経済的価値と社会的価値を同時実現する共通価値の戦略(マイケル・E・ポーター)の書評

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経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略
マイケル・E・ポーター
ダイヤモンド社

本書の要約

CSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)によって、新しいニーズ、新しい製品、新しい顧客、新しいバリューチェーンのつくり方など、さまざまな可能性が開けてきます。共通価値を創造することで生まれた競争優位は、これまでのコスト削減や品質改善よりも持続性に優れています。

「共通価値」(shared values)とは何か?

「共通価値」(shared values)という概念は、経済的価値を創造しながら、社会的二ーズに対応することで社会的価値も創造するというアプローチであり、成長の次なる推進力となるだろう。(マイケル・E・ポーター)

昨今、話題になるCSV(Creating Shared Value/共通価値の創造)という考え方は、マイケル・ポーターのこの論文から始まったと言っても過言ではありません。

CSVは、企業が社会課題や問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的な価値も創造されることを意味します。企業が社会課題の解決に対応することで、経済的価値と社会的価値をともに創造しようとするアプローチが競争優位性に有効であるとマイケル・ポーターは説いています。

GE、IBM、グーグル、インテル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ネスレ、ユニリーバ、ウォルマートなどは、すでに共通価値の創造に取り組み、それなりの成果を出しています。

ポーター教授によると、共通価値がもたらすチャンスを見極める方法は以下の3つになります。
1、製品と市場を見直す
2、バリューチエーンの生産性を再定義する
3、ビジネスを営む地域に産業クラスターを開発する

社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的価値が創造されるというアプローチである。企業の成功と社会の進歩は、事業活動によって再び結びつくべきだろう。 共通価値は、CSRでもなければ、フィランソロピー(社会貢献活動)でも持続可能性でもない。経済的に成功するための新しい方法である。それは、企業活動の周辺ではなく、中心に位置づけられる。

長年、資本主義において、企業の利益と公共の利益はトレード・オフであると考えられ、環境や社会的意義は軽視されてきました。しかし、SXが当たり前になる中、共通価値の創造に取り組む企業が増え、新しい資本主義が生まれつつあるのです。

インドやアフリカなどの開発途上国では、膨大な社会的ニーズを抱えています。一方、先進国でもアメリカの都市部にも貧困地区があり、ここも共通価値の視点を持てば、成長マーケットに様変わりします。企業が低所得で貧しい消費者の役に立つ製品を提供することで、社会的便益が広範にもたらされ、結果、膨大な利益をあげられる可能性が出てきます。

CSVの実践が、競争力の源泉

貧困地域に資本主義が働き始めると、経済開発と社会発展の新たなチャンスが爆発的に増える。このような共通価値を創出するために、企業はまず、自社製品によって解決できる、またはその可能性がある社会的ニーズや便益、および害悪を明らかにすべきである。チャンスは待ってくれない。技術の進歩、経済の発展、社会的優先順位の変化に伴い、たえず変化する。

これまで軽視されてきた市場のニーズに対応するには、製品の再設計や新しい流通手段が必要になります。課題を解決する中で、既存市場でも活用できる抜本的なイノべーションが生まれてきます。

たとえばマイクロファイナンスは、ずっと放置されてきた金融ニーズに応えるために、開発途上国で発明されたものですが、いまやアメリカでも急成長を遂げ、貧困層に多くの便益をもたらしています。

ネスレは共通価値を創造することで、新たなコーヒーマーケットを成長させています。2000年以来年30%の成長を続けている「ネスプレッソ」は、最先端のエスプレッソ・マシンと、世界各地のコーヒー豆の粉末が入ったアルミニウム製のカプセルを組み合わせたサービスです。高品質と利便性を提供したことで、「ネスプレッソ」はプレミアム・コーヒー市場を拡大させました。

ほとんどのコーヒー豆はアフリカや中南米の貧困地域の零細農家が栽培していますが、これら農家は、低い生産性、粗悪な品質、収穫高を制限する劣悪な環境という悪循環のなかにいます。こうした問題を解決するため、ネスレは調達プロセスの見直しに取り組みました。
・農法に関するアドバイスの提供
・銀行融資の保証
・苗木、農薬、肥料など必要資源の確保の支援
・購入時にコーヒー豆の品質を測定する施設を現地に設置
・高い品質の豆には価格を上乗せし、農家に直接支払うことで、農家のモチベーションをアップ

農家への支援を続けることで、1ヘクタール当たり収穫高が増加し、高い品質のコーヒーが生産されるようになりました。〈ネスプレッソ〉ではクラスターの形成に取り組んでいます。同社は、現地の生産効率と品質を後押しするために、コーヒーの栽培地に、農業、技術、金融、およびロジスティックス関連の企業やプロジェクトを立ち上げています。

結果、栽培農家の所得は増え、農地への環境負荷が減ったと言います。ネスレは品質の高いコーヒー豆を安定的に入手できるようになり、共通価値が創造されました。

カシューナッツの大手生産業者オーラム・インターナショナルはこれまで、アフリカからアジアに運び、生産性の高いアジア人労働者にその加工を委ねていました。しかし、タンザニア、モザンビーク、ナイジエリア、コートジボワールといった原産国に工場を建設し、現地の労働者を教育することで、加工と輸送にかかるコストを25%削減しました。これで二酸化炭素の排出量が大幅に減らせたのです。

オーラムは地元農家と良好な関係を構築しました。これまで仕事のなかった僻地に、1万7000人(うち 95%は女性)を直接雇用、またほぼ同数の間接雇用を提供しています。

いままで多くの企業が、グローバル化とは、最も人件費の安い地域に生産拠点を移転し、すぐさま支出を抑えるようなサプライチェーンを設計することであると考えてきました。しかし現実には、重要な地域に深く根を下ろした企業が、優れた国際競争力を獲得できることが明らかになっています。SXやロケーションに関する新たな考え方を受け入れられる企業が、共通価値を創出できるようになります。

社会的価値の創造を通じて経済的価値を創造するチャンスは、グローバル経済の成長を促進する最大要因の一つといえる。この考え方は、顧客や生産性について、また企業の成功への外的影響について理解する新たな方法である。またこの考え方のおかげで、人々のさまざまなニーズ、広大な新市場、社会や地域社会の不備に伴う内部費用、そしてこれらに取り組むことで得られる競争優位が明らかになる。

共通価値によって、新しいニーズ、新しい製品、新しい顧客、新しいバリューチェーンのつくり方など、さまざまな可能性が開けてきます。共通価値を創造することで生まれた競争優位は、これまでのコスト削減や品質改善よりも持続性に優れています。

従業員や市民の社会意識の高まり、天然資源の減少など数多の要因によって、共通価値を創造する未曾有のチャンスが生まれています。

自社の利益にばかり意識を向け、環境や社会を殼損することは許されなくなっています。本業を通じて環境や社会をより良くし、その結果、経済価値を高めることが経営者に求められています。CSVの実践こそが、競争力の源泉で、ここに投資することで競争優位性を発揮できるのです。


 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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