人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」 (篠田謙一)の書評

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人類の起源 古代DNAが語るホモ・サピエンスの「大いなる旅」
篠田謙一
中央公論新社

人類の起源 (篠田謙一)の要約

分子人類学者の篠田謙一氏は、デニソワ人やネアンデルタール人が約1万数千年前まで存在し、それほど昔ではない約1万5千年前に現代人ホモサピエンスと交配していた可能性について科学的に解説しています。彼の研究によると、現代人のルーツは単純ではなく、多様な人類の進化の痕跡が見られることが明らかになっています。

分子人類学とは何か?

世界各地に展開している人類集団は、ある地域における「これまでのヒトの移動の総和」といえます。そのため、特定の遺伝子分布の地域差は集団の成立を解明する有力な手がかりになるのです。 (篠田謙一)

国立科学博物館の館長であり分子人類学者でもある篠田謙一氏は、古代人の骨から発見されたDNAを解析し、ゲノム(遺伝情報)を手がかりにして人類の歴史をたどっています。分子人類学は、近年の分析技術の進歩によって大きく発展しています。

彼は古代DNAの研究成果を活用し、人類の起源と進化の過程を丁寧に解説しています。アフリカから始まる人類の分岐、ネアンデルタール人との交流、オーストラリアやアメリカ大陸への移動といった多様なテーマが取り上げられています。

人類は古代から現代まで、地球上のさまざまな地域に広がりました。この広がりは、人類の移動の歴史とも言えるでしょう。人類の集団がある地域に定住し、その地域で繁栄していく様子は、その地域の人類の移動の総和と言えます。

このような人類の移動の歴史を解明するためには、遺伝子分布の地域差が重要な手がかりとなります。遺伝子は、個体の特徴を形成する情報を持っており、それぞれの地域での遺伝子の分布は、その地域の人類集団の成立に関わる要素を示しています。

篠田氏は、分子人類学の手法を用いて、考古学的遺跡や出土品、そして人骨の形状比較を基に、人類の進化やその移動・拡散についての一般的な説が次々と覆されていることを明らかにしています。彼の研究は、遺伝子解析を通じて人類の進化や拡散の過程に光を当て、人類学の最先端に位置しています。

篠田氏の専門である分子人類学は、人類の起源や移動の謎を解明する上で重要な役割を果たしています。また、考古学的な証拠や人骨の分析も彼の研究における重要な要素であり、これまでの通説を覆す発見が多くなされています。

約20万年前にホモ・サピエンスが誕生し、さまざまな進化を遂げながら、現代に至ります。 ホモ・サピエンスの拡散は、一方向の単純な流れではなく、多様な道を辿りました。人類は進化の過程で、時には一地域に留まり、時には新たな流れが合流し、あるいは分岐が消滅するなど、複雑な経路をたどりました。

人類進化の物語は、世界各地への移動や交流によって形成されています。ホモ・サピエンスの地球上での拡散は、環境変化、資源の活用、文化の発展など、多くの要因に影響されました。例えば、氷河期の終わりや気候変動により、人類は新たな地域へと進出しました。さらに、食料確保や生活の安定のために、新しい技術や知識を開発し進化してきたのです。

ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人という3種の人類は、数十万年にわたって共存していました。互いに交雑することによって、遺伝子を交換してきたこともわかっています。

篠田氏は、デニソワ人やネアンデルタール人が約1万数千年前まで存在し、それほど昔ではない約1万5千年前に現代人ホモサピエンスと交配していた可能性について科学的に解説しています。彼の研究によると、現代人のルーツは単純ではなく、多様な人類の進化の痕跡が見られることが明らかになっています。

デニソワ人やネアンデルタール人の存在は、私たちが考えていたよりもずっと長い間続いていたとされています。 これらの旧人類は、現代人とは異なる体格や顔の特徴を持っていましたが、篠田氏の研究は、彼らと現代人との間の交配の可能性を示唆しています。この発見は、人類の進化に関する私たちの理解を深めるものであり、人類の多様なルーツに新たな光を当てています。

日本人のルーツとは?

それぞれの遺伝子に注目すると、ネアンデルタール人由来の遺伝子のほうが生存に有利であれば、それを持つ個体はより多くの子孫を残すことになり、その遺伝子はホモ・サピエンスの集団の中に残っていくことになります。逆に生存に不利だったら、徐々に集団から取り除かれるはずです。

ネアンデルタール人由来の遺伝子が生存に有利であれば、それを持つ個体はより多くの子孫を残し、その遺伝子はホモ・サピエンスの集団の中で残っていくことになります。逆に生存に不利だった場合は、徐々に集団から取り除かれるはずです。

つまり、混血はホモ・サピエンスの集団の中で有利に働く遺伝子と不利になる遺伝子を識別する壮大な実験だったとも言えるのです。 また、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスに受け継がれた遺伝子には、体色や体毛に関するものもあります。ユーラシアの環境に適応していたネアンデルタール人との交雑が、ホモ・サピエンスの寒冷気候への適応を可能にしたと考えられています。 このように、ネアンデルタール人由来の遺伝子は、ホモ・サピエンスの生存において重要な役割を果たしている可能性があります。

日本列島に最初にホモ・サピエンスが到達したのは4万年ほど前のことになります。

日本人のルーツについては、様々な説が唱えられています。 縄文人は初期拡散で東アジアの内陸と沿岸部に広がった集団を祖先に持つと篠田氏は指摘します。縄文時代、およそ13,000年にわたって日本列島に居住していた縄文人は、旧石器時代から多様な地域から来た集団によって形成されたとされています。縄文人のDNA分析からは、この長い時期にわたって列島には均一な集団が存在していたのではなく、実際には私たちが想像する以上に多様な集団が存在していたことが明らかになっています。

弥生時代に日本人は渡来人の影響を受けます。現代の日本人の起源は、渡来した人びとと縄文人の集団との交流や混血によって成立したと考えられます。朝鮮半島に起源を持つ集団が大きな影響を与えたとされ、この仮説は現在の科学的な研究結果や考古学的な証拠に基づいています。しかし、まだ解明されていない部分も多く、今後の研究によってさらなる明らかになることが期待されます。

世界を見渡すと、グローバリゼーションが遺伝子の交流を促進する方向に作用していますから、ますます民族という概念と遺伝子の共通性で括られる集団の齪賠は大きなものになっていくはずです。これまで遺伝的に斉一性の高かった集団でも、他の地域の集団との混合によって、その特徴を変化させていくはずです。

人類としてのゲノムが99.9%同じであるという事実は、我々が単一の種、ホモ・サピエンスとしての共通性を持つことを示しています。この認識は、人種やその他の違いに関わらず、全ての人間が本質的に平等であるという考え方につながります。

一方で、残る0.1%の遺伝的な違いに注目する(能力主義に陥る)よりも、集団の持つ遺伝子の構成は時間とともに大きく変化していくと考え、「人類は平等」と捉えた方が正しいと篠田氏は指摘します。

 

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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