プライシングの技法(下寛和)の書評


プライシングの技法
下寛和
日経BP

本書の要約

プライシングを戦略的に行うことで、利益を上げられるようになります。価格からコストを差し引いた分が企業利益、カスタマー・バリューと企業利益の和が取引で生まれた総価値になります。総価値を最大化するために企業はより価値の高い商品・サービスを消費者に提供し、同時にコストを抑える努力をする必要があります。

売上アップやシェア拡大ではなく、利益アップを目指す理由

価格は下げるのは簡単だが上げるのは難しい。下げるのに理由はいらないが上げるのには理由がいる。一度下げてしまうとなかなかもとに戻せない。したがって安易な値下げは避けるべきである。むしろ商品・サービスに付加価値をつけて値上げできないか。プライシングの担当者は大きなマインドチェンジをしなければならない。(下寛和)

インフレ下でも給料が上がらない日本では値上げの許容度が低く、顧客離れを恐れる企業は値上げを先延ばしにし、利益を減らしています。値下げや価格維持戦略を続けると利益が上がらなくなり、新規投資ができなくなり、顧客に価値を提供できなくなります。企業はそろそろ値上げを含めた適切な値付けを行うべきです。

プライシングを戦略的に実施することで、利益を上げられるようになります。企業のコスト構造を分析すると、価格を1%改善できれば、利益は10%以上改善できることが明らかになっています。

多くの日本企業はコストダウンや売上アップを基軸に経営しています。商品やサービスの値段を下げ、シェアを拡大する企業もありますが、これでは利益が上がらず、やがて競争力を失います。現在の日本のように経済が縮小均衡していく中で経営者がすべきことは、売上を過度に追い求めることではなく、利益をアップする経営です。

経営者が最も優先すべきは価格であり、価格を改善できる余地がないかを常に考える必要があります。会社を維持し、成長させるためには、売上起点から利益起点の経営にシフトすべきです。

プライシングを駆使して利益を拡大させるためには、経営層に刷り込まれた売上至上主義の行動原理を少しずつ変えていくことからはじめなければならない。

プライシングは商品戦略、ブランディング、販売戦略、プロモーションなど、マーケティング戦略全体で一貫性を持たせて解を出すべきです。 価格をアップするためには、商品・サービスの価値を高め、ブランドの価値を高める必要があります。「プライシング」は商品・サービスの価値を見極め、価値を価格に転嫁し、狙った利益に転換する業務プロセスであることを経営者はしっかりと理解しましょう。

プライシングの8つの改革ポイント

プライシングの業務プロセスにおいて最も重要であり、起点となるのが、商品・サービスの価値の見極めである。

・価値ベースでの値付け=マーケットイン
・コストベースでの値付け=マークアップ(コストプラス)

フィリップ・コトラーは「顧客は支払った価格に対して得られるベネフィットという点から、最大の価値を与えてくれる商品を求めている」と指摘しますが、値付けはコストベースのマークアップではなく、価値ベースのマーケットインで行うべきです。

商品・サービスの価値は、「根源的価値」「機能的価値」「情緒的価値」「自己表現価値」の4つに分類できます。
・エルメスやルイ・ヴィトンなどのハイブランド→「自己表現価値」「情緒的価値」が価値の決め手になる。
価格は、過去の売上実績、競合商品・サービスの価格をもとに、目標とする利益を面積で達成できるポシションに設定します。自己表現価値を充足させるために、必要以上に安くしすぎてブランドイメージを壊さないよう留意しなければなりません。

・洗剤や歯磨き粉などの生活必需品→「機能的価値」「根源的価値」が価値を左右する。
企業を存続させるためには、コストが下限価格となり、商品・サービスの価値を上回った値付けは市場に受け入れられないため、価値ベースの値段が上限価格になります。そのあいだには競争原理に基づく価格が存在します。

競合や代替品にない差別化要素がある場合は競争に巻き込まれずに上限価格に近づきます。一方で差別化要素がない場合は下限価格に近づきます。差別化要素がある価値の高い商品・サービスは価格の決定権の幅が広がります。

経営者は総価値を最大化するために、絶えず価値のある商品やサービスを提供し、最適なプライシングを行う必要があります。

価格からコストを差し引いた分が企業利益、カスタマー・バリューと企業利益の和が取引で生まれた総価値である。総価値を最大化するために企業はより価値の高い商品・サービスを消費者に提供し、同時にコストを抑える努力をする必要があるのである。

正しいプライシングを行い、利益を最大化するためには、以下の8つのポイントで変革を行う必要があります。

フェラーリやテスラ、ナイキの利益が高いのも、ブランディング、マーケティング、プライシングの戦略が優れているからです。価値ある商品・サービスを提供し、正しい価格を設定することで、顧客から選ばれるだけでなく、利益を上げられるようになります。

プライシングの優劣が企業価値を左右する時代には、経営者が価格に対して敏感になる必要があります。経営陣がプライシングに適切な判断をすることが、現在の日本企業に求められているのです。


 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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