運命を変えるチャンスはなぜか突然やって来る──直木賞作家・今村翔吾が伝えたいこと
今村翔吾
岩波書店
運命を変えるチャンスはなぜか突然やって来る──直木賞作家・今村翔吾が伝えたいこと (今村翔吾)の要約
夢は変わっても、複数あっても構いません。直木賞作家・今村翔吾氏は、夢を「大夢・中夢・小夢」に分け、段階的に行動することで現実に近づける考えを示しています。小さな習慣が積み重なれば、思いがけないチャンスをつかむ準備にもなります。夢を口に出し、人とつながり、まずやってみる姿勢が、未来を動かす力になります。
夢を実現するために必要なこと
「夢」というのは一度決めたらずっとそれを変えずに守り続けなければいけない、というわけではありません。ぼくぼく僕のようにコロコロ変わることもあっていい。(今村翔吾)の
大人が夢を実現することは難しいと考える人が多いのではないでしょうか? 実は何を隠そう、かつての私もそう考えていました。しかし本来、夢は限られた人の専売特許ではなく、もっと素朴で、伸びやかで、そして少し曖昧なくらいがちょうどいいのかもしれません。
多くの場合、年齢を重ねるにつれて「現実を見ろ」「それは無理だ」といったフレーズが、まるで呪文のように耳に届くようになります。その言葉を真に受け、語ることすら避けるようになった夢が、静かにフェードアウトしていく――そんな場面に、私たちは少なからず心当たりがあるはずです。
けれど、本当にそれでいいのでしょうか?夢が途中でかたちを変えることは、むしろ自然な現象です。進学や就職、挫折や出会い、そして誰かの言葉や本の一節。そうした要素によって、人は少しずつ変わっていきます。ならば、その人が抱く夢もまた、変容するのは当然です。それは決して、恥じるべきことではありません。むしろその変化を受け入れることこそが、新たなスタートの引き金になるのです。
私自身、「本を書きたい」と語ったとき、多くの人から「徳本には無理だ」と否定されました。その言葉は胸に刺さり、しばらくは前に進む気力すら持てませんでした。けれど、少数の応援が私の背中を押してくれたのです。そして数年後、私は著者として本を出版することができました。もし、あのときドリームキラーの声に従っていたなら、今の私は存在しなかったでしょう。
このような「夢との向き合い方」に明確なヒントを与えてくれるのが、直木賞作家・今村翔吾氏です。彼の著書運命を変えるチャンスはなぜか突然やって来るは、岩波ジュニアスタートブックスの一冊として刊行されたものですが、たしかに10代の読者を想定していますが、本書に書かれている夢の叶え方は、大人にとっても大いに活用できる内容です。
実際、私が本書に出会ったのは、彼の小説をAmazonで購入した際、関連作品としてリコメンドに表示されたのがきっかけでした。軽い気持ちで手に取った一冊でしたが、読後には深く印象に残るものがありました。
特に心に残ったのは、「チャンスは準備が整っているときに限ってやって来るとはかぎらない」という逆説的な指摘です。どれほど備えていても、実際にその成果を問われる場面は、たいてい予期せぬタイミングで訪れます。むしろ、何気ない日常の延長や、失敗をした瞬間にこそ、チャンスは姿を現すものです。そして、そのときに即座に動けるかどうかは、日々の姿勢と小さな選択の積み重ねにかかっています。
今村氏は30歳の頃、ダンス教室で子どもたちを指導していた時代に、家出した教え子から「翔吾くんも、夢をあきらめているくせに」と言われた経験があると明かしています。そのひと言が胸に刺さり、長く見ないふりをしていた自分自身の夢と向き合うきっかけになったのだと語ります。そしてその日を境に、彼は小説家という夢に向かって歩き始めたのです。
私自身もまた、似たような感覚を味わったことがあります。一冊目の出版のオファーを受けたとき、SNSの発信以外、執筆経験すらなく、一冊の本を書き切る自信など全くありませんでした。しかし私は、その場で「やります」と即答しました。
冷静に考えれば無謀ともいえる決断でしたが、「今動かなければ、二度とこのチャンスは巡ってこない」と、直感が強く訴えてきたのです。
夢を叶えるための大夢、中夢、小夢とは何か?
