Science Fictions あなたが知らない科学の真実(スチュアート・リッチー)の書評

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Science Fictions あなたが知らない科学の真実
スチュアート・リッチー
ダイヤモンド社

Science Fictions(スチュアート・リッチー)の要約

心理学の再現実験では、わずか39%のみの研究が再現可能であると確認されました。科学が健全に発展し、社会に貢献するためには、再現性と客観性を重視した研究が必要です。科学コミュニティ全体が意識改革と環境整備に取り組むことが、科学の信頼性を高め、真実の追求を可能にする鍵となります。

科学には根深い腐敗がある!再現性のない研究の問題点とは?

本書は、科学そのものの根深い腐敗を明らかにしていく。これらの腐敗は、研究がおこなわれて論文が発表されるという文化を揺るがしている。科学という規律は、最も厳しい懐疑的視点と、最も鋭い合理性と、最も厳格な経験主義を伴わなければならないが、実際は、無能と妄想と嘘と自己欺瞞が目まぐるしく行き交っている。その過程で科学の重要な目的——真実に限りなく近づく方法を見つけること——が蝕まれているのだ。(スチュアート・リッチー)

TEDでお馴染みのエイミー・カディの「パワーポーズ」と呼ばれる姿勢が、再現効果がないことが明らかになっています。この「パワーポーズ」とは、自信や力強さをアピールするために特定のポーズをとることで、ストレスの軽減や自己評価の向上などの効果があるとされていましたが、リッチーの研究はこれを否定する結果を示しました。

この研究結果は、科学の再現性の問題がどれほど深刻かを示すものとして注目されました。過去には多くの人々がパワーポーズを実践し、その効果を信じてきましたが、科学的根拠が乏しいことが明らかになったことで、一部の人々には失望や疑問が広がりました。私もパワーポーズを紹介、実践していたので、このニュースに触れたときに落胆を覚えました。

また、ダニエル・カーネマンのベストセラー『ファスト&スロー』で紹介されたプライミング効果は、心理学における重要な概念として広く知られています。この効果は、人々が先行刺激(プライム)に曝されることで、その後の行動や判断が影響を受ける現象を指します。

しかし、近年の研究により、プライミング効果に関する再現性に疑問が投げかけられています。 プライミング効果に関する初期の研究では、高齢者に関連する単語が提示された場合、参加者が歩く速さが遅くなるという効果が観察されました。しかし、2012年に行われた独立系のグループによる再現実験では、同様の条件下での効果の再現に失敗し、歩く速さに違いは見られなかったと報告されました。

この再現性の欠如は、プライミング効果の実在性に対する疑念を生じさせました。これにより、心理学の教科書などで頻繁に取り上げられるこの概念についても再評価が行われることになったのです。再現性の問題が指摘されたことで、科学的な研究の信頼性と再現性の重要性が再確認され、より客観的かつ信頼性の高い研究が求められるようになったのです。

このようにニュースやポピュラーサイエンスの書籍、ドキュメンタリー番組で取り上げられる研究結果には、再現性のない脆弱なものが意外にも多いことが心理学者のスチュアート・リッチーで明らかにされています。私たちは興奮して友人にその発見を教えたり、世の中の仕組みを再考させられたりしますが、実際にはその多くが信頼性に欠けた研究に基づいていると言うのです

医師から処方される薬や治療法も、時に欠陥のある証拠に基づいています。私たちの健康や生活に影響を与える重要な決定を下す際に、疑わしい研究が元になっていることがあるのです。

また、科学的な研究をもとにした食生活や買い物の習慣の変更も、再考の余地があります。新しい研究が行われ、以前の結論が覆されることが数カ月後に何度もあります。

さらに、法律や政策の制定に際して政治家が引用する科学的根拠も、しばしば精査に耐えられないものであることがあります。人々の生活に直接影響を与えるような政策が、不完全な研究に基づいて導入されることもあるのです。

著者は、研究者や科学ジャーナリズムという権威者のバイアスにとらわれず、批判的に考え、最新の証拠に基づいて行動することが重要だと述べています。科学は常に進化し、新たな知見が古い考え方を塗り替えることもあります。そのため、一度受け入れられた概念や結論にも疑問を持ち、最新の研究や証拠を確認することが必要です。

