ひっくり返す (FLIP thinking) 人生も仕事も好転する「反転」思考術(ベルトルド・ガンスター)の書評

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ひっくり返す (FLIP thinking) 人生も仕事も好転する「反転」思考術
ベルトルド・ガンスター
ディスカヴァー・トゥエンティワン

ひっくり返す (FLIP thinking) 人生も仕事も好転する「反転」思考術(ベルトルド・ガンスター)の要約

悩みや行き詰まりを感じているときこそ、視点を反転させる「フリップ思考」が真価を発揮します。問題を敵ではなく資源と捉え直し、そこに眠るチャンスを見出す姿勢が、新しい現実を切り開く鍵になります。常識や固定観念をいったん脇に置き、「私にとって何が最善か」を問い直すことで、自分の価値観に沿った柔軟な発想が生まれ、停滞していた状況を一気に改善できます。

フリップ思考の2つのステップ

問題を解決してくれるのは、フリップ思考しかないのだ。(ベルトルド・ガンスター)

私たちは問題を抱えると、ついその現実を受け入れず、頭の中で何度も繰り返し悩むという選択をしがちです。「なぜこんなことになってしまったのか」「どうして自分ばかりが…」と問い続け、出口のない思考の迷路に入り込んでしまう。気づけば、問題そのものよりも、それに囚われている自分の思考が苦しみの原因になっていることも少なくありません。

そんな私たちに、まったく新しい視点を与えてくれるのが、「オムデンケン理論(オランダ発のフリップ思考)」の提唱者のベルトルド・ガンスターひっくり返す (FLIP thinking) 人生も仕事も好転する「反転」思考術です。

この本は、「問題は解決すべきもの」ではなく、「活用すべきもの」であるという、従来の価値観を反転させるメッセージに満ちています。問題と闘うのではなく、それを味方にし、人生を動かすエネルギーに変えていく。この思考の転換こそが、ガンスターの提唱する「フリップ思考」の神髄です。

本書の前半では「持ち物を確認する」というテーマが深掘りされます。ここでいう持ち物とは、目に見える物理的な資源だけでなく、自分の内面にある前提・固定観念・過去の経験なども含まれます。たとえば、「時間がない」「お金が足りない」「自信がない」といった思い込みも、自分の思考に影響を与える持ち物の一部として捉えることができます。

著者は問題をチャンスに変えるための2段階のステップを紹介しています。まず第1に行うのが「解体」です。これは、問題を感情や思い込みから切り離し、冷静に事実へと分解していくプロセスです。たとえば「上司と合わない」という悩みがあったとき、それを「合わないという事実がある」と捉えることで、問題に対する立ち位置が変わります。

ここでは「イエス・バット(Yes, but…)」の思考をやめ、ただ「イエス(Yes)」と受け入れることが大切です。「でも」と否定を挟むのではなく、「そうなんだ」と現実をまっすぐ見つめることが、次の一歩を生み出します。

次のステップが「再構築」です。受け入れた事実をもとに、それをどのように活かしていけるかを考えていきます。ここで使われるのが「イエス・アンド(Yes, and…)」という発想法です。「はい、たしかにそうです。そして…」と、事実を起点に新たな意味や行動を加えていく。

この思考が働き出すと、かつては障害にしか見えなかったものが、可能性や創造性の入り口に変わっていきます。問題は消えないかもしれませんが、そこから生まれるアプローチが人生を前に進めてくれます。

ガンスターはこのフリップ思考を「心理的柔術」と表現しています。柔術が相手の力を利用して自らの技に変えるように、問題の力をそのまま逆用して、自分の成長や変化の糧にする。つまり、自分が問題と戦うのではなく、問題同士をぶつけ合って、新たな選択肢を引き出すのです。

フリップ思考はオープンマインドから始まる。そして、好奇心や可能性という観点で考えること。こうでなければいけないというものは何もない。どんなことも許される。もし、何かがこうでなければならないとあなたが決めたなら、それもよい。誰でも、自分の価値観や原則を持っている。それらなくして生きることは無知すぎるし、不可能である。価値観や原則は私たちの行動を左右する。

