生産性が高い人の8つの原則 (チャールズ・デュヒッグ)の書評

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生産性が高い人の8つの原則
チャールズ・デュヒッグ
早川書房

生産性が高い人の8つの原則 (チャールズ・デュヒッグ)の要約

生産性向上に不可欠な8つの原則は、自己モチベーションの引き出し方と効果的なチームワークの構築から始まります。持続的な集中力を養い、明確な目標を定めることで、周囲の人々を適切に導く力が育まれます。的確な決断力を磨き、イノベーションを促進する視点を持ち、データを効果的に活用する能力を身につけることで、真の生産性向上が実現できます。これらの要素が有機的に結びつくとき、個人も組織も大きく成長していくのです。

生産性が高い人の8つの原則

簡単にいうと、生産性の向上とは、最小の努力で最大の報いが得られる方法を見つけることであり、体力と知力と時間を最も効率よく用いる方法を発見することである。いいかえると、ストレスと葛藤を最小限にして成功するための方法を学習することである。つまり、大事な他のことをすべて犠牲にすることなく何かを達成することだ。(チャールズ・デュヒッグ)

ビジネスの世界で成功を収めるためには、生産性の向上が不可欠です。現代の組織において、生産性を向上させるための重要な要素として、以下の8つを上げています。

①自らのやる気を引き出す能力
②効果的なチームワークを構築する力
③持続的な集中力の向上
④明確な目標設定
⑤周囲の人々を適切に動かす能力
⑥的確な決断力の醸成が挙げられます。
⑦イノベーションを促進する能力です。
⑧データを効果的に活用する能力
これらの要素を総合的に理解し、実践することで、真の生産性向上が実現できるのです。

①自らのやる気を引き出す能力

やる気を引き出す第一歩は、選択する機会を与えることだ。それによって自立と自己決定の感覚が生まれる。実験によれば、命令されたのではなく自分で選んだものなら、人はどんなにつまらない仕事でも進んでやる傾向が見られる。

生産性の向上について考えるとき、多くの人々は単純に「より多くの仕事をこなすこと」と捉えがちです。しかし、真の生産性とは、最小限の努力で最大の成果を得ることにあります。それは、私たちの持つ体力、知力、そして何より貴重な時間を最も効率的に活用する方法を見出すことを意味します。

特に注目すべきは、この生産性の向上が、必ずしも他の大切なものを犠牲にする必要がないという点です。むしろ、ストレスや心の葛藤を最小限に抑えながら、望む成果を達成する術を身につけることが重要となります。

まずは、やる気について考えてみましょう!現代のビジネス環境において、生産性を向上させるための要素は多岐にわたります。その中でも特に重要なのが、自らのモチベーションをコントロールする能力です。実際、研究によれば、自己動機付けが上手な人ほど、高い収入を得る傾向にあることが明らかになっています。

多くの人は、モチベーションは生まれつきの資質だと考えがちです。しかし、実はこれは読み書きのような能力と同じく、適切な訓練によって習得し、向上させることが可能なスキルなのです。その鍵となるのが、自己コントロール感の醸成です。

自己コントロール感とは、自分の行動や環境に対して主導権を持っているという確信のことです。この感覚を持つ人々は、より意欲的に働き、自己啓発にも積極的です。さらに、失敗に直面しても迅速な立ち直りを見せ、より強靭な精神力を発揮します。興味深いことに、研究では、この自己コントロール感の強い人々は、そうでない人々と比べて平均寿命も長い傾向にあることが示されています。

この自己コントロールへの欲求は、人間の発達過程において極めて重要な役割を果たしています。幼児期の子どもたちが、時として大人の指示に反抗的な態度を示すのも、この本能的な自己コントロールへの欲求の表れと考えることができます。 自己コントロール感を高める具体的な方法として、日常的な決断を意識的に行うことが挙げられます。

コロンビア大学の研究チームによれば、どんなに些細な決断であっても、それを重ねることで自己効力感が強化されていくとされています。この効果は、その決断自体が必ずしも良い結果をもたらさない場合でも発生するのです。 このように、生産性の向上は単なる作業効率の改善にとどまりません。

