イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法(アン・ウーキョン)の書評

man sitting on rock in front of ocean

イェール大学集中講義 思考の穴――わかっていても間違える全人類のための思考法
アン・ウーキョン
ダイヤモンド社

本書の要約

人間の思考プロセスは、しばしば特定の特性やバイアスに影響され、誤解や非効率な判断を生むことがあります。偏った視点で情報を受け取ったり、深く根ざした信念や前提に基づいて情報を解釈する傾向は、誤判断の一因になります。これらのバイアスを認識し、意識的に行動を変えることで正しい選択ができるようになります。

流暢性効果とはなにか?

頭のなかで容易に処理できるものは、人に過信をもたらす。そうして生まれる過信のことを「流暢性効果」と呼ぶ。流暢性効果はそっと私たちに忍び寄り、さまざまな錯覚を生じさせる。(アン・ウーキョン)

アン・ウーキョン教授は、イェール大学の「シンキング(Thinking)」という人気講義で、学生たちに人間の思考のバイアスや偏見について教えています。この授業では、人が日常で遭遇する思考の落とし穴や誤りにスポットライトを当て、それらをどのように克服するかを探求していると言います。

彼女は、人間の思考に固有の特性やバイアスが、誤った判断や行動を引き起こすことがあると強調しています。たとえば、私たちは情報を選択的に受け取ったり、既存の信念や偏見に基づいて情報を解釈する傾向があります。教授は、これらの思考の特性を認識し、それらの影響を最小限に抑えるための方法を学生たちに伝えています。

今日は「流暢性効果」を中心に紹介しようと思います。彼女は、人々が特定のスキルやタスクを行う際に、そのスキルやタスクが簡単であると錯覚する傾向があることを指摘しています。この現象は、「流暢性効果」として知られており、人々が自分の能力を過大評価することにつながる可能性があります。

アン・ウーキョンの研究によれば、流暢性効果はさまざまな分野において見られます。例えば、ダンスの場合、BTSのダンスを見ていると、自分にも簡単に踊れると考えるかもしれません。しかし、実際に自分で踊ってみると、予想以上に難しいことがわかるでしょう。これは、人々が他人が行っていることを見ているだけでは、その難しさや努力の量を正確に理解できないためです。

マイケル・ジャクソンのムーンウォークは、彼の代表的なダンススタイルの一つであり、その動きの美しさとスムーズさで多くの人々を魅了してきました。ある実験では、参加者にマイケル・ジャクソンのムーンウォークを視聴させ、その後に自己評価を行いました。 実験では、一部の参加者には6秒の動画を1回だけ視聴させ、残りの参加者には20回視聴させました。

その結果、20回視聴したグループの方が、1回しか視聴しなかったグループに比べて自信を示しました。彼らは何度も視聴したことで、ムーンウォークの動きを細部まで覚え、頭の中で再生できるようになったと思い込んでいたのです。 しかし、真実は厳しいものでした。実際にムーンウォークを行ってみると、20回視聴したグループと1回しか視聴しなかったグループの間には差がありませんでした。

マイケル・ジャクソンのムーンウォークを何度も視聴しても、一回しか視聴しなかった人よりも上手にできるようにはならなかったのです。 この結果から、私たちは誰かが難なく行っている姿を見ると、自分も同じように簡単にできるという錯覚に陥りやすいことがわかります。しかし、実際には熟練した技術や訓練が必要であり、単に視聴するだけではスキルが身につくわけではないのです。

株式の名称が投資家の期待にどれほど影響するか、驚くべき研究結果が明らかにされています。この研究によれば、株の名前における「発音の流暢性」が市場でのパフォーマンスへ影響を及ぼす可能性があることがわかりました。 研究者たちは実験を行い、発音が容易な架空の株名(例:「フリンクス」や「タンリー」)と、複雑で発音しづらい架空の株名(例:「ユリムニアス」や「クーオウン」)を提示しました。

結果、参加者は発音が容易な株名をより高く評価する傾向が見られました。 さらに、現実の市場でも、同様の現象が確認されました。実際の銘柄名を比較した場合、発音しやすい「サザン・パシフィック・レール・コープ」は「グァンシェン・レールウェイ・カンパニー」よりも市場での評価が高かったのです。事実、発音しやすさを基準に選んだ10の銘柄は、複雑な名前の10の銘柄よりも、1年間で333ドルもの追加収益をもたらしました。

ニューヨーク証券取引所やアメリカン証券取引所を見ても、言葉として発音可能なティッカーコードの企業の株価パフォーマンスは、発音困難なティッカーコードを持つ企業よりもはるかに良好でした。本来、ティッカーコードの発音のしやすさは、その会社の質や実績とは関係ありません。

なぜなら、コードの決定には会社が関与することができないからです。それにもかかわらず、投資家たちは発音しやすいティッカーコードの企業に、より高い価値を認める傾向があったのです。