私たちは、いつの間にか自分の中に出来上がった「こうあるべき」という理論や常識を通して、世界を見てしまいがちです。そのフィルター越しでは、目の前にある事実をそのまま受け取ることができません。そしてもっと厄介なのは、その凝り固まった思考の枠組みが、新しい解決策を生み出す余地さえも奪ってしまうことです。

柔軟な発想や、視点を変える工夫は、まず自分の内側にある「正しさ」への執着を手放すことから始まります。自分の思考の癖に気づき、それをそっと横に置いたときに初めて、現実がありのままに見え、そこからまったく新しい可能性が立ち上がってくるのです。

スタック思考から抜け出す4つの質問

問題というのは、じつはとても単純で、大きく分けて2種類しかない。 あるべきだと思うものが欠けているパターンと、あるべきでないと思うものがあるパターン。たったそれだけだ。

問題というものは、私たちが思っているほど複雑ではないのかもしれません。突き詰めていくと、そのほとんどは「あるべきだと思っている何かが足りない」か、「あるべきでないと思っている何かが存在している」かの、たった2種類に分類されると著者は指摘します。

たったそれだけのことに、私たちはしばしば深く悩み、身動きが取れなくなってしまいます。 本書では、あらゆる問題の背後には「欲求」があると説かれています。

つまり、私たちを取り巻く現実に意味を与えているのは、私たち自身の期待であり、願望であり、こうあってほしいという内なる基準なのです。人生はその期待や欲求に沿って動くことの方が、むしろ稀なのかもしれません。だからこそ、現実と理想のズレが「問題」として浮かび上がるのです。

フリップ思考を試みる人たちは、ただ問題を解消しようとしているだけではありません。彼らは、変化を恐れず、たとえ今すぐ必要に迫られていなくても、新しい自分や可能性に出会おうと挑戦しています。その姿勢は、既存のものから新しいビジネスを提示するベンチャー企業の経営者のようです。一見完成されているものにさえ、新しい意味を持たせることで、私たちはイノベーションすら起こせるのです。

フリップ思考は、既存のルールや常識を覆す創造的破壊、つまりディスラプションとの相性も抜群です。破壊という言葉には否定的な響きがありますが、そこに変化を受け入れる柔軟ささえあれば、長く閉ざされていた扉を開くほどの力を秘めているのです。

興味深いのは、このフリップ思考というアプローチが、「反脆弱性(アンチ・フラジャイル)」という概念と深く共鳴している点です。反脆弱性とは、ナシーム・ニコラス・タレブが提唱した概念で、「壊れやすさ」の対極にある性質を意味します。

単に「壊れにくい」「頑丈」なものとは違い、むしろショックや混乱、ストレスといった外的要因にさらされることで、かえって強く、柔軟に、そしてしなやかに進化していく性質を指します。

これは、まさにフリップ思考が目指すところと重なります。従来の思考法では、問題やトラブルは「避けるべきもの」「処理すべき対象」として扱われがちでした。

しかし、フリップ思考は、問題そのものに価値を見出し、むしろそれがあるからこそ発展や飛躍が可能になるという立場を取ります。言い換えれば、「障害」や「不安定さ」こそが、自分や組織を次のステージへと押し上げるエネルギー源になり得るという考え方です。

反脆弱性を持った存在は、問題から回復するだけでなく、そこから進化します。傷ついた経験を糧にした人が、より深みのある人間になるように、厳しい状況を経て視座を高めた組織が、以前よりも創造性に富んだ決断を下せるようになるのと同じです。

興味深いのは、こうした「反脆弱な」生き方は、何か特別な能力や資質が必要なわけではないということです。必要なのは、ほんの少しの視点の切り替えと、自分の現実に対して柔らかく構える姿勢。状況を敵視せず、意味づけを変えることで、自分自身の行動も変わっていく。

それはまさに、フリップ思考が日常の中で私たちに提供してくれる価値なのです。 問題をただ処理するのではなく、それを取り込んで成長するという選択。それこそが、これからの時代に求められるしなやかな強さであり、フリップ思考が提示する未来への向き合い方なのだと思います。

時には、積極的に介入しないことが最善の判断であることもあります。解決しようとするのではなく、状況そのものに委ね、事態が自然に形を変えていくのを見守る——それもまた、フリップ思考の一つのかたちなのです。手を引くという選択が、かえって物事を前に進めることだってあるのです。