それは、自己コントロール感を基盤とした総合的な能力開発のプロセスであり、個人の成長と成功に直結する重要な要素なのです。この認識に立ち、意識的な自己コントロールの実践を重ねることで、私たちは真の意味での生産性向上を実現できるようになります。

「命令に従う」というイメージが強い米海兵隊が、驚くべき教育改革を行いました。従来の「上官の命令に忠実に従う」訓練から、「自分の頭で考え、判断する」訓練へと大きく方針をシフトしたのです。 きっかけは、近年の新兵たちに見られた変化でした。この改革の核心は、「自分には選択する力がある」という意識を植え付けることにありました。

例えば、食堂の清掃という日常的な作業でも、従来のような細かい手順書は与えません。代わりに「きれいにする」という目標だけを示し、方法は新兵たち自身に考えさせるのです。 最初は戸惑う新兵たちを褒めることで、彼らは自信を持ちます。徐々に自分たちで工夫を重ね、効率的な清掃方法を編み出していきます。

失敗することもありますが、それも学びの一部として捉えられます。このプロセスを通じて、彼らは「自分の判断で状況を改善できる」という実感を得ていくのです。

この「小さな選択から始める」というアプローチは、ビジネスの現場でも大きな効果を発揮します。例えば、未処理のメールが100件たまっているとき、多くの人は「どこから手をつければいいのか」と途方に暮れてしまいます。そんなとき、まずは「とにかく1通選んで返信する」という小さな行動から始めてみましょう。

同様に、重要な顧客への営業電話に及び腰になっているなら、「最初の一言を決める」ところから始めればいいのです。完璧な営業トークを考えることより、まずは電話をかけることが重要です。 このように、小さな選択と行動を積み重ねることで、私たちは徐々に「自分にはコントロールする力がある」という感覚を取り戻すことができます。

それは、より大きな課題に立ち向かうための土台となるのです。 海兵隊の改革が教えてくれるのは、人は与えられた自由と責任の中で、確実に成長していくということです。そして、その成長は必ずしも大きな変革から始める必要はなく、日常の小さな選択から始められるのです。

困難な課題であっても、それを自分の選択として捉え、その選択の意味を理解することで、私たちは予想以上の力を発揮することができるのです。日々の仕事や学習において、この「選択の力」を意識的に活用することが、より充実した成果につながるでしょう。

心理的安全性が重要な理由

②効果的なチームワークを構築する力
優れたチームを作る上で、心理的安全性は欠かせない要素となっています。Googleでは社員一人の幸福度と生産性の研究に膨大なエネルギーを注いでいます。同社が実施した社内研究では、生産性の高いチームに共通する特徴として、メンバーが自由に意見を出し合える環境が挙げられています。この心理的安全性のある組織が生産性が高かったのです。

Googleのリーダーたちは会議中にメンバー全員の発言回数を丁寧に記録しています。そして、全員がほぼ同じ回数発言できるまで、会議を終了しないようにしています。これにより、特定の人だけが発言を独占する状況を防いでいるのです。

一方、メンバーには積極的な傾聴姿勢が求められます。具体的には、相手の発言を言い換えて確認したり、コメントに対して必ず反応したりすることで、互いの意見を尊重していることを示します。また、誰かが不安や動揺を見せた時は、それを無視せずにしっかりと受け止めることも大切です。

さらに、チーム内の信頼関係を深めるため、メンバーの判断を信頼してそれに従うことも推奨されています。また、誰かが不安を表明した時は、自分も同様の気持ちを共有することで、お互いの心情に寄り添います。 このような取り組みによって、メンバー全員が安心して意見を述べられる環境が整い、より良いチームワークが実現できます。チームの心理的安全性を高めることは、創造的な議論や革新的なアイデアを生み出すための重要な土台となっているのです。

「サタデー・ナイト・ライブ」のチームが意気投合したのは、いっしょにいると安心してジョークを飛ばしたりアイディアを提案したりできたからだ。他人のアイディアはとことんけなし、他人の足を引っ張り、放映時間の取り合いをしたのだったが、それでも作家や役者たちはこの仲間といっしょなら冒険もできるし、歯に衣着せぬことを言っても大丈夫だという雰囲気の中で仕事をしていたのだ。

