コネクテッドストラテジー: 「顧客とのつながり」を再構築する新たなDX戦略(ニコライ・シゲルコ, クリスチャン・テルビーシ)の書評

A cell phone is plugged into a connection sign

コネクテッドストラテジー: 「顧客とのつながり」を再構築する新たなDX戦略
ニコライ・シゲルコ, クリスチャン・テルビーシ
東洋経済新報社

30秒でわかる本書のポイント

【結論】:ビジネスモデルを「点」から「線」へ組み替える。 「売って終わり」の単発取引を卒業し、デジタルで顧客と常時接続する継続的関係を築く。 これにより顧客満足度を劇的に高めながら、同時に運営コストを削減する独占的優位を実現する。
【原因】:体験とコストの「トレードオフ」という古い常識。これまではサービスを厚くすればコストが上がるため、体験価値と利益は二者択一の関係だった。 顧客のニーズを事前に把握できない「情報の非対称性」が、在庫や待機時間のムダを生んでいた。
【対策】:4つのRと4つの接続モデルを実装する。「認識・要求・対応・反復(4R)」のサイクルを回し、顧客データを学習して予測精度を上げる。 「欲求対応」から「自動実行」へ介入度を高め、顧客が他社へ移る理由をゼロにする設計図を描く。

本書の30秒要約

デジタルとAIを「効率化の道具」ではなく「顧客との関係強化」として再定義する戦略書です。 顧客がニーズを自覚する前に先回りする「コネクテッド戦略」を導入することで、CX向上と低コスト化を両立。 一度の取引を学習の機会に変え、繰り返すほど賢くなる「正のフィードバックループ」を構築した企業が、次世代の勝者になると説いています。

おすすめの人

・経営者・事業責任者: DXを「IT導入」ではなく「戦略の再定義」と捉えたい方。
・マーケター・CX担当者: LTV(顧客生涯価値)を単なる指標ではなく、実務に落とし込みたい方。
・新規事業開発者: 既存の業界構造を破壊するプラットフォームビジネスを構想している方。 

読者が得られるメリット

・「コストの壁」を突破する視点: サービスを厚くしても利益が出る構造の作り方がわかる。
・具体的な介入戦略: 顧客のジャーニーにどのタイミングで、どう介入すべきかの明確な基準が手に入る。
・参入障壁の構築法: 「繰り返すほど賢くなる」仕組みを作り、後発他社を寄せ付けない独占的ポジションの描き方が学べる。

顧客体験を劇的に変える「コネクテッド戦略」とは

顧客とのより深いつながりや、業界内のさまざまなプレイヤー問の新しいつながりを構築することで、企業は、顧客体験とコストとの既存のトレードオフを再定義する新しいビジネスモデルを生み出すことができるのだ。(ニコライ・シゲルコ, クリスチャン・テルビーシ)

デジタルが当たり前になった今、多くの企業がIT技術を活用したCXの向上に取り組んでいます。また、それに関連した指標として、LTVをKPIにする企業も増えています。

しかし、「IT導入」や「LTVの指標化」そのものが目的化してしまうケースも少なくありません。 顧客接点(タッチポイント)のデジタル化による点の最適化は進んだものの、顧客体験全体の向上につながっていないことが多いのが実情です。また、顧客体験を高めるほど提供コストも上がるというジレンマに直面しています。

こうした課題に向き合うためのアプローチとして、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのニコライ・シゲルコ教授とクリスチャン・テルビーシュ教授が提唱する「コネクテッド戦略」があります。

あらゆる業界で、企業は「顧客体験の向上」と「それを支えるコスト増」のトレードオフに直面しています。航空業界を例に取れば、足元が広く食事も豪華な座席は快適ですが、その分高額になります。電気自動車においても、バッテリー容量が大きく走行距離が長いなど、性能が高いほど利便性は高まりますが、一般にコストは上がります。

これは長らくビジネスの解決すべき命題とされてきました。 しかし、コネクテッド戦略では、顧客とのつながり方を変えることで、従来のトレードオフを崩すことができるのです。企業は顧客にとってより魅力的になり、顧客の支払い意思額を増やしたいと考えています。一方で、このような顧客体験を創造し実現するためのコスト、つまりフルフィルメントコストが対抗する力として存在します。

製品の品質が高ければ高いほど、あるいは立地が便利であればあるほど、このような顧客体験を実現するための総コストは高くなるという関係性が、従来の常識でした。

しかし、タクシーアプリは顧客体験からこのトレードオフを崩しました。利用者は配車アプリを使うことで、街角で拾う、配車係に電話する、タクシー乗り場に並ぶといった手間を減らし、よりスムーズに乗車できます。支払いもアプリ内で完結するため、現金やカードを用意する必要がなく、降車時のもたつきも起きにくくなります。 一方でタクシー会社側も、乗客を探すために「乗り場で待つ」「流しで走り回る」といった非効率を減らせます。

