日本人のための議論と対話の教科書 – 「ベタ正義感」より「メタ正義感」で立ち向かえ(倉本圭造)の書評

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日本人のための議論と対話の教科書 – 「ベタ正義感」より「メタ正義感」で立ち向かえ
倉本圭造
ワニブックス

日本人のための議論と対話の教科書 (倉本圭造)の要約

「メタ正義感覚」とは、異なる立場の正義を同等に扱い、高い視点から問題を捉える能力を指します。これは対立する意見を単に妥協させるのではなく、それぞれの正義の根底にある存在意義を認識し尊重しながら解決策を見出す方法です。この中庸的な姿勢によって、日本は世界を変えることができると著者は主張しています。

メタ正義で分断の解決策を考えよう!

こんなやり方で世の中を変えることなどできない。そうやって気に入らないものに石を投げつけているだけなら、成功にはほど遠い。(バラク・オバマ)

元マッキンゼーの評論家、倉本圭造氏が、社会の分断問題に警鐘を鳴らしています。欧米や日本では、異なる意見を持つ人々の間で「罵り合い」が激化し、社会の溝が深まっています。倉本氏は、この問題を解決するために本書を書いたと言います。

倉本氏によると、今の社会には大きな問題があります。人々は自分の考えだけを正しいと思い込み、違う意見の人とは話し合おうとしません。その結果、お互いを非難し合うだけで疲れ果てているのです。この状況では、本当の問題解決ができません。みんなが自分の意見を押し付けるだけで、社会全体が前に進めないのです。

日本の経済は過去30年間停滞していましたが、この期間の日本社会の動向には興味深い側面があります。一見すると方向性を見失っているように見えますが、実はこれには肯定的な意味合いがあるのです。 日本は、単一の価値観や政策を強引に押し通すことを避けてきました。これにより、アメリカのような極端な社会の分断を回避し、国民としての共通基盤をなんとか維持しています。

アメリカのように社会が二極化してしまった国とは異なる可能性を日本は秘めているのです。 この アプローチには、変革に反対する勢力への敬意が含まれています。社会変革のプロセスにおいて、反対派を力ずくで押しのけるのではなく、より丁寧なアプローチを取ることで、排除された人々の不満や怨恨を最小限に抑えることができます。

このような方法を採用することで、改革によって不利益を被った人々が細部にわたって妨害をし、社会全体の前進を阻害するような事態を避けることができるのです。平成時代に見られた「抵抗勢力を打ち破れ」という姿勢とは一線を画す、より慎重で包括的なアプローチが求められているのです。

著者は「メタ正義」という概念を提唱し、対立する立場を超えた解決策を模索しています。これは単なる対話の重要性を説くものではなく、より深い理解と戦略的なアプローチを示唆しています。

「立場を超えた対話」による具体的な解決を模索するセンスを、私は「メタ正義感覚」と呼んでいます。  あなたが考える「正義」と、あなたとは社会の逆側に生きる人たちが持つ「正義」、それは対立することが多いでしょう。しかし、どちらの正義も絶対化せず、「メタな視点(一段高い所から見つめる視点)」で、それぞれの正義を〝対等に〟扱った上で、具体的なレベルで解決していくことができれば、延々と「正義」同士をぶつけ合って何もできないよりもよほど素晴らしい世界が開けるでしょう。  

「メタ正義感覚」とは、異なる立場の正義を同等に扱い、高い視点から問題を捉える能力を指します。これは、対立する意見を単に中間で妥協させるのではなく、各々の正義の根底にある存在意義を認識し、それを尊重しながら解決策を見出す方法です。

このコンセプトの核心は、相手側の主張や既得権にも一定の機能や理由があると理解することです。そうすることで、相手の立場を否定せずに、その機能を別の形で満たす代替案を提示できます。これにより、激しい対立を避けつつ、徐々に変化を促すことが可能になります。

「メタ正義感覚」の実践には、相手の果たしている役割や機能に敬意を払うことが重要です。これにより、相手の主張の根底にある意義を理解し、それを損なわずに変革を進める方法を見出せます。この巧妙なプロセスが、「メタ正義感覚」の核心部分といえるでしょう。

著者は、現在の社会課題として、このような「メタ正義的対話」ができる層が主導権を取り戻すことを挙げています。そのためには、極端な主張をする人々が過激化する前に、彼らの意見をしっかりと取り上げ、検討する仕組みを構築することが必要だと提言しています。これにより、社会全体でより建設的な対話と解決策の模索が可能になるのです。

日本を再び成長する方法とは?