具体例として、史上最長のコメディ人気番組の「サタデー・ナイト・ライブ」の制作現場では、出演者もスタッフも失敗を恐れることなく新しいアイデアを提案できる雰囲気が根付いていたと言うのです。このような環境が、番組の創造性と継続的な成功を支えています。心理的安全性を確保することがリーダーの重要な役割なのです。

③持続的な集中力の向上
認知のトンネル化は、人の注意力が極端に狭い範囲に集中することで、周囲の重要な情報を見落としてしまう危険な現象です。この問題の深刻さを如実に示した事例が、2009年に発生したエールフランス447便の事故です。

異常事態に直面したパイロットは、速度計の指示値にのみ注意を奪われ、機体の姿勢や高度といった他の重要な計器情報を適切に確認することができなくなりました。結果として、機体は失速状態に陥り、制御不能となって大西洋に墜落。乗客乗員228名全員が死亡という痛ましい結果となりました。

認知のトンネル化が引き起こす問題は、航空分野に限らず、医療現場や製造業など、高度な注意力を要する様々な領域で発生しています。緊急時のストレス下では、人間は無意識のうちに視野を狭め、特定の情報にのみ固執する傾向があります。この本能的な反応は、かえって状況判断を誤らせ、より深刻な事態を招くことがあります。

メンタルモデルは、私たちを取り巻く情報の急流のなかに足場を作るのに役立つ。メンタルモデルはどこに着目すべきかを教えてくれるので、私たちはたんに反応するのではなく、自分で決断することができる。

危機的状況における判断力と集中力の維持には、適切なメンタルモデルの構築が不可欠です。このメンタルモデルとは、状況を包括的に理解し、的確な判断を導く思考の枠組みを指します。特に緊急時において、この能力は生命や安全を左右する重要な要素となります。

メンタルモデルの効果的な構築には、日常からの意識的な訓練が重要な役割を果たします。例えば、仕事中に予期せぬ事態が発生した際、まず深呼吸をして冷静さを取り戻し、状況を客観的に観察する習慣をつけることが有効です。この実践を重ねることで、緊急時でも感情に流されることなく、論理的な思考を維持できるようになります。

また、メンタルモデルの構築には、自己コントロール能力の向上が密接に関連しています。プレッシャーがかかる状況下でも、自分の感情や行動を適切にコントロールし、冷静な判断を下す力を養うことが重要です。これは単なる精神力の問題ではなく、体系的な訓練によって獲得できるスキルです。

さらに、状況判断における優先順位の設定能力も、メンタルモデルの重要な要素となります。何に注意を払うべきか、どの情報が重要であるかを瞬時に判断できる能力は、トラブルの未然防止や適切な対応に直結します。この能力は、過去の経験や知識を体系化し、実践的な判断基準として活用することで培われます。

ストレッチゴールとSMARTゴールの両方を組み合わせよう!

④明確な目標設定

目標をスマート要素に分解できるかどうかが、たんに何かを切望することと、いかに達成するかを考案することとの分かれ道になる。(ゲイリー・レイサム)

組織の成長において、適切な目標設定は極めて重要な役割を果たしています。特に注目すべきは、「ストレッチゴール」と「SMARTゴール」という2つの概念の組み合わせです。この組み合わせにより、組織は大胆な飛躍を実現しながらも、着実な進歩を遂げることができます。

ストレッチゴールという概念の興味深い起源は、日本の新幹線開発にさかのぼります。1950年代、日本国有鉄道は「世界最速の列車」という、当時としては途方もない目標を掲げました。この挑戦的な目標設定に触発されたのが、後にGEの伝説的CEOとなるジャック・ウエルチでした。

ウエルチは新幹線の開発過程から、「達成可能でありながら、大きな飛躍を要する目標設定」の重要性を学びました。これは単なる夢物語ではなく、現実的な可能性に裏打ちされた野心的な目標でした。新幹線は実際に世界最速の列車となり、日本の技術力を世界に示すことになりました。

