デザイン・フューチャリング 未来を探り、変化に導く思考ツール(ベネディクト・グロース, アイリーン・マンディア)の書評

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デザイン・フューチャリング 未来を探り、変化に導く思考ツール
ベネディクト・グロース, アイリーン・マンディア
ビー・エヌ・エヌ

デザイン・フューチャリング 未来を探り、変化に導く思考ツールの要約

デザイン・フューチャリングの真の力は、未来を正確に予測することではなく、望ましい未来を描き、それを実現するための行動を促すことにあります。同時に、望ましくない未来(ディストピア)を認識し、それを回避するための対策を考えることも重要な役割です。

デザイン・フューチャリングの3つのステップ

デザイン・フューチャリングのメソッドを用い、複数の未来シナリオをつくることで、デザイナーは多様な未来のビジョンについての議論を活発にできる。そうした未来シナリオによって、唯一の未来についてだけでなく、いくつもの望ましい未来たちについて想像し、議論し、交渉することができるようになる。(ベネディクト・グロース, アイリーン・マンディア)

デザイン・フューチャリングは、未来を形作る新たな思考法として注目を集めています。これは単なる予測や空想ではなく、創造的かつ戦略的に未来をデザインする手法です。人間の本質的な特性である未来の可能性を想像し、出来事の成り行きに影響を与えようとする意志を基盤としています。

デザイン・フューチャリングによって、私たちの10年後の未来を形作り、出来事の流れに影響を与えることができるのです。デザインという分野は、「美しいものを作る」ことから「創造的に考える」ことへと進化を遂げており、デザイン・フューチャリングはその最前線に位置しています。

デザイン・フューチャリングの特徴は、明快な答えを出すことではなく、問いかけることにあります。社会やライフスタイル、ビジネスモデル、顧客行動、さらには人間の存在論に至るまで、広範な分野に及ぶ重大な疑問を投げかけます。

デザイン・フューチャリングとデザイン思考は、根本的に異なるアプローチを取ります。デザイン思考がユーザー中心で現在のニーズに焦点を当てるのに対し、デザイン・フューチャリングは遠い未来の可能性に目を向けます。 例えば、「10年後の病院はどうあるべきか」という問いを考えてみましょう。この場合、現在の患者にインタビューしても、未来の医療ニーズを正確に把握することは困難です。

なぜなら、10年後の医療技術や社会状況は、現在とは大きく異なる可能性があるからです。 そのため、デザイン・フューチャリングでは、従来のユーザー調査に頼るのではなく、さまざまな情報源から未来の可能性を探ります。技術トレンド、社会変化、専門家の予測など、多角的な視点を組み合わせて、まだ存在しない未来のシナリオを描き出すのです。

このアプローチは、現在のユーザーニーズを超えた、革新的で長期的な視点を提供します。それにより、まだ形になっていない問題や機会を見出し、より柔軟で創造的な解決策を生み出すことができるのです。

デザイン・フューチャリングは主に3つのステップから成ります。
①探策(見つける・深める)
ここでは、一見すると関連性のない膨大な情報の中から、重要なパターンやトレンドを見出します。これが思考の枠組みとなり、さらなる検討の出発点となります。

②想像(未来シナリオを描く・ナラティブにまとめる)
探策で得た素材を基に、さまざまな未来のシナリオを組み立てていきます。それぞれの未来で何が起こり、日常生活がどのように感じられるかを想像します。ここでは、一貫性のある説得力のあるナラティブが重要となります。人間は未来に感情移入するために、具体的な体験や物語を必要とするからです。

③戦略(合意形成する・変化させる)
想像したシナリオを現実のものとするために、現在から未来への橋渡しを行います。望ましい未来へ向かうための道筋を見出し、具体的な戦略や行動計画を立てます。

デザイン・フューチャリングの真価は、単なる事実の提示を超えて、感情的な関与を促す点にあります。望ましい未来について活発な議論を行い、意見を形成するためには、起こりうる生活世界に感情的に関与することが不可欠だからです。

デザイン・フューチャリングの効果は、デザイナーがその意図をより意識的に形成すればするほど、より広範囲に及びます。スペキュレーション(推測)、クリティーク(批評)、イノベーション(革新)という3つの要素を巧みに組み合わせたり、そのうちの一つに焦点を絞ることで、より強力で影響力のある未来シナリオを生み出すことができるのです。

その際、未来を良くするためには、イノベーションだけが、正しい解決策でない場合もあることを忘れないようにしましょう。

このアプローチは、単に未来を予測するだけでなく、積極的に望ましい未来を創造し、それに向けて社会を導くことを目指しています。デザイナーは、その創造力と問題解決能力を活かし、複雑な社会問題や技術の進歩がもたらす課題に対して、的確な解決策を提案することができます。

理想の未来からのバックキャスティングが重要な理由

デザイン・フューチャリング・プロセスの最中、何度も自問し続けることをおすすめしたい。

デザイン・フューチャリング・プロセスにおいて、問いが非常に重要な役割を果たします。このプロセスを進める中で、定期的に立ち止まって自問自答することは、プロジェクトの方向性を正しく保ち、より効果的な結果を導き出すための鍵となります。

特に重要な問いかけは、「最終的に目指すべきは本当に製品やソリューションだろうか?スペキュレーションやクリティークのほうが効果的ではないだろうか?」というものです。この問いは、プロジェクトの初期段階だけでなく、進行中にも繰り返し考慮する価値があります。