さらに、どの車両をどの顧客に回すかといった配車判断も、車両の位置情報(GPS)や車両管理システム、配車アルゴリズムを組み合わせることで最適化できます。結果として、利用者の体験を高めながら、運営の効率化も同時に進み、体験とコストのトレードオフを乗り越えることが可能になるのです。

ここまでの例は「顧客」と「タクシー会社」のつながりを前提にした話でした。Uberのような配車プラットフォームは、さらに一歩進めて、従来はつながっていなかった「個人所有の車両・運転手」と「乗客」を結びつけます。

プラットフォーム側は車両を保有せず、街中の個人車両を”仮想的な車両群”として管理・活用することで、車両購入にかかる初期投資費やメンテナンスコストを負担せずに済みます。登録者が増えるほど、顧客の近くに車両が存在する確率が上がり、待ち時間が短くなります。運転手側も、車両の受け渡し等の無駄がなくなり、稼働率を高めやすくなります。

本書の図表から作図

新たなつながりを創造することで、Uberはカバーエリアを拡大し、顧客体験を高めることで、飛躍的な成長を遂げたのです。

このようにコネクテッド戦略を採用している企業は、顧客との関わり方や、エコシステム内のさまざまなプレイヤーとのつながりの構築方法を根本的に変化させています。その中心は、これまでの顧客との一過性のやり取りを、継続的で摩擦の少ないパーソナライズされたやり取りを特徴とする、つながりのある顧客関係へと変えることなのです。

つながりのある顧客体験の4つのRと4つのモデル

コネクテッド戦略の中核にあるのは、顧客と企業とのつながりのある関係である。つながりのある顧客関係の設計における4つの側面を考えることは有益であり、これをつながりのある関係の「4つのR」と呼ぶことにする。

顧客との関係を深めるために、企業はどの段階で、どのように介入すべきなのでしょうか。顧客がニーズを「認識(Recognize)」し、その解決策を「要求(Request)」したとき、企業がその要求にどう「対応(Respond)」したか——この一連の体験こそが、顧客体験の最小単位です。

本書はここに、つながりのある関係の4つ目のRとして「反復(Repeat)」を加えます。個々の顧客体験が時間の経過とともに積み重なり、組み合わされることで、持続的な顧客関係(Relationship)が構築される、という見立てです。 

新しい「つながりのある顧客体験」を創造する企業は確かに革新的です。しかし長期的に成功できるのは、反復の工程を徹底的に使いこなし、さまざまな正のフィードバックループを生み出して活用できる企業だけでしょう。

彼らは反復的な顧客接点から得られた成果を、データ基盤と分析能力へ再投資します。その分析を通じて顧客が最も重視する価値要因を特定し、将来の製品・サービス設計に反映します。 結果として解約率が低下し、顧客生涯価値(LTV)が向上します。

LTVの改善は追加投資の原資を生み、投資 → 改善 → 成果の循環がいっそう強化されます。これが正のフィードバックループです。

たとえばAmazon Primeは、当初は「速く届ける」ことを価値の核に据えていました。しかし得られた成果を物流や特典の拡充へ再投資し、会員体験を段階的に強化していきました。その積み重ねが、Amazon全体の顧客体験を底上げしていったのです。

本書ではつながりのある顧客体験を4つのモデルに分類します。
1. 欲求への対応(Respond-to-desire)
「欲しい」瞬間に、摩擦ゼロで応える。 顧客が明確な意思を持ってアクションを起こしたとき、いかに迅速かつ正確に応答できるかが勝負です。

例:Uberの配車、Amazonのワンクリック購入

2. 厳選した提案(Curated offering)
「選ぶ苦労」を肩代わりする。 顧客の過去データや類似ユーザーの傾向からニーズを予測し、選択肢を絞り込みます。膨大な候補から選ぶストレスを減らすことで、顧客の“心理的な持ち分”を獲得します。

例:Netflixのレコメンド、Amazonの「よく一緒に購入されている商品」

3. 行動のコーチング(Coach behavior)
目標達成のパートナーになる。 単にモノを売るのではなく、顧客のゴール(健康、学習など)に向けて伴走します。行動を促すタイミングを企業側が設計することで、離れがたい信頼関係が生まれます。