ストレッチゴールが示す大きな方向性を実現可能なものとするために、SMART(スマート)ゴールの考え方が重要な役割を果たしています。SMARTとは、Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bound(期限付き)という要素を表しています。これらの要素により、大きな目標を具体的な行動計画に落とし込むことができます。

ストレッチゴールとスマートゴールを組み合わせることで、理想と現実の橋渡しが可能となります。ストレッチゴールが示す大きな方向性に対し、スマートゴールはそこに至る具体的なステップを提供します。この組み合わせにより、組織は明確な方向性と具体的な行動計画の両立を実現できます。大きな目標を掲げながらも、その実現に向けた現実的なアプローチを維持することができるのです。

さらに、この組み合わせは組織全体のモチベーション向上につながります。達成困難だが不可能ではない目標に向かって進むことで、組織メンバーの成長意欲が刺激されます。同時に、スマートゴールの要素により、目標達成に向けた進み具合を定期的に確認し、必要に応じて軌道修正を行うことができます。 これらの概念を効果的に活用するためには、いくつかの重要な点に注意を払う必要があります。

まず、ストレッチゴールは組織の現状と能力を十分に考慮した上で設定されなければなりません。また、スマートゴールは単なるチェックリストではなく、組織の成長を促す機会として捉えることが重要です。 定期的な見直しと調整のプロセスを組み込むことで、環境変化に応じた柔軟な対応が可能となります。これにより、組織は常に適切な緊張感を保ちながら、継続的な成長を実現することができます。

ストレッチゴールとスマートゴールの組み合わせは、組織の目標設定において極めて効果的なアプローチです。適切に設定された壮大な目標は、組織に大きな飛躍をもたらす可能性を秘めています。両者を効果的に組み合わせることで、組織は理想を現実のものとする道筋を見出すことができるのです。

⑤周囲の人々を適切に動かす能力
信頼は組織の根幹を支える見えない基盤です。コミットメントの高い組織が持続的な成長を遂げ、倒産のリスクが低い背景には、強固な信頼関係が存在しています。特に、リーン哲学やアジャイル哲学を実践する組織において、この信頼関係の重要性は顕著に表れています。

現代のビジネス環境においては、トップダウンの指示や管理だけでは、市場の急速な変化に対応することが難しくなっています。そのため、現場の社員一人一人に大きな決定権を委ねる必要があります。しかし、単に権限を与えるだけでは十分ではありません。

真の変革は、社員が自分の成功を周囲が心から願ってくれていると確信できる環境から生まれます。 責任感は、人のモチベーションを高める強力な源となります。自分に任された仕事の重要性を理解し、その結果が組織全体に影響を与えることを実感できるとき、人は自然と創造性を発揮し始めます。

ただし、この責任感が建設的な力として機能するためには、失敗を恐れない文化が不可欠です。失敗が厳しく非難される環境では、誰も新しい試みに挑戦しようとはしません。 また、提案や意見が真摯に検討される経験を重ねることで、社員の当事者意識は更に高まります。

自分のアイデアが組織の意思決定に反映される可能性があると信じられることは、創造性を引き出す重要な要素となります。これは単なる形式的な提案制度ではありません。管理職が部下の意見に真摯に耳を傾け、実現可能性を真剣に検討する姿勢を示すことが重要です。 

信頼は組織の根幹を支える見えない基盤です。この原則を最も劇的に証明した事例が、かつてのGMとトヨタの合弁工場NUMMIの変革です。以前は問題工場として知られたフリーモント工場が、わずか2年で最高品質の工場へと生まれ変わりました。 この変革の象徴が「アンドンのひも」です。

これは生産ラインの上部に設置された紐で、品質上の問題を見つけた作業員が自由に引くことができます。紐を引くと警告音が鳴り、必要であれば生産ライン全体が停止します。一見すると単純な仕組みですが、その本質は深い信頼関係にあります。 従来の自動車工場では、生産ラインを止めることは重大な違反とされてきました。

しかしNUMMIでは、品質問題を見つけた作業員が、ためらうことなくアンドンのひもを引くことができました。なぜなら、問題を隠すことより、発見することの方が価値があると、全員が信じていたからです。 この信頼関係は、現場の作業員一人一人に大きな決定権を委ねることから始まりました。

