最高を超える(フランク・スルートマン)の書評

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最高を超える
フランク・スルートマン
ダイヤモンド社

最高を超える(フランク・スルートマン)の要約

スノーフレイクのCEOであるフランク・スルートマンは、リーダーや社員がミッションを中心に経営を行うことで、企業は飛躍的な成長を遂げると言います。多くの企業は、高額な人材の入れ替えや組織再編、ビジネスモデルの大幅な変更を行わなくても、大きな成長のチャンスがあると彼は主張しています。

成長する企業にミッションが重要な理由

ミッション主導でやってきたからこそ、皆がやる気に満ち、集中でき、前のめりで、情熱的——むしろ熱狂的といえるかもしれない——でいられた。 ミッションに従うというのは、単に頭で理解するだけでなく「直感的」な行為だ。組織にはっきりした目的があれば、体の芯でそれが感じられる。(フランク・スルートマン)

スノーフレイクのCEOであるフランク・スルートマンは、企業成長の分野で最も実績のあるエグゼクティブの一人であり、スノーフレイクを史上最大のソフトウェアIPOに導きました。彼はデータドメイン、サービスナウ、スノーフレークの3社でCEOとなり、各社に驚異的な成長をもたらしました。

スルートマンは今回、自身の経営哲学と組織変革の方法論を若い経営者に伝えるために、最高を超える(Amp It Up)を執筆しました。著者は組織のパフォーマンスを飛躍的に向上させるための革新的なアプローチを提示しています。

本書は、起業家やスタートアップの創業者だけでなく、中間管理職やあらゆるレベルのリーダーに向けたものです。リーダーが組織の成長力を最大限に引き出し、企業を想像以上の高みへと成長させるための必読書です。

スルートマンは、多くの企業が高額な人材入れ替えや組織再編、ビジネスモデルの根本的な変更などを行わずとも、大幅な成長を実現できる余地があると主張しています。彼の提唱する方法は、外部のコンサルタントを大量に雇い入れるような従来型のアプローチとは一線を画しています。

スルートマンが強調するのは、組織の全メンバーが重要な目標に向かって一致団結し、日々高い緊急性と強度を持って行動することの重要性です。彼は、前例のない成長を達成するためには、平凡さを徹底的に排除し、現状に満足することなく、困難な決断を恐れずに下していく必要があると説きます。この過程では、組織の使命に対する揺るぎない焦点を維持することが不可欠だと強調しています。

組織の成功は、リーダーシップの質に大きく依存します。力不足や優柔不断なリーダーシップは、組織全体を停滞させ、最悪の場合、衰退への道を開きかねません。人間の本質として、多くの人々は自然なままでは最小限の努力で満足し、平凡さに甘んじる傾向があります。これは、氷河のようにゆっくりと、しかし確実に組織のパフォーマンスを低下させていきます。

焦点の定まらないリーダーシップは、組織内に無数の優先事項を生み出し、結果として何も達成できない状況を招きます。このような環境下では、才能ある人材が自身の能力を十分に発揮できず、フラストレーションを募らせ、最終的には組織を去っていきます。この負のスパイラルは、組織の急速な衰退につながります。

しかし、適切なリーダーシップの介入により、この状況は劇的に改善されます。スルートマンは、「AMP IT UP最高を超える」という哲学を提唱しています。これは、単に「良い」や「十分」を目指すのではなく、常に卓越性を追求する姿勢を意味します。この哲学を組織に浸透させることで、即座に変化が生まれ始めます。

・優れたミッションの3つの基準
組織を活性化させる最初のステップは、強力なミッションを策定することです。スルートマンは、優れたミッションの3つの基準を提示しています。
1. 壮大さ
ミッションは、組織メンバーの想像力を刺激し、大きな夢を抱かせるものでなければなりません。日々の業務を超えた、社会に大きなインパクトを与えるビジョンを描くことが重要です。

2. 明確さ
抽象的な理想ではなく、具体的で理解しやすいミッションが求められます。全ての組織メンバーが、自分の役割とミッションとの関連性を明確に理解できるようにすることが重要です。

3. 非金銭的価値
純粋な利益追求を超えた、より高次の目的を掲げることが重要です。社会貢献や革新的な価値創造など、金銭以外の目標を設定することで、より深い意味と動機付けを組織にもたらします。

・ミッションを育てるための4つの鍵
優れたミッションを策定した後、それを組織全体に浸透させ、実践に移すための4つの重要な要素があります。
1. 集中
組織の全てのリソースとエネルギーを、ミッションの達成に向けて集中させることが重要です。これは、不要な活動や優先度の低いプロジェクトを断固として排除し、核心的な目標に焦点を当てることを意味します。

