ハーバードの美意識を磨く授業―――AIにはつくりえない「価値」を生み出すには(ポーリーン・ブラウン)の書評


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ハーバードの美意識を磨く授業―――AIにはつくりえない「価値」を生み出すには 
ポーリーン・ブラウン
三笠書房

本書の要約

企業が生き残るためには、自分たちがしていることに再び人間味を持たせ、さらには自分たちがしていることの意義や目的を理解し、それをストーリーのして表現する必要があります。その際、美意識という視点を忘ずにし、その力を活用するようにしましょう。

美意識がなぜ需要なのか?

美意識の力を認め、正しく理解したことが、私の職業人としての(そして私が関わってきた企業の)成功の鍵だった。(ポーリーン・ブラウン)

本書の著者、ポーリーン・ブラウンは戦略系コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニー、プライベート・エクイティ・ファームのカーライル等を経たのち、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの北米部門の社長を務めた後、ハーバード・ビジネス・スクールで「ビジネスにおける美意識」について教えています。彼女は「経営におけるアートとサイエンスの両極」をキャリアの中で経験した経営者です。

著者はビジネスに美意識を活用するための4つのポイントを明らかにします。
1、美意識を持つことはビジネスにおいて(さらにはそれを超えて)重要。
2、美意識は磨くことができる。誰もが美意識を持っているが、十分に発揮されていない。
3、美意識に基づいたビジョンやリーダーシップには、企業、さらにはビジネス全体を大きく変える力がある。
4、美意識の欠如は、困難に直面した時、致命傷になる可能性が高い。つまり、美意識がない企業は存続できない。

美意識を磨くプロセスは、決して容易ではない。創造性やセンス、審美眼といったものは、噛み砕いて分析したり、数字で表わしたりすることはできない。美意識を磨くプロセスは、極めて個人的で定性的なものだ。だからといって美意識に価値がないということではない。むしろ、多くの企業が「レゾン・デートル(存在理由・存在価値)を失ってしまった時代には、美意識は必要不可欠だ。

美意識がなければ、人とのコミュニケーションは無味乾燥なものになります。サービスやプロダクトに美意識の視点を取り入れることで、体験価値を高めることができます。

「いい買い物ができてよかった」という体験には、美意識を語る時の基本言語となる「五感」が大きく関わっています。味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚を刺激する施策を展開することで、企業は競争優位を確立、維持できるようになります。

実際、現代の顧客がモノやサービスを購入するかを判断するとき、その動機の約85%を占めるのは、製品やサービスに対する感覚や感情であることが明らかになっています。顧客は機能やスペックではなく、製品やサービスに対する感情や感性を大切にしています。顧客との感情的なつながりを生み出すために、企業は自社の美意識を鍛える必要があるのです。

美意識を鍛える方法

私自身が一番大きく成長したと思えたのは、勇気を持って一歩前に踏み出し、この世で唯一無二の自分にしかできないことをやってみせた時、つまり、「私」という人間を表現できた時だった。そこでの自信、美意識を持つことで得た「強み」をいろいろな形で試すたびに、私はますます注目され、称賛され、自信と成功を手にするようになった。そして、身をもって学んだことをビジネスで活用すればするほど、名声を手にし、方向性が定まり、成長していった。

著者は自分を表現することで、美意識を養っていったと言います。美的知性とは、ある物事や経験から引き起こされた感覚・感情に気づき、それを洞察力をもって解釈し、わかりやすく表現する能力のことですが、この能力を身につけることで。ビジネスをよりよくできます。

従来の財務分析や戦略分析と並行して直感や美意識を使うことで、ビジネス上の問題をほぼすべて解決できるようにもなったそうです。著者は「美意識をビジネスに生かす」という極めて重要なスキルを美的知性、あるいはAesthetic Intelligence の頭文字をとって「第二のAI」と呼んでいます。

価値を生む資源に投資するのと同じくらい、適切な才能を持つ人材を採用・育成し、美意識のある企業文化を築いていくことが経営者にとって重要になっています。

利便性や効率の問題については、コンピューターを使えば解決できますが、私たちが「人間らしさ」を再び取り戻すための新しく有意義な方法をコンピューターが提供してくれることはありません。コンピュターが担えるのは、分析やデータ収集、解析などの仕事、定型業務になります。一方、テクノロジーが簡単には代替できない分野の活動──芸術作品を生み出したり、美を創造したり、人との深いつながりを築いたりすること──においては、私たちが自らの才能やスキルを発揮しなければなりません。そうした分野における活動では、現在だけでなく未来においても、人間のほうがコンピューターより優れているのです。

リーダーは、自身の美意識を支えるのに適した組織と企業文化を構築し、支援し、維持する能力をも持ち合わせていなくてはならない。 美意識は誰にでも備わっているが、そのほとんどは生かされていない。

アップル、ウォルト・ディズニー・カンパニー、アディダス、スターバックスなどの強いブランドは、それぞれの伝統と「ブランドコード」を重んじる一方で、常に独自の美意識を磨き、製品の魅力、製品への憧れを高める努力を欠かしません。一流のブランドは停滞せずに、顧客に「美的共感」を与え続けます。

物があふれている今の時代、消費者はもはや物欲に駆られることはなく、むしろ意味や意義のあるものを求めています。

永続していくブランドは、意味や意義のあるものを提供し、感性に訴えかけ、想像力をかき立てようとするのだ。そうしたブランドを駆り立てているものは、商業的な動機をはるかに超えている。彼らは自社の製品やサービスに触れた人々を一つにし、楽しませることを目指しているのだ。豊かな美意識を持つ企業となるためには、確固とした「レゾン・デートル(存在理由、存在価値ごに拠って立つことが求められる。つまるところ、それこそが真に顧客の心に訴え、顧客の気持ちをかき立て、顧客を喜ばせるものなのだ。企業は顧客を「単なる消費者」ではなく、「生きていることを実感したい人間」として見なくてはならない。

企業は美意識を再定義する以下の4つの傾向を意識すべきです。
①環境問題(サスティナビリティ、環境への負荷がより少ない消費者の声に応えるべき)
②独創性(より創造的で自分らしいものを求めるようになる)
③トライバリズム (同じ価値観や目的意識を持つ人たちの小規模な集団)
④曖昧な境界線(ジェンダーフリーやLGBTQ、性別やファッションなど従来の標準からはみ出した人々)

人々の五感に訴えかける美しさを顧客に提供できる企業がこれからの勝ち組になります。 企業が生き残るためには、自分たちがしていることに再び人間味を持たせ、さらには自分たちがしていることの意義や目的を理解し、それをストーリーのして表現する必要があります。その際、美しさという視点を忘れないようにしましょう。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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