僕がよく言うのは、「大夢」、「中夢」、「小夢」を持つということです。かな大きな夢があるとして、その大きな夢を叶えるためには何をしなければいかなけないかという中夢を持つ。そしてその中夢を叶えるために小夢を持つ。
とはいえ、最初から大きな夢に向かって一直線に進むのは、誰にとっても現実的ではありません。そこで今村氏が提案しているのが、「大夢」「中夢」「小夢」という3層構造で夢を捉えるアプローチです。
夢をサイズごとに構造化し、バックキャスティングで逆算していくことで、漠然とした願望が、日々取り組める具体的なアクションへと変わっていきます。
たとえば、小夢として始めた読書や、ブログ・SNSでの発信が、やがて中夢としての継続習慣となり、結果的に大夢――出版へと自然に結びついていくのです。こうした積み重ねが自信を生み出し、予期せぬタイミングで訪れる好機にも落ち着いて対応できる力を育てます。
私自身、小さなアクションの習慣化を通じて、さまざまな夢を実現してきました。最初は日々のブログ更新や、ビジネスに役立つ情報をSNSで発信するところから始まりました。短期間で目に見える成果が出ませんでしたが、あきらめずにアウトプットを継続するうちに、自分というブランドが認知され始め、2冊目以降の出版、雑誌での連載の依頼、さらには社外取締役という新しい仕事にまでつながっていきました。
振り返れば、何気ない一歩がすべて伏線だったと気づく瞬間があります。夢とは、何かを信じて動き続ける人の背中に、静かに応えるように現れるものなのかもしれません。
もうひとつ、忘れてはならないのが「夢を口にすること」の大切さです。思いや願望を心の中にしまっておくだけでは、夢は動きません。けれど、それを言葉にして誰かに伝えることで、物語は静かに動き始めます。耳を傾けてくれる人がヒントをくれたり、応援してくれる人が現れたりするのです。夢とは、他者との接点を通じて、現実に近づいていくのです。
自分はどういう人生を生きたいのか、そのためにどのような準備をすればいいのか、それを見据えて動き出す。夢を実現するためにはまず動き出すこと。これが何よりも大事。そうすれば、きっと夢は叶います。
人生で本当にやりたいことを見つけるためには、まず自分自身と丁寧に向き合う時間が欠かせません。対話を繰り返すことで、自分の内側にある“ワクワクの種”が少しずつ輪郭を帯びてきます。
そして著者は、そのうえで「まずはやってみること」の大切さを繰り返し強調しています。何かを始めるとき、私たちはつい構えてしまいがちですが、「面白そうだな」と思ったことに、肩の力を抜いて飛び込んでみる。それだけで充分なのです。大きな決断である必要はなく、ほんの小さな行動が、結果として思いもよらない方向へ人生を動かすことがあります。
さらに著者が勧めているのは、できる限り多くの体験を自分に与えてみることです。一見意味がないように思える出来事も、後になって過去の学びや努力と交差し、予想もしなかった可能性を拓いてくれることがある――その感覚を信じて動いてみる。そこにこそ、未来の扉が待っているのかもしれません。
今は意味のないように思える経験が、ある日ふと、自分の努力や学びと交差し、思いがけない未来を拓くことがあります。今までに得た知識やスキルが、偶然出会った人や出来事とつながったとき、その瞬間に気づけるかどうかは、どれだけチャレンジしてきたかにかかっています。まさにスティーブ・ジョブズのコネクティング・ドットによって、夢が実現できるのです。
長い人生、夢は、変わってもいいのです。いくつあっても構いませんし、分けて考えても問題ありません。そして、誰かに話してみることも大切です。そうやって夢を少しずつ自分の手の届く場所に引き寄せていくことが、現実への第一歩になります。
その積み重ねの先に、いつかきっと、人生を動かすようなチャンスが訪れます。そして、そのチャンスをつかめるかどうかは、日々の小さな行動を重ねているかどうか、自分の中に準備ができているかどうかにかかっているのです。
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