感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学
正木郁太郎
東京大学出版会
感謝と称賛 人と組織をつなぐ関係性の科学(正木郁太郎)の要約
感謝と称賛の文化は、単に職場の雰囲気を良くするだけでなく、組織の生産性や創造性の向上にもつながります。従業員のエンゲージメントが高まることで、自発的な改善提案や革新的なアイデアが生まれやすくなります。また、人材の定着率向上にも寄与し、長期的には組織の競争力強化にもつながるのです。
感謝が組織内において重要な理由
「日々の感謝をはっきりと伝える」ことや「相手を適切に称賛すること」は,地道ではあるものの組織や職場の「関係性」の維持と強化に効果的であり、かつ、これならばすぐに、誰にでも取り組めるかもしれない。 (正木郁太郎)
本書は、社会心理学者の正木郁太郎氏による注目すべき著作です。東京女子大学現代教養学部准教授である正木氏は、この書籍を通じて人間関係や組織における感謝と称賛の重要性を詳細に探求しています。 現代社会において、人々は日々様々な課題に直面しています。
職場でのストレスや人間関係の希薄化、組織内のコミュニケーション不足など、ダイバーシティ推進によるお互いの理解不足など組織内には多くの問題が存在します。正木氏は、これらの課題に対する新たな視点として、感謝と称賛の力に着目しました。
この数年、日本の企業経営においても、「人」の価値を最大化する人的資本経営が採用されるようになりました。従業員一人一人の能力や潜在力を最大限に引き出すことで、組織全体の競争力を高めることを目指しています。 しかし、人的資本経営の実現には、従来の方法論だけでは不十分だと指摘する声が上がっています。
正木氏は、研修への投資や労働条件の改善といった従来のアプローチに加え、人間の心理や感情に着目したマネジメントの必要性を説いています。 正木氏の主張によれば、人的資本経営の真髄は、従業員の内面に働きかけ、その潜在能力を引き出すことにあります。
本書では、感謝と称賛というポジティブなコミュニケーションが、人と組織を結びつける力について深く考察されています。単なる礼儀作法としてではなく、人々の心を豊かにし、組織内のつながりを強化する重要な要素として捉えられています。
正木氏は、これらの感情表現が人々の動機付けや自己肯定感の向上に大きな影響を与えると指摘します。適切なタイミングで、誠実な感謝の言葉や称賛の言葉をかけることで、従業員のモチベーションが飛躍的に高まる可能性があるのです。
著者は感謝と称賛を次のように定義します。
・感謝・・・「自分が他者から何らかの利益や恩恵を受けた際に、利益を提供した人に対して抱く肯定的な感情や、それを表すコミュニケーションのこと」と定義します。つまり、感謝は単なる気持ちだけでなく、それを相手に伝える行為も含んでいます。
・称賛の定義・・・「他者の優秀さや卓越、望ましい態度や行動を見聞きした際に抱く、ポジティブな主観的評価を伴う感情と、それを表すコミュニケーションのこと」とします。称賛は、相手の特定の行動や特質に対する積極的な評価を表現することを意味します。
これらの定義から、感謝と称賛は似ているようで異なる性質を持っていることがわかります。感謝は自分が受けた恩恵に対する反応であるのに対し、称賛は他者の優れた点に対する評価です。しかし、両者とも相手に対するポジティブな感情を表現するという点で共通しています。
感謝は言葉にして表明することで、はじめて、周囲に拡散し、他者へと広がります。また、感謝はする方とされる方の両方にポジティブな効果が期待できます。
研究によると、感謝行動には重要な効果が3つあります。まず、感謝の気持ちを表すことで、他人を助けたり、社会に貢献したりする行動が促進されることがわかっています。例えば、感謝の言葉を掛けられることで、自分も他人に対して親切な行動を取ろうとする意欲が高まります。このような行動が繰り返されることで、個人間の助け合いや社会全体の協力が促進されます。
次に、感謝行動はストレス対処能力を高め、心の健康を改善する効果があります。日常生活の中で感謝の気持ちを持つことで、ポジティブな感情が増え、ネガティブな感情が軽減されます。これにより、ストレスに対する耐性が強化され、精神的な健康状態が向上します。感謝の習慣を持つ人々は、より幸せで満足度の高い生活を送ることができるのです。
