やらない時間術
安田修
かや書房
やらない時間術(安田修)の要約
本当に大切なことに集中するためには、「やらない」と決める覚悟が欠かせません。すべてを引き受けるのではなく、本当に意味あるタスクに時間を使うことで、人生の質は大きく変わります。安田修氏の『やらない時間術』は、単なる時間術ではなく、自分の価値観に基づいて行動し、真の生産性と充実感を得るための実践的な指針です。自分の時間を他人に明け渡さず、未来の夢を実現するための第一歩になります。
「奴隷の幸せ」からの脱却
古今東西の時間術を分類すると、大きく分けて3種類になる。それは、 ①「詰め込む」時間術 ②「集中する」時間術 ③やらない時間術だ。(安田修)
信用の器フラスコ代表、株式会社シナジーブレイン代表取締役の安田修氏のやらない時間術は、現代のビジネスパーソンが抱える最大の悩みである「時間不足」に対して、真っ向から異なるアプローチを提案する一冊です。
従来の時間管理術が「いかに効率よく多くのタスクをこなすか」に焦点を当てていたのに対し、安田氏は「何をやらないか」を決めることこそが真の時間創出の鍵だと説いています。
①詰め込む時間術
無駄な時間を省き、スキマ時間を有効に活用。タスクを効率的にこなす。
②集中する時間術
短い時間での集中作業が最も成果を上げる。
③やらない時間術
重要でないことをやらないことで、膨大な時間を得る。
これら3つの時間術は一見相反するように見えますが、実は補完関係にあります。「やらない」ことを決めることで「集中する」時間が生まれ、適切に「詰め込む」ことで効率が高まります。
著者の安田氏が提唱する時間管理の本質は、「奴隷の幸せ」から脱却し、真に価値あるタスクに時間を投資することで、仕事の質と人生の充実度を高めることにあります。日々の小さな工夫の積み重ねが、長期的には大きな成果の違いを生み出すのです。
多くのビジネスパーソンは、日々のメール対応や業務に追われる忙しさの中に安心感を見出し、「必要とされている」という感覚に満足しています。安田氏はこの状態を「奴隷の幸せ」と鋭く表現し、それは真の自由からはかけ離れた状態であると指摘しています。
しかし、このような幸福感に甘んじていては、労働生産性の向上は期待できず、クライアントへの価値提供も限定的なものになってしまいます。かつての私自身も、この「奴隷の幸せ」状態に陥っていました。
私もサラリーマンから独立し、現在はコンサルタント、社外取締役、大学教授として多様な活動に取り組んでいます。その過程で、時間の使い方に細心の注意を払うようになりました。無駄な時間を削減し、本質的なタスクに集中することで、生産性を大きく高めることができました。
人間の脳はマルチタスクに適していません。多数のタスクに同時に対応しようとすると、認知負荷が高まり、パフォーマンスが低下します。著者はやるべきことや考えていることをすべて書き出すことが良いと言います。この単純な行為が脳の整理整頓に驚くほど効果的で、漠然とした不安や焦りに襲われたときも、紙に書き出すだけで心が落ち着き、優先順位が明確になることを実感しています。
タスクに対しては先延ばし習慣を断ち切り、小さな一歩から始めることが重要です。最初の行動さえ起こせば、予想以上にスムーズに物事が進むことが多いのです。この「小さな一歩」の積み重ねが、大きな成果につながります。
また、高いパフォーマンスを維持するためには、脳のコンディション管理も欠かせません。質の高い睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、思考の質と創造性に直結します。
さらに、意識的にインプットとアウトプットのサイクルを回すことは、仕事の質を高めるうえで非常に重要です。新たな知識を取り入れ、それを自分の言葉で発信することで、理解が深まり、創造的なアイデアも生まれやすくなります。
私自身も、日々の読書から得た気づきをブログで発信することで、多くの専門家と出会うことができました。彼らの知見に触れることで、問題解決の精度とスピードが飛躍的に向上し、自分一人ではたどり着けない答えにたどり着けるようになりました。 このように、複数の優れた知見やスキルを持つ人々が互いに知恵を持ち寄ることで、まるで一つの天才のように機能する状態を「集合天才(collective genius)」と呼びます。
これは、チームやコミュニティ全体で価値を創出するための重要な考え方であり、個人の限界を超えてビジネスを進化させるための大きな武器になります。インプットとアウトプットを通じてネットワークを育て、集合天才の力を活かすことこそが、これからの時代の知的生産性を高める鍵になるのです。
毎日の始まりには、その日の最重要タスク(ハイライト)を3つ選定し、頭脳が最も冴える午前中にこれらに集中することで、確実に成果を出せるようになります。このシンプルな習慣が、日々の生産性と成果を劇的に向上させるのです。 時間は有限であり、その使い方が人生の質を決定します。「奴隷の幸せ」から脱却し、真に価値あるタスクに集中することで、ビジネスも人生も豊かになるでしょう。
仕事のパーフォマンスを高める「やらない時間術」とは?