例:フィットネスアプリの運動リマインド、学習の進捗管理

4. 自動実行(Automatic execution)
「考えなくても回る」極限の利便性です。 顧客が意識する前に課題を解決します。許可を得たうえで企業やシステムが自律的に実行するため、スイッチングコストは最大化されます。

例:インク残量に応じた自動発注、プリンターの自動メンテナンス

「つながりのある顧客関係」と「つながりのある提供モデル」の重要性

コネクテッド戦略は、偶然に生まれるものではなく、慎重に設計する必要がある。コネクテッド戦略には、「つながりのある顧客関係」と「つながりのある提供モデル」の2つの重要な要素がある。つながりのある顧客関係は顧客を満足させるものであり、つながりのある提供モデルは企業がそうした関係を低コストで構築することを可能にするものだ。

いま、この「コネクテッド・ストラテジー」を加速させる最大のエンジンが生成AIです。AIは4つのモデルすべてを、文字どおり別物にアップグレードします。

著者たちは、反復(Repeat)のループこそが企業に持続的な競争優位をもたらすと考えています。そして生成AIは、その反復を内側から強化します。過去のやり取りから学習し、次の接点で精度を上げるからです。

具体的には、以下の力がループを太くします。
・学習:過去の対話・行動からパターンを取り出し、更新します。
・理解:ユーザーの意図を、文脈込みで捉え直します。
・最適化:その場に合う解決策を選び、提示します。
・即応:必要なときに、必要な形で素早く返します。

この内在的な学習能力があるからこそ、反復は単なる「繰り返し」ではなく、繰り返すほど賢くなる関係へと変わっていきます。
・対話の質の向上:24時間365日、人間のように自然な対話で「欲求への対応」が可能になります。
・超パーソナライズ:文脈やニュアンスを理解し、「厳選した提案」の精度が飛躍的に上がります。
・予兆の検知:行動データの微細な変化から、「行動のコーチング」を最適なタイミングで実施できます。
・自律的な意思決定:複雑な状況判断が可能になり、「自動実行」の適用範囲が広がります。

ただし「自動実行」においては、AIの透明性と人間が介入できる監視(オーバーライド)の仕組みが不可欠です。信頼なくして自動化は成立しません。

コネクテッド戦略は偶然の産物ではありません。意図的に設計された2つの柱によって支えられています。
① つながりのある顧客関係(顧客満足の最大化)
「認識 → 要求 → 対応」のサイクルを高速で回し、反復することで関係を強化します。一過性の取引を「継続的な対話」へと変質させる設計です。

② つながりのある提供モデル(効率性と収益化の両立)
誰と誰をつなぐか(コネクション・アーキテクチャ)と、どう収益化するか(収益モデル)を定義します。エコシステム全体で価値を生み出し、低コストで高頻度の接触を実現します。 

コネクテッド・ストラテジーが示唆するのは、もはや「良い製品を作れば売れる」時代の終わりです。モビリティ、教育、小売……あらゆる業界で、顧客と深くつながったプレイヤーが既存の巨人を脅かしています。

顧客を中心に据え、テクノロジーを活用することで、これまで不可能だった顧客体験とコスト効率の両立が現実のものになります。本書が示す道筋を辿ることで、あなたの企業は顧客にとって「なくてはならない存在」へと進化できるはずです。

本書のまとめ

『コネクテッド・ストラテジー』が私たちに突きつけているのは、「もはや製品の良さだけで戦う時代は終わった」という厳しい現実です。 勝負の土俵は「いかに売るか」から、「いかに顧客の生活や業務のプロセスに深く、自然に入り込むか」へと移りました。

本書が提示する「4つのR(認識・要求・対応・反復)」と「4つのモデル」を組み合わせることで、企業は以下の3つの果実を手にすることができます。
・究極の差別化: 顧客が「考える」必要すらなくなる「自動実行」モデルへ昇華させることで、競合が介入する余地をゼロにする。
・自己強化型の競争優位: 反復(Repeat)によって蓄積されるデータが予測精度を高め、さらに体験価値を上げるという「逃げ切りのループ」を構築できる。
・収益性の劇的向上: 顧客との常時接続により、マーケティングコストを抑えつつ、LTV(顧客生涯価値)を最大化させる。IoTなどのデジタル技術、特に生成AIを「単なるツール」としてではなく、この「コネクテッド・アーキテクチャ」の重要なパートナーとして再定義し、活用できた企業だけが、次世代のエコシステムで主導権を握ることができるのです。

本記事は書評家・ビジネスプロデューサの徳本昌大が執筆しました。

最強Appleフレームワーク


Loading Facebook Comments ...

コメント

タイトルとURLをコピーしました