THE POWER OF REGRET 振り返るからこそ、前に進める 「後悔」には力がある
ダニエル・ピンク
かんき出版
THE POWER OF REGRET(ダニエル・ピンク)の要約
セルフ・ディスクロージャー、セルフコンパッション、セルフ・ディスタンシングというステップを実践することで、後悔の感情を減らし、より積極的な行動へと導くことができます。未来の理想の自分から逆算し、現在のどのような選択が最適かを考えることで、後悔の少ない、より賢明な意思決定が可能になります。
後悔を減らしたければ、ありたい自分を目指そう!
人は、あるべき自分になろうとしなかったことよりも、ありたい自分になろうとしなかったことを深く後悔するとわかったのだ。「~~できたのに」という後悔の数は、「~~すべきだったのに」という後悔の三倍近くに上ったのである。(ダニエル・ピンク)
ダニエル・ピンクのTHE POWER OF REGRETの書評を続けます。ダニエル・ピンクは、ポジティブな感情とネガティブな感情のバランスが大切であると述べています。後悔を含むネガティブな感情は、私たちの人生において重要な役割を果たします。
幸福や成長、自己実現には、ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情の適切な扱いも必要です。後悔という感情を適切に処理することができれば、それは人生をより充実したものにするための重要なステップとなります。このようなバランスの取れた感情の処理は、自己成長にとって不可欠な要素です。
トーリー・ヒギンズの理論によれば、私たちの行動は、現実の自分、ありたい自分、あるべき自分の間の食い違いによって動かされると言われています。現実の自分は、今現在持っている属性の集合体です。ありたい自分は、自分が成りたいと思っている理想の自己像であり、希望や願望、夢を含みます。一方で、あるべき自分は、自分がなるべきだと思っている自己像で、義務や約束、責任などを反映しています。
例えば、健康的な自分になりたいと思っているのに、現実は倦怠感に悩まされていたり太りすぎていたりする場合、このギャップによってエクササイズを始めることがあります。また、高齢の家族の世話をするべきだと思っているのに、長い間訪ねていない場合は、そのギャップに突き動かされて家族の元へ行くかもしれません。
しかし、このような行動を起こさずに現実の自分と理想の自分、または義務の自分の間のギャップが解消されない場合、不快な感情が生じることがあります。
2018年、ニュースクール大学のシャイ・ダヴィダイとトーマス・ギロヴィッチは、このヒギンズの仮説を基に、後悔に関する研究を行いました。ギロヴィッチの以前の研究では、人々が長期的に見て行動しなかったことを行動したことよりも深く後悔することが明らかになっていました。
この研究では、この考えを発展させて6つの実験を実施し、重要な結論に至りました。 その結論とは、人々は「あるべき自分」になる努力を怠ったことよりも、「ありたい自分」になる努力を怠ったことをより深く後悔するということです。「~できたのに」という後悔の数は、「~すべきだったのに」という後悔の約3倍にも上ることがわかりました。
これは、2種類の後悔が引き起こす感情の違いに起因していると考えられます。現実の自分と「ありたい自分」のギャップがある場合、人々は落胆します。一方で、現実の自分と「あるべき自分」のギャップがある場合、より強い切迫感を感じ、ギャップを埋めるための行動を取る傾向があります。
結果として、「あるべき自分」に関する後悔は、しばしば是正されます。過去の行動を取り消したり、謝罪したり、失敗から学んだりすることで、「~すべきだったのに」という後悔は解消されることが多いのです。これに対して、「ありたい自分」に関する後悔は、そのまま残りやすく、より長期的な苦悩の原因となることが多いのです。
後悔を減らすために私たちができること
ありたい自分になれていないことは、機会を追求しなかったことと言い換えられる。一方、あるべき自分になれていないことは、義務を果たさなかったことと言い換えられる。
著者によると、人は次の4つの主要な後悔を抱くと言います。
・基盤に関する後悔
・勇気に関わる後悔
・道徳に関する後悔
・つながりに関する後悔
後悔は一般に、機会を追求しなかったこと、義務を果たさなかったこと、あるいはその両方に関連しています。勇気に関わる後悔(例えば、「もしあのときリスクを取って行動していたら……」)は、機会を追求しなかったことに関する後悔と考えられます。基盤に関わる後悔(例えば、「もしやるべきことを正しくやっていたら……」)も、教育、健康、財務的安定などの機会を逃したことに関する後悔と言えます。
一方で、つながりに関わる後悔(例えば、「もし私が手を差し伸べていたら……」)は、友情をはぐくむ機会を逃したことと、家族や他者への義務を果たさなかったことの両方に関連しています。道徳に関わる後悔(例えば、「もし正しい行動を取っていたら……」)は、義務を果たさなかったことに関する後悔と見なせます。
このように、機会と義務は後悔の感情において中核的な役割を果たしていますが、特に機会に関する後悔が大きいとされます。私たちが行動したことよりも行動しなかったことを後悔する傾向があることも、この観点から説明されます。
ニール・ローズとエイミー・サマーヴィルによると、行動しなかったことへの後悔が行動したことへの後悔よりも長く続く理由の一つは、行動しなかった場合に失われた大きな機会に対する感覚があるからです。
20歳の時は、行動したことへの後悔と行動しなかったことへの後悔の数はほぼ同じですが、年齢が上がるにつれて行動しなかったことへの後悔が主流になっていきます。
50歳では、行動しなかったことへの後悔は行動したことへの後悔の2倍にもなります。 この調査からは、行動しなかったことへの後悔を感じることと強く関連している属性が年齢であることがわかります。
年齢が上がると、利用可能な機会が減ると感じられるため、過去に行動しなかったことをより強く後悔するようになります。高齢者になると、教育、健康、キャリアに関する後悔は減り、代わりに家族に関する後悔が増えてきます。
後悔を減らすためには以下のステップが役立ちます。
1、セルフ・ディスクロージャー
後悔したことを書き出すことで、感情を外に出し、重荷を軽くします。
2、セルフコンパッション
自分に対して優しい態度を取ります。セルフ・コンパッションを実践することで、主体性が高まり、感情的知性が向上します。これにより、メンタルタフネスが強まり、人間関係が改善されるとともに、集中力が増し、非生産的な思考に陥るリスクを減らします。
3、セルフ・ディスタンシング
自分の経験を第三者の視点から分析し、戦略を立てます。ネガティブな感情に対して距離を置き、客観的に状況を見ることで、感情に溺れずに、将来の行動の指針となる教訓を導き出します。これは、後悔の深海に潜るのではなく、海洋を術鰍的に調査するようなアプローチです。
これらのステップを通じて、後悔を減らし、よりポジティブな行動に繋げることができます。将来の後悔をシミュレーションすることで、現在の行動を改善する効果もあります。
また、後悔を減らす意思決定を行う際には、未来における後悔を予測することが重要です。ほとんどの決定については、前述の4つの中核的な領域に焦点を当て、それ以外のことについては深くこだわらず、柔軟に選択し、決定した後はくよくよせずに前進することが望ましいです。
特に重要な意思決定においては、幸福を最大化するために、次の4つの中核的な領域に注目すべきです。
・安定した土台の構築
・合理的なリスクの取り方
・道徳的に正しい行動
・充実した人間関係の構築。
これら4つの領域に集中し、未来の特定の時点にタイムトラベルを行いながら逆算し、現在のどのような選択が最適かを考えます。このプロセスを通じて、後悔の少ない、より賢明な意思決定が可能になります。重要な決定を行う際には、これらの中核的な領域を踏まえた上で、より良い未来への道を選ぶことが大切です。
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