誰かをかっこよく糾弾してみせることが「正義」の行いだと思っているやつらに、 「本当の正義」ってのがどういうものか見せつけてやろうぜ!

岸田総理が提唱する、「新しい資本主義」という言葉は抽象度が高く、わかりづらいものです。 新資本主義とは、つまるところ「成長と分配の好循環」を実現するための政策体系だと言えます。

日本が再び成長を実現するためには、日本的な土着共同体の強みを活かしつつ、グローバリズムと是々非々で付き合うという、バランスの取れたアプローチを採用すべきだと著者は指摘します。このアプローチの核心は、日本固有の文化や価値観を尊重しながら、グローバル化の波に柔軟に対応することにあります。

新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの社会に多くの課題を突きつけました。その中で特に顕著だったのは、議論の質の低下です。倉本氏は、この問題の根源を「欧米出羽守」と「反権力病」の極端な人たちの存在に見出します。

「欧米出羽守」とは、欧米の政策や価値観を無批判に賞賛し、日本に適用しようとする人々を指します。一方、「反権力病」は、政府の施策を一方的に批判し、建設的な議論を妨げる傾向を持つ人々を表しています。これらの極端な立場は、現状を適切に踏まえない批判を生み出し、結果として政府側も「防波堤としての暴論」を持ち出さざるを得ない状況を作り出しました。

こうした不毛な対立は、社会の分断をさらに深める危険性をはらんでいます。 興味深いことに、倉本氏は政府批判の文脈で登場する極端な意見があっても良いと言います。彼の見解によれば、こういう意見の出現は議論全体を良い方向に変化させるための「必然」なのかもしれません。

しかし、ここで重要なのは、そうした陰謀論は仲間内で留めておくべきだという点です。公の場では、「意見は違うがまともな議論をしたい」人たちの集まりが可視化されることが重要です。

実際、世代交代が進むにつれて、「すべての問題を権力VS反権力のイデオロギー対立として捉える病」が徐々に社会から姿を消し、社会の雰囲気も静かに変わりつつあります。 過去数十年にわたり繰り返されてきた、「欧米の事例を無批判に持ち込み、日本はダメだと一方的に批判する」VS「日本社会の現状維持を理由にあらゆる変化を拒否する」という無意味な対立を、「メタ正義感覚」に目覚めた人々で置き換えていくことが求められています。

そうすることで、日本に山積する様々な問題を「メタ正義」的な視点で解決していける環境を作り出すことができます。 こうした日本のアプローチが、分断が進む米中冷戦時代の人類社会にとって、貴重な「共有軸」になるのです。

新資本主義の重要な側面の一つが、グローバリズムとの適切な距離感の保持です。倉本氏は、欧米発の先鋭化されすぎた思想に警鐘を鳴らしています。これらの問題に対処するため、倉本氏は日本の独特な役割を提案しています。彼は国際社会を、洗練された「水の世界」と土着的な「油の世界」の二つに分け、これらをエマルション(乳化)させる乳化剤としての日本の役割を強調しています。

国譲り神話的に「敵を完全に征服せず、一緒に協力し合うことでお互いを受け入れる」という解決のあり方が必要とされる時代が、世界的にやってきていると私は考えています。

倉本氏は、日本人にしかできない中庸の立場を意識し、貢献することで、日本も世界も変えることができると主張しています。具体的には、日本の伝統的な価値観や社会システムの強みを活かしつつ、グローバルな課題に対して独自の解決策を提示することが求められます。

倉本氏は最後に、単なる糾弾を正義と勘違いする風潮に警鐘を鳴らしています。彼は、そうした浅薄な「正義」ではなく、本当の意味での正義を示すことの重要性を強調しています。新資本主義の理念に基づき、日本の強みを活かしながらグローバルな課題に取り組むこと。それこそが、私たちが目指すべき真の正義の姿だと言うのです。

日本独自の視点と経験を世界に発信し、より調和のとれた国際社会の実現に貢献すること。それが、新時代における日本の使命なのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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