対照的に、本書で紹介されている「スタック思考」は、問題に執着することで状況を悪化させてしまう思考パターンを指します。典型的なのが「イエス・バット」で会話を続けてしまうケースです。「それはそうだけど…」と常に否定を挟むことで、思考が停滞し、自分自身を深みにはまらせてしまうのです。

これは、ぬかるみにハマった車のアクセルをさらに強く踏み込むようなものです。抜け出そうとすればするほど、動けなくなっていくのです。 そして困ったことに、私たちはスタック思考に陥っているとき、そのことに気づいていないことがほとんどです。

自分の行動を振り返る余裕がなく、苦しさから抜け出せない理由が、実は自分自身の考え方にあるとは認めたくないのが人間の性かもしれません。その結果、「考えないようにしよう」とすればするほど、そのことが頭から離れなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。

しかし、こうしたスタック思考から抜け出す方法も本書では示されています。それが、4つのシンプルな質問によるチェックリストです。まず「何が問題なのか?」と問いかけることで、本当にその問題にフリップ思考が有効かを見極めます。次に「これは本当に問題なのか?」と再確認することで、思い込みに気づくきっかけが生まれます。

さらに「自分の期待や行動が、問題の一因ではないか?」と自身の立ち位置を検証し、最後に「この問題はむしろ自分の武器になるのではないか?」という逆転の発想を試みます。 この最後の問いかけが、非常に象徴的です。

アンドレ・アガシやドウェイン・ジョンソン、マイケル・ジョーダンといった一流の人物たちは、「禿げていた」ことによって何かを失ったように見えるかもしれません。けれども実際には、それを気にするどころか、自分のスタイルとして堂々と受け入れたことが、むしろ彼らの魅力や個性を際立たせる武器になっています。欠点だと思われがちな部分を受け入れ、逆手に取るその姿勢こそが、まさにフリップ思考の体現なのです。

私自身も、髪がないことをただ隠すのではなく、むしろ自分のトレードマークとして打ち出しています。それだけではなく、「ドライヤーの時間が不要で、その時間を読書にあてられます」と笑いながら話すことで、相手との距離も自然と縮まります。

欠けているものをマイナスと捉えるのではなく、それをきっかけにコミュニケーションの扉を開いたり、日常のちょっとした快適さに気づいたりする——そういったことが、欠点をチャンスに変えることで実感できます。 大切なのは、何を持っているかではなく、それをどう捉えるか。視点を変えるだけで、自分自身の価値は何倍にもなることを、私も日々感じています。

フリップ思考は、そうした意味の選び方にこそ力を与えてくれる思考術なのです。自分の中に眠る、まだ使われていない可能性に気づかせてくれる——それが、この思考法の本質であり、魅力でもあります。

フリップ思考の受容戦略や七転八起戦略

あなた自身の欲求や、二ーズ、目標に合った、新しくて意外な思考と行動の道筋を見つけてほしい。世界がこうあるべきという考えは、フリップ思考の目指すところではない。世界がこうであってもよいのでは、と考えるのがポイントだ。

誰かの「普通」に自分を合わせるのではなく、「私にとって何が大切か」「私の今の状況では何が最善か」と問い直すことこそが、フリップ思考の出発点になります。他人の成功モデルをなぞるだけでは、本当の意味での変化や成長にはつながりません。

けれども、自分の価値観と置かれた状況に合った選択をするためには、既存のルールや常識を一度、横に置く勇気が必要です。 とはいえ、すべてをただ受け入れればいいという話ではありません。

ときには、状況に対して明確に「ノー」と言う力も不可欠です。何でもかんでも受容してしまえば、自分の軸が曖昧になり、周囲に流されてしまうからです。

しかし、それと同時に見落としてはいけないのは、「受け入れ直す」という行為がもたらす力です。一度否定したものを別の角度から見直すことで、思いがけずチャンスの入り口が見えてくることも少なくありません。

著者の言う「受容戦略」とは、現実をただ受け入れるのではなく、その現実を材料に新たな価値を生み出すアプローチなのです。抗うのではなく、活かす。それが、逆転の可能性を引き寄せる鍵になります。