なぜなら、デザイン・フューチャリングの過程で得られる新たな考えは、しばしば思考の方向性に大きな変化をもたらすからです。 例えば、「視覚の未来とは?」といった自由度の高いテーマを扱うプロジェクトでは、探索の過程で得られる新たな気づきによって、当初のデザイン意図が大きく転換することがあります。

これは、デザイン・フューチャリングの本質的な特徴の一つであり、柔軟な思考と適応性が求められる所以でもあります。 プロセスの第2段階、つまりシナリオをナラティブに変換する段階でも、再度立ち止まって自問することがすすめられています。

この時点で「製品ではない」という結論に至った場合、さらなる掘り下げが必要となります。そこで考慮すべきは、批評的アプローチを取るべきか、あるいは望ましい代替案を提示すべきかということです。

挑発的なアイデアや代替的な提案が、予想外の形で経済的な価値を生み出すことは珍しくありません。説得力のあるナラティブは、職場の同僚を刺激し、新たな商業的アイデアの源泉となることもあります。 このように、デザイン・フューチャリング・プロセスは、単に未来の製品やサービスを考案するだけでなく、より広範な社会的、文化的、経済的影響を考慮に入れた複雑なプロセスです。

自問自答を通じて常に方向性を確認し、必要に応じて軌道修正を行うことで、より意義深い成果を生み出すことができます。 さらに、このプロセスは参加者の思考の枠を広げ、既存の概念や前提に挑戦する機会を提供します。「製品」や「ソリューション」という従来の目標から離れることで、より根本的な問題や可能性に目を向けることができます。これは、長期的かつ持続可能な変革を促す上で非常に重要です。

バックキャスティングは、多くの利害関係者がいる複雑な変化プロセスにおいて、望ましい未来シナリオはあるものの、意思決定者がこの未来をどのように達成できるのかが不明確な場合に用いられる。

フューチャーズ・コーンとフューチャーズ・ホイールは、バックキャスティングを実施する際に非常に有効なツールです。これらのツールを使うことで、望ましい未来から現在へと逆算し、その実現に向けた具体的な道筋を描くことができます。

フューチャーズ・コーンは、未来の可能性の広がりを視覚的に表現するツールです。これは円錐形の図で表され、現在から未来に向かって広がっていきます。コーンの中心軸は最も可能性の高い未来を示し、外側に行くほど可能性は低くなりますが、より革新的なシナリオが含まれます。このコーンを使ってバックキャスティングを行う際は、まず望ましい未来のシナリオをコーンの中に配置します。

一方、フューチャーズ・ホイールは、中心に主要な出来事や変化を置き、そこから派生する影響を車輪のスポークのように広げていく図です。バックキャスティングにこのツールを用いる場合、通常とは逆の方向で使います。つまり、外側の望ましい未来の状態から始め、そこから中心に向かって、その状態を実現するために必要な要因や出来事を配置していきます。

未来を議論をする際に、単に技術的な発展だけでなく、社会的、経済的、政治的な変化も考慮に入れることです。また、各ステップの実現可能性や潜在的な障害についても議論を重ねます。 最終的に、現在と望ましい未来をつなぐ大まかなルートが完成します。これは、望ましい未来を実現するための戦略的なロードマップとなります。

バックキャスティングの利点は、単なる現状の延長線上ではない、革新的な未来像を描けることです。また、長期的な目標を持ちつつ、そこに至る具体的なステップを明確にできる点も大きな特徴です。

フューチャーズ・コーンとフューチャーズ・ホイールを使ったバックキャスティングは、戦略的プランニングツールとしてだけでなく、市民参加型のプロセスにも活用できます。長期的な視点で望ましい未来を議論し、その実現に向けた具体的な行動計画を市民と共に作り上げていくことができるのです。これにより、より包括的で持続可能な未来のビジョンを描き、その実現に向けた社会的合意を形成することが可能となります。

未来シナリオは、物事を動かすために大きな力になる可能性を秘めている。シナリオで描いていたのとは違った未来が展開するのは、物事の本来的な性質だ。つまるところ、デザイン・フユーチャリングとは、最も可能性の高い未来をできるだけ正確に予測することではなく、望ましい未来を可能にしたり、ディストピアを防いだりすることだ。

デザイン・フューチャリングの真の力は、未来を正確に予測することではなく、望ましい未来を描き、それを実現するための行動を促すことにあります。同時に、望ましくない未来(ディストピア)を認識し、それを回避するための対策を考えることも重要な役割です。

このアプローチは、未来に対して受動的な態度ではなく、積極的に望ましい未来を創造しようとする姿勢を育みます。そのために、可能な限り優れたツールセットを提供し、効果的な自己変容的予言をデザインする方法を探求することが、デザイン・フューチャリングの実践において中心的な課題となります。

このような取り組みを通じて、私たちは単に未来を予測するだけでなく、望ましい未来の実現に向けて社会全体を動かす力を持つことができるのです。それこそが、デザイン・フューチャリングの究極の目標であり、その実践が持ちうる、そして持つべき長期的な効果なのです。

本書にはフューチャーズトライアングル、S字カーブ、体験型未来ラダーなど様々なフレームワークが紹介されています。これらを組み合わせ、使い倒すことで、よりよい未来を築けるようになります。

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