何をやらないかは、何をやるかと同じくらい重要だ。やらないことを決めれば、やることが明確になる。
本当に大切なことに集中するためには、それ以外のことを「やらない」と決める覚悟が必要です。この「やらない」と決断する行為こそが、時間を生み出し、生産性を飛躍的に高める第一歩となります。
しかし、やらないことを選ぶには、少なからず勇気が求められます。特に、責任感が強く、周囲の期待に応えようとする人ほど、頼み事や依頼を断ることに心理的な抵抗を感じやすいものです。けれども、すべてを引き受けることが善だという思い込みを手放さない限り、自分の貴重な時間は、いつまでも他人に奪われ続けてしまいます。
著者が提唱する「やらない時間術」は、わがままな自己中心性とは無縁です。これは、自分自身の人生と時間を尊重し、より本質的な選択を重ねていくための意志表示であり、自分を大切にするための前向きな行動です。変化は何も劇的な出来事によって起きるとは限りません。
むしろ、小さな選択の積み重ねこそが、大きな転機へとつながっていくのです。 特に中間管理職以上のビジネスパーソンにとって、この考え方は非常に有益です。
なぜなら、チーム全体の生産性向上を実現するためには、「より多く働く」ことを良しとする従来の文化から脱却し、「意味のある仕事に集中する」文化を築くことが不可欠だからです。
「やらない時間術」は、個人の時間管理術にとどまらず、組織文化に変革をもたらす視点をも含んでいます。 日常生活においても、多くの人が「自分の時間」ではなく「他人の時間」を生きています。たとえば、友人との付き合いでスケジュールが埋まり、本当にやりたいことに時間を割けないといった状況はよくあります。
私自身も、二次会には参加せず、会食も早めの時間から始めてもらうようお願いしています。なぜなら、朝には読書やブログの執筆、取締役会など、重要なルーティンがあるため、午前のゴールデンタイムのパフォーマンスを落としたくないからです。たとえ「付き合いが悪い」と言われても、自分の働き方や価値観を丁寧に伝えることで、相手の理解を得ることができると感じています。
目的に直結するやるべきことに、没頭しよう。
『やらない時間術』の本質は、単なる時間の節約ではありません。それは、人生全体を俯瞰しながら「本当に優先すべきことは何か」を見直すための、より本質的な時間管理術です。目の前の業務をただ効率よくこなすのではなく、「なぜ働くのか」「自分は何に時間を使うべきなのか」といった根源的な問いに向き合うことで、仕事の質を高めると同時に、人生そのものの豊かさを築くことができます。
スケジュールが常に詰まり、人との接続が絶え間ない現代において、「やらない」という逆説的な選択は、ビジネスパーソンが真の生産性と充実感を取り戻すための、非常に実践的かつ有効な指針です。 やらないことを意識的に選ぶことで、心と時間に余白が生まれ、自分自身と向き合う時間が確保できます。
その余白こそが、新しいアイデアを育てたり、次に取り組むべき目標を見極めたりするために欠かせないものです。結果として、仕事の成果と自己成長の両立が可能になるのです。
著者が紹介する「夢リスト(バケットリスト)」も非常に印象的でした。私自身も夢リストを作成したことで、著者になるという目標や、社外取締役としての上場企業、大学教授として教壇に立つことなど、いくつもの夢を実現することができました。リストに書き出し、バックキャスティング思考で行動を積み重ねていくことで、夢は現実に変わっていきます。
また、限られた時間の中で最大限の成果を出すためには、AIツールの活用も非常に有効です。特に、ChatGPTやClaudeといった生成AIを上手に使いこなすことで、情報収集、文章作成、アイデア整理などの知的作業を効率化できます。たとえば、企画書のたたき台を短時間で作成したり、複雑な内容を要約したりと、これまで時間がかかっていた業務にかける工数を大幅に削減することが可能です。
さらに、Notionを活用して情報やタスクを一元管理したり、Slackでチーム内のやり取りを効率化することで、無駄な会議や確認作業が減り、集中すべき時間を確保できるようになります。こうしたデジタルツールは単なる“便利グッズ”ではなく、「やらないことを決めて、やるべきことに集中する」という『やらない時間術』の本質と深くつながっています。
安田修氏の『やらない時間術』は、「タスクを詰め込む」「効率よくこなす」といった従来の時間管理の常識を覆す、新たな働き方、生き方を提示しています。
本書では、他人の期待や常識に縛られて生きる「奴隷の幸せ」から脱却し、自分自身の意思で時間を使い、自分の人生を生きることの重要性が語られています。その考え方に、深く共感を覚えました。単なる時間術にとどまらず、働き方や生き方そのものを見直すきっかけを与えてくれる一冊です。
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