アンドンのひもを引く判断は、完全に作業員に任されています。そして何より重要なことに、ひもを引いた作業員は決して非難されることがありません。むしろ、問題を早期に発見したことを評価されます。

現代のビジネス環境においては、このような信頼に基づく権限委譲がますます重要になっています。トップダウンの指示や管理だけでは、市場の急速な変化に対応することが難しくなっているからです。

相互支援の文化もまた、信頼関係の重要な要素です。困難に直面した際、周囲のサポートを確信できることは、大きな心理的安全性をもたらします。この安全性があってこそ、人は困難な課題に果敢に挑戦することができます。

思いやりと信頼の文化は、一朝一夕には築けません。それは日々の小さな行動の積み重ねによって、徐々に形作られていくものです。しかし、その投資に見合う価値は必ずあります。なぜなら、信頼関係こそが、組織の持続的な成長と革新を支える最も確実な基盤となるからです。 人は信頼される環境において、最高の力を発揮します。この単純だが深遠な真理を、私たちは決して忘れてはならないのです。

イノベーションを促進する能力の高め方

⑥的確な決断力の醸成。

不確実性とうまく調和する方法を学ぶことは可能である。自分が何を知っていて何を知らないかを、ある程度正確に計算することで、曖昧模糊とした未来をより予測しやすいものにする方法がある。

意思決定の場面では、「ベイズ推定」の考え方が役立ちます。この手法は、過去のデータや経験を活用しながら、確率的な判断を行うものです。プロのポーカープレイヤーたちは、この考え方を実践的に使用し、不確実な状況での意思決定能力を高めています。組織においても、この考え方を取り入れることで、より確かな意思決定が可能になります。

不確実性は私たちの生活につきものですが、それは必ずしもマイナスではありません。むしろ、複数の可能性があることを認識し、ベイズ推定の考え方を活用して継続的に予測を更新することで、より適切な判断が可能となります。自分の知識の限界を知り、実現可能性を冷静に判断することは、より良い意思決定への第一歩となります。

結局のところ、未来は一つではありません。私たちにできることは、できるだけ多くの可能性を想像し、それぞれの場合に対する準備をすることです。ベイズ推定の考え方を取り入れ、新しい情報や経験を活かしながら予測を更新していくことで、予期せぬ事態が起きても柔軟に対応でき、より充実した人生を送ることができるでしょう。

⑦イノベーションを促進する能力

古いアイディアを新たな形で組み合わせれば、イノベーションを実現しやすい。斬新で多様な複数の視野をもち、さまざまな状況下におけるアイディアを見てきたアイディア・ブローカーが、自分の手中にある多様性をうまく利用できれば、成功率は高くなる。どんなにクリエイティブな人でも時には行き詰まるものだが、適正な規模の改革をほどこせば、ちょっとした障害のおかげでその行き詰まりが打破できることもある。

イノベーションの本質は、既存のアイデアの組み合わせにあります。アイデア・ブローカーは異なる分野や文化の架け橋となり、多様な知見を融合させることで、画期的な創造を実現する立役者となっています。

この概念を見事に実証した例として、ディズニー映画『アナと雪の女王』の制作過程を挙げることができます。本作は当初、アンデルセンの童話「雪の女王」の原作に忠実な脚本で進められていました。しかし制作チームは深刻な創造的危機に直面します。従来のディズニープリンセス像を踏襲したヒロイン設定と、「愛は凍てつく心を溶かす」という古典的なテーマでは、現代の観客の心を掴めないという懸念が浮上しました。

この危機を打開したのは、複数のスペシャリストの創造的視点の融合です。彼らのアイデアを組み合わせることで、従来のディズニー作品の枠を超えた新しい物語が誕生したのです。 このプロセスにおいて重要な役割を果たしたのが、各分野のエキスパートの知見を統合し、新しい方向性を見出すアイデア・ブローカーという存在でした。

