そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。の書評

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そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。
上野雄史, 星野崇宏, 安田洋祐, 山口真一, 今井誠
日経BP

本書の要約

「F=フリー」「S=ソーシャル」「P=価格差別」「D=データ」、これら4つを用いてビジネス戦略を立て、最大限の利益を目指すのが「FSP-D」モデルです。変化の激しい時代には、 この「FSP-D」モデルを用いたビジネス戦略を立てることが重要になります。顧客のデータを押さえた企業が、今後勝ち組になるはずです。

巨人の肩の上に立とう!

世の中に、「自分が直面する課題が人類初」ということは、まずありません。きわめて高確率で、過去に同じか類似した課題があり、先人たちが試行錯誤しています。学問はそれら過去の経験を整理して、理屈を体系化し、未来に使える道具として拵えたものです。「車輪の再発明」で時間を無駄にしないためには、巨人の肩の上に立つ(standing on the shoulders of Giants)ことが賢明です。(今井誠)

世の中の多くの問題は過去の類似した事例を参考にできます。先人の知恵や体験を活用することで、時間を短縮できます。私たちは巨人の肩の上に立つことで、スピーディーに問題解決できるようになります。経済学者の著者たちは、日本企業はもっと経済学をビジネスに使うべきだと言います。経済学者の肩の上に立つことで、ビジネスの成功確率を高められるのです。

今日は本書から価格の重要性と「FSP-Dモデル」について学びたいと思います。大阪大学准教授の安田洋祐氏は利益を上げる方法は2つあると指摘します。 利益を増やすためには、売上を増やすかコストを減らすか(または両方を同時に行なうか)しかありません。商品の「付加価値を高める」か、それとも生産にかかる「コストを下げる」か。この2つが、会社が利益を増やすための基本戦略と言えます。  

多くの企業はコストを下げることを選択します。コストを下げる場合と違って、商品の付加価値を高めることは、利益の改善までに時間がかかり、不確実性も高くなります。実際、付加価値と利益との間には、大きなギャップがあり、コスト削減よりハードルがアップするのです。

「まだ見えない商品を新たにつくる」よりも「いま見えているコストを減らす」ほうがはるかに簡単です。付加価値を高めるような投資や取り組みを企業内で加速するためには、「付加価値向上→利益増」を妨げているハードルを見つけ、それを下げるようにすべきです。

しかし、これ以外にも利益を上げる方法があります。それはプライシングを改定し、値段を上げることで実現します。 自社の製品やサービスが直面している需要を精緻に予測し、プライシング戦略を見直すだけで、(付加価値向上やコスト削減がなくても)利益を改善できる可能性があるのです。

デフレ時代に価格を上げることに抵抗がある企業も多いと思いますが、利益を上げ、企業を存続させるためには、利益を上げるプライシングを設定する必要があります。利益を上げたければ、プライシングの検討を積極的に行うべきです。

「FSP-D」モデルとは何か?

「F=フリー」「S=ソーシャル」「P=価格差別(プライス・ディスクリミネーション)」「D=データ」、これら4つを用いてビジネス戦略を立て、最大限の利益を目指すのが「FSP-D」モデルです。(山口真一)

国際大学GLOCOM准教授の山口真一氏は技術革新と価値観の変化が、近年のビジネス環境を大きく変えつつあると指摘します。「FSP-D」モデルもそのトレンドの中から生まれてきました。

・F=フリー”モノやサービスを「無料」で提供し、多くのユーザーを獲得する
・S=ソーシャル”人々のソーシャル性・ネット空間のロコミなどを利用する
・P=プライス・ディスクリミネーション”「多段階価格差別」で利益を最大化していく
・D=データ以上のすべてをどのように進めるかを、データを使って考える

「F」はモノやサービスを無料で提供するということです。無料で提供することで、サービス利用のハードルが下がり、顧客が増えることで、収益を増やせるようになります。 「フリー」は「S=ソーシャル」の中にある「ネットワーク効果」との相乗効果によって、良い結果を生み出せます。

ネットワーク効果によって好循環が起こり始めるユーザー数の「クリティカル・マス」を超えることで、加速度的に利用者が増えていき、顧客満足度は高くなり、さらに利用者が増えるという好循環が生まれます。

顧客を増やすためにフリー戦略を採用するなら、出し惜しみしないことが重要になります。有料版とほぼ同価値の無料版を用意し、顧客満足度を高めるのです。「無料でも十分に便利な、すごいサービスだ」と利用者に感じさせることが、多くのユーザーの獲得、そしてネットワーク効果へとつながります。

ユーザー満足度の高い無料版は、有料版への誘導役としても機能します。「ユーザーが無料版でいい体験をする場合のみ、有料版の売上が増加する」ということが、実証研究で明らかにされています。

ソーシャルメディア・マーケティング(S)を行うことで、クリティカルマスの実現が近づきます。熱狂的なファンから応援してもらうこと、彼らのクチコミを活用することで、顧客が増加します。

フリー戦略から利益を上げるためには、多段階価格差別を検討すべきです。多段階の価格差別は一物一価(値段が一律であること)よりも数十%多い収益をもたらすこと、さらに多段階価格差別は、一物一価の5~10倍もの収益をもたらすことが実証されています。

多段階価格差別とは、「相対的に少ないヘビーユーザーに、より多く支払ってもらうことで高い収益を叶える」仕組みです。しっかりとお金を払ってくれる顧客をデータから見極め、適切な価格を設定しましょう。

「フリー」「ソーシャル(ソーシャルメディア・マーケティング)」「プライス・ディスクリミネーション(価格差別)」のどの戦略も、データの根拠なしには採用できません。

フリーモデルの当初の収入源は広告ビジネスとなります。どのタイミングで、誰に、どんな広告を打てば宣伝効果が上がるのか。こうした広告主にとって非常に重要な情報を、詳細なデータ分析をすることで、広告収入をアップできます。また、有料モデルへの転換理由やタイミングをデータ分析によって明らかにできます。

ソーシャルの中のネットワーク効果によって、膨大なユーザーのビッグデータが手に入ります。このビッグデータを分析することで、「告知を出す最適な時間帯はいつか?」など効果的なソーシャルメディア・マーケティング戦略を立てられるようになります。

「プライス・ディスクリミネーション(価格差別)」においてもデータ分析が効果を発揮します。ユーザーの消費活動のデータを分析すれば、適切に価格戦略を立てることができるようになります。

データは効果的な戦略を立てるうえでの最強のツールなのです。 データというツールを利用しなければ、ビジネスは「出たとこ勝負」となり、成功確率が低下します。変化の激しい時代には、「FSP-D」モデルを用いたビジネス戦略を立てることが重要になります。顧客のデータを押さえた企業が、今後勝ち組になるはずです。



 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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