実存的変容 人類が目覚め「ティールの時代」が来る (天外伺朗)の書評

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実存的変容 人類が目覚め「ティールの時代」が来る
天外伺朗
内外出版社

実存的変容 人類が目覚め「ティールの時代」が来る (天外伺朗)の要約

天外伺朗氏の『実存的変容 人類が目覚め「ティールの時代」が来る』は、外的成功を追う時代から、内面の成熟を軸とする新たな生き方へと導く思想書です。著者は、経営や社会の変革は制度ではなく「意識の進化」から始まると説きます。ソニー創業期に見られた「フロー経営」のように、支配や管理ではなく、信頼と共鳴による創造的な循環が理想の姿です。エゴを手放し宇宙の流れに調和することで、人生も経営も自然に整い、ティールの時代=意識の成熟が導く「自然にうまくいく世界」が到来すると説いています。

天外伺朗氏が説く「実存的変容」とティールの時代

会社が徹底的に社員の面倒を見る代わりに滅私奉公を要求する経営から、独立した個人の自主性が尊重されるオープンな経営への変容です。(天外伺朗)

天外伺朗氏の実存的変容 人類が目覚め「ティールの時代」が来るは、単なる経営論や組織論を超え、人類の進化というスケールで「意識の変容」を問う思想書です。

著者はソニーの元上席常務としての実務経験と、経営・教育・瞑想といった幅広い探究を通じて、「外側ではなく、内側の変容こそが次の時代を拓く鍵である」と繰り返し述べています。本書は、組織をどう動かすかではなく、人がどう目覚めるか──この本質的な問いを中心に据えています。

著者が強調するのは、「今、起きている変化は外的な制度改革ではなく、内的な意識の進化である」という時代認識です。明治維新や戦後復興が外圧による社会変革だったのに対し、これからの変化は、個人の内面から自然に芽生える意識の進化によってもたらされると説かれます。天外氏が「実存的変容」と呼ぶこのプロセスは、宗教的な悟りではなく、自律性に根ざした生き方そのもの。誰かに従うのではなく、自分の内なる声と一体化して生きることです。

その意識が社会の基調となるとき、従来の「支配と管理」の構造は自然に溶け、調和と創造が基盤となる社会が生まれるのです。

フレデリック・ラルーのティール組織では、組織進化の段階を「レッド(衝動型)」「アンバー(順応型)」「オレンジ(達成型)」「グリーン(多元型)」「ティール(進化型)」として体系化します。この進化は単なる制度の変化ではなく、意識構造の変化であり、最終段階であるティール型では、上下関係を超え、個々が自己目的と全体目的を自然に共鳴させながら動きます。

ティール型組織における「自己マネジメント」「進化する目的」「全体性の尊重」といった原則は、まさに「人間の意識が成熟したときに自然に現れる秩序」を表しています。

その思想を最も鮮やかに体現した実例が、著者自身が身を置いた「創業期のソニー」にありました。天外氏が回想するのは、「自尊心が強く、性格も鋭角的だが、仕事では抜群の手腕を発揮する切れ者タイプ」が、上司の寛容な意識のもとで最大限に力を発揮していた光景です。

命令や管理ではなく、信頼と尊重の中で才能が自然に開花していく。この状態を著者は「フロー経営」と名付けます。フロー経営とは、全員が「やらされる」のではなく「自ら動く」組織であり、エネルギーが滞りなく循環する経営の形です。そこでは成果が自然に生まれ、創造性が連鎖するのです。

ソニーの大躍進は、この「フロー経営」という意識構造の革新によって支えられていたのです。 そして天外氏はさらに深い次元で語ります。じつは、「フロー経営」も「ティール経営」も、その神髄は「宇宙の流れに乗る」ことにあります。個人が「実存的変容」を遂げ、エゴ(自己中心的意識)が相対化されると、世界との摩擦が消え、自然のリズムと同調し始めると言うのです。

すると、努力や競争によって何かを取りに行くのではなく、必要なものが流れてくるようになるのです。この状態こそが「運が良くなる」という現象の本質だと著者は説きます。エゴを手放したとき、人は宇宙的な秩序の中で自然と導かれます。