彼らは、行き詰まりを打開するため、意図的に「適度な制約」を設けることで、創造性を刺激しています。例えば、「観客が共感できる現代的な姉妹の物語であること」という制約は、かえって新しいアプローチを生み出すきっかけとなりました。

従来のディズニー作品では、悪役は魔女や継母でしたが、本作では理想的な王子様が実は野心的な悪役という大胆な設定を採用しました。また、「本当の愛」のテーマも、これまでの王子様との恋愛ではなく、姉妹の絆という形で描いています。

さらに「Let It Go」に代表される楽曲は、ブロードウェイミュージカルの手法を取り入れ、登場人物の感情をより深く表現することに成功しました。このように、古い要素を新しい視点で見直し、異なるジャンルの良さを組み合わせることで、斬新でありながら普遍的な魅力を持つ作品が生まれたのです。

このようなブレークスルーを生み出すには、様々な分野の知識や技術を理解し、それらを新しい形で結びつける「アイデア・ブローカー」の存在が欠かせません。彼らは、技術者とデザイナー、マーケッターと開発者など、異なる専門性を持つ人々の間に立ち、それぞれの視点や知見を効果的に組み合わせることで、革新的な製品やサービスを生み出していくのです。

この「アイデア・ブローカー」たちの活躍は、私たちの未来を切り開く重要な鍵となっています。環境問題や高齢化社会など、現代社会が直面する複雑な課題の解決には、単一の専門分野の知識だけでは対応できません。テクノロジーと環境保護の知見を組み合わせたサステナブルな製品開発や、医療と情報技術を融合した新しい健康管理システムの構築など、分野を越えた発想の組み合わせが、これからの時代を形作っていくのです。

⑧データを効果的に活用する

情報から何かを学びとる能力は、情報の急増に追いついていない。

情報技術の発展により、私たちは膨大なデータにアクセスできるようになりました。しかし、そのデータから意味のある洞察を引き出し、実践に活かす能力は必ずしも追いついていないのが現状です。 シンシナティ公立学校では、この課題に対して革新的なアプローチを採用しています。

教職員たちは、生徒の学習データを収集するだけでなく、それを日々の教育実践に直結する知見へと転換しています。例えば、テストスコアや出席率といった数値データを、個々の生徒の学習スタイルや課題を理解するための手がかりとして活用しています。

特筆すべきは、データ活用が単なる成績管理にとどまらず、教育方法の継続的な改善につながっていることです。教職員たちは定期的にデータを分析し、その結果に基づいて授業計画を調整し、個別支援の方法を見直しています。このプロセスを通じて、学校全体の教育効果が着実に向上しています。

また、エンジニアリング・デザイン・システム(ジレンマを特定する→データを集める→解決策を議論する→さまざまなアプローチを検討する→実験)というフレームワークが効果があります。

組織が真に成長するためには、このようなデータ活用の能力が不可欠です。単にデータを収集・蓄積するだけでなく、それを現場で活用可能な知識に変換し、実践に結びつけていく必要があります。

効果的な学習者は、日々の情報や経験を単に受け入れるだけでなく、それらを深く咀嚼し変容させる能力を持っています。彼らは非流暢性、つまり学習過程での「つまずき」を積極的に活用し、それを新たな気づきや成長の機会へと転換していきます。最も価値のある教訓は、具体的な行動変容を促すものであり、彼らはこの原則を実践的な知恵として体得しています。

また、彼らは過去の経験から意味のある教訓を引き出し、新しい状況に応用する術を心得ています。刻々と変化する環境の中で、どの情報が重要で、どのように活用できるのかを見極める直観を養っているのです。このような情報との能動的な関わりと変容的な思考能力は、情報過多の現代において、個人の成長と継続的な学習を支える重要な基盤となっています。単なる情報の蓄積ではなく、それを意味のある知恵に転換していく過程こそが、真の学びの本質なのです。

私たちの周りには、さまざまな形で情報が溢れています。スマートフォンやウェアラブルデバイスは、日々の活動データを自動的に記録してくれます。しかし、真の変化を生むためには、そのデータと能動的に向き合う必要があります。

