食べ物の豊富さと美意識の変化が引き起こした糖質制限ブームの背後には何があるのか?日本の死角の書評

white and blue ceramic bowl with rice

日本の死角
現代ビジネス(編集)
講談社

本書の要約

ブームになっている糖質制限にはメリットもありますが、リスクもあります。糖質制限を含むあらゆる食事法を適切に活用するためには、個別の健康状態を考慮し、バランスの取れた食事計画を立てることが不可欠です。健康と幸福を追求する上で、個人の自由と科学的なエビデンスに基づいた意思決定が重要です。

ブームの糖質制限にリスクはないのか?

たくさんの食べ物があふれ、貧しい人でも簡単に太ることができ、やせることが無条件に美しさ、カッコよさ、聡明さ、自己管理能力の高さと結びつく、人類史稀に見る社会状況にフィットすることにより糖質制限はブームになった。しかしその事実は、生理学的な説明と、原始への憧れにより巧みに覆い隠されている。(磯野真穂)

現代社会において、食べ物の選択肢はますます多様化し、豊富さを増しています。同時に、スリムで引き締まった体型は美しさやカッコよさ、聡明さ、自己管理能力の象徴と結びつけられるようになりました。このような社会の背景から、糖質制限ダイエットは大きなブームとなりました。しかし、その背後には生理学的な説明とともに、原始的な生活への憧れが巧みに隠されていると文化人類学、医療人類学者の磯野真穂氏は指摘します。

磯野氏の専門である文化人類学は、人間の多様な生き方を、長期にわたるフィールドワークの中で明らかにしていく学問です。その視点から眺めると、糖質制限はかなり特異な現象だというのです。

ご飯は、食事の核となる糖質です。ご飯に味と彩りを添えるおかずを少量添えて食べるという食事スタイルは、世界中で広く見られます。 穀物を摂らない民族もいますが、相当数の人々が糖質によって命をつないできたことは間違いありません。

しかし、近年、糖質制限の流行により、糖質の地位はかつてないほど低下しています。糖質は「悪魔」と見なされ、健康に悪いとされています。 しかし、メディアやSNSで喧伝されているほど、糖質は必ずしも悪者ではありません。糖質は、体に必要なエネルギー源です。また、脳や神経の働きを正常に保つのにも役立ちます。

糖質は、食事の基盤であり、私たちに必要なエネルギー源です。過剰摂取は健康リスクを引き起こす可能性がありますが、バランスの取れた食事と適度な糖質摂取は、健康にとって重要です。 

例えば、ご飯を食べる際には、野菜やタンパク質をバランスよく取り入れることで、糖質の吸収を調整することができます。 さらに、食物繊維を豊富に含む食品を摂取することも重要です。食物繊維は消化吸収を緩やかにし、血糖値の上昇を抑える助けになります。 糖質は単純に「悪いもの」として一括りにするのではなく、摂取量とバランスが重要なポイントになります。

糖質制限のメリット・デメリットを理解しよう!

しかし糖質制限の流行により、糖質の地位はかつてないほど地に落ちた。

糖質制限の人気が高まっている背景には、明確な根拠が存在しないと言えます。糖質制限派は、人類が長い期間を狩猟採集で過ごしており、高タンパク・高脂質の食事を摂取していたため、糖質を大量に摂取するように進化していないと主張しています。

しかしこの主張は、必ずしも正確ではありません。 人類が農耕を始めたのは約1万年前であり、それ以前から穀物は特定の地域で食べられていました。また、果物や野菜も糖質源として重要な役割を果たしていました。つまり、人類は長い間、糖質を摂取してきたのです。 糖質制限が健康に良いかどうかは、まだ明確になっていません。

原始時代の食生活が人間にとって最も理想的であるという証拠はありません。原始時代の人々は、現代人とは異なる環境で生活し、異なる食事をしていました。現代人の食生活を原始時代の食生活に合わせることが必ずしも健康に繋がるとは限りません。