実存的変容──分離の時代から統合の時代へ

 「実存的変容」に達すると、「正義vs悪」のような二元性を脱するので、多様性が許容できるようになり、争い、戦いが極端に減ります。

「実存的変容」以前の人にとって、人生は常に結果が中心です。努力し、成果を求め、成功すれば有頂天になり、失敗すれば落ち込みます。悪い結果を受け入れられず、感情に振り回されることもしばしばです。

しかし、変容を遂げた人は違います。結果に執着せず、今この瞬間に最善を尽くすことに集中します。どんな結果であれ、淡々と受け入れる姿勢を持っています。さらにその境地が深まると、「明け渡し」の状態に達します。自我を手放し、宇宙の流れに身を委ねる生き方です。そのとき、偶然が味方となり、共時性(シンクロニシティ)と運命が自然と協力し始めるのです。

そして、天外氏が提唱する「鳥の瞑想」は、この意識進化を日常の中で育てる実践法です。右後方3メートルほどの空中に、一羽の鳥が静かに自分を見守っていると想像します。その鳥は批判も評価もしません。ただ、穏やかに観察しているだけです。怒りや不安、焦りを感じたとき、「鳥が見ている」と意識を切り替えるだけで、感情に飲み込まれずに冷静さを取り戻せます。

このシンプルな瞑想を毎日10分続けるだけで、思考の整理力が増し、心が驚くほど穏やかになります。仕事でも人間関係でも、感情に反応するのではなく、俯瞰して選択する力が育っていく。まさに、自分の中に観察者を育てるための瞑想法です。実存的変容の第一歩とは、内なる鳥とともに、自分を静かに見つめる時間を取り戻すことなのです。

「実存的変容」というのは、「分離の人生」の一歩先にある「統合した人生」への道です。「怖れ」「不安」「戦い」「努力」「充実」の人生から、「愛」「調和」「平安」「幸福」な人生への変容です。

「実存的変容」とは、地位・名誉・収入・マイホームなど、外側にある目標を追い求める人生から、より根源的な内面の充実へと軸を移すことを意味します。言い換えれば、「分離」から「統合」への変化です。私たちは長い間、他者との比較や競争の中で生きてきました。しかし、天外氏が示す新しい生き方は、外的な評価を超え、自分の内なる声と調和して生きる道なのです。

この意識の転換は、経営にも深く関わります。無理なコントロールをやめ、流れに身を委ねることで、結果は最適な形で整っていきます。

従来の「指示・管理・成果」という構造から、「信頼・共鳴・創造」へ──それこそが現代経営の新しいパラダイムです。ティール組織とは、この状態を制度として設計するものではなく、「意識の自然現象」として理解するための概念です。 著者が言う「実存的変容」とは、経営と存在が重なる地点に到達するための道筋であり、リーダー自身の意識の成熟が、組織全体の創造性を開く鍵になります。

本書は、意識進化論の第一人者ケン・ウィルバーや、成人発達理論で知られるロバート・キーガンの理論が紹介されていますが、抽象的な学術書ではありません。むしろ、日々の実践を通して意識を進化させるためのガイドブックとして読むことができます。(ロバート・キーガンの関連記事

外的な成功ではなく、「存在の充足」に価値を見出す段階に至ったとき、人はようやく真の自由を手にします。その意識の自由こそが、組織を変え、社会を変え、そして人類全体の進化を加速させていくのです。

結論として、天外氏のメッセージは極めてシンプルでありながら、深遠です。変えるべきは組織でも他者でもなく、「あなた自身の意識」です。自分の内側に静けさを取り戻し、宇宙の流れに調和して生きるのです。そのとき、仕事も人生も驚くほどスムーズに展開していきます。ティールの時代とは、意識の成熟によって自然にうまくいく世界を生きる時代なのです。

本書は、組織変革を志すリーダーのみならず、自らの人生を再構築したいすべての人に向けた実践的哲学書です。天外氏の言葉は、経営を超えて、存在そのものの在り方を問います。自分の内に静けさを持ち、流れに委ねながらも自分軸を失わない──それが、次の時代を生き抜く最も力強いリーダーシップの形なのです。

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