研究者はさらに詳しい検証のため、アメリカ株式市場で使用される3文字のティッカーコードにも焦点を当てました。結果、発音可能なティッカーコード(例:「KAR」)を持つ企業は、発音不可能なコード(例:「HPQ」)を持つ企業よりも、市場でのパフォーマンスが優れていることが確認されました。

この研究は、投資家の意思決定においても無意識の心理的要因が大きく影響していることを示しており、投資の世界における人間の認知の面白さを改めて浮き彫りにしています。

バイアスにとらわれずに失敗しない方法

認知バイアスについて学習した後でもその影響を受けてしまうのは、認知バイアスのほとんど(おそらくはそのすべて)が、脳の高度な適応のメカニズムの副産物として生まれたものだからだ。そうしたメカニズムは、ヒトという種が何千年にもわたって生き残るなかで、私たちの役に立つように進化を遂げてきた。その働きは、そう簡単に制止できるものではない。

過度な自信は多くの場面で悪影響を及ぼす可能性があります。面接における失敗、株の選択の誤り、さらには偽の情報を信じてしまうことなど、過度な自信はしばしば誤った行動を招きます。例えば、Qアノンのような陰謀論を信じ、連邦議会議事堂を攻撃する行為は、情報の正確性を確かめずに盲信する危険性を示しています。

流暢性効果というのは、認知プロセスの中で生じる適応メカニズムの一つで、過度に信じ込んでしまうことを生むことがあります。しかし、この効果を克服する方法は存在します。具体的な行動を試すこと、すなわち実際にやってみることで、自分のスキルや知識の真の水準を確認することができます。

プレゼンテーションを行う前に、内容を繰り返し読み上げたり、食事に来る人のために料理を実際に作ってみることなど、自分自身で行動を試すことにより、過度な自信を調整することができます。 過度な自信を持たないことは、プレゼンテーションや面接でのパフォーマンスの向上だけでなく、社会全体にとってもプラスとなります。過激な政治思想の減少というような効果も期待されます。

多くの人々は、中絶や福祉、気候変動などの社会問題に強い意見を持っていますが、実際にその背後の情報やデータを深く理解している人は少ないのが現状です。そうしたトピックについて深く議論する機会を持つことで、自身の理解の浅さを認識し、より健全な意見形成が期待されます。

対話の価値は計り知れません。多様な意見と向き合うことによって、自らの考えの欠陥や無知を発見できるからです。人々は自分と同じ意見を共有する人々と固まりがちで、異なる意見との交流が希薄になると、自己確認の偏見に陥りがちです。「みんながそう思っているから、私もそう思うべきだ」という考え方が広がり、真実や他の可能性を見落としてしまいます。異なる意見を持つ人との対話は、自分の考えを再評価し、それを補完する大切な機会となります。

また、人はしばしば自分の能力や時間管理に対して過信を持ちがちです。計画を立てる際に現実的な期間を見積もることが難しいのは、この過信の影響が大きいです。計画の誤りは、自分の経験や過去の成功に基づく楽観的な期待から生じることが多いです。著者も計画の見積もりを過小評価する傾向があるため、常に余裕をもったスケジュールを計画しています。 楽観的な考え方は、多くの人にとって自然な反応です。

しかし、その楽観が過度となると、流暢性効果の影響を受けやすくなり、「根拠のない楽観主義」に陥ってしまいます。現実とのギャップを埋めるために、自分の考えや行動を常に評価し、調整することが大切です。

本書では人間の脳の当てにならないことをいくつもの学説から説明されています。
・確証バイアス
人々は自分の信念や意見を裏付ける情報に目を向けがちです。これは、すでに持っている考えを補強したいという欲求から来るもので、異なる意見や情報を無視してしまう可能性があります。

・類似性ヒューリスティック
人々が判断や決定を行う際に、過去の経験や知識に基づき、現在の状況が過去の事例にどれほど類似しているかを基にした判断を下すという心理的なショートカットのこと。

・損失回避
同じ量の利益よりも、損失を避けることに人々は重きを置く傾向があります。これが原因で、リスクをおかして新しいチャンスを掴むのを避けてしまいます。

・自己中心性バイアス
人々は、自分の知識や経験を基準にして他者とのコミュニケーションを試みることが多くなります。このため、相手が共有していない情報や背景知識を前提としたコミュニケーションが行われることがあります。

・保有効果
人々は自分が既に持っているものに過度な価値を見出します。このため、実際の市場価格よりも高く評価し、不必要なものを持ち続けてしまいます。

これらのバイアスや心理的傾向は、私たちの日常的な意思決定に影響を及ぼします。感情バイアスは自分が心地良くなる事柄を信じ、好ましくない事柄や厳しい事柄は受け入れようとしない傾向を持ちます。このようなバイアスがあるため、私たちは合理的ではない選択をすることがあります。

私たちは認知バイアスや心理的傾向を持ちながらも、それを認識し、対処することができる存在です。この意識を持ちながら、私たちはより合理的な選択をし、より良い判断を下すことができるでしょう。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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