例えば、体重管理を考えてみましょう。スマートフォンのアプリが自動的に体重を記録してくれるのは便利です。しかし、それだけでは実質的な行動変容には繋がりにくいものです。一方で、あえて手間をかけてグラフ用紙に数値を書き込む行為は、私たちの意識を変え、食事の選択にも影響を与えていきます。ハンバーガーではなくサラダを選ぶという小さな決断も、このような意識的な関わりから生まれてくるのです。

読書による学びも同様です。新しいアイディアに出会ったとき、それを単に頭に入れるだけでは不十分です。本を一時閉じ、学んだ内容を誰かに説明してみる。この行為を通じて、私たちは情報を自分の言葉で再構築し、実生活に応用可能な形に変換していきます。

このように、新しい情報との出会いを真の学びに変えるためには、能動的な働きかけが欠かせません。情報を実験の素材として使ってみる、他者に説明してみる、実践の場で試してみる。こうした行為の一つひとつが、私たちの頭の中に「学びのフォルダー」を作り上げていきます。

人生における様々な選択も、実は貴重な実験の機会です。日々の決断を通じて、私たちはより良い判断の枠組みを発見し、磨いていくことができます。そして現代社会は、そのための豊かな環境を提供してくれています。

どんなに豊富な情報も、それを理解し、実践に結びつける力がなければ、単なるデータの集積に過ぎません。情報を知恵に変える過程で重要なのは、私たちの能動的な関与なのです。 このような視点から見ると、日常生活の中の小さな実践が、実は大きな学びの機会となっていることが分かります。情報との意識的な関わりを通じて、私たちは少しずつ自分自身の成長の足場を築いていくことができるのです。

生産性が高い人とは?

生産的な人間や企業は、ほとんどの人が無視するような選択をあえてする。人びとがあえて常識とは異なったふうに考えるとき、生産性は上がる。

生産性の本質は、独自の視点から選択を見出すことにあります。多くの人々が気づかない選択肢を発見し、実行に移せる人だけが、真の生産性向上を実現できるのです。

そのためには、まず自分自身の物語を丁寧に紡ぐ必要があります。日々の仕事や生活において、どのような価値を追求し、どのような未来を描くのか。その物語は、単なる目標設定以上の意味を持ちます。物語があってこそ、独自の視点が生まれ、新たな選択肢が見えてくるのです。

チーム全体の生産性を高めるには、創造的な雰囲気づくりが欠かせません。それは、メンバー一人一人が自由に発想を巡らせ、常識にとらわれない選択ができる環境を意味します。従来の方法や慣習に縛られることなく、新しいアイデアを歓迎する文化が、組織の生産性を大きく左右するのです。

情報処理の方法も重要です。日々溢れる情報の中から、本質的な要素を見抜く力が求められます。それは単なる効率化ではなく、情報の持つ意味や可能性を深く理解することです。その理解があってこそ、独創的な選択肢が見えてくるのです。 多くの人が当たり前だと思っている選択を、あえて違う角度から見直す。そこに生産性向上の鍵があります。

常識を超えた視点で物事を捉え、新しい可能性を追求する。そうした姿勢が、個人でも組織でも、真の生産性向上をもたらすのです。 生産性とは、結局のところ、創造的な選択ができるかどうかにかかっています。日々の意思決定において、独自の視点を持ち、新たな選択肢を見出せる人こそが、高い生産性を実現できるのです。それは単なる効率化や作業の速さではなく、本質的な価値を生み出す力なのです。

改めて、生産性を高めるための著者の8つの原則を紹介します。
①自らのやる気を引き出す能力
②効果的なチームワークを構築する力
③持続的な集中力の向上
④明確な目標設定
⑤周囲の人々を適切に動かす能力
⑥的確な決断力の醸成が挙げられます。
⑦イノベーションを促進する能力です。
⑧データを効果的に活用する能力

これらの8つの要素は、個別に存在するのではなく、相互に関連し合っています。心理的安全性があってこそ、メンバーは集中して仕事に取り組むことができます。適切な目標設定は、イノベーションを促進し、データの効果的な活用は意思決定の質を高めます。組織の持続的な成功のためには、これらの要素を統合的に捉え、バランスよく実践していくことが重要です。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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