さらに、感謝行動は人間関係の質を向上させる効果もあります。感謝の気持ちを相手に伝えることで、相互の信頼感が深まり、コミュニケーションが円滑になります。
感謝と称賛の文化をリーダーが導入すべき理由
特に、ビジネス環境においては、感謝の気持ちを持つことで、チーム内の協力体制が強化され、仕事の効率も向上します。 会社のトップやリーダーが率先して感謝の重要性を示すことも非常に効果的です。リーダーの行動は、従業員全体に大きな影響を与えます。
リーダーが感謝の気持ちを表現し、感謝の文化を推進することで、会社全体の雰囲気が変わり、よりポジティブな職場環境が形成されます。このような環境では、従業員同士のつながりが強化され、信頼関係が深まります。 感謝は伝染するものであり、集合的感謝の力によって、メンバー同士のつながりが強化されるのです。一人の感謝の行動が、周囲の人々にも影響を与え、全体の信頼感と協力体制が向上します。
結果として、組織全体がより健康的で生産的な環境となり、個人も組織も共に成長していくことが可能となります。感謝の文化を育むことで、私たちはより良い社会を築くことができるのです。
感謝を交わすことは単に「嬉しい」「マナーだ」というだけではなく、働く姿勢や行動,あるいは職場の良好な対人関係の維持・改善にまで幅広く影響する、重要な活動だと考えられる。
感謝と称賛が持つ力は、単に従業員の気分を良くするだけではありません。それは、組織内の信頼関係を強化し、協力的な職場環境を醸成します。さらに、個々の従業員が自身の価値を実感することで、自発的な成長や挑戦を促すきっかけにもなり得るのです。 ただし、正木氏は感謝や称賛の表現には注意が必要だとも警鐘を鳴らします。
職場のメンバーどうしが互いに称賛を交わし、敬意を払える環境は、強い信頼関係を生み出します。これは単なる良好な雰囲気以上の効果をもたらし、実際の業務面でも大きな影響を与えます。
相互称賛がもたらす効果として、まず信頼関係の構築が挙げられます。互いの努力や成果を認め合うことで、チームの結束力が高まります。また、このような信頼関係が築かれると、メンバー間での自発的な支援が増えることにつながります。
さらに、他者からの承認は個人の仕事への意欲を高める効果があり、モチベーションの向上にも寄与します。加えて、安心して意見を出せる環境は、新しいアイデアの創出につながり、創造性の促進にも役立ちます。 一方で、相互称賛が欠如している職場では、いくつかの問題が生じる可能性があります。自分の行動が評価されないと感じると、積極的に行動することをためらうようになり、消極的な姿勢が広がる恐れがあります。
称賛の習慣がないと、建設的なフィードバックの機会も減少し、コミュニケーション不足を招くことがあります。さらに、個人主義が強くなり、協力して問題解決に当たる機会が減ることで、チームワークの低下につながる可能性もあります。加えて、自分の貢献が認められないことで、職場でのストレスが高まることも懸念されます。
感謝と称賛の力が組織変革の種となることは、多くの経営者や組織開発の専門家が認める事実です。これらの行動は、組織文化を一変させる魔法の杖ではありませんが、その導入にかかるコストは比較的低く、得られる効果は大きいため、取り組む価値は十分にあります。
感謝と称賛の文化は、単に職場の雰囲気を良くするだけでなく、組織の生産性や創造性の向上にもつながります。従業員のエンゲージメントが高まることで、自発的な改善提案や革新的なアイデアが生まれやすくなります。また、人材の定着率向上にも寄与し、長期的には組織の競争力強化にもつながるのです。
このように、感謝と称賛は組織変革の重要な要素であり、その効果的な実践は組織の持続的な成長と発展に大きく貢献します。ただし、その導入と定着には時間と忍耐が必要であり、トップマネジメントの強いコミットメントと、全社を挙げての継続的な取り組みが不可欠です。
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