したがって、糖質制限の効果やリスクを判断するには、科学的な研究や個々人の身体状況に基づいたアプローチが必要です。一般的な食事原則として、バランスの取れた食事を摂ることが重要であり、特定の栄養素を過度に制限することは避けるべきです。 

進化生物学の専門家であるマーリーン・ズックは、糖質制限派の主張を批判的に論じています。ズックは、糖質制限派が「パレオファンタジー(原始へのあこがれ)」と呼ばれる思想に基づいていると指摘しています。

まず、ズックは初期人類であるネアンデルタールやアウストラロピテクス・セディバの歯に穀物の痕跡が見つかっていることを挙げ、糖質制限派が主張する祖先の肉食中心の食事に疑義を呈しています。また、人類は時代や場所によってさまざまな食事をしてきたため、特定の時代の人類が同じ食事をしていたという見方には無理があると述べています。

さらに、ズックは「農耕が始まってから1万年余りしか経過していないため、人間の身体は糖質過多の食事に適応できていない」というパレオ派の主張に対して、「1万年は十分な時間である」と反論しています。 

人間の身体は短い期間でも変化することがあります。例えば、チベット人が高地で生活できるようになったり、乳製品を効率的に消化できるラクターゼ活性持続遺伝子を持つ人々が出現したりしました。しかし、糖質制限派が主張するように、人類は完璧に適応した健康な生活を送っていたが、時代が経つにつれてそれから離れていったという考えは進化に関する誤解であると言われています。

もし糖質が人類に全く適していないものであれば、昭和初期においても炭水化物が栄養の8割強を占める食事を摂っていた人々は生活習慣病に次々と罹患していたはずです。しかし実際には、生活習慣病にかかるのは昭和初期の人々ではなく、糖質摂取量が減少した現代の私たちなのです。この事実は、糖質制限派の主張と矛盾しており、説明が必要とされます。

糖質制限が多くの人に受け入れられた一因として、「食べたいけどやせたい」という現代人特有の欲望を満たしてくれた点が挙げられます。しかし、「食べたいけどやせたい」という欲望は、やせていることが評価される現代社会において生まれるものであり、この欲望がない社会では糖質制限の特徴は魅力にはなりません。

食料不足の危機がある社会では、身体に脂肪を蓄えることがステータスとなるため、食べてもやせることは魅力ではなく、むしろ栄養不足によるやせが深刻な問題となります。 現代社会では食べ物が豊富にあり、貧しい人でも簡単に太ることができます。そして、やせることは美しさ、カッコよさ、聡明さ、自己管理能力の高さと結びつけられることから、糖質制限は人類史上稀に見る社会状況にフィットし、ブームとなりました。

しかし、この事実は生理学的な説明と原始への憧れによって巧みに覆い隠されています。 糖質制限が広まるにつれて、やせすぎの若年女性の増加やそれに伴う健康被害が懸念される点です。もともと標準体型の女性がさらにやせたいという願望から「人間本来の食事」とされる糖質制限を実践することで、逆に不健康な人たちが増加します。

特に成長期の子どもがネット上で糖質制限について知り、それを実行することが彼らの健全な成長を促すのかは疑問です。 また、糖質制限が2型糖尿病の人々に効果的であることは確かですが、それを一般化することにはリスクもあります。

糖質制限が「人類の健康食」として広まる背景には、現代社会の特殊な価値観と構造が関与しています。食べ物が豊富で貧しい人でも太りやすい社会で、やせることが美しさや成功と結びつけられるため、糖質制限は一層の魅力を持ちました。しかし、これは特定の社会状況においてのみ成り立つ現象であり、普遍的な健康食とは言えません。

糖質制限の功罪を考える上で重要なのは、個々の体質や健康状態に合わせたバランスの取れた食事計画が重要であるということです。糖質制限は一部の人にとって有益な食事法かもしれませんが、全ての人に適しているわけではありません。個々の体質や健康状態、ライフスタイルに応じて、バランスの取れた食事計画を立てることが重要です。 また、糖質制限が一時的な流行や社会的な価値観によって支配されることにも注意が必要です。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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