そして、真の成功に求められる資質は何かという問いに対して、多くの人は「知性」や「才能」といった先天的な要素を挙げます。しかし、実際にはそうした資質は、成功の要因としては中程度の影響しかないという研究結果があります。本当に成功を引き寄せるのは、何度失敗してもまた立ち上がる力。七転八起の粘り強さです。

この「七転八起戦略」は、ただ継続するというだけでなく、失敗の中に隠れている可能性を見つけ出す力でもあります。トーマス・エジソンが語ったように、「チャンスは作業着を着て、きつい仕事の姿をして現れる」のです。表面だけを見て「失敗」と決めつけるのではなく、その奥にあるチャンスの種を見逃さないこと。

転んでも、そのたびに起き上がり、埃を払いながら前に進む。それが結果として、誰よりも遠くにたどり着くための条件になるのです。

一方で、すべてを抱え込もうとせず、意図的に「やめる」という選択も、非常に重要です。本書では「切り捨て戦略」として紹介されており、これはフリップ思考の中でも特に実践しやすく効果の高いアプローチのひとつです。うまくいかなくなったもの、意味を失ったルール、役に立たない習慣——そういったものを手放すことで、新しい可能性が流れ込む余白が生まれます。

スティーブ・ジョブズの言葉を借りれば、「集中するとは、何かに“ノー”と言うこと」です。やらないことを明確にすることで、本当に大切なことにエネルギーを注ぐことができるのです。

本書で紹介されているIT企業の事例は、フリップ思考の象徴的な例と言えるでしょう。優秀な人材を確保しようと、高いコストをかけて採用し、手厚い研修を行ったにもかかわらず、多くの新入社員が研修の途中で他社へと流出してしまう。この問題に対して、従来の思考であれば「どうすれば社員を引き留められるか」という問いに終始していたかもしれません。

けれども、この企業は「イエス・アンド」の姿勢を採用し、まったく新しい道を選びました。人材育成を専門とする子会社を設立し、優秀な若手にとってのキャリア形成の場として機能させたのです。その結果、親会社はより魅力的な職場へと進化し、子会社も独立したビジネスとして成功を収めることになりました。ここには、「問題を逆転させ、チャンスに変える」というフリップ思考の本質が、鮮やかに表れています。

不運に遭遇するたびに、それを恩恵として再定義する。

さらに、フリップ思考の中核には「逆転戦略」があります。自分の抱える弱みや欠点、あるいは不利な状況を、そのままアドバンテージに転換する発想です。言い換えれば、問題をそのまま武器に変えてしまうということ。これは、もっとも単純でありながら、非常にパワフルな思考法でもあります。なぜなら、現実を大きく変える必要はなく、自分の“考え方”を変えるだけで、世界の見え方が一変するからです。

業界2位のレンタカーのエイビスは、「ぜひ、今度利用ください、うちは、カウンターの列も短いですよ」と言うメッセージにより、市場シェアを4年で3倍に伸ばしたと言います。

問題に抵抗し続けると、私たちの思考はたいていスタックしてしまいます。この「スタック思考」に陥るメカニズムこそが、本書の中心的なテーマのひとつです。

著者はネガティブな要素をフリップ思考で捉え直し、「これは何のチャンスか?」と問いかける姿勢こそが、状況を前に進める鍵になると繰り返し、指摘します。

問題をチャンスの源と見なすことで、私たちは状況に振り回される存在から、そこに新しい意味を見出す創造的な立場へと変わっていくのです。頭で解決しようとせず、一度立ち止まって視点を変える。その選択が、未来を大きく動かしてくれます。

本書には先ほどの「受容戦略」や「七転八起戦略」以外にも「待機戦略」「増幅戦略」「コラボ戦略」「さらけ出し戦略」など、ユニークかつ実践的な15の思考法が紹介されています。それぞれが独立した戦略でありながら、すべてに共通しているのは、「問題をどう見るか」という問いに正面から向き合っていることです。

悩みが尽きない人、行き詰まりを感じている人、あるいは過去の失敗から一歩踏み出せずにいる人。そんな人にとって、このフリップ思考は新しい視点の扉を開いてくれるでしょう。思い込みや常識に縛られて見落としていた可能性が、思わぬところに眠っていることに気づけるかもしれません。

最強Appleフレームワーク


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