再調整する手間、予約日時が変くらがわって不満を持つ顧客が他の歯科医院に鞍替えする頻度、悪いロコミのコストなどを説明すると歯科医の態度は変わります。

その後、販売員は、第三者が実施した信頼できる最新の調査を歯科医に紹介します。歯科衛生士の手首が痛くなるのは仕事そのものの結果ではなく、仕事で使う器具のせいだということを明らかにします。歯科医は衛生士に使わせている器具に問題があると知ってショックを受け、デンツプライの新製品の価値に気づきます。

デンツプライの新製品は会話の最初ではなく、最後にようやく登場します。デンツプライでスタートするのではなく、デンツプライで終わるのです。

このステップを経て、顧客はサプライヤーの強みを思わぬほどよく理解できるようになります。結果、デンツプライは劇的な成果をあげました。かつてない数の器具をもっと短期間で売り上 げ、利益率も増しています。

必要なのは、顧客が顧客自身の会社について考え方を変えるのを手助けすることだ。そしてそのためには、顧客がみずからの事業についてどう考えているかを深く理解しなければならない。

マーケターが最初にやることは顧客の目標を明確にすることです。歯科医の目標は歯科事業で利益をあげることですが、そのためのハードルを下げる要因を見つけます。その目標に影響を与える主要 ドライバーや二次的なドライバーを特定し、それらの相互関係を図式化していけばよいのです。

情報を収集し、結果を検証し、その影響度を話し合い、何度も思考を繰り返すというふうに、これは系統立った有機的なプロセスであることがわかるようになります。


 

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