2. 切迫感
組織全体に、ミッション達成の緊急性を浸透させることが重要です。「今すぐ行動しなければ」という意識を醸成し、自己満足を排除します。この切迫感が、イノベーションと継続的な改善の原動力となります。

3. 実行
計画を立てるだけでなく、迅速かつ効果的に行動に移すことが重要です。失敗を恐れず、学習と適応を繰り返しながら、常に前進し続ける文化を築きます。

4. 戦略
長期的な視点を持ちつつ、日々の意思決定と行動を戦略的に行うことが重要です。組織の全ての活動が、大きなビジョンの実現につながっているかを常に検証し、必要に応じて軌道修正を行います。

スルートマンは、ミッション主導型の組織運営が単なる理念や抽象的な概念ではなく、日々の具体的な意思決定と行動に反映されるべきだと強調しています。これは、時間、労力、資源の配分に関する全ての決定が、組織のミッションに沿ったものでなければならないことを意味します。

このようなミッション主導型の思考と行動を組織全体に浸透させることで、全てのメンバーが共通の目的に向かって一丸となって進むことができます。それにより、個々人の努力が組織全体の大きな成果につながり、結果として組織の急速な成長と発展が実現されるのです。 

最高を超えていくための鍵となる5つのステップ

最高を超えていくための鍵となる5つのステップ(①基準を上げる、②皆のベクトルを合わせる、③焦点を絞る、④ペースを上げる、⑤戦略を転換する)

まず、スルートマンは「基準を上げる」ことの重要性を強調しています。優先事項を明確にし、本質を追求する姿勢が、優れたリーダーシップの基盤となります。実行力を重視し、戦略よりも行動を優先することで、組織全体のパフォーマンスが向上すると説いています。

次に、組織内の「ベクトル」を合わせることの重要性を指摘しています。スルートマンは、組織メンバーを「乗客」と「運転手」に分類し、積極的に行動を起こし、高い基準を求める「運転手」タイプの人材を重視すべきだと主張します。

また、組織の方向性に合わない人材との別れを恐れず、迅速な行動を取ることの重要性も強調しています。 さらに、強固な組織カルチャーの構築が、競争力の源泉となることを説いています。カルチャーは単なる掛け声ではなく、日々の行動と結果の積み重ねによって形成されるものだと指摘し、一貫性のある行動様式や価値観の重要性を強調しています。

組織内の信頼関係構築にもフォーカスし、リーダーが信頼される存在であることの重要性を説いています。信頼関係があれば、率直なフィードバックが可能になり、失敗を恐れずに挑戦する文化が育つと主張しています。

スルートマンは、組織の「焦点を合わせる」ことの重要性も強調しています。間違いを素早く認め、修正する勇気を持つこと、そして顧客との結びつきを重視することを推奨しています。

企業の成長を制約する要因の一つは、獲得可能な市場の大きさです。市場が十分に受け入れられ、飽和状態になり始めると、成長のペースは自然と鈍化します。多くの企業は、成長の勢いを維持するために、最初の成功を繰り返すことを期待して二番手の製品やサービスに大幅な投資をします。

しかし、次なるイノベーションを起こすことは容易ではなく、最初の成功が偶然に重なり合った結果であることを認めるためには知的な誠実さと謙虚さが必要です。 一度金脈を掘り当てたからといって、それを再現する方法を簡単に会得できるわけではありません。

持続的に成長するためには、自社の強みを活かし、初めの製品やサービスを隣接市場に適応させることが重要です。ただし、必要がない場合は手を広げすぎないことも大切です。自社の販売能力を拡大しつつ、獲得可能な市場を広げていけば、新たな金脈を探し求める必要はありません。

成長の勢いが止まらない時期に、営業とマーケティングを拡大して新規顧客を獲得できるという確信が持てたなら、その時こそ支出を大幅に増やすべきタイミングです。皮肉なことに、POCまでに資金を使いすぎて、本当に必要な次の段階で資金不足に陥るスタートアップ企業は多いです。Go To Marketに行くタイミングで初めて資金を投入すべきなのです。

「ペースを上げる」ことも重要な要素として挙げられています。多くの企業は成長するにつれて、創業当初の鋭いエネルギーを失ってしまいます。まるで獲物を狩るトラのような集中力と、成功への原動力に徹底的に集中する本能が薄れてしまうのです。