特に、報道される科学ニュースや研究報告は、選択された情報を伝えることがあります。これによって、一面的な情報や誤解を招く可能性があります。そのため、私たちが科学に関する情報を受け取る際には、常に批判的な目を持ち、複数の情報源から情報を収集することが重要です。

また、科学的な知見は常に変化しています。新たな研究や発見が行われるたびに、以前の考え方が修正されることもあります。そのため、過去の知識にとらわれず、柔軟な思考を持ち、最新の情報を取り入れることが求められます。

科学研究の信頼性を高めるために必要なこと

科学界における再現性の問題は、心理学だけでなく、経済学、神経科学、有機化学、医学などのさまざまな分野でも顕著です。特に心理学の研究では、再現実験の成功率が低いことが指摘され、心理学の権威ある学術誌に関する再現性の低さが議論の的となっています。科学研究における再現性の問題は、特に心理学の分野で顕著になっています。

実際、2015年に行われた心理学の学術誌「サイエンス」から選ばれた100件の研究を対象とした再現実験では、わずか39%の研究で再現性が確認されただけでした。この結果は、科学研究の信頼性に対して重大な疑問を投げかけるものです。

再現性が低い主要な理由の一つは、研究者に与えられるインセンティブの問題です。研究資金やキャリアの進展はしばしば画期的な発見やポジティブな結果にリンクされており、これが研究者にバイアスを生じさせる原因となります。否定的な結果や再現に失敗した研究は、しばしば忘れ去られがちです。これにより、研究結果の歪みが生じ、実際よりも楽観的な科学的知見が形成されてしまうのです。

現代の科学界では、研究者が予算獲得やキャリアの発展のために目を引く成果を求められる一方で、再現性や客観性の確保は度外視されがちです。このため、研究者は再現性よりも目新しさや派手さを追求し、一部の研究が再現性の低下につながる可能性があります。

さらに、現行の論文発表システムも再現性の問題を助長しています。査読プロセスは科学的な研究成果の信頼性を確保するために重要な役割を果たしていますが、そのプロセス自体にもさまざまなバイアスや問題が存在しています。査読者の専門知識や価値観、個人的なつながりや利益関係が、査読結果に影響を与えることがあります。

このような状況を打破し、科学研究の再現性と信頼性を向上させるためには、査読プロセスの透明性や再現性の重要性を再確認し、改善する必要があります。査読プロセスをより公正で客観的なものにするためには、査読者の選定基準やプロセスの透明性を高めることが求められます。査読の評価と査読前のドラフトが論文と一緒に公開されること、読者に対してプロセス全体をオープンにすることで、正しい評価を得られる可能性が高まります。

また、研究者や研究機関、学術雑誌などが再現性の重要性を強調し、信頼性の高い研究成果を生み出すための取り組みを積極的に支援することも重要です。

科学研究の信頼性と再現性を向上させるためには、研究者が直面するインセンティブの問題を解決する必要があります。研究者には通常、画期的な発見やポジティブな結果を求める圧力がかかり、これが科学の客観性を損なうことがあります。科学の真の目的は真実を追求し、知識の増進にあるため、再現性の高い研究を行うことが重要です。 

再現性の確保は科学的研究の基礎をなすものであり、研究の信頼性を高める上で中心的な役割を果たします。再現性が確保されていない研究は、その結果の信頼性に疑問が投げかけられ、科学全体の信用に影響を与えかねません。したがって、科学者自身が研究の再現性に重きを置くことが、健全な科学の発展に繋がります。

科学者がインセンティブの圧力から解放されるためには、研究環境そのものの見直しが必要です。研究資金の配分、評価基準の変更、そして公正な研究成果の報酬体系の確立が求められます。また、否定的な結果や再現に失敗した研究でも、その過程と結果が公平に評価されることが重要です。

信頼性の高い科学を実現するためには、研究者だけでなく、大学、研究機関、政府、さらには一般の人々までが関与することが重要です。これらの関係者が協力し、透明性の高い研究環境を支持することで、科学の客観性と再現性が確保されるでしょう。

科学の健全な発展と社会への貢献を実現するためには、再現性と客観性を重視した研究が不可欠です。これには科学コミュニティ全体の意識改革と環境整備が必要であり、それによって科学研究の真の目的である真実の追求が可能となります。再現性の問題に真摯に向き合うことが、科学の信頼性を高め、より良い未来への道を開く鍵になると著者は指摘します。


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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