組織が階層化され、プロダクトを作る人や販売する人よりも、そうでないスタッフが増えてくると、会社のミッションから逸れた問題に時間を浪費することが多くなります。戦略を立てる人は多くても、実際に行動する人が不足しているという状況に陥りがちです。

リーダーはそういった状態に陥らないために、最高を目指し、行動することが求められます。特に営業部門において、単なる数字の追求ではなく、根本的な問題解決と適切な資源配分の重要性を説いています。飛躍的な成長を追求し、ライバル企業との圧倒的な差別化を図ることが重要だと言います。

最後に、「戦略を転換する」こと、タイミングの見極めの重要性を指摘しています。

市場を制するだけでは不十分だ。事業が軌道に乗ったら、それをどうやって維持すればいいだろうか?次に取るべき行動は?獲得可能な市場を拡大する方法は?そもそも、行き詰まる前に、戦略転換の必要性に気付けるだろうか?

成功後も初期の鋭さを失わず、常に次のステップを見据えることの重要性を強調しています。

スルートマンの教えは、リーダーが常に高い基準を持ち、実行力を重視し、組織全体のベクトルを合わせ、強固なカルチャーを築くことで、組織を最高の状態に引き上げられるという信念に基づいています。この考え方は、急速に変化するビジネス環境において、組織が持続的に成功し、成長するための指針となります。

経験が重要な理由

あなたならではの経験の積み重ねを最大限に活かそう。自分の経験とここまでの章で見てきた考え方を応用して、今以上に理想的で、磨きのかかった、生産性の高いあなたを目指してほしい。どれだけ時間がかかろうとも、自分なりの道を見付けることで、あなたの力は解き放たれる。

ビジネスの世界において、経営者の経験は計り知れない価値を持っています。多くの成功した経営者が口を揃えて言うように、経験から得られる学びは、他のどんな方法でも代替できない貴重なものです。

経験の真の価値は時間とともに明らかになります。ビジネスの世界では、予期せぬ課題や失敗に直面することは避けられません。しかし、これらの出来事は単なる障害ではなく、成長の機会として捉えるべきです。

スティーブ・ジョブズは、「あなたは人生の点と点を前もってつなぐことはできません。後からつながっていくのです」と語っています。このコネクティング・ドットという考え方は、経験の意味が後になって初めて理解できることを示唆しています。

優れたリーダーは、どのような状況下でも優れた結果を生み出す能力を持っています。これは、長年の経験から培われた直感と判断力によるものです。

ビジネスの世界は時に残酷です。カリスマ性があり、人気のあるリーダーであっても、業績が低迷すれば、その評価は一変します。IBMの元CEOであるトーマス・J・ワトソン・ジュニアは「早く成功したいなら、失敗を二倍の速度で経験することだ。成功は失敗の向こう側にあるのだから。」と語っています。

また、GEの元CEO、ジャック・ウェルチも「成功と同じように、過ちが良い教師になるということを学んできた」と述べています。経営者は失敗の経験さえも、将来の成功のための貴重な学びとしています。

マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラは『「何でも知っている(know it all)」文化ではなく「何でも学ぶ(learn it all」」文化の価値が重要だ』と語っています。この言葉は、常に新しい知識を吸収し続けることの重要性を強調しています。

経営者にとって経験が重要な理由は、それが未来の成功への道筋を示す羅針盤となるからです。過去の成功や失敗、予期せぬ出来事への対応、そして日々の決断の積み重ねが、経営者としての能力を磨き上げていきます。

経営者は、自身の経験を振り返り、そこから得られた教訓を今後の意思決定に活かすことで、組織をより強固なものにし、持続的な成功へと導くことができるのです。経験は、ビジネスの世界で生き抜くための最も貴重な資産の一つであり、それを適切に活用できる能力こそが、真の経営者の証なのです。

スルートマンの経営哲学の核心は、組織全体のエネルギーレベルを引き上げること、つまり「AMP IT UP」することにあります。彼は、リーダーの役割は単なる指示や管理ではなく、組織全体の活力を高め、各個人が最高のパフォーマンスを発揮できる環境を創出することだと主張しています。

本書が提唱する方法論は、短期的な成果だけでなく、長期的な組織の健全性と持続可能な成長を重視しています。スルートマンは、一時的な数字の改善ではなく、組織文化の根本的な変革を通じて、継続的な成長と革新を実現することの重要性を説いています。ミッション主導のリーダーシップは、急速に変化する現代のビジネス環境において特に重要性を増しています。行動するリーダーと社員が企業に飛躍